リメイク版:白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第四話 逃げ出せない兎

 

 

 

 

 

 ◾️◽️◾️◽️◾️

 

 

 

 「じゃあ、ベル。手合わせしようか」

 

 「なんでそんなことになったんですかねぇ、フィンさん」

 

 

 【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)──『黄昏の館』の庭にて、白髪と金髪の少年が2人。

 

 互いに木刀を一つ持ちながら、身体を軽く動かして準備体操する。

 

 ベルはこの状況にボヤきながら、自身の体格に合わないながらも小人族(パルゥム)用に調整されている木刀を数度振って感覚を確かめる。

 

 そんな様子を少し離れたところで見守る3人がいた。

 

 

 「さて、あの身体でどこまで動けるんやろうなぁ? ヘルメスの話によると、レベル4は軽く倒せてたっちゃう話やけど」

 

 「どうだろうな、それもほぼ不意打ちだと聞いている。正面からの真っ向勝負だと取れる手段も少なくなるだろう」

 

 「だが、あの小僧は元々正面で闘う戦闘態勢(スタイル)じゃろう? むしろ、こっちの方がやり易いじゃろうて」

 

 

 後方腕組み保護者組──失礼、これから行われる手合わせを見守る、神、ハイエルフ、ドワーフの3人。

 

 このメンツの共通認識、それはただ一つ。

 

 ことこの世界において、神を除いてベル・クラネルほど『レベル』が意味を成さない者はいないだろう。

 

 彼の『技』は人の技を超えて、神の技へと近づいた、まさに『英雄の技』。

 

 誰よりも英雄としての才覚を持たなかった者が、誰よりも愚直なまでに想いを重ねたからこそ積み上げられたその技。

 

 武神に師事を乞い、最強に打ちのめされ、理不尽に殺し尽くされた。

 

 それでも、歩みを止めなかった『英雄』の『絶技』。

 

 それが今ここに示されるのだ。

 

 さぁ、準備は整った。

 

 両者、木刀を構え、その間には静寂が広がる。

 

 その両者の間に、一陣の()が吹く。

 

 

 「ッ!」

 

 

 先に動いたのはベル。その走法は、音はなく、間合いを狂わす、現在の身体能力での最高速度である。木刀を逆袈裟で構え、目標を絞る。フィンもその狙いに気付き、いつでも迎撃できるように構えを維持する。

 

 ベルにとっては、そもそもフィンの目を欺く所からスタートラインに立てる。ベルの持ち味は『敏捷』の高さであり、それを用いた連攻(ラッシュ)である。

 

 だが、所詮はレベル1周辺の身体能力。ある程度のレベル差は埋められても、フィンはレベル5であり、そもそも『器用』に特化している。その目と脳を出し抜けるような『敏捷』は5歳のベルに備わっていない。さらに、持っている武器も双短剣(ダブル・ナイフ)ではなく、身の丈に合わない木刀一本である。

 

 では、どうするか?

 

 ベルはフィンの間合いの僅か外で右足で急ブレーキ。ベルとフィンの体格はそう変わらないが、ベルの方が小さい。フィンの間合いに入らないならば、必然的にベルの間合いにフィンはいない。両者、木刀を振ってもギリギリ当たらない位置にて刹那に静止。

 

 左足を前に持ってくる動きを利用し、逆袈裟に置いた木刀をフィンの顎を狙って振り上げる。

 

 フィンは焦らず、半歩後ろにずれて顎を上げて回避する。木刀で止めなかったのは、急ブレーキと回転で間合いとリズムが狂わされ、止めようと動くより先にベルの振り上げた木刀がフィンの木刀を通り過ぎていた。回避を余儀なくされたとも言える。

 

 わざわざ顎を上げて、回避してしまったのだ。

 

 顎を上げれば、自然と視線は上を向いてしまうものだ。振り上げた木刀を見ていたが故に、その持ち手が見えなかった。

 

 あとはもうレベル差は関係ない。

 

 ベルはさらに態勢を低くし、そのガラ空きとなった喉と右脇を狙う。ベルはフィンの首の後ろに自身の右腕を回し、右脇の方から左腕を回ししっかりとフィンの上体をロックする。側から見れば子供が子供に飛びつくような可愛さがあるが、その実態は可愛さとは全く別な凶悪さを持っている。

 

 袈裟固めである。

 

 ベルはフィンの上体をロックすると同時にその飛びつきの勢いを利用してフィンの半歩下がったことによって移動した重心が乗った後ろ足を蹴って払う。

 

 そうするとフィンの身体は仰向け状態で浮き、その落ちる反動でベルは自身の体重をフィンの首にぶつける。

 

 

 「カハッ!」

 

 

 そもそも息を吐いたタイミングを狙われていたのか、勢いよくぶつけられたことも相まって、フィンは体内の酸素を吐き出し切ってしまった。しかし、ベルの首を絞められているため、上手く酸素を取り込む事はできない。

 

 いやこれ無理だろう。完璧に固められていて碌に身体も動かせない。固められている右腕は勿論のこと、自由とはいえこの態勢では左腕を満足に動かせる事はできない。

 

 というか、袈裟固めはその態勢の都合上、互いの顔がよく見える。フィンはベルの顔が良く見えた。何処となくしてやったりな顔のような、一々癇に障るようなニヒルな笑顔を浮かべているこの子供(ガキ)

 

 ウザいことこの上ないな。

 

 フィンは気絶寸前の頭でぼんやりとそう考えていた。

 

 すると、突然肺に空気が送り込まれるようになった。

 

 ベルが拘束を解いたのだ。

 

 

 「さて、今回は僕の勝ちで良いですね?」

 

 「コホッ、ああ、文句なしの、コホッコホッ、君の勝ちさ、ベル、コホッ」

 

 「ああ、あんまり喋らない方が良いですよ。相当空気吐き出させたので、呼吸が落ち着くまで待った方が良いかと」

 

 「……ああ、そうさせて、コホッ、もらうよ」

 

 

 フィンからまるで君がやったんじゃないかというような恨みがましい視線が飛んでくるが、ベルはどこ吹く風である。それがフィンの苛立ちを一層加速させるのだが、「いやいや、そもそも『古代』の時からそうだっただろう? 今更だ、今更」と自分に言い聞かせて自制した。

 

 そんなフィンの様子を面白く感じながら、『古代』の時にも会ってみたかったなぁとベルは思った。イジってこうも反応してくれるやつはやっぱりあの時代では割と貴重だったのだ。

 

 ベルが1人感慨深くなっていると、見守り組がやって来た。

 

 

 「流石の一言に尽きるな。あのフィンをこうも容易く倒すとは」

 

 「そうじゃのう、不利な武器での闘いを早々に放棄し、速攻で素手を用いて仕掛ける。合理的で豪胆な判断じゃ! よし、後で儂ともやるぞ! 折角じゃし、相撲取りでどうじゃ?」

 

 「やめいやめい。ただでさえ、今日来たばっかりでフィンと手合わせをしてるんやぞ? それに寝技を仕掛けたせいで、服とか身体も汚れとるしなぁ」

 

 「ふむ、では、この後()()()風呂に入るか、ベル」

 

 『ん?』

 

 

 なんか今、ハイエルフから聞き捨てならないセリフが飛んできたような……

 

 

 「あの、一緒に、とは?」

 

 「? 文字通りの意味だが? どうせ、ベルを洗うついでに私も風呂場に入るんだ、一緒に風呂に入った方が効率的だろう?」

 

 

 えっ、まって、僕、リヴェリアさんに洗われるの確定なの?

 

 人生2周しているとはいえ、流石に人並みに羞恥心はあるベル。

 

 

 「僕が1人で入るという選択肢は……」

 

 「逆に、あると思うのか?」

 

 「デスヨネー」

 

 

 ベルは思考放棄し、身を委ねることにした。もう、どうにでもなーれーの精神である。

 

 

 「ンー。汚れているという意味では僕もなんだけど、僕は洗ってくれないのかな?」

 

 「ほう? 世界中のエルフを敵に回しても生き残れる自信があるなら良いぞ?」

 

 「やめとくよ、まだ死にたくないしね」

 

 「賢明な判断だ」

 

 

 フィンはそもそも冗談の提案だったのであっさり引き下がったが、どうやらハイエルフと混浴するためには世界中のエルフを敵に回さなければならないようで。ベルは例外であるが、ベルはベルでその条件をクリアできそうなのが面白いところである。

 

 

 「ええ〜、リヴェリア。ウチも〜、ウチもお風呂入る〜!」

 

 「お前は論外だ、セクハラ神」

 

 「ブベラッ!!!」

 

 

 ロキはさながら某泥棒のダイブのようにリヴェリアに飛びつこうとするが、リヴェリアに片手ではたき落とされる。ああいう神はG以上の生命力を持っているので、多少手荒に扱っても問題ないのである。そもそも、ただの自業自得。

 

 

 「よし、行くぞ、ベル」

 

 「ハイ……」

 

 

 そんなこんなで、ベルは顔を両手で覆い、リヴェリアはそんなベルを抱え込み風呂場へと連れて行った。

 

 余談ではあるが、風呂場から出た後のベルは「もう何も怖くない」と某死亡フラグ乱立する魔法少女のような言葉を言って、悟りを開いたような顔をしていた。

 

 何があったのか。それは、悟りを開いたベルと同じく風呂場から出て来た妙に肌がツヤツヤしているリヴェリアの2人しか分からない。

 

 ちなみに、本当に身体を洗っただけである。特にやましい事はなかった。まぁ、ベルの体を隅々までという言葉がくっ付くが。

 

 

 

 

 

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