オーグメントと青春   作:鳥鍋

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過去と未来の覚悟

 

ガアガアとカラスが鳴き昼間にも拘わらず暗い森林の中、草と土を踏む足音と共に進む一つの人影があった。森は木々に風が遮られ、湿度も高くスッキリしないと考えながら迷わず獣道を歩き続ける。どれだけ歩いたのか、沈黙が許せないのか言葉を発しようとした。不意に風の流れが変わるのを感じる。まるで近くにナニカが出てきた様に。

 

≪危ない!一文字!≫

『おわっ!』

 

後ろから感じる気配に逃げる様に跳びはね、前方に着地し振り返る。

 

『逃がしたか、さすがバッタオーグ、いや仮面ライダーだね』

『あんたか、風見の家族皆殺しにしたのは』

 

そこに居たのは、ハサミの様に両腕から伸びた刃物を交差して閉じた獣の仮面。同じく昆虫の如き仮面に赤いマフラーの人物の頚を狙った一撃だった。

 

『それに関してはDESTRONの命令、殺したくも無い人達を殺してしまったのは謝るよ』

 

刃を勢いよく仕舞い、構えを解いて申し訳無さそうに答える。奇妙な事にかつての敵によくあるギラついた殺意を感じない。むしろ嫌々ここに立っている態度が丸見えだ。

 

『でも、ボクにはもっと大事な人がいるんだ。彼らはせめて苦しまないやり方で仕留めた。それでも許せないよね』

『当たり前だ。特にあんたは何人殺したと思ってるんだ、今更被害者ぶるんじゃねぇ』

『…そっか、ボクは彼にとってのあのカス共になったのか…グチャグチャの肉塊にした奴らはともかくあそこで止まりたかったな…』

『手下連れて言うセリフじゃないだろソレ』

 

彼ら、特に昆虫の仮面を取り囲む様にいつの間にか同じく昆虫の黒い仮面の者達が6人、銃を構えて立っている。

 

『先にボクの同僚と上司を殺してくれたらこんな事しなくていいんだけど』

『それで手抜く相手かあんた』

『まぁね、ボクの幸せの為にそこを退()いて仮面ライダー、でないと切り刻む』

『スッキリしねぇ奴だな、お断りだ!』

 

その言葉と同時に銃声が閑静な森に鳴り響く。その中心に立つ人物、仮面ライダーは一瞬で蜂の巣に、ならずその場から消えた。サブマシンガンを持った黒い仮面達は前後左右を見ても彼を見つけられない。だが上は?そうして上を見た一人は此方(こちら)に拳を向ける目標を見つけた。しかし次の行動に移す前にその頭部を砕かれ、吹き飛ばされる。犠牲になってしまったが、それを獣は無駄にしない。腕が伸びきっているタイミングを狙って刃を振るう。肩から袈裟斬りになるはずの一撃は急に跳びはね、先程の繰り返しで躱される。獣はそれに手をこまねく事はせず、木々の中に紛れ走り、黒い仮面も跳びはね追う様に射撃または銃を仕舞い格闘戦を仕掛ける。木の幹を踏み、太い枝を跳びはね時々ぶつかり合う様相は観客の無いながらまるでサーカス。お互い逃がさぬ様跳び続け移動し休む暇を与えない。仮面ライダーが拳を向けた一人を逆に殴り飛ばした時に、正面から銀色の凶器が迫る。迎撃や器用な白刃取りも出来ないと判断して後方に退避、すると暗い空間から開けて明るい場所に変わる。しかし発煙筒でも焚いたのか派手な色の煙で視界は遮られている。抜け出そうと考えると同時に別の風切り音が響く。例えるなら大砲やロケットを撃ち放ったそれ。煙を狙った一発は着弾し、土砂を激しく吹き飛ばした。

 

『油断するなよ、君達囲んで』

 

命令に従い四体になった黒い仮面は着弾地点を取り囲む。土煙が薄くなるが何も気配を感じない。まさかやったか?と思考しながら真後ろに刃を振るう。腕の中心を掴まれて切り裂けなかった物の正体は土に汚れた仮面ライダーだった。

 

『さっすが!ギアを上げるよ!』

『本気で来やがれ!』

 

───

 

「これは君の夢としての過去、キヴォトスの外で経験した戦いの記憶と言う訳か」

 

乳白色の空間に複数の人物がいる。映画の様に映し出される光景にそれぞれが感想や感傷を抱いていた。

 

「自分からここに来る人なんて初めてだよ」

「私の夢に干渉した者もだ。先程の夢からしてただの猫では無いな」

「そうだよ、ジャガーだし」

「あんたソコにはこだわるんだな」

 

長袖に狐耳の少女はメイド服の少女を見て驚きの表情を取る。

 

「ミレニアムC&Cの美甘ネル、何故こんな場所にいるんだ」

「あぁ、なぜってんなモンこいつに聞けよ」

 

ネルはジャガーを親指で指して吐き捨てる。少し長い付き合いでも未だに気に入る関係ではない。

 

「あー、君もネルちゃんみたいに一部を切り離したクチかな?それがボクのマスクに引っ掛かってこうなった?」

「ふむ、その頭部はどちらかと言えば人工物のようなディテールが見える。動物らしくない体型とヘイローが無い事からキヴォトスの外から来た存在で間違い無さそうだ」

「そういう君もティーパーティーのサンクトゥム、百合園セイアで合っている?」

「違う、サンクトゥス。だが確かに私は百合園セイアその者だ」

 

間違えた、と言いたそうにジャガーは頭を掻く。後から調べれば大事な人が祈った神に関する単語だから恥ずかしい。

 

「ティーパーティーってみんな超人かびっくり人間か何か?」

「君は他のティーパーティーを知っているのか?公表された情報以外を」

「聖園ミカちゃんは歩き方が強者のそれだったよ。ネルちゃんも言うからよっぽどの」

「……分派の代表が外に出る機会は少ない。偶然ミカを見ていたとしても余程タイミングが良いか、動向を探っていたかのどちらかだろう」

「…ラッキーだったって事で。調べるまで知らなかったよ」

 

狐耳もといセイアは疑わしげな視線を向ける。

 

「そもそもよ、トリニティの偉いのが何の用で来たってんだ?」

「いや、ここに来たのは偶発的にだ。本来なら私はこれから起こり得る光景を見ている。過去を見る事は今まで無かった」

「未来が見れるのかな?」

「そう、いわゆる予知夢と言うものだ」

「ボクが言うのもアレだけど、ティーパーティーってびっくり人間の会?」

「学園の代表である以上、凡人や俗物では務まらないさ」

 

ほうと感心する様に一声あげる。たかが学生、現実的な範囲で考えていたが組織の長として活躍する以上認識を改める必要を感じた。

 

「ネルちゃんのトコの会長もびっくり人間?」

「リオの奴か?合理主義で何でもズバズバ言っちまうのが気に入らねぇ」

「素直に答える物だね、美甘ネル」

「思った事がすぐ言葉になんだよココは」

「魂だけで触れ合っているからね、誰かが目指した嘘偽りの無い地獄、いや『あの世』かな?」

 

セイアは口元辺りに袖で隠れた手を寄せてその言葉について考える。ティーパーティーで思考力が最も高いだけあるようだ。

 

「魂を扱う技術は聞いた事が無い、神秘由来でも今まで私がこの様な形で巻き込まれる事は無かった、やはり元からキヴォトスに居た存在では無いのだろう」

「SHOCKER…って言っても分からないよね。その組織が作ったプラーナって技術、今までヤベー使い方をした人もいるから取り扱い注意ね」

「君以外にも扱えるなら技術として確立しているようだ。魂に干渉して攻撃か、美甘ネルの様子を見るに一部、いや相手の全てを吸収する事も可能かもしれない」

「そんな力がトリニティに向けられたら怖くて堪らない?」

「君の所属と目的が分からない以上警戒は当然。ティーパーティーとして態勢を強化するべき、いや、これから見えるだろう未来で結果は分かるさ」

 

そう言うと再び光景が映し出される。その光景の中に入り込むのが正しいかもしれない。

 

───

 

ある暗い建物の中、ジャガーオーグは右手を差し出していた。それを向けられているのは聖園ミカ。その行動にしばらく戸惑いながら意を固め手を伸ばす。

 

場面は変わって何処かの遺跡の様な石造りの道。ジャガーオーグは何かを振り下ろしている。何者かに馬乗りになる姿勢で一度や二度に飽きたらず何度も何度も何度も…。その何者かは運悪く瓦礫に隠れ全容を見られない。だが確実にグチャリグチャリと肉を抉る音が聞こえる。

 

似た様な瓦礫の積み上がった聖堂、そこで正座をするジャガーオーグ、その右腕の刃は己の首筋に向けられている。

 

『全部、ボクの責任なんだ…ここで死ねば会いに行ける…』

『ダメです!こんな事の為に死んでしまっては!』

 

それをシスター服の少女が止めようとした所でその光景は終わった。

 

───

 

「んー…続きは、終わったか…」

 

気が付けば何処かの礼拝堂の長椅子で起きていた。先日の一件から彼はアリウスの寮ではなく場所を転々と変えて寝床を作っている。寝ている間はプラーナを排出する為、身体能力に劣り何をされるか分からない。マスクは外しても良かったが、何かを祈りながら寝落ちしてしまったようだ。

 

「ネルちゃん、さっきの覚えてる?」

≪ほとんどろくでもない光景だったな≫

「ホントにやりそうで自分が怖い怖い」

 

軽く言っているつもりだが、顔色は悪くテンションも低い。何より深く寝付く事が出来なかった。せめて毛布や枕はしまっていないか教卓の様な机の裏側、礼拝堂の裏部屋をごそごそ探して見付けたのは奇妙な服とブーツ、ヘッドベールだった。

 

「何コレ」

≪知るかよ≫

 

広げてみると全体はエナメル質で手袋とセットになった長袖に、下半身はスクール水着の様に両脚を通す二つの穴があるだけの所謂ハイレグ、SHOCKERの女性構成員の衣装に似ている。これに膝以上ある長いブーツとシスターのベールを合わせた姿を想像する。女性構成員のシスター版に上着を羽織らない姿は体型が丸分かり、余程プロポーションに自信が無いと厳しい衣装だ。

 

「こういうのどうすればいい?」

≪あたしに聞くんじゃねぇ!≫

「メイドでエージェントなら詳しく…」

≪ねぇよ!≫

 

マスクで怒鳴られながらしばらく考えた結果、洗濯物よろしく綺麗に畳み机の上に置く事にした。人の目に付いてどうなるか分からないが、下手に自分が聞き回るよりベストだとその時は考えていた。

 

≪あん?どうしたあんた?≫

「嫌な予感…多分気のせい」

 

悪寒を拭うべく足早に礼拝堂を立ち去った。その結果は時間が経てば分かるだろう。




少なくとも最終編までがんばります

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