オーグメントと青春   作:鳥鍋

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エデン条約の時系列難しい
アズサのセイア襲撃の1年前(ミカ談)は過ぎている物とします


食客とは

 

ずいぶん前になるが、トリニティにアズサが転校してからしばらく後、百合園セイア暗殺に成功したそうだ。ヘイロー破壊爆弾を使用したので死亡は確実、これでトリニティの情勢も揺らぐだろう。

 

「そっかー…」

≪とんでもない事してくれたな、あ?≫

「ボクじゃなくてアズサちゃんに言ってよ…」

≪セイアってアイツだろ?夢に出てきた理屈っぽいティーパーティーの≫

「そしてアリウス以外にボクの強みと君を知っている…はぁ…」

≪何だ、今更人が死んで怖じ気づいたか?≫

 

躊躇無く人を殺せる相手が死亡ニュース一つ聞いて暗い顔を見せるのにネルは怪訝な顔をする。殺しには飽きたとか言うのは本当だったのか。

 

「いやね、脅威になるとは言え一度話した人が死ぬのは何かモヤモヤするんだよね」

≪散々人殺しておいて今更かよ≫

「ここに来てから誰も殺して無いでしょ?きっと殺したらズルズル利用され続けるよ、あのマダムオーグ、じゃないいちご大福に」

≪あんたをもて余して仕方無いって感じだけどな≫

「やっぱり?人質がいないって楽でいいね!…はぁ」

 

ため息をついてもどうにもならないので、礼拝堂の長椅子で横になり天井を見上げた。常に曇り空のアリウス自治区、光が差す窓も淀んで当然、割れている物すらある。雨降りを凌ぐ事は出来ないだろう。それでも今日はここで眠ろう、と考えると通信機から連絡が来た。その声はベアトリーチェその者だった。

 

『ジャガーオーグ』

「バイク部隊ならちゃんと面倒見てるよ?それともこそこそミレニアムにおつかいしてる件?」

『その事ではありません』

「…やつ当たりなら切るよ」

『いいえ、報告書の滞納、スクワッドに、いや作戦行動中のアズサに幸福を騙り、ゲヘナに自身の勧誘を持ち掛けたなど私が見過ごすと思っているのですか』

 

よく考えると組織のボスとして怒るのには充分、いや報告書は大目に見てもいいのではないか。

 

「あー、順番に話していい?」

『私が弁明、いや言い訳を求めているとでも?』

「何をするかは想像付くけど無駄だと思うな、ね、サオリさん」

『……!』

「出て来ていいよ、丸く収まるから」

「……」

 

無言でサオリがアサルトライフルを構えて入り口の前に立つ。作戦時の殺気と自らの怒りが混ざった目線がジャガーオーグに鋭く刺さった。他にも出入り口の陰からは複数の気配がする。

 

「ジャガーオーグ、これ以上の発言を禁止する。逆らえば……」

「ヤダ、怪我して足手まといになる前に帰って。大事な作戦が待ってるでしょ?」

『戦力は不十分ですが貴方と言う不確定要素を放置する訳にも行きません。懲罰を施し生徒の様に……』

「なりません!だって洗脳ならSHOCKERで受けたし」

 

遮る発言の内容にベアトリーチェ、生徒共々驚きと疑問が沸き出す。

 

『……あり得ない、洗脳を受けたのならば組織に忠実である筈、疑問も不満も抱かず行動するのみでは?』

「SHOCKERはね、憎悪とか恨みじゃなくて多幸感で洗脳してる。気持ちいいからみんな幹部に従うし、ボク達もモチベーションを高く続けられる、らしいよ?」

『幸福組織とはその様な意味でもありましたか』

「…それで思った事があるんだけど」

『またある事無い事を吹き込むつもりですか』

「いや、ボクらは違うなってだけ」

『違う?』

「誰かが自分達を猟犬って言ってたけど、その調教をされてないから違う、生まれ方と力の有り様が違う、幸福に関してのスタンスも大きく違う、飼い猫くらいは違う生き物でしょ?」

≪確かにアスナぐらい気分屋だよあんた≫

 

仮面の中でネルも同意している。しかしベアトリーチェは理解しても納得しない。

 

『それが何だと言うのです』

「違う生き物同士同じ空間に入れればこうなる事くらい考えてないの?」

『そもそも現在の状況は貴方が私の命令に従わないから、それこそ貴方は理解していないのですか?』

「ボク食客だよ?上からああしろこうしろに従う存在じゃないの」

『食客とは才能、力ある者が養われる代わりに主君に従う物、貴方はそれらの義務を果たしていません』

 

適当に使い勝手がいい言葉として喋っていたが、誤用と言うより当たらずとも遠からずだろう。

 

「…そもそも養われてる?」

『アリウスに存在を許されている事がそれに当たるのではありませんか?』

「働いてはいるけど」

『報告書以外で作戦行動を遂行しているのは認めましょう、しかし勝手な思想を口にして統率を乱した事は許しません』

「違う生き物なの知ってて雇ったんじゃないの?というかアズサちゃんにはむしろ良かったと思うな」

『幸福を騙る事の何が良かったと言うのですか』

「逆に自分はアリウスです、貴方を殺す気満々です、て目線のまま送り出すつもりだったの?もっと普通の子に近くしないとダメでしょ?」

『……これ以上スクワッド含め生徒に言い触らす事を禁止します。良いですね?』

「はいはい、バニタスバニタス。これで終わり?報告書とゲヘナは?」

 

うんざりとだるそうな態度で通信を続ける。ご丁寧に体勢も長椅子で横になったままだ。

 

『報告書に関しては続けて下さい。サオリ以上に正確に文章が書けている事は評価します』

「え?嘘?マダムさんが褒めた?」

『スクワッドや他の生徒と比べ教育や教養を感じられました。故に新たに教育する事が困難でもありますが』

「あーうん、言いたい事が分かった。余計な事を言うな、黙っていろ、でしょ?」

『食客を名乗るならもっと早く理解しなさい』

≪じゃあもっと戦闘以外の教育ちゃんとしてよ…しわ寄せが来てるんだから…≫

 

アリウスの教育事情に対する文句を同居人だけが聞いていた。

 

「ゲヘナのスカウトは?あくまで雇われてるだけだし」

『スクワッドと作戦を共有させたのはこのアリウスから離さない様監視を担わせる為でもあります。口の軽い貴方を他の学園に行かせれば、どうなるかなど知れた事。トリニティ攻略を前にして好き勝手はさせません』

「…そりゃそうか、作戦が終わってから好き勝手するよ。アリウス天下で仕事無さそうだけど」

 

いきなり仕事を放りだして別の職場に引っ越すなと至極当然の事を言われている。正論だが無駄に高圧的で教育がおかしいのが気に入らない。おまけに窓の外からヒヨリ達が狙撃銃やスティンガーミサイルで狙い、懲罰と言い出せば説教や注意勧告ではなく脅迫だ。

 

「それで、懲罰を試したいならどうぞ?抵抗はするし、やった所で時間の無駄だよ」

『それだけで引き上げるとでも?』

「手塩にかけたスクワッドが再起不能になる所を見たい?」

 

いつの間にか長椅子から立ち上がり、その刃を伸ばす。刃先を向けたまま緊迫した10秒が経過し、沈黙を破ったのは通信機の声だった。

 

『……スクワッド、引き上げなさい』

「……了解。撤収!」

 

ここにいないアツコ以外のスクワッドと待機していた生徒達は命令の元この場から去った。

 

「…作戦が終わるまで大人しくって事ならそうするから」

『自分の立場を最初から(わきま)えなさい。私の教えこそ彼女達にとって絶対である事を』

「他人の部下にちょっかいかけてたみたいなもんか…アリウスが連邦生徒会を占拠するまで我慢ね」

『あくまでも敵はトリニティとゲヘナです。キヴォトス全土を攻撃する計画などありません』

「…つまんね。野望大きい方が良くない?その程度でマダムさんは幸せなの?」

 

アリウスという組織を作り出した割りに野心が小さい。トリニティとゲヘナだけで終わりそうでアリウスを豊かにする気がこれっぽっちも無い。

 

『個人の欲望による無軌道な行動を許容する構成員がほざかないで下さい』

「ハハ…、でもボクの幸せは皆殺しとか支配じゃなくて過去を取り戻す事だから小さいのは一緒だね」

『これは私が崇高に至る道でもあります。食客ならば従い、一切の邪魔をしてはなりません』

「はいはい。最後に一つ言っておくよ」

『何です?』

「計画とか作戦は好きにしていいけど、ホントにヤバい奴は調べた方がいいよ。SHOCKERは何度も仮面ライダーに幹部を殺されたから」

『……言われるまでもありません。大人の義務に従いなさい、以上です』

 

そうして通信は切られた。そこに訪れた静寂は先程の大所帯と軽い殺気が嘘の様である。よく考えると一人にされる時間が長くないか。

 

「ネルちゃん」

≪あんた、それで心の中が幸せになる事で一杯だったんだな≫

「君だって勝利が好きでしょ、プラーナにしてごめんね」

≪あんたみたいに幸せに振り回されてる訳じゃねぇよ≫

「…君も寂しい?」

≪あたしは美甘ネル(あたし)じゃねぇ、帰れないのは知ってる、許した訳じゃないけどな≫

「仲間でも友達じゃないって分かっていても…もう慣れたよ、SHOCKERの時から」

 

計画はきな臭い上に勝利しても未来があるか分からない、ただ彼女らが何も得る事無く全て終わらないように。そう考えてジャガーは居座り続ける事にした。




裏設定

復讐が終わっているのに脱け殻じゃないのはSHOCKER式洗脳のおかげ+人工子宮装置
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