火蓋の裏にて
『続いてのニュースです。本日未明、○○市身代金誘拐事件の犯行メンバーと見られる
『…ひどいよね。だってあいつら僕の大事な人をカネに、いやオモチャにしたんだから。エンバーミングのスタッフさんが苦労してたよ』
『それで、何で縛り付けられているかって?だってお前弟だろ?三人目の。別に離婚だの名字だのは調べれば分かるよ。僕の家族を奪われたんだ、そいつらの家族も同じ苦しみを与えないといけないでしょ?』
『自分は関係ない?いいや、あのカス共の同類が生きてるだけでも僕の家族にとって害悪だよ。理不尽に奪われたんだ、僕も奪って殺さないと』
『狂ってる?法で裁け?狂っているのはカス共とその血筋で、法が許したらまた僕みたいに誰かが哀しむ、だから幸せの為にただ苦しめ、血と糞尿にまみれて死ねよ』
───
桐藤ナギサ暗殺計画が開始した。聖園ミカの手引きとアズサの報告の元実行に移るそうだ。ティーパーティーが彼女だけになればポストとしてゲヘナを殲滅、エデン条約はナシになる。アリウスの都合のいい傀儡政権も可能だろう。
食客であるジャガーには直接行う任務はまだ回って来ない。アリウススクワッドはサオリは指揮を取っているが他メンバーは別件があり忙しい。サイクロン号操縦訓練は終わったのでオルガンの部屋にある物を片っ端から触り、漁って、見つけた物は壊れているか持ち去られた様に何も無く、ふて腐れて横になったら朝だった。
「こういう時どうするネルちゃん?」
返事が無い。5秒待ってもだ。
「ネルちゃん、ネルちゃーん?」
10秒待っても返事が無い。
「子供みたいに小さいネルちゃん」
≪てめぇ、子供扱いすんな!≫
「良かった、消えちゃったと思ったよ」
≪だからってその呼び方すんじゃねぇ!≫
「ごめんごめん…またボクの夢見た?」
黙っていたのをいても立ってもいられず飛び出す様に彼女は出てきた。
≪……あんな事何人もしたのかよ≫
「したよ。グチャグチャに苦しめて殺したのはカス共と親戚友達だけ、汚れ仕事は綺麗に苦しまない様に」
≪取り繕ってもてめえはただの人殺しだろうが。そんな事して満足かよ≫
「いくらグチャグチャにしても足りなくて、四親等くらい手を出して飽きた。血に濡れてもスッキリしないと言うより…虚しかったのかな」
≪そうかよ、また誰か殺してみろ、あたしがてめえを殺してでも止めてやる≫
「…その時はよろしく、出来ればもう殺したくないし」
レコーダーを弄りながらしおらしく疲れた様に答えた。機械が得意と言う訳でもなし、開ける部分を開いただけである。そうして意を決したのか元の場所に置き、部屋を出る事にした。
───
聖園ミカは桐藤ナギサを捕縛するべくアリウスの兵士を動かしていた。ただ嫌うゲヘナを潰すと言う大義名分を抱えているが実際の考えを図り知る事は誰にも出来ない。それこそ、その魂に触れない限り。
「
「……っ!誰?!」
トリニティのどこかの部屋でいきなり後ろから現れた気配にミカは裏拳を叩き込んだ。気配の持ち主は右腕を盾に手の甲を受け止める。金属を激しく叩く音が他のアリウス生徒に聞こえる程に響いた。
「痛ったー。ビリッビリ来るよ。仮面ライダー以上のパンチだよ君」
≪これがティーパーティー、聖園ミカの実力ってか≫
「あなたは誰?」
「アリウスの食客、ジャガーオーグ。以後お見知り置きを」
「食客……サオリが言っていた。教育されて無いのに勝手に居座る者がいる、高い戦闘力でトリニティに寝返れば面倒だって。……あんな環境でよくがんばってるね」
「君もいいパンチだった。本気ならボクを殺せる位、それにトリニティのトップなら恵まれているはず、今更だけど何でここまでの事を?」
「理由?そんなの簡単。私がナギちゃんからホストの座を奪ってエデン条約を無しにしたいだけだよ。聞いてなかったの?」
聞かれてバツが悪そうに答える。
「…その、作戦はともかく理由までは共有しなかったし…、その手の報告書がお粗末過ぎて理由が分かる程じゃ…」
「……アリウスは本当に何も教えられていないんだね」
「お陰で人の分とか校正とか押し付けられて何度もサボったよ…」
「うわぁ……」
何に対してのうわぁ……かは考えない事にした。
「ところで、作戦が始まる訳だけど人が死ぬのは平気?」
「今更だよ、だってもうセイアちゃんもヘイローを破壊されたんだよ。一人だって二人だって殺したらもう後戻り出来ないんだから」
それを聞いたジャガーは何処かに既視感を覚えている。かつて『彼女』を殺したカス共でもDESTRONの同僚でも無い…そうだ、自分だ。大事な人を失った時の空気感と鏡で見た目付きだ。
「…君も大事な人を亡くしたんだね。ボクと一緒だ」
「……そうなんだ」
「ボクは殺したカス共を思い付く限り苦しめて殺した。君はやった?」
「そんな事意味が無いの……。私が命令して殺したんだよ。そんなマッチポンプなんかより、最後まで計画をやり遂げて、ナギちゃんを見つけないと」
≪コイツはダメだ、ヤケになって他に何も考えてねぇ≫
≪しかも強い、どっちが勝っても最後に暴れだして手が付けられないパターンだよ≫
歩く時限爆弾を見ている様で仮面ライダーに拳を向けられる以上に危険を感じる。最終手段として一撃で相手を殺す方法もあるが、成功率もデメリットも不安すぎる。何より殺し合いにはしたくない。ベアトリーチェ以上に言葉に気を付ける事にした。
「それで、あなたは何しに来たの?スクワッドが来ない代わりだから補欠?」
「サオリさんと作戦の隊長に相談して全体の監視と報告、保険として誰かの暗殺…かな」
「ふーん、最初から組み込まれていないなんてもて余されているんだね」
「…実際に殺りに行くならボクじゃなくて爆弾を持って集団で探す方が効率的だしね」
「スクワッドは一緒じゃ無いの?」
「何か気難しい大事なお客さんに会うって言ってた」
「へぇー……」
声色が少し重い。サオリはアリウスの交渉の窓口になっていたと聞く。それが彼女を放って別の事をしているのは気に入らない、と。
「力だけならスクワッド以上に頼りになると思っていいよ」
「……そうだね」
「ヤケになって敵味方関係無しに暴れないでね?そうなったら止める手段は選ばない…だからボクが来たと思う」
「殺すの?セイアちゃんみたいに」
「個人的にはイヤだな…大事な人と同じニオイの人は…」
「あはっ、そんな甘い事がよく言えるね」
「あんな妖怪いちご大福頭の誰も得しない教育されて無いし。あと、幸せの為に働いているからね」
「いちご、大福?」
「アリウスのボス、気に入らなかったらその人に文句言ってね」
誰でもいちご大福と聞くとキョトンとした顔をするらしい。本当に一目見て驚いて欲しい物だ。言葉より拳か弾丸が飛び出すのが想像に難く無い。
「……そう。そろそろ時間だから仕事に戻ってくれない?」
「最後に言っていい?」
「いいけど?」
「作戦が全部終わったら、ボク達と君は幸せになれると思う?」
「……そんなの知らない。少なくともゲヘナは不幸にするけどね」
「そっか…大勢殺したボクも幸せになる道と方法があった。君も幸せになれるよ、罪の重さなら今は圧倒的に軽いから」
そう言ってジャガーオーグはおもむろにソファーに座り、通信機を操作する。
『チームⅤ、準備完了』
『チームⅥ、完了しました』
『チームⅧ、準備完了』
『……チームIV、到着』
『……予定通り作戦を開始する』
チャンネルを合わせて横から傍受する形で状況を確認する。
「それいらないでしょ?こっちから聞けるよ」
「単独行動を想定してるからね」
そうして桐藤ナギサ暗殺作戦は始まった。ティーパーティーと言う程だからお茶でも飲めるか期待していたが、様子がおかしい。
『セーフハウスを発見!ターゲットは見当たりません!』
『こちらチームⅣ、奇襲に遭遇!』
暗殺チームの旗色が悪い。『スパイが裏切った』と言う通信も聞こえた。作戦の情報が漏れて暗礁に乗り上げている。
「どうする君達?」
「狼狽えるな!増援は手配してある!正義実現委員会も聖園ミカが待機命令を出したから動かない!」
「それに、私も出るからねっ☆」
アリウスの隊長が動揺する兵士達を落ち着かせると、ミカの発言で新たなざわつきが広がった。
「いいの?高みの見物じゃなくて」
「どうせこのままじゃみんなやられるだけでしょ?白州アズサがいるって事は相手は補習授業部と先生かな?少し予想外だったけど時間も無いし」
「自分が一番確実ってのは分かるよ?ご一緒いかが?」
「別に。あなたこそ高みの見物をしていれば?」
「そんな事言わずに…ブレードが出ない」
スイッチを押しても何かに挟まった様に動かない。ヤワな素材では無いが、原因は明らかだ。
「ホント…いいパンチだよ」
「あはっ☆ごめんね!」
修理にどれだけ時間が掛かるか知らないが右手側がダメになって戦力半減、予備の武器でどれだけ戦えるかも分からない。
「手助けが必要なら合図して。いちご大福って叫んだら助けるから」
「いちご……覚えておく」
そう言っておもむろに窓を開けたジャガーは飛び出して何処かに消えた。それをミカは確認する事無く部屋を後にするのだった。
ジャガーオーグは一人称を変える時がある