「まあ簡単に言うと、黒幕登場☆ってところかな?」
アリウスの増援部隊を引き連れ、聖園ミカが補習授業部の前に立ちはだかる。浦和ハナコ?と言う少女に問いただされてゲヘナが嫌いだとかアリウスと和解したいなどの先程語られなかった事が出てきた。そして彼女らはスケープゴートになる事も。
≪さあどうする?シャーレの先生に補習、授業部?≫
≪あれが先生ってヤツか。戦えはしないみてぇだが、芯は強そうだな≫
それを体育館の窓から気配を消して高みの見物をするのはジャガーとネル、どちらも彼、彼女らとは初対面だ。補習授業部は強そうな響きでは無いが、アズサがいる上、増援前のアリウスの生徒が倒れ伏していた。舐めて掛かれる相手ではなさそうだ。先生に関してはミカがゲヘナに全面戦争を仕掛けると言った時の目線は、彼女が一瞬怯む程強かった。
───
「……なるほどねー、そっかそっかぁ。そりゃみんな『シャーレ』『シャーレ』って言うわけだ。厄介だね、『大人』って。予想外ではあったけど……うん、まあ問題無いかな。ちょっと時間はかかりそうだけど」
指揮の元戦うと言うのは情報として聞いた以上に強力で厄介だ。銃撃、爆発、デコイ、サポート、そのどれもが的確なタイミングで放たれ、聖園ミカ以外の敵を確実に撃破し続ける。自分が量産型バッタオーグを率いて囮か追い込み漁をしたのとは大違いだ。しかし、アリウス増援は多い上に、ミカはどんな攻撃でも微動だにしない。このまま磨り潰されてしまうか。
「トリニティの生徒が一部、こちらへ向かってきています!」
「……?なんで?ティーパーティーの戒厳令に背くような人たちは、もう……」
「……シスターフッド!?」
どこかで見たシスター達が銃を手に行進して来た。トリニティの秩序を守る組織は一つでは無かったのか。ミカがダメージを受けている様に見えないが、旗色は変わった。
「……そういえば、一番大きい変数を忘れてたね。シャーレの、先生……うん、そうだね。考えてみればきっと、あなたを連れて来た時点で私の負けだった」
「……セイアちゃんは無事です」
「……そっか。生きてたんだ……。……良かったぁ。……降参。私の負けだよ」
ミカが戦いを止めた。その顔に諦めと言うより安堵が見える。合図を叫ぶ様子も無い。詰まるところ自分の仕事は帰るのみだ。
「アリウスの出身ならもちろん知っているよね、et omnia vanitas……」
「うん、分かってる。それでも私は最後まで足掻いて見せる、最後のその時まで」
「……うん、そっか」
ミカに近寄るアズサ、その目付きは真っ直ぐだ。水を差す様だが最後の仕事はさせて貰う。
───
「そっか」
「…?!」
アズサがミカに自負を告げた時、風切り音と共に何かが足元に突き刺さった。よく見ればコンバットナイフ、まだ見ぬ第三者による物か、飛んで来た方向を計算して…。
「上かっ!」
己の得物のアサルトライフルを向けた時には体育館上部の開いた窓から夜明けの光が差すだけだった。
「先生!まだ増援が……」
「来ないよ。だって私の合図で攻撃する約束だもん。セイアちゃんみたいになった私が言うことじゃ無いけどね」
「アズサちゃん!」
ヒフミを始め補習授業部のメンバーが終わってない戦いをサポートすべくアズサの近くに走って来た。
「ミカさん、あのナイフを飛ばした相手を知っているのですか?」
「スクワッドの補欠で来た食客だって。ツルギちゃん以上に強いと思うよ?」
「食客……まさか?!」
「どうするの?シスターフッドと私達はもう戦えないから!」
体育館に残った者達は再び身構えるが、ただ一人シャーレの先生は何かを見付けた。
「このナイフ、何かが刺さっている?」
「……!先生、私が確認する!」
アズサが床に刺さったナイフを確認して仕掛けが無い事を知り、蛇腹になった紙を傷付けず抜き取る。
「何か書いてある……"IF YOU WANT TO BE HAPPY,BE."?」
「……『もし幸せになりたいのなら、なりなさい』、と言ったところでしょうか」
「幸せか……間違い無い、彼だ」
「彼?」
「ジャガーオーグ、アリウスに雇われながらその教えに従わない者だ」
───
「……アズサ、どれだけ足掻こうと、お前は抜け出すことはできない。お前の体は覚えている。すぐに思い出すはずだ、真実を。」
「幸せになりたいのなら、どこでもなれる事を?」
「……ジャガーオーグ」
何処かも分からぬ廃墟にてアリウスのエリートと強者が集まって大いなる計画に備えていた。
「報告書はできたよ、君達がボクを置いていった間に」
サオリにコピー用紙を押し付けしれっとスクワッドに混ざり込む。仮にも管理する立場、無下に捨てず目を通した。
「聖園ミカと対面、それによるブレードの破損、アズサの仕掛けたトラップ、塹壕等の配置、シャーレの先生による指揮系統の動き、シスターフッドの介入、浦和ハナコと言う生徒の百合園セイア生存との発言……」
「ジャ、ジャガーオーグさんの報告書はよくまとまってます……。アズサちゃんのトラップはとても凶悪で痛そうですね……」
「百合園セイア生存は聖園ミカを止めるブラフでなければアズサは失敗、その時点で裏切った可能性がある。リーダー?」
ミサキの手に報告書が渡されサオリの方を見ると、ジャガーオーグが2本のコンバットナイフを持ち、片方の持ち手を彼女の前につき出していた。
「……何のつもりだ」
「今回不完全燃焼だから
≪あたしもそれは思った≫
「下らん、私がやる物か」
「あ、そう?」
ジャガーは自然体で右手のナイフで相手の首元を切り付ける。彼にとってお遊びのスピードのそれに、サオリはナイフを抜き取って下から上に弾く。
「ふっ、いいね」
仮面の下で微笑み、ナイフと左の爪、二つをいつもの二刀流よろしく構える。サオリもそれに応じ訓練された構えでジャガーを見据えた。
二人の距離は付かず離れず、その足さばきも細かくいつでも飛び出せる要に。じりじり、じりじりと先に動きを見せたのはジャガーオーグ。ナイフを胸の辺りで横に振り右手をサオリの刃で受け止められる、と見せ掛けピタリと止めて足払いを繰り出す。サオリは一歩下がりジャガーは左足を戻しきっていない。再び近付くのと構えを直すタイミングは同じ、お互いの隙には届かない。隙は逃したが先手必勝とばかりにジャガーは斜めに振り下ろしたが、体を反らしたサオリにミリ単位で避けられ無防備な右腕に突きが迫る。しかしサオリの右手に鋭い左手が近付き、手を引っ込める。一度攻撃を止められたが文字通り悪手、その左手を切られ思わず手を引いてしまった。
「いっ?!」
気付けばジャガーオーグの喉元に切っ先が向けられていた。
「ふぅ…危ない、引き分けだ」
ジャガーのナイフはサオリの胸、特に心臓の辺りに向けたまま止まった。
「いや、胸部より頸椎や動脈を狙った方が確実。制圧では私の勝ちだ」
「手厳しいね…」
構えを解いてナイフを床に落とす。ホコリや破片だらけの場所に金属を弾いた音が響いた。
「それで、次の作戦内容と決行は?」
「エデン条約調印式、ETOをアリウススクワッドが奪う」
「警備は厳しいよ?最強に勝てる?」
「マダムと取引相手の武器と技術がある。物の数は関係ない」
「ふーん…ボクの仕事は?申請した部隊の出番じゃない?」
「作戦には組み込む、勝手な行動を見せるな」
「ボクに信用と信頼は?」
「……外部戦力として命令違反、作戦放棄をしなかった事は認める。ただ任務を全うしろ」
「もっと褒めて?」
「……必要ない」
ジャガーオーグはスクワッドの三人の方に首を向ける。
「おべっかなんて意味が無い、言葉の無駄」
「……え、えっと、潜入能力と身体能力は凄いと思いますよ……」
「……姫は『どこでも自由そう』だって」
「…無茶振りごめん」
盛り上がりに欠ける。最初から仲間はいるが、新しい友達が彼女達にできるか不安だ。作戦が終わりアリウスが勝利した世界に彼女らの自由と幸せは…。
「こういうのがVanitas vanitatum?」
≪違うだろ……≫
「そうだ。評価、成功、栄光、いくら積み重ねようとも等しく意味は無い」
「……どうせ意味無いならサボろう?トリニティと百鬼夜行のグルメ行きたいよボク」
「マダムの言葉こそ絶対、幸福も希望も私達に無いと知れ」
「その言葉こそ意味無い…いや、今日はいいや」
そう言って廃墟から力を抜いて出ていく事にした。誰かが辛いに一本線を足すと幸せになると言った。その一本はどこにあるのだろうか。
「ふん、全ては虚しい。曰く……」
「ごめん、ナイフ忘れてた」
「……」
少なくとも格言を言えない事は虚しい。ジャガーは申し訳なくナイフを拾った。空気がとても辛い。
実はジャガーは同格の相手との戦闘経験が低いのでそれを補う方法を探している
ミカのプラーナは逃したけれどまぁいいかとの事