オーグメントと青春   作:鳥鍋

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ティーパーティーから正義実現委員会へ注意事項の報告

先日、学園で目撃されたジャガーを名乗る大人がセイア様の夢で確認されています
セイア様曰く相手の魂に干渉する能力を持つ可能性が有り、有事の際直接触れる事に警戒してください


火と灰と煙

 

「きええぇぇぇぇぇっ!」

「うおっと?!」

「しゃあぁぁぁぁぁ!!」

「よっ!」

 

崩れた古聖堂にて、獣と狂人もといジャガーオーグと剣先ツルギは瓦礫と雑兵を蹴散らしながらしのぎを削っていた。ツルギは二丁のショットガンで所構わず、いやジャガーと敵生徒を狙い吹き飛ばす。乱雑で戦力を削る銃撃を遠くからは高速で避け、正面の射線からは外れ、ミサキに狙いを変えた一撃をブレードを伸ばし下から上に銃身へと叩きつけ虚空を撃たせる。右手側の銃を抑えながらミサキ達を見てみれば、何人かのアリウス生徒と共にハスミと互角の撃ち合いをしていた。

 

「油断してるなぁ!」

 

左の銃を向けられ、強烈な衝撃に後ずさりする。撃たれたというのにジャガーは右手を痛そうに振るうだけ、防いだガントレットから硝煙が漂う。もう一度近づいて切り裂く前に向こうから跳んできた。

 

「きやぁぁぁぁぁ!」

 

頭上からの射撃を咄嗟に飛び退いたが、数発を手足に喰らった。しかし喰らうだけで終わらず着地に合わせて走り出し、銃を構える前に首と胴へ刃を向ける。

 

「きひひぃ!」

 

輪切りになる所を驚きの角度で身体を反らせて左右の刃を躱した。新体操選手顔負けの動きにはジャガーも驚いた。しかし銃を構え直す前にこのまま縦に切る、との思考と同時に姿勢を元に戻したツルギの頭突き、正しくは体当たりか、ぶちかましを受けてしまった。

 

「うぁ?!…いいねいいね!最高だよ剣先ツルギ!こんな楽しいのはキヴォトスで初めてだ!」

≪そうでしょネルちゃん?≫

≪こんな形なのは気に入らねぇが、あいつも結構やるじゃねーか≫

「きひゃひゃひゃひゃひゃ、褒めても私は止まらない!」

 

もう一度構え直し、互いの得物を再び向ける。いちいち叫びが耳につく以外食客として一番楽しい。そして彼女の力を、と刃を振るう直前、水を差す様に銃声が響いた。

 

「何…だ…。何あれ?」

 

その本元は集団だった。アリウス生徒の様なガスマスク、その頭部にはシスターのベール、手にはサブマシンガンやアサルトライフル等の敵に向ける為の銃器、奇妙なのは身体にぴっちりとしたレオタードに似た見た事ある衣装に膝丈以上のブーツ、スリットの長いスカートの者もいる、その間から見える肌は透き通る様に青白い。その集団がツルギやハスミ達アリウスの敵対者を狙って攻撃している。味方と見たが一体何者か。

 

「……あれは『聖徒会』の服装。『ユスティナ聖徒会』……数百年前に消えたはずの『戒律の守護者たち』がどうして今ここに……!?」

 

近くのシスターの一言をジャガーの耳は捉えた。スクワッドと作戦を共有したはずだがこれは聞いていない。ツルギの間合いから離れてミサキの方に走る。

 

「聖徒会の複製(ミメシス)も確認。条約に調印が為された……それに、人形との取引も上手く行ったみたいだね。アツコ」

「ミサキちゃん、この大軍は?どっから出てきた?」

「……アツコが、スクワッドがトリニティとゲヘナに代わって調印した。私達がエデン条約機構(ETO)になり、その二つを戒律の守護者と共に排除する」

「守護者?」

 

SHOCKERの女性構成員と服装のセンスは似ているが、いつかの礼拝堂に仕舞われる程の高尚な存在だったのか。数は多くツルギやハスミに撃たれ消えるが、その度にまた現れる。試しに近くの一人の背中を貫き、吸収した。()()()()()()()()感覚はあるが、プラーナが無い、つまり魂が無い存在だ。これが一斉に自分に襲い掛かったらエネルギーを蓄えられないまま磨り潰される事だろう。

 

「厄介だねホント」

≪気味悪りぃな≫

 

自分に向けられる脅威を考えた時、聖徒会の一部が紫の弾幕に消し飛んだ。ネルと同じく小柄で、悪魔の様な翼と角に厳めしく浮かぶヘイロー、ボロボロになりながらもコートをたなびかせ長大なマシンガンを撃ち放ったのはゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナその者である。

 

「ヒヨリ、もしかしてヒナを止められなかった?」

『げほっ、けほっ……す、すみません、ダメでした……』

 

あの状態でチームⅢをなぎ倒したのは少し驚いた。そのまま一人の男、呼び方から『先生』を連れて立ち去ろうとしている。

 

「どうする?」

「私はシャーレの先生と空崎ヒナを追跡する」

「OK、この場は抑えとく」

 

ミサキは彼らが逃げた方向に走って行く。ハスミ達はそれに気付くがアリウス生徒や聖徒会に囲まれ手を出せない。ツルギとの仕切り直しと行きたいが自分の武器は接近戦用、聖徒会が集中攻撃している中に割り込むのも難しい。

 

「撃ち方やめ!…ダメか」

 

銃声のみの返答に頭を抱える。作戦を完全に共有してないし話しぶりから指示できる立場も共有していなかった。少しの八つ当たりとアリウス生徒の損耗を防ぐ言い訳を胸にベルトのスイッチを起動した。

 

「サイクロン!」

「?!きえええええぇぇーー!?」

「っ!ツルギ!!」

 

戦場で停まり忘れられたと思われたバイク、サイクロン号が無人のまま急速発進、前方のミメシスに気を取られたツルギはエンジンとエキゾーストに振り返るもそのスピードを避ける事は叶わず、カウルが胴体に突き刺さりただ遠く、みるみるうちに遠くに運ばれて行く。それをハスミは見送る事しかできず、気が付けば聖徒会は見失った標的を変え、警戒すべきジャガーの仮面も何処かに消えてしまった。

 

───

 

「きぃあああぁぁぁぁぁ!!」

「危なっ!バイク事故シャレにならない!」

 

足場の悪い爆心地を抜けて、パニックになった車で溢れた道路を針の穴に糸を通す感覚で、時々ジェット噴射でジャンプをしながら遠くに、広い場所を探しながら疾走していた。気を抜いたら正面からのショットガンで頭を吹き飛ばされそうになるのを手で払うのは地味に面倒である。そうして目に付いた場所にジャンプをして車が少なくなった所でスピードを上げた先は、焼けた飛行船の残骸が浮かぶ湖のほとりだった。

 

「ふっ!!」

「きぇぇぇぇぇぇ!!」

 

柔らかい地面で急ブレーキを掛ければ、ツルギはフロントから放り出されて土をめくりながら転がる。これだけ派手なバイク事故に合えば、普通の人間どころかキヴォトスの人間でも立てないだろう。しかし相手の闘気、殺気とも言うべき物は消えるどころか自分に向けて増している。かつてアリウスの生徒に銃を向けられた時でもこれ程の感覚は無かった。

 

「後半戦だよ、剣先ツルギ!」

「……何故こんな場所に連れて来た?」

「…あの聖徒会?はともかくアリウスの味方が君にやられるのは良くないから…って言うのは建前で、サシで切り合いたいからここまで来た」

「お前は何者だ?」

「アリウスの食客、ジャガーオーグ。虚無と憎悪の中で幸福を探す者…なんちゃって」

 

ジャガーオーグはバイクから降りて、構える様に刃を伸ばす。獰猛な仮面の下では悪巧みの見え隠れする笑顔があった。

 

「きひひひひひ、潰してやるぅ!!」

 

剣先ツルギは狂暴どころか狂った笑顔で愛銃の『ブラッド&ガンパウダー』を相手に向けた。威圧威嚇の為にその表情と狂気は隠す事は無かった。

 

「…」

「……きひっ!」

 

戦場の混沌が嘘の様に静かだったのは僅か5秒だった。油断は無かったがツルギに先制を許した。今更ながら近接武器と銃器ならば後者の方が有利、為す術無く蜂の巣になるだろう。一瞬で避けられない限りは。

 

「ふっ!」

 

ジャガーは虹色の光たなびく風になった。獣の感覚にプラーナによる強化、引き金を引かれてからでも余裕で回避できる。そこですれ違いざまに胴体を切り裂くが、返って来たのは硬質な感触。再び銃を向けられる前に二度、三度それを繰り返してもその刃に警戒するかの様に銃を盾に防がれる。ジャガーは確信した。

 

≪速さに、付いているっ!≫

 

超感覚を持つ者との戦闘は想定していた。自分の本領は正面より暗殺、闇討ち。この近距離で気配を消すのは無意味、同じ場所で防御の隙を狙えば撃ち抜かれる。確実なチャンスが欲しい。ならば簡単だ。

 

「やっ!せい!は!」

 

正面から何度も切り続ける。剣術と言えない我流戦闘術、顔、首、胸、肝臓、みぞおち等急所を休む暇無く狙い続けた。そうして隙を見せるまで続ける。

顔は頭を下げて、首はショットガンで防ぎ、突きは横に避け時には刃に銃を叩き付ける。相手が攻める隙を与えず何合打ち合ったか、武器の隙間をすり抜け、脇腹に刺さったのは…。

 

「きひゃあ!」

「ぐがっ!?」

 

ツルギのショットガンだった。その引き金は無情にも引かれて、重い衝撃と共に苦悶の声を上げる。ジャガーの手からは力が抜けて地に伏せる、前に撃ち抜いた右手、首元を掴んだ。

 

「つーかまーえた…!」

 

その身体に触れたのならばこちらの物、遠慮無くその魂を掴み、吸い取る。他の生徒を切り裂く時と比べ物にならない程取り込み、ミメシスを刺した時と同じ感覚を覚える。

 

「きっ?!きぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

充分取り込む前に相手が暴れ出す。手加減したとは言え10%も溜まらないのは魂の総量が多いのか。ここで離れてしまえば元の木阿弥、加減は止めた。

 

「うあぁぁぁぁぁぁ!!」

「きやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

───

 

『■■■、いやジャガーオーグ、貴方は機械改造オーグメントの試作品であり失敗作だ』

『いきなりひどくない?』

『先程の性能テスト、プラーナを吸収しきれなかった。耳鳴りがすると言っていましたが?』

『そうだけどそれが?』

『貴方の改造コンセプトはプラーナをあらかじめ取り込みながら、敵、目標のプラーナを吸収し長期間の行動を可能にする物。それが許容量を超えていないのに人間一人分吸収する事に支障が出ている。貴方の幸福を叶える分にはともかく政府から差し向けられた部隊、協力者のバッタオーグとの戦闘には厳しい。そのデータは他のオーグメント開発に役立っているが、欠陥を持ったまま世に出す事はSHOCKERとしても不本意で…』

『別にいいよ、早くしないとあいつらの情報が古くなる、まずはそれを先にしていい?』

『…いいでしょう。終わり次第検査と再テストを受けるように。放置すれば確実に戦闘において致命的な欠陥を及ぼす。その事を念頭に置いてください』

 

───

 

「アアアぁぁぁぁぁ!!」

 

ジャガーオーグの耳には、頭の中かもしれない、季節の変わり目など目でも無い頭痛、頭と身体を破壊する程のハウリング、体内からは渦巻く嵐の音と狂気を孕んだ叫び、それらがない交ぜに彼の身体で暴れ回る。

 

≪どう……や……?!何を……だあんた?!≫

≪きぃやあああああああああああああああ!!!≫

 

ゴウゴウと全てを吹き飛ばす嵐、ツルギの文字通り魂の叫び、そしてプラーナに混じる光、それらを受け止めるのにジャガーオーグは精一杯だった。しかし、その身体で全てをこぼさない事は叶わず、身体から()()()()()

 

「うあああアアアぁぁぁぁぁ?!!」

「きぃやあああああああああああああああ!!?」

 

獣のマスクの目、鼻、耳、口、刃を纏った両腕から青黒い煙が吹き出す。もくもくと辺りを包み込んだと思うと、叫びは徐々に小さく、ついにはパタリと止み沈黙が覆った。どれだけ時間が経ったか、そよ風と共に煙は去り、その場にいたのは地に伏せる二人、銃から手を離しヘイローの消えた剣先ツルギと煙を口から吐きながらうつ伏せになるジャガーオーグだった。




プラーナを扱うのが上手いのは昆虫合成型だが、ジャガーオーグは試作品扱いとしてプラーナ操作技術も備え付けられた

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