オーグメントと青春   作:鳥鍋

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もしもアズサのトラップの中にジャガーオーグが入ったら獣の五感を使ってなんとか切り抜けるはず


欠片を手にして

 

待機場所のはずだった廃墟はさらに壊れていた。主に上部の階が爆破されかの様に無惨だ。一応スクワッド達の気配はするので中に入る。

 

≪何があったんだ?分かる?≫

≪あたしに聞くなよ……いや、この匂いと破片は手榴弾?アカネが持っているのと違うやつか?ここまでブッ飛ばすなら爆薬も必要だろ≫

≪さすがエージェント≫

≪うるせぇ≫

≪……ここにアリウスがいるんだな?≫

≪叫ばないでね、ツルギさん≫

≪お前が思う以上に所構わず叫びはしない≫

 

自分が来た事を分かりやすく足音を出して歩くが嫌な予感がする。

 

「サオリさーん、アツコちゃーん、ボクだよー」

 

部隊のメンバーとしては落第だが、誤射や不意打ちを防ぐならこれがいい。そうして歩く程に彼女らの匂いと嗅ぎ覚えの無い爆薬の匂いがする。

 

「サオリさん!」

「……貴様か、作戦行動中に声を上げて探すな」

「状況は?」

 

サオリがマスクが外れたボロボロのアツコを介抱しているのは分かる。近くの床には焦げ跡がある。だがよく分からない匂いがとても引っ掛かる。

 

「アズサの奇襲によってヒヨリ、ミサキが負傷、姫は……爆弾で……」

「知らない匂い…例のヘイローを壊すって言う…」

「絶対に許さない……!!」

「…まずは二人を助けようか?」

「……トラップが残っている可能性がある。二次災害を防ぐ為にお前一人で行かせない」

「二人で行くならアツコちゃんを一人にするのはちょっと…」

 

ジャガーの言葉に、アツコはいつもよりたどたどしく手話で何かを伝えた。

 

「えっと、『心配』『いらない』で合ってる?」

「姫……付いて来い」

「次の作戦には毛布かマットレスでも用意しようか」

「次などあるものか」

「…そうだったね」

 

───

 

「うぅ……痛かったです……、アズサちゃんにいきなりやられたのがとても苦しいです……」

「やられた。ゲリラ戦で意表を突くのは私以上、分断して追うのはまずかった」

 

爆破されたり瓦礫で身動きが取れない二人を救出するのは思ったより時間が掛かった。普段ならサオリはジャガーオーグがどこで攻撃を喰らっても気にしないだろうが、仲間の安全の為に罠に警戒し率先して障害物を退かした。

 

「虚しい虚しいって言ってもこういうのは必死だね、ヘマしたあいつらが悪い、自業自得だ、とか言わないの?」

「……本作戦の襲撃において重要なのはアリウススクワッドの存在その物。作戦行動の成否に関わる以上、当然の行動だ」

「だったらアリウス生徒全員でアリウススクワッドで良くない?一人死んでも続けられるよ?」

「マダムがこの作戦の為に私達を編成した。余計な人員は必要無い」

「聖徒会に無視されたんだけど」

「……答える必要も無い」

 

いつも通り無愛想だと思いながら話を切り上げる。どんな話なら答えてくれるか。

 

「アツコちゃんは平気そう?傷の手当ては?」

「医療品等の物資は用意されていない」

「うわっ、ケチ臭いちご大福」

「桐藤ナギサ暗殺の際に武器や物資を使い込み余裕が無いからな」

「いちご大福は否定しないんだ」

「……」

 

アツコを見ても傷を治す手立ては無い。せいぜい万魔殿のイブキにやった方法を取る位しか思い付かない。

 

≪……ゲヘナの奴らが私を手当てしていると言ったな≫

≪ツルギさんのプラーナを渡したらヒドイ事になりそう…≫

 

許容量を超える魂の叫びで身も魂もズタボロになる所だった。吸い取るだけでダメージを喰らう…そして閃いた。それを自分の魂に纏ったら?と思ったが魂を攻撃された時の叫びなら維持は出来ないし、その叫びに自身の魂が耐えられない。でも魂を攻撃された時だけ叫びが発動するなら?自分以外そんな芸当は出来ないがお試しでやってみる。

まずは余ったツルギのプラーナを眠らせておく。魂はエネルギーでもあり、データでもある。それを攻撃された時に目覚めるワクチンか免疫にしてみよう。

それをイブキの要領で流し込むだけだが、不自然にならない方法で身体に触れる方法も考えた。

 

「サオリさん、時間が来るまでアツコちゃんの手を握ってあげたら?」

「……?」

「ほら、こんな風に」

 

ジャガーはアツコの側に座り、右手を掴む。手袋の上からとはいえ綺麗な手、さすがはお姫様、どこまでも自分を懐かしい気持ちにさせる。

 

≪……懐かしい?≫

≪幼なじみ……だってよ≫

≪はわっ?!≫

 

「ほらほら」

「必要無い」

「冷たいね、こんなリーダーでいいの?」

 

サオリに見せ付けるようアツコに話しかけるが、無言で表情はともかく感情が分からない。そこで思い付いた、スクワッド全員巻き込もう。

 

「じゃ、ミサキちゃんとヒヨリちゃんも」

「え、あの、……姫ちゃん?」

「急に何を考えているの?」

 

手を繋いだまま休んでいる二人の元に連れていき、間に座らせる。そこから二人の手を取り、アツコが広げた両手に乗せた。

 

「どう?」

「別に何とも……分かったよ、しばらくこうする」

「……えへへ、こんな風に姫ちゃんと手を繋ぐのも……久しぶりですね……」

 

ミサキは口調はともかく表情は柔らかく見える。ヒヨリはミサキ以上に感情を出しやすい。そこにはただの部隊には無い暖かみがあった。

 

「ほら、後はサオリさんだけ」

「……仕方無い、姫、手を」

 

サオリは折れたのかミサキの方まで歩く。ミサキは彼女の目配せを受け取り、アツコの右手を譲り渡した。それを渋々受け取り十数秒経過した時、ジャガーはアツコの落としたマスクを観察しながら口を出す。

 

「悪く無いでしょ?この感じ」

「……どうだろう」

「意外と、こういうのが幸せって…」

 

言うんじゃないか、と続く前に強い視線が彼を貫いた。

 

「この世界は虚しく意味が無い、それが真実だ」

「うわっ、つまんねー事言わないでよ…。だったらトリニティ滅ぼすのだって意味無いし、サボっていい?」

「マダムの…」

「マダム禁止!今は休む!」

「……体力が戻り次第準備、襲撃を掛ける」

「うん、それでよし」

「どの目線で言っている?」

 

無駄に体力を使うのを疎んでジャガーの言動には深く追及しなかった。ここまで付き合いがあればその性根がアリウスの思想にとって厄介だと知っているが、何とか飲み込み働かせている。ツルギら敵対勢力と戦っているだけで充分な成果だとサオリは考えている。

 

「Vanitas vanitatum. et omnia vanitas.我らの憎しみ、恨み、その全てをぶつける時だ」

「その調子でミレニアムとか連邦生徒会もぶち壊す?キヴォトス全部落としてアリウス天下?」

「……聞いていなかったのか、聖徒会はETOの物、トリニティとゲヘナの紛争以外には介入しない」

「…初耳。二つはいいとして、他の学校がアリウス許さん!潰す!って言ったら?」

「……」

「うわー、三日天下って初めて見たよ…」

「そもそも天下すら取っていない」

 

今更ながら作戦や計画の後の無さに呆れるジャガーに、サオリは怒りを向ける気も起きない。

 

「ここで勝っても負けても結局ダメじゃん。復讐ってそんなもんだけど…。そこの二人は?」

「……ミレニアムは、最新技術にC&Cの力が合わされば……苦しむ間も無く終わりそうですね……」

「連邦生徒会は直属の戦力としてSRTがあったけど、連邦生徒会長が行方不明で閉鎖になる。その存在さえ無ければ制圧は難しくない」

 

こんな戦力がひしめき合うキヴォトスでよくアリウスが生き残ったと驚きと感心を抱いた。今まで息を潜めたから?いちご大福マダムが戦力を整えたから?

 

≪ツルギさんはアリウスをどう思う?≫

≪歴史としてしか知らなかった。その環境の劣悪さは理解したが、手加減しない理由にならない≫

≪ネルちゃんは…ミレニアムは関わって無いから別にいいか≫

≪おい、確かにそうだけどよ……≫

 

こんな希望も未来も無い作戦に乗った自分が馬鹿らしく思える。戦争は否定しなかったが、ただの骨折り損に参加したいとは言ってない。

 

≪おのれアリウス!おのれ妖怪虚しいいちご大福!報告書も作戦共有もメチャクチャだよ!≫

「……ジャガーオーグさん?」

「何しているの?」

「…がっかりしている」

 

気が付けば壁に両手と頭を付けてうつ向いていた。現在の状況が幸せと程遠いと改めて理解させられる。そこから不意にアツコの方を見て、早歩きでサオリと反対の手を掴んだ。

 

「……」

「ごめん、アツコちゃん。もうしばらくこうさせて…」

 

スクワッドもマスクの同居人も、落ち込み気味のジャガーオーグに掛ける言葉は見付からなかった。




なお彼のパソコン使用スキルはある程度事務仕事可能だけどセキュリティやワクチンプログラムはそんなに詳しくない
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