オーグメントと青春   作:鳥鍋

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アビドス、ジャガーオーグ、両方の格を落とさず書けたかも?


戦いの名前は

 

これは決闘ではなく戦闘だった。

 

二色の瞳の少女に小手調べで振り下ろした刃は、掲げた盾で弾かれた。それは想定内と言わんばかりに、盾を横合いから蹴り退かす。相手は盾に身体を引っ張られて向かって左に身体を傾ける。しかし力加減と移動距離が一致せず、刃の間合いから離れている。姿勢を整えた彼女は右手のショットガンを向け、ジャガーは銃声に合わせて横に大きく回避した。攻撃の死角を狙い盾を持つ相手の左手側から近付くが、二発、三発目も早い。しかし躱せない早さで無く、銃口から大きく逸れながら前に走り続ける。両者が2、3歩の距離に縮まり、盾に手を掛けようと思ったら後ろから銃声が響く。姿勢からして右腕を引っ込められないまま、肩に銃弾を受けてジャガーオーグは姿勢を崩す。

 

「いやー、おじさん達に刃物で突っ込む勇気はすごいけど、流石に無茶が過ぎるんじゃない?」

「足が速いのは驚いたけど、それだけで先輩達には勝てないわよ!」

「いや、ごもっとも!」

 

前方にはショットガン、後方からは猫耳にツインテールの少女がアサルトライフルを構えている。二対一いや相手が四人なのを忘れていた。

 

≪いや何で正面から突っ込んじゃったかなボク?!≫

 

戦闘のどさくさに紛れて気配を消して不意討ちする、それが自分のやり方だったのに、強い神秘を前にいても立ってもいられなかった。まるで心の底から暴れたい、強者と戦いたいとのかつての自分に無い衝動が溢れ出していた。考えなくとも理由は分かる。

 

≪もしかしてネルちゃん達?≫

≪へぇ、あたしに当てられたってのか≫

≪きひひひ……≫

 

多対一は得意じゃない、戦況を変える何かが欲しい。丁度いい事に戦闘のプロが自分の中にいる。引っ張られ続けるのは気に入らないが身を任せるのは悪くない。

 

≪頼むよネルちゃん?≫

≪あぁん?いいぞ、付いてきな!≫

「じゃあ、暴れるか…。行くぞおらぁ!!」

 

ショットガンで撃つ寸前、盾に普段味わう事無い衝撃を少女は受け止めた。弾丸より大きく重い砲弾の様な一撃、その正体は拳。改造された肉体の一撃はキヴォトスの住人でも無傷で済まない。相手が怯んだジャガーは後ろに飛び退き、銃撃を避けながら着地したのはアリウスの兵力の多い方向。アリウス生は劣勢、追い詰められ地に伏せる者も多い。ジャガーオーグはその場にしゃがみ、再び突撃する。マズルフラッシュと獰猛な銃声と共に。

 

「おらおらおらおらおらあぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うへぇ~……」

「ちょ、急に何よ!?」

 

獣の両手には別の生徒のサブマシンガン二丁、盾と猫耳の二人に連射しながら距離を縮める。どちらも防ぐか物陰に隠れるか、ただでは喰らわない。しかし追い詰めるには充分、バリケードに手を掛け乗り越える。

 

「っ!?セリカちゃん!」

「うわっ?!」

 

とっさに飛び退いたのは彼女にとって正解だった。立っていた場所に閉じた刃が伸びて刺さる。しかし追い討ちは続きもう片腕のサブマシンガンから横一線に掃射する。二撃目は急所では無いが命中、三発目を狙い銃と刃を同時に構えて、すぐに解き横に跳ぶ。直後に小規模な爆撃がジャガーを追い掛ける様に吹き飛ばした。

 

「ん、あっちは片付いた」

「シロコ先輩!助かりました!」

「逃がしませんよ~♧」

 

頭上からはドローンのミサイルがたった一人を追い掛け、死角や物陰から炙り出された所を先程の意趣返しにミニガンの機銃掃射が一面を覆う。距離から密度は薄く急所を防ぎながら銃口が逸れた瞬間にサブマシンガンで反撃、する直前にアサルトライフルの銃声が再び響く。多少無理な体勢で短めの連射を避けてミニガンに片手の銃を向けたまま、もう片手を反対に立つ新手の青いマフラーと犬耳の少女に向ける。

 

「いや~、シロコちゃんやノノミちゃんにやられないなんてすごい猫さんだね~」

「違う、ジャガーだ!猛獣なめんな!」

「ん、それなら私も狼だよ」

「シロコ先輩、張り合う所じゃないから!」

『皆さん、正義実現委員会から仮称ジャガーの戦闘データを受け取りました。一定の距離で囲んで相手の手に触れないでください!』

 

不味い事になった。オーグメントでも銃を持った部隊に殺されたケースもある。正面の射撃は避けられるが、逃げ場ない飽和射撃は同僚の重装甲でもなければ耐えきれない。話によると痛みはともかく耐久力はキヴォトスの生徒の方が上、短期決戦が望ましい。

 

≪ネルちゃんもそうでしょ?≫

≪だな。あたしはこいつみたいに傷の治りが早い訳じゃねぇ≫

≪きぇへへへ……あの校章はアビドス。ティーパーティーが生徒救出を手助けしたと聞いたぞ≫

「ふぅん、てめぇらトリニティと仲いいんだな」

「ん、ファウストに助けられたから次は私達の番」

「降伏するなら手荒にしないけどどうする~?」

「誰がするかよっ!」

 

しかし誰の目から見ても明らかに不利、C&Cや正義実現委員会の最強でも四対一は厳しいだろう。切り札でも切らない限りは。

 

≪ねぇ、神秘ってボクも使えるのかな?≫

≪とにかく身体から出せ≫

 

ツルギの声に閃いた。彼女のプラーナの許容量を超えた時自分はそれを排出、同時に神秘も出した。故にプラーナのみで起こり得ない現象も巻き起こった。その感覚を再現する。

 

「それじゃあ、そこで寝ていてくださ~い☆」

 

ミニガンが唸り蜂の巣になる寸前、両手と口から自分のプラーナの僅かと別の力を混ぜて、時間は無いのでデタラメな分量で吐き出す。

 

「うへ~」

「きゃっ?!」

「ひゃあ!」

「くっ!」

 

最初に銃声をかき消すジェットの如き噴射音、次にマスクの口と手のひら、手首から青黒い煙がアビドスの生徒に向けて吹き出す。退避も間に合わずミニガンの掃射が止まる時には、辺り一面を包み彼女らの視界は大きく奪われた。

 

「煙幕……!」

「先輩、みんな、どこ?!」

「アヤネちゃん、目標は?」

『煙の流れを確認します!』

 

全員多少驚くが、取り乱す事無く警戒する。息苦しい訳では無いが目を開けられない煙たさ、下手に撃てず銃撃戦の喧騒は無理矢理沈められた。その中でアビドスの生徒達は逃げるでも探すでもなく、ただ構え続ける。惰性ではなく信頼の為に。

 

『セリカちゃん、6時の方向、真後ろです!』

「やっ!」

「おっと!?」

 

ジャガーは煙の中で急に振り返った事に驚き、横に素早く動いた。それが不味かったのか他のメンバーも追撃を行う。

 

『ホシノ先輩、1時の方向!シロコ先輩は3m前に手榴弾を!』

「こっちだね~」

「ん!」

 

対応は早く同士討ちを避けた射撃、先程の噴射以上の爆発音と風圧で痛手を与えると同時に静かな狩場から逃れた。

 

「…ちっ!ぶっつけ本番でやるモンじゃねぇな」

「うちのオペレーターは優秀だからね~。ね、アヤネちゃん」

『ホ、ホシノ先輩……油断は禁物です』

 

戦いの中で確信した。彼女らアビドスはアリウススクワッドと同等かそれ以上の戦力。おまけにオペレーターが別の視点でサポートしている。実質五対一でここまで足止めするだけでも無茶どころか上出来だろう。

 

≪特に盾のヤツ、あいつは段違いだろ≫

≪ネルちゃん並みかな?≫

 

ネルの一言に同意する。神秘は強く、近接戦闘にも対応できていた。彼女とネルが一対一でも激しい勝負を繰り広げる事だろう。他三人の実力も並みのアリウス生徒など目でも無い。対してこちらはスクワッドに作戦勝ちしたがメイン武器は近接、味方はいない、即興の手品は破られた。不利どころか手詰まりである。

 

「なぁ、聞いていいか?」

「ん~、何かな?」

「あた…じゃない、ボクと戦ってどう思った?」

「力と速さはすごいけど、それだけじゃおじさん達に勝てないかな」

「煙にはびっくりしましたが、アヤネちゃんがいるから平気でした☆」

「さっきのは痛かった!許さないんだから!」

「ん、銃と煙幕を活用しきっていない。もしかして慣れてないの?」

 

基礎能力で勝てても相性が悪い上に指摘すら受けた。今後の改良点や課題が見つかったが、その前に殺られる事だろう。

 

「仕方無いな…」

 

ジャガーオーグは賭けに出る事にした。西部劇の決闘よろしく勝負、相手より早く構えて、一人でも速く斬る。

 

「まだやるの?まぁおじさんも付き合ってあげるよ」

 

プラーナを込めた虹色の刃を伸ばし、最適な姿勢を取る。武道の構えはかじった程度。ただ経験のままに構え相手を見据える。そして足元を整え踏み出す準備が出来た。直後に背中に痛みと衝撃を感じた。

 

「っっ!!?」

 

集中したプラーナは霧散、姿勢も崩れ斬り付けるどころでは無い。走り出す事無く膝を付き決闘、いや戦闘は終わった。

 

「……鎮圧完了!」

「大丈夫ですか、アビドスの皆さん!」

 

振り返ってみれば、下手人は風紀委員会の腕章に悪魔の尾、クラシックなライフルを向けたゲヘナの生徒。隣には眼鏡に医療品のカバンを持った生徒や、何人かの風紀委員も立っている。

 

「……イオリちゃん、あのタイミングで撃つのはダメだよ」

「いてて…ゲヘナの風紀委員会は人を後ろから撃つんだ…。アリウスはミサイル撃ったけどね…」

「何でだ!何で私が悪いみたいに言うんだ?!」

 

イオリは敵を倒したのに文句を言われた事に戸惑いを隠せない。

 

「イオリ先輩、とにかく今のうちです」

「あ、ああ。そうだな。囲め!」

 

風紀委員の生徒達がジャガーオーグの前後左右で銃を構え、逃げる隙間など無い。体力は残っているが、動けば防護ジャケットでも耐えきれず蜂の巣だ。

 

「あーあ。もっと動きたかったなぁ」

 

ジャガーは諦めて地面に仰向けの大の字になった。戦闘は続いて騒音や砂ぼこりが広がるが、綺麗な空をのんびり眺められる。

 

「盾の君、最後に聞いていい?」

「いいよ~」

「名前は?」

「おじさんは小鳥遊ホシノだよ」

「幸せな事はある?」

「お昼寝する事かな~」

「大切な人はいる?」

「……アビドスのみんなは大事だよ」

「君はボクと同じニオイだけど、なんだか嫉妬しちゃうな…」

「そんなあなたも悪い大人にいいようにされているんでしょ。大変だな~」

 

ジャガーはホシノにシンパシーを感じていた。しかし同じ要素がありながらどこかが決定的に違う。

 

「どうやって、君は幸せになれた?」

「そうだね……諦めの悪い後輩達と、全部を背負ってくれた大人のお陰だよ」

 

彼女には、全力で助けてくれる仲間がいる。対して自分はただの雇われ、味方以上の仲間はいなかった。

 

「そっか…。もう一度、大事なあの子の手を握りたかったよ…」

「……」

 

ホシノは答えない。表情を読み取りにくいのは寝そべって角度が悪いからだろう。

 

「友達の命の分は体を張りたかったけど、せいぜい君達のハッピーエンドを掴んで、以上」

「……じゃあ、そうさせてもらおうかな~」

 

ホシノは倒れたジャガーから戦場に視線を変えて、後輩達を連れて次の戦いに向かった。ジャガーオーグはただ空を見ながら小さくなる足音、遠くの銃声を聞いて見送るだけだった。




大事な人を失い、怪しい大人に目を付けられて、利用され続けた
さぁ、誰の事でしょう?
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