オーグメントと青春   作:鳥鍋

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結局マコトのジャガー独占計画はイオリから風紀委員会に伝わってナシになりました


アンチアリウス同盟

 

「これで…『アンチアリウス同盟』成立、かな」

「何ですかそのネーミングは」

「前に戦った敵から取った」

 

ジャガーオーグやゲヘナ主要メンバーは万魔殿の応接机を上座に万魔殿、下座に風紀委員会とジャガーで囲み一枚の用紙を見ていた。事細かい文章にゲヘナ学園生徒会長羽沼マコト、風紀委員長空崎ヒナ、そして元アリウス食客にして現ゲヘナの食客ジャガーオーグの名が書かれている。

 

「おのれ、あのタイミングで風紀委員会が来なければジャガーオーグを独占できた物を……」

「それで、『アリウスの生徒会長ベアトリーチェに辞表を渡すまでゲヘナの雇われとして業務を行う、その間は人を殺す事は禁止する』、との事だけどそれが終わったらどうするの?」

「…分からない。契約書の更新でも転職でもその時考える」

「行き当たりばったり、それでアリウスにも味方したと言うのかしら?」

「一宿の恩って奴かな。ぐーたらが許される環境でもないし」

 

マコトが歯噛みする一方で空崎ヒナの確認に後ろめたい事無く答える。ただの質問にもプレッシャーが掛かるのはゲヘナ最強と言ったところか。強さの一端をこの目で見た以上説得力のある重圧だ。

 

「まあ待てヒナ委員長、アリウスの内情に詳しい者を無下にするな。キキ、エデン条約を奪った奴らに報復できるチャンスだ。故にアンチアリウス同盟と言ったのだろう」

「マコト議長、どの口で言っているんですか」

「キキキ、この口だが?って待て待てヒナ委員長!このマコト様に銃口を向けるな!」

 

天雨アコの訝しげな視線にマコトは開き直るが、小柄な体格に見合わないヒナの長大なマシンガンを向けられてはキヴォトスの生徒でもただで済まない。

 

「あー、マコトさんは殺していい?」

「ダメに決まってますよ、座ってください」

 

ベルトに取り付けた鞘からコンバットナイフに手を付けて立ち上がろうとしてイロハに止められる。

 

「ヒナちゃんは?その気ならボクより先に殺しちゃうよ?」

「たまにある事なので別にいいかと」

「…ちょっとすごい、かも?生きているなんて」

「あなたと違って彼女は蹂躙はしても殺人はしません。そもそもヘイローを壊す事自体困難です」

「もしかしてアリウスってヤバい?ヘイロー壊す爆弾とか」

「その『殺す』事をキヴォトスで教えられる事が異常です。無法がまかり通るゲヘナでも論外ですよ」

 

アリウスは人殺しという言葉に(こだわ)っていた。そこに来たのは殺しに飽きた自分だったが、殺す事が幸せなオーグメントが来たなら火に油を注ぐ様にロクな事にならなかっただろう。

 

「そっか…それと、ヒナちゃん。ここで撃つと契約書も蜂の巣になるよ?」

「……そうね。契約内容の共有に感謝しなさい」

「ヒナ委員長、議長に対して手心が過ぎます。調印式でアリウスを手引きした張本人ですよ?」

「アコ、今アリウスと生徒会長以上に厄介なのは彼。剣先ツルギを倒しただけでなく人の殺し方を知っている相手」

「キキキ、そしてイブキにとっての命の恩人!他の議員と同じ給料でも割に合わない程だ!」

「あー、仕事っていう暇潰しができるだけでもいいお礼だよ。…まぁそう言ったせいでアリウスでは給料貰えなかったけど。契約書は大事…」

 

ヒナはマシンガンを下ろして片手で頭を抱えるジャガーに向き直す。彼が頭を上げた時に見たのは、ヒナの信頼や信用に足りるか見極める鋭い視線だった。

 

「まぁマコトさん達にも言ったけど、ボクの幸せとこの小指に誓うよ。アリウスの生徒やスクワッドのみんなを見つけるまでゲヘナの味方、ヒナちゃんの友達でいる事を」

「馴れ馴れしいですよ、ジャガーオーグさん。第一アリウスの自治区へ行く位すぐに出来ないんですか?」

「アコさんだっけ?匂いは辿れるけど多分対策とか警備とか厳重そうだし、無策だとボクが殺される」

「それもそうでしたね……匂いを辿る?文字通りの意味で?」

「そうだよ、嗅覚とか聴覚は獣のそれだからね」

 

ジャガーオーグはヒナに小指を指切りする為に向けながらアコに答えて、彼女は返答に呆気にとられた。

 

「キキキッ、風紀委員会の犬が犬として負けたのが悔しいと見えるぞ?」

「万魔殿からの喧嘩、私が買いましょうか?」

「アコ、やめなさい」

「ヒナ委員長、……はい」

「マコト先輩、話が進まないので余計な事を言わないでくださいよ」

「ふん、イロハよ。ここで奴らが手を出せばジャガーオーグを監視下に置く事は不適格としてこちらが独占できるというもの…?!」

「…マコトさん、そういうのやめよう?契約書ぶち壊すなら先に君を…やっぱりなし。イブキちゃんが悲しむ」

 

話が進まなくなった所にジャガーは殺気を軽く向けた。彼にとっては少し許せないな程度で出した物だが、マコトの動きを止めるには充分すぎる。

 

「で、マコトさんにヒナちゃん。ゲヘナ全体でボクの面倒を見る事を小指を出して誓ってくれる?」

「キ、キキ!ああ、誓う…誓うとも!」

「そうね。でもあなたの手に触れたら危険とアビドスや正義実現委員会が言っていたけど?」

「…信用を失うマネはしないよ。この方が目に見えて分かりやすいし」

 

ジャガーとゲヘナのトップ達は右手の小指を出して最初にマコトと繋げる。

 

「後でイブキちゃんに会っていい?」

「キキッ、いいとも!」

 

続いて半信半疑のヒナの番。アコの文句を言いたげな視線を気にせずヒナと小指を組んだ。

 

「いざって時は力借りていい?」

「仕事の空いている時間になら」

「その時は遠慮なく」

 

マコト以上に強く意識をして約束を取り付ける。ここにアンチアリウス同盟と契約は成立した。

 

「そうだ、マコトさん。欲しい物があるんだけど」

「キキ、何だ?」

 

───

 

「あの子は病み上がりなので大人しくしてくださいよ」

「はいはい、お邪魔しまーす」

 

ジャガーオーグとイロハが入った万魔殿の休憩室、その中でぬいぐるみを抱えたイブキがジャガーを不思議そうに見ていた。

 

「イロハ先輩?この人だれ?」

「ジャガーオーグさん、イブキを助けてくれた方です」

「これで2回目だけどはじめまして、かな」

 

ジャガーは片手に持った膨らんだバッグを置いて目線を合わせる様に姿勢を低くする。

 

「君が助かった後で変な事は無かったかな?」

「変な事?」

「イブキ、声がどうとかって言ってたじゃないですか」

「あ、うん!あのね、ずっと心の中でマコト先輩ががんばれ!って応援してたんだ!」

「へぇ…!それは今でも?」

「怪我が治ったら消えちゃった。おにいちゃんがやってくれたの?」

「ボクの力とマコトさんの協力だね。マコトさんにもお礼を言ってね」

「ありがとう、おにいちゃん!」

 

イブキの中のマコトはマスクで保存されてる訳ではなく、役割を果たして消えたと見える。

 

「ボクは万魔殿と風紀委員会で働く事になったから何かあったら言ってね?」

「よろしくね!ジャガー、オーグ?」

「ジャガーでいいよ」

「うん!ジャガーのおにいちゃん!」

 

花の咲いた様な笑顔で感謝された。今まで自分の幸せの為に使った力で感謝される事があっただろうか。

 

「そうだ、お見舞いのお菓子持ってきたけど食べる?プリンもあるよ」

「食べる!」

「それといっしょにやって欲しい事があるけど」

「?」

 

ジャガーはポケットからスマホを、バッグからは手のひらに乗る四角いケースを取り出した。

 

───

 

皿の上にあるのはいちご大福。苺が露出しているタイプである。その皿の前に置いてあるのは抜き身のコンバットナイフ2本。それを爪の付いた手袋の手と長い袖で隠れた手が掴む。

 

「「せーの、『Fuck you Beatrice!』」」

 

いちご大福にナイフが振り下ろされ、皿の上は無惨な姿になった。

これで動画は終了した。

 

───

 

「これ流行るかな?アリウスにやられた人も多いと思うし」

「知りませんよ、というかそのぐちゃぐちゃの和菓子どうするんですか?」

「ボクが食べる、ナイフは綺麗に洗ったし」

「イロハ先輩、ふぁっきゅーって何?」

「イブキ、それは聞こえるように言ってはいけません」

 

ジャガーは買ったばかりのスマホで動画を上げようとして、イブキは聞き慣れない言葉を聞こうとする。人殺しという劇薬と溺愛するイブキが悪い言葉を覚えた事に、イロハはマコトからの理不尽を受けた時以上に頭を抱えた。




なんかジャガーは殺すことは慣れているけどバカにするのは慣れてない気がする
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