オーグメントと青春   作:鳥鍋

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伝説の超三毛猫さん、コラボありがとうございました
こちらのコラボ編はストーリーの都合上本編ストックを2、3話投稿後に投稿する予定となっております


折り合い

 

「ジャガーオーグ、これは一体どういう事?」

「君の、空崎ヒナちゃんの魂の10%をマスクに移植した。それが君」

 

乳白色の空間で空崎ヒナは一般生徒なら射殺し、多くを威圧する視線をジャガーオーグに向けるが悪びれず答えるさまは馬耳東風と言うべきか。

 

「あんた、アイツを脅しても意味ねぇよ。幸せになる事ばっか考えて恐怖が麻痺してやがる」

「……私に向かって引く事無く戦った今までない相手だ」

「……ミレニアムの美甘ネルにトリニティの剣先ツルギ?まさかあなた達も?!」

「そう。ボクの集めたプラーナ、魂の一部」

「トリニティはともかくミレニアムの生徒まで……」

 

ヒナはアリウスに所属したジャガーオーグの戦闘力、フットワークに驚愕する。エデン条約の二校だけでなくミレニアムにも魔の手を伸ばし、接触した事に。

 

「ネルちゃんに関してはボクのわがままと偶然が重なっただけだからちょっと違うかな。なんか後からミレニアムおつかいに行く子もいるっぽいけど」

「おつかい?ミレニアムの技術や製品を集めている?」

「ウチのシマで探し物してるみてぇだが、捕まったって話を聞かない。堂々と買い物してるか誰もいない場所でゴミ拾いでもしてるんじゃねぇか?」

 

アリウスの未だ理由の見えない厄介な行動にヒナは眉間にシワを寄せる。

 

「大方新しい兵器だか隠し球かを用意してるんじゃないの?ボク以外にも何かあるっぽいし」

「つまりアリウスの戦力はまだ残っている?」

「最悪、それを全部合わせてよく分からない何かしらが出来上がるとか…」

 

最悪人の形を保たない何かを想像して身構える。クモオーグやコウモリオーグなど目でも無い異形か、ファウストでも開発しなかった兵器か。はたまたそれらを混ぜ合わせた化け物か。

 

「それよりも聞いておくべき事がある」

「ん?」

「私達に何をしたいの?」

「力になって欲しい、ある程度の願いは叶えるから」

「魂だけの私達に力は無い。そこに意味はあるの?」

「ある。全員で話をしたいけどいいかな?」

「あたしか?聞いてやるよ」

「……」

 

ジャガーの呼び掛けに二人は集まる。しかしネルはともかくツルギは反応が悪い。

 

「まずはツルギさんとヒナちゃん、ここに来た事に折り合いを着けてる?」

「折り合い?」

「君達は元の剣先ツルギや空崎ヒナとは違う存在。元の体に戻す事もできるけどその後どうなるかは知らない。今の意識が消えて無くなるか、合わさり溶けるか…」

「……」

「だから消されたくなければ従え、とでも言うの?」

「別にそういう事じゃなくて、暇にならないかなって。好きな物はある?」

「それは……」

 

ヒナは責任感が強いが面倒くさがりで、趣味らしい趣味はせいぜい睡眠と休憩程度。そして風紀委員長の立場を失ったただの分身に遂行すべき業務は無い。

 

「……私は……」

「やる事が思い付かないなら書類でも殴り合いでも口出ししていいよ、なんならこき使うつもりで」

「……」

「…君の本音から先生の気配がする。寄り掛かる大樹が欲しいならボク達がいるよ?ボクから先生に会うのもいいかもしれない」

「……あなたは最終的にどうするの?」

「あのいちご大福、ベアトリーチェに辞表を書く!それで幸せを掴む!君の幸せは?」

「私も……先生に構ってほしい、褒められたい」

「うん…全部終わったら会いに行こう」

 

ジャガーオーグはヒナの幸せに穏やかに答えた。歪んでたり悪意が無い限り幸せは尊重したいと思っている。その思想も全員に伝播して、プラーナ達も表情を変える。

 

「あんたがアリウス共を見逃したのはどうなんだ?」

「復讐はボクも通った道だしね…勝っても栄光どころか全部敵になるから遠回しな自爆?道連れ?」

 

ネルの指摘に頭を抱えながら生徒会長を名乗る化け物へ愚痴を溢す。

 

「何だよサオリさん達の事全く考えてないじゃん…鉄砲玉にすらなってないよ…。こんなののどこに崇高だか幸せがあるんだよ、Fuck you Beatrice!あの茹でダコ頭!!」

「……敵でも不憫だな」

「ツルギさん…ベアトリーチェの生首か断末魔でアリウスを赦したり出来るかな?」

「ティーパーティーとシスターフッドの判断次第。政治的問題が簡単に片付くと思わない」

 

ハスミでもそこまで言わないと言動に引きながら冷静な受け答えをする。高慢な相手の命乞いも割と情けなかった。その時は…。

 

「やめろ」

 

残虐な思考が届く前にツルギが力強く一言で止める。その表情に多少不快感が見えた。

 

「ごめん、もっと幸せな事を考えた方が建設的だった」

「今のが……彼の本性?」

「らしいな。キヴォトスの外の人殺し。幸せって言いながら余計な事した大バカ野郎だ」

 

長く見ていたネルは慣れていたが、ヒナはその過去に驚異した。外の人間は身体が脆いとはいえ多くを苦しめた上で殺し、屍を積み上げた存在などキヴォトスでも前代未聞。

 

「殺しには飽きた。ボクがそんな事をしなくていい様に君達がいる。もしもの時は頼んでいいかな?」

「ぶっ殺してでも止めてやんよ」

「きぇへへへ……」

「はぁ……仕方ない。銃は無いけどなんとかする」

 

ここにいるのはキヴォトス指折りの実力者、ジャガーオーグはその力に信用を置き、彼女らは獰猛にもしくは気だるく応える。

 

「今更だけど念じても出ない?ほら、服とかマスクも持ち込めるなら」

「そういや試した事ねぇな」

 

ネルが手で何かを掴む形にする。透明な何かを握った両手の中に光が生まれると龍の紋様の刻まれたサブマシンガンが現れ、急な重さに驚きながらも姿勢を持ち直す。

 

「うおっ?!っし、あたしのだ!」

「マジか…。これで撃ち殺されたら魂が死ぬとか?」

「へぇ?じゃあやってみるか?」

「勘弁して…消えろ!」

 

ジャガーの合図でサブマシンガンは光に戻り虚空に消えた。

 

「これなら…行けるか?」

「今まで以上にあんたとやり合える…だけじゃねぇみたいだ」

「まぁ分かるよね…君達は切り札、いいね?」

「……そうね。ここでも戦うなんて面倒だけれど」

「……けひっ!壊してやる……」

 

最強達はプラーナとして感じた意思で新たな戦いを予見した。敵はただ一つ、全ての元凶。自分達はそれまでここで待ち続ける。

 

「じゃあこれからよろしく。あ、最後に一つ」

「あん?」

「ツルギさんの本音と幸せ聞いてない」

「……」

 

ツルギは顔色を赤く変えて目線を反らす。気恥ずかしそうに、まるで隠していた何かしらのコレクションが見つかった時みたいに。

 

「ツルギさん、好きな物は?」

「え……映画と小説」

「…恋愛の?」

「……ぎゃあああああああああ!?」

 

逃げた。距離も場所もマスクの中では関係ないが自分達から離れる様に走って遠くへ逃げる。

 

「しばらく口聞いてくれるかな?」

「知るかよ。口に出すからああなったんだろ」

「言わなくても伝わっちゃうからな…」

「魂同士とはそういう事ね。この技術、大人の手に渡ったら……」

 

思ってしまったなら善悪問わず伝わってしまう。故に互いの本質が分かりやすいがプライバシーなど欠片も無い。

 

「ツルギさん、恥ずかしくないよ。ボクも漫画みたいな恋をしたから、聞きたきゃ戻って来て」

「聞こえてんのかそれ?」

「この場所に距離も音の大きさも無いよ。好きな映画でも本でも買ってあげるから?…ふあぁ、おやすみ」

「おい、マスク……」

 

あくびと共に横になり、世界が暗くなる。そのままジャガーは意識を手放し夢の中に沈むのだった。

 

───

 

『お気に入りは見つかった?』

『…あった、これ』

『なるほど、貸して?…すごく似合ってる』

『そう?よかった』

『流行はよく知らないから付いていくって大変だよね』

『話題にはなるけど、無駄遣いはしないわ』

『そう言われると最近何に使ったっけ…』

『スポーツ用品か外食代、資格の本くらいでしょ?』

『…もっと趣味増やしたいな。二人で出来る事とか』

『無理に私と一緒じゃなくていいの』

『そっか…。ボクが持とうか?』

『いいえ。私が買うから』

『店から出る時は任せて、お嬢様』

『…そうね。お願い』

 

───

 

「おはようネルちゃん、マスクに枕は合わなくて首が痛い」

≪おい、ツルギの奴すっげぇにやけてんぞ≫

≪あれが、あなたの青春?≫

≪けひひ……≫




マスクの中の人格達は基本嘘や隠し事が無い
それらが無い分キャラを書きやすいのかも?
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