本作品においてはスバルやプレアデス性団などの行動を独自展開で進める事をご了承ください
第1話:発狂!殺人ハサミジャガー
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「ふ~んふふんふんふんふんふ~」
ファー付きのジャケットに一目見て獰猛さを感じる顔付き、もといマスクのジャガーオーグは上機嫌だった。ロンドン橋の鼻歌を唱えながらトリニティ近くの仕事終わりの帰り道を気まぐれに歩き何をするか考えていた。
≪あっさり終わってつまんねぇな≫
≪……ゲヘナの不良はいつも懲りないな≫
≪ジャガーオーグ、まだ『私』の仕事が終わってないと思うんだけど≫
「まぁまぁ、許可はもらったし散歩しようか…ん?」
独り言にしか見えない受け答えをしていると何やら人だかりを見つけた。遠くから見れば列で並び、何かを買っている。
「トリニティ総合学園プレアデス性団同人誌販売会場?」
≪プレアデス性団……はっ!きぃやあああああ!?≫
マスクの中のツルギが何かを察して叫んだと思えば急にだんまりを決めて何も聞けなくなった。最強の一角がこうなったなら嫌な予感がする。
≪トリニティの1年生、間島スバルの部活。漫画を描いて売っている、あそこにいる翼が一枚の生徒よ≫
「へぇ…そっか」
所持金はそれなりにある。ツルギの事は気になるが覗くだけなら構わないだろう。歩きながら幾つかの長机に置かれた本を眺めるとどれも見目の整った少女、女性の肌色の多い表紙が見える。
「これって…」
≪スバルの本のテーマは……≫
≪エロ本じゃねぇか≫
もしも持ち帰りゲヘナの誰かに見られたら何と言われるやら。しかし冷やかしだけで帰るのはマナーが悪いだろう。なので件の間島スバルに声を掛ける。
「ねぇ、そこの君。初めてこういう所に来たけど何か買わないとダメかな?」
「何かを買ってくれると嬉しいな!あんたはどんなのが読みたい?」
「んー、職場の人に見られても問題無い物?」
「職場?そんな所に持ってイクのか?」
「…今ゲヘナ学園で雇われているんだ。誰か部屋に入ったらね」
「ほぉ……。ならこれとかいいんじゃないか?」
スバルがジャガーに見せたのはメイドマユキー、おそらくペンネームとメイド服の女性が描かれた本。慎重に受け取って軽く流し読みすると露骨な素肌の描写が無い。
「なるほど…トリニティの本はこんな感じか」
思ったよりも健全だった。これなら深く追及されず楽しめるだろう。そう考えて次に適当な本を手に取り読んでみた。
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自分が後悔しているのは力が無かった為に『彼女』を奪われ、穢された事。故に復讐を求め、果たしたが殺し尽くしたはずの奴らへの殺意が、無惨な姿の彼女が頭から離れない。それを思い出した時に、マスクの獣がささやいた。『殺せ、何より無惨に殺せ』。
───
「…う、がああああああああ!!」
間島スバルは突然大声を上げた客に驚いた。猫と呼ぶには猛獣めいた顔なのはともかく、狂った様子で腕から突き出た刃物を使い本をズタズタに切り裂くのはまともではない。その行動を見たプレアデス性団の部員や即売会の客達は恐れて逃げるか彼に向けて銃を構えた。
「これを…これを描いたのは…誰?」
「おい、どうする気だ?」
返事は右腕の刃、それをスバルに振り下ろし叩き切ろうとしてその腕を掴んで止められた。
「それが返事か……!『擬・TEXAS SMASH』!!」
猛獣顔の客は一撃をモロに喰らい広い道路に吹き飛ばされる。しかし受け身を取ったのか新体操選手顔負けの着地で体勢を立て直した。
「『剃』!」
スバルは高速で追撃を仕掛けるが、見聞色の覇気による感知で咄嗟に右に、左に、両腕の刃をスピードの中避け続ける。刃物を持った猛獣はスバルと同じ速さ、キヴォトスで自分や
「それがどうした!『擬・破壊殺・乱式』!!」
狂った猛獣は攻撃に夢中で拳打を防ぐ術は無い。数十回もの連撃を喰らい、最後の一発を受け止めた時には操り人形のマリオネットが切れた様に膝を地面に着けて動きを止めた。
「何で…なんで…あの子は…僕の幸せは…」
「急に止まったな?『剃』に着いてきた速さは大したモンだけどよ」
「部長、これ」
「これは……誘拐輪○陵辱モノか。刺激が強すぎるどころか地雷踏んじまったのか」
「ナギサさんみたいに死ぬんじゃなくて暴走するのは初めて見た。この人も紅茶漬けにする?」
「けどよトウカ、こいつの思い出の品ってなんだ?ユマの本でも使うのか?」
「…ミ…トハサ…」
「今なんて言った?」
「いや、俺じゃない。こいつがなんか言っている」
スバルは猛獣の口元に耳を近付け、他の部員も恐る恐る銃を構えながら彼を囲んだ。
「カットハサミ?ハサミ……これか!」
風車のはまった既視感のあるベルトの右の帯にぶら下げたホルダーにカットハサミと櫛が入っている。ティーパーティーのナギサの分派程では無いがプレアデス性団の行動は速い。棺桶、紅茶、砂糖を揃えてスバルが紅茶を口を開けさせてぶっ込む。
「口開けろ……んお?」
「どうしたの部長?」
「いや……何でもない」
───
「…ん?」
「気付いたか、ジャガーさんよ」
「…名乗ったっけ?」
「正義実現委員会でお前は警戒対象だった。ツルギ先輩と戦ったお前がゲヘナに雇われたとはな」
気が付けば箱の中で寝かされていて、青髪の正義実現委員に詰め寄られていた。エデン条約の事がある以上彼女らには恨まれて当然だ。
「落ち着けクオン、うっかり地雷を見てああなったんだろ。俺もお前も通った道じゃないか」
「スバル……」
「えっと…ボクは何をした?」
「突然暴れてあの本をボロボロにした事と客が逃げた以外は被害はないな」
「そっか…本の弁償させてくれるかな、あとさっきのメイドの本とか他にも色々買わせて?」
「いいぞ、ゲヘナだったら見られる事くらい気にしなくていいだろ。好みを言ってみな」
「…年下の幼なじみ?」
お詫びとして紙袋にジャガーが詰めた本はきのこ山青子、青ノ龍、ラダーパック、メイドマユキー、そしてプリンスメロンの艶やかだが地雷を踏みにくいだろう幾つかの本。表情は分かりにくいが申し訳なく抱えていた。
「ありがとう、それとごめんなさい。ヒナちゃんになんて説明するか難しいよ」
「ヒナちゃん?風紀委員長の?」
「知り合い?」
「俺モモトーク持ってるぜ」
「ヒナちゃんに説明手伝ってくれる、えっと…」
「間島スバルだ」
「知ってると思うけどジャガー、今はゲヘナの雇われ、もしくは食客」
───
≪あんた、あんな思いしたんだな。シャクだがあの間島スバルって奴がいなけりゃ止められなかった≫
≪ネルちゃん…でも戦いの途中で止めてくれたんだよね、ありがとう。君達がいてよかった≫
≪間島スバル、奴には私でも正面からの勝負で勝てなかった…トリニティの部活委員会からメンバーを集めたプレアデス性団の部長でもある。私の後輩やティーパーティーの最強格もその一員だ≫
≪アリウスじゃ分からなかったよツルギさん。ところで…この本、元のヒナちゃんになんて説明する?ヒナちゃん?≫
≪……間島スバルの名前を出したら理解すると思う、多分≫
≪証拠にモモトークももらったし…どこに置こうか?≫
≪いやあたしらに聞くなよ≫
─完─
第2話:美容院の雑誌は無駄に種類が多い
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トリニティのある一角、そこに店を構えるのは『Salon de miroir』。落ち着いた店内に鏡と施術用の黒レザー張りの椅子、ハサミや櫛などの道具は正に美容院そのものである。その中で従業員の一人は横長の箒で床のホコリを片付けていた。始めて2分程か、自動ドアが開いたのに気付いて箒を置いて接客を始める。
「いらっしゃいませ。本日はどのように…スバル?」
「邪魔するぜー、ってあんたか」
マスクに動きやすい服装のジャガーオーグは金髪に黒メッシュ、紫の片翼のトリニティの生徒、間島スバルが来店した事に多少驚いた。
「まあトリニティの子はよく来るからおかしくないか。どのようにいたしますか?」
「いいや、そうじゃなくてカットモデルだけ見てみたいんだが」
「カットモデル?」
「髪の毛の表現とか髪型の資料に見たいんだよ。イケるか?」
「ちょっと待って…店長、ちょっといいですかー」
売上や備品の料金の計算をしているヒツジの店長の方に歩いて確認する。一応トリニティの生徒だから大人しくしていれば店長からもとやかく言われないだろう。
「聞いてきた…よ…」
「ママ!こんな所で会えるとは思わなかったです!」
「ちょっ!ヒヨリ!ここ店の中!」
「久しぶり、ヒヨリちゃん。君もカットかシャンプーに来たのかな?」
スバルにくっついているのは元アリウススクワッドの槌永ヒヨリ、かつてベアトリーチェに反逆し打ち倒した者達の一人である。その過程でヒヨリはスバルの娘となったのはジャガーやプラーナ達も困惑した。
「いえ、ママに会えたのもとても幸運ですがジャガーオーグさんがいると聞いてここに来ました!」
「?」
「今お金が足りなくて苦しいんです!ここで働かせてください!」
「…スバル、許可はもらったから邪魔にならない様に描いてね。店長に掛け合ってバイトさせてみるよ」
「おう、娘をよろしくな」
───
「キキキッ!ここがトリニティで評判の美容院か!このマコト様にとって悪くないな」
「いらっしゃいませ、マコトさん久しぶり」
ヒヨリに掃除のやり方を教えていたら頭を大きな帽子で隠した客が来店した。ゲヘナの学生が来店する事もたまにあるが知り合い、しかも学園のトップが来るとは。
「本日はどのように?」
「偶然美食研究会の爆発に巻き込まれてな、この髪を戻してくれるか?」
「……ぶふっ!」
「おい、このマコト様を笑うなこのトリニティ!……貴様間島スバルか!」
「縮毛矯正はこの料金となります。それとトリニティとゲヘナの争いは御法度だよ、いいね?」
「……ここはお前に従おう」
「……あ、あぁ。そうだな」
マコトは施術椅子に権力者よろしく座り適当な雑誌を手に取った。
「じゃあヘアアイロンを…用意…しました…」
必要な器具を両手から落としてしまった。駆動音に注目すれば自分がマコトの髪に触れるどころかヒヨリが分厚い所から元の薄さにするべくバリカンでガリガリ削っている。
「待った待った!!何してんの?!」
「ジャガーオーグさん……ゲヘナの生徒会長の髪の毛はもうダメなんです……。なんかよく分からない道具や薬品を使っても元に戻すのは苦しいんですから、いっそ綺麗にリセット……」
「サービス業だから客の要望聞いて!任務を聞かないで敵が撃てるかっての!」
全体が削れると言うより部分で厚さが変わる様子はむしろ虎刈りか?これが他に知られたらどうなるやら。
「いや~、随分大変になってんじゃないの」
「スバル、カットモデルは?」
「7、8割は終わった。で、マコトだっけ?ゲヘナの生徒会長の」
「一応なんとかするから余計な口出しはいらないよ。だから戻って…」
「キキキ、手が止まっているが終わっ……キッ?!」
咄嗟にプラーナを安全な気絶量吸った。
「……こいつ大丈夫?」
「…知らない。がんばる」
「片言かよ」
「とにかくボクの力を使う。だから…」
突然自動ドアが開いた。空気を読めと言いたいが店商売なら仕方ない。
「…大人しくして」
「それは
「…いらっしゃいませ、ナギサさん。本日はどのようにいたしますか?」
「あら……ジャガーオーグさんですか」
「予約は無い様ですがスタッフの指名はいかがしますか」
「では、ヒツジ店長さんに」
「かしこまりました」
バックヤードに下がって行く、前にマコトに適当にカラー染めのヘアキャップを被せる。しかし角が内側から突き破った。その上にタオルを巻いてターバンにするが、角が邪魔で思う様に行かない。雑にしてバックヤードに向かった。
「…
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「ん……はっ?!」
マコトは目覚めると霞んだ目で鏡を見る。先程機械音が聞こえたがなんだったのか確認すると、そこに映っていたのは灰色のストレートヘアー。心なしか美食研究会に店ごと爆破される前よりも髪質や輝きが良くなっている。
「キキキキ!!素晴らしいぞジャガーオーグ、わざわざトリニティまで来た甲斐があった!」
「それは良かった…あと他の客がいるから声抑えて」
ふぅ、と息を吐きながら箒を持ったジャガーは疲れた声色でたしなめる。
「おっと、すまないな…」
隣の背もたれを横に倒された椅子の上で手術灯に照らされたベージュ色の大きめなメンダコにマコトは謝る。気にしないでと言いたげに「みー」と返したので椅子を立った。
「お会計はこちらで。コートと銃もお返しします…ふぅ」
「ジャガーオーグ、疲れているのか?このマコト様の髪を扱うのに余程緊張したと見える」
「まぁね、学園問わずサービス致しますのでまたのお越しを。あとシャーレの生徒は1割引きにできるよう申請中です」
「また頼むぞ、キキッ!」
マコトはコートを受け取ってドアを出た。直後に振り返ってジャガーに近づいた。
「いや待て、なんだあの変な生き物と照明は!美容院にあるまじき物が多すぎるぞ!」
「トリニティのお客様の予約席です」
「いや」
「予約席です」
「あの生き物は」
「予約席です」
「……お、おう。また来るぞジャガーオーグ」
「イブキちゃんにもよろしく」
今度こそ店を出て、駐車してある高そうな車で離れて行った。
「はぁ…もういいよスバルにヒヨリちゃん」
「いや~、ごり押しでナギサを誤魔化せるモンなんだなって」
「エデン条約の惨劇がこの店で起きなくて……、ママも私も苦しい思いをしなくて良かったです……」
バックヤードからスケッチブックを持ったスバルと何かに備えてスナイパーライフルを抱えて震えていたヒヨリが出てきた。
「スバル…、何をどうしたらナギサさんを殺すどころか原型すら変えるんだよ…?魂すらガッタガタだよこれ」
「ナニって俺とヒヨリを見てイヤミを言ってきたからヒフミの声で嘘泣きしただけだよ」
「…ところで髪の毛どこなの?ティーパーティーに店潰されないかって店長と店の先輩方泡吹いてぶっ倒れたけど」
「平気平気、店じゃなくて客同士のトラブルだし紅茶と砂糖……は美容院に置いてないとしてどうせこいつ何時間かで元に戻るだろ」
スバルの悪びれない答えにジャガーはメンダコのナギサに触れながら頭を抱えた。「みー」の一言に心配と不満が含まれていた気がする。
「正義実現…は面倒だとしてシャーレの先生呼んじゃうよ?あと魂の形を覚えた、君もメンダコになる?」
「ヒヨリ、帰るぞ。無為転変は俺でも不味い」
「はい、ママ!ジャガーオーグさん、今日は終わったのでバイト代ください」
「ダメ!閉店まで仕事して!店長に説得するし怒らないから!あとスバル、先生には今日の事言うから!」
「うわぁぁん!トリニティとゲヘナに挟まれて大変な仕事はもう嫌ですよぉぉ!!私もメンダコにしないでくださぁぁい!!」
「ここからは店の話だから首突っ込まない、いいね?」
「やめろショッカー!ぶっとばすぞ!」
「いいね?」
「アッハイ」
ジャガーオーグは多少手に力を込めてヒヨリの肩を掴む。腕力だけならスクワッドよりも上、ヒヨリはじたばたしながら引きずられた。
結局この惨状でマコトに使ったプラーナ治療は人数上断念、常連客の救護騎士団の部員に連絡したらその一人は紅茶をぶっ込むと提案して、聞けばプレアデス性団の部員でスバルとニアミスした事、少し無理を言って店長の代わりにナギサのヘアケアで腕前を認められたのは別の話。ゲヘナを敵に回しかけたヒヨリは募集通りのバイト代と30分の説教を受けたとか。
─完─
第3話:HENTAIの幸福
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トリニティのどこかにある建物、その様子を表すのにふさわしい言葉はまさに地獄絵図。ヘルメットの生徒達が床に伏せその全員がうめき声、時々叫び声を上げている。その部屋の壁にはそのヘルメットの一人がジャガーの復讐者に頚を掴まれながら押し付けられていた。
「痛い?苦しい?」
「……痛てぇよ、も、もう、やめ……がっ!」
ジャガーの左手の刃はみぞおちをノコギリよろしく押し付けている。切り傷はともかく刺し傷に発展しないが痛みはそれなりらしい。
「魂にウイルスは入れたから蛇足か…。次は指行っとく?人差し指とか」
「いやだ、がああぁぁ!?」
「それがあの子の受けた魂の痛み、いや、あの子がお前らから受けた苦しみはそれ以上。次は指も…」
「おい待て」
右手の中で痛みに暴れるヘルメットの指を狙った左の刃は別の手に掴まれ止められた。
「…スバル、何してるの?」
「んなもんこっちのセリフだ。コイツらに何してたんだ」
「休日の小遣い稼ぎの指名手配狩り。
「散歩中にツルギ先輩やクオンのパトロールに混じってたらやたら叫びが聞こえたから俺とクオンが様子見に来たって訳だ」
「……全員切り傷があるが息はある。人質にされた生徒も無事だ。震えている以外はな」
スバルと正義実現委員の一人に現場を抑えられて、ジャガーオーグはヘルメットの頚を掴んだ右手を離す。相手の身体が右横に倒れホコリが舞い上がった。
「後でお小遣いくれる?」
「この状況で正義実現委員会が『ご協力感謝します』と言えると思うか」
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「もらえた、良かった」
「やり過ぎだろ。セリナやミネ団長がめちゃくちゃ悩んでんぞ」
表情が見えないがスッキリした顔のジャガーとしかめ面のスバルはとある公園のブランコに座っていた。上機嫌の前者は軽く前後し、後者は隣の猛獣を見つめて動かない。
「君も全治2週間のダメージを与えたらしいけど?美容院で救護の子が言ってた」
「天舞宝輪か?お前みたいに必要以上に苦しめはしねぇよ。ベアおばにやれ」
「もうやった。あの叫びは心地よかった。本当に魂からの叫び、君も聞いてたでしょ?」
「他の奴に対して拷問すぎるわ!ブルックでもああはならねぇよ!」
「だって当然だよ、あんな事したから」
当然の様に話した後、ブランコを漕ぎ続ける。キコキコと鎖の留め具の音が昼下がりの公園に響いた。
「なぁジャガー、お前なんであそこまでやったんだ?身代金誘拐になんか恨みでもあんのか?」
「スバル、前に好きな女のタイプの話したよね?」
「おう。幼なじみのお嬢様っつったな」
「あと即売会で地雷?を見て暴れた事も」
「輪○陵辱本な、次は注意書きするから二度は起こらないはずだ。……まさかお前、その幼なじみ……」
ザリ、と砂の音の響く代わりにブランコの音が消えた。5秒経った辺りでジャガーオーグは口を開いた。
「昔話、聞きたい?」
「言いたきゃそうしてくれ」
「じゃあ…むかしある所に高級レストラン経営者の娘と経営者の側近の息子がいました。二人は兄と妹の様に共に暮らし、街や公園で共に遊び、共にテーブルマナーや習い事などを学んでいました」
「へぇ、お坊ちゃんだったのな」
「…しかしある日の事、夜道を二人で歩いていた時に息子は後ろから殴られて、娘は目の前で男達にさらわれてしまいます」
「……」
「…」
ジャガーオーグの手元から金属が軋む音が響く。ブランコの鎖を握る力が強くなっているからだ。
「……それで息子は娘に会えたのか?」
「…警察の必死の捜査の末、見つかったのは無惨な姿の娘の亡骸でした。その犯人も未成年ばかりで罪は軽く大した罪になりませんでした」
「……鎖ちぎれるぞ」
ギチギチという鎖の悲鳴に気付いたのはスバルに指摘された時だった。オーグメントの全力なら公共物を破壊して賞金が吹き飛んだ所だろう。
「……その息子は悲しみ、怒り狂い、虚無に飲み込まれました。家の力で男達を見つけ、報いを与える直前、幸せの使者が訪れました」
「幸せ?ショッカーって奴か?」
「その科学力と組織力によって息子は力を得て、家はスポンサーとなり、思い付く限りの苦痛を与え男を殺し尽くし、男達を命令した経営者の親戚で家を妬んだどこぞの企業のカスも、残酷に、凄惨に、最初から最後まで工夫を凝らして殺しました。そうして息子は獣となり、今ではキヴォトスで幸せを求めています、とさ」
キヴォトス中の悪人どころかゲマトリアに聞いて回ってもこれを超える壮絶な昔話は無い。アリウススクワッドすら犯せなかった正真正銘の殺人だ。
「大事な相手がそんな死に方したら復讐するってのはわからんでもないけどよ……幻影旅団絶対殺すクラピカみてーな」
「何それ?部分部分はアリウスでも話したけど、あの本で過去を思い出したって話したのは君が初めてだよ、スバル」
「そうかよ。よく俺に言おうと思ったな」
「ベアトリーチェを殺した仲間だし?なんと言うか、君なら先生より大丈夫な気がする。悪い大人なボクが言うのもあれだけど」
「悪いの意味が違うっての、もっとずる賢く利益掠めとるか搾取するぞあいつら」
「そういう意味じゃ大人にすらなってないただの猛獣だねボクは」
ジャガーは再びブランコを漕いだ。しかし鎖から不安定な音がする。
「ねえスバル、ボクも聞いていい?」
「おう、何だ?」
「君の幸せって何かな」
ブランコの音をBGMにスバルは考える。何回か前後して答えが纏まったのか口を開く。
「俺の幸せはこのキヴォトスで平和にエロ本を描き、読むこと、そしてそれらを広めていく事だな」
「そっか、あの地雷以外は頑張って。それとボクの幸せも言っていい?」
「いいぞ、何だ?」
「…ボクはあの子がいた過去が一番幸せだった。今でも楽しくて幸せな事もあるけれど、あの子がいた時には敵わない。だから…」
「だから?」
「SHOCKERの技術で肉体と魂を造り直す。過去を、あの子を今度こそ取り戻す」
「いやいやいや、いくらショッカーでも……」
ジャガーの多少斜め上な計画にスバルはツッコむ。不可能では無さそうだがSHOCKERで行う時点で胡散臭い。
「産まれるのは元の彼女じゃないとか今の自分を受け入れられるかとかの指摘は聞かないよ」
「いやその辺自覚あんのかよ」
「あるよ。だけど…もう一度、もう一度あの子を抱きしめる事ができる様になったら、ボクは『ジャガーオーグ』を辞めて幸せな時間を取り戻す。それが一番の幸せで願いかな」
「……あえて聞くけどよ、今まで殺した奴らは覚えているのか?」
ブランコの音がまた止まった。10秒程でスバルの方を見て口を開く。
「名前と顔は思い出しても辛くなるから忘れた。どう殺したかで思い出せるけど」
そう言ってブランコから立ち上がり、公園の出入口に5歩歩く。
「河岸を変えようか。昼ごはん奢ってあげるから」
「この流れでかよ?」
「指名手配犯のうめき声で奢られるのは嫌だった?」
「いや言い方!……まぁゴチになるぜ」
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「柴関ラーメン、なかなかいいね」
「トリニティからひとっ飛び、さすがサイクロン号だな」
「量産型だけどね」
「にしてもお前、意外と食べる時の姿勢いいんだな」
「テーブルマナーは叩き込まれたから」
「マスクは着けたままだが、口開くのな。紅茶ぶっ込んだ時も見たけどな」
「動物の人達の前でマスクごと外したら驚くでしょ?」
「先生の事もあるからあんたが思ってる程じゃないわよ」
「セリカちゃんだっけ?久しぶり」
「あんたとはここで会いたくなかったわよ…」
「エデン条約では大変ご迷惑お掛けしました。トリニティでシャーレ部員1割引きの美容院で働いてるからよろしく」
「いちっ!?誰が行くかっての!」
「頭ごなしの否定は幸せが逃げるよ?」
「誰のせいだと思ってるのよ?!」
「行ってみろよセリカ、ティーパーティーのナギサが綺麗になって、先生に褒められたってよ」
「スバル……まぁあんたが言うなら行かない事もないわね」
「信用無いなボク…Fuck you Beatrice」
「ベアおば関係ねーだろ、いやあるのか」
後書き
第1話…プレアデス性団とのファーストコンタクト、急に誰かが暴れてそれを止めるのはキヴォトスらしいかも
性団メンバーは初心者向けの構成のはずだけどゲヘナ学園のメンバーが何を言うかは想像できない
第2話…銀魂床屋回をイメージしながら書きました
ヒヨリとナギサはコラボしたからこその行動ができたけどスバルそのものを活かしきれなかったのは反省点
ギャグ小説に必要なのは勢いか雰囲気?漫才やコントみたいな構成?
第3話…ジャガーオーグ、彼にも許せない事があってSHOCKERのオーグメントたる由縁や歪みでもある
シン・ウルトラマンみたいに周りの物で感情を表現できたでしょうか?なお割り勘ではないし私の好きな言葉も言ってはいない
最後に伝説の超三毛猫さん、コラボありがとうございました
これからも創作活動に励みたいと思います