オーグメントと青春   作:鳥鍋

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昭和の定番修行シーン、ダイジェストにはなってるはず


特訓風景

 

昼間の訓練場のグラウンド、ジャガーオーグは電子機器の取り付けられた箱を胸に押し当てる。手の中で高熱と衝撃が弾けて、思わず後ずさってしまった。

 

「いてて…4、5発喰らったら死ぬかも」

「いきなり大丈夫?爆弾はまだあるけど?」

「まあなんとか。ところでムツキ師匠、君の仲間に爆弾を投げられたらどうする?」

「アルちゃん達も分かっているならまともに当たらないけど、ハルカちゃんがちょ~っと心配かな?だからハルカちゃんを狙っている人がいそうな所を一発ド~ン!って吹き飛ばしちゃう!」

「危険な敵を先に倒す、それがベストだね」

「くふふ、そういうこと!」

 

ジャガーはホルスターからサブマシンガンを引き抜き、手の中でナイフを回す。

 

「じゃあ適当に投げてくれる?避けるか打ち落とすから」

「へー、ほんとにいいの?」

「行けるよ」

 

ジャガーの返事にムツキはニヤリと笑みを浮かべ横長のバッグを持ち上げる。

 

「じゃあすぐギブアップしないでね!」

「もちろん!」

 

バッグから何種類かの爆弾を取り出し、宙を舞い地面を転がる。パイナップルや箱型、それらからステップで距離を取り銃を向け爆風を浴びながらジャガーオーグはその中の1個をナイフでテニスよろしく弾き返す。

 

「えい!」

 

弾かれたそれを小さな足で蹴り上げ、頭上高くで小さく爆発した。

 

「これで終わり?」

「くっふふ~、まだまだ!」

 

───

 

「あの、ジャ……ジャガーさん」

「どうしたハルカ師匠、いやハルカちゃんがよかった?」

「違います違います!師匠なんて呼ばせるのは私が烏滸がましいです!そ、そうじゃなくてショットガン2丁を扱えるのか疑問なだけで……口出ししてすみません死んだ方がよろしいでしょうか?」

 

ジャガーオーグは先日と同様に正義実現委員会会長に似せた得物を多少猫背に構えていたが、ハルカの一言に冷えきった様に沈黙した。

 

「うぐっ?!」

 

ハルカが突然黙った彼に気付かないまま自分に銃口を向けていたが、不意に首筋に感じた圧力から両手を動かし己を撃つ事は無かった。

 

「それならその首ねじ切って、アルちゃんに見せつけたらどんな顔するかな?」

「かはっ、かっ……」

 

ジャガーオーグの左手がハルカの首を掴みキリキリとその力を強め持ち上げる。圧迫感と息苦しさの中で意識とヘイローが消えそうになる中で聞こえたのは彼の声と含み笑いだった。

 

「死んでもいいって言ったね?君の体をアルちゃんの前で切り刻んだらどんな顔するかな?その次はアルちゃんを切り刻もう、君を見せれば簡単に殺せるはずだね、ハハハ」

「……しません」

「!」

 

突如ハルカの右手がジャガーに向き、震えながらも引き金を引いた。咄嗟に左手を離し身体を反らすが数発を喰らい、痛みを耐えながらもう一丁のショットガンをホルスターから抜いてハルカに撃ち放つ。

 

「かぁはははははは!」

「許しません!死んで下さい死んで下さい死んで下さい!」

 

片や狂喜するかの様に強烈な一撃を、片や無我夢中で障害を消し飛ばす連射をぶつけ合う。散弾同士飛び散り辺りを抉り、避けて受け止め、マガジンが切れた頃にはお互いが消耗し肩で息をしていた。

 

「で、どうだった?ボクの動き」

「……なんと言うか、避ける動きと攻撃が噛み合っていないと思います……。それではアル様や私にも勝てないんじゃないでしょうか?」

≪私の肉体とこいつの肉体は違うからな≫

「…やっぱりか。それとごめんね、君は強いよ、雑に殺してアル師匠を絶望させるなんて言うんじゃなかった」

「依頼はきちんと遂行します……ですがアル様に危害を加えるならば依頼者でも許しません。私が死んでもあなたには死んでもらいます」

「肝に銘じる。魂に誓う、でもいいかな?」

≪ハッ、(あたしら)に誓うってか?≫

≪まぁね≫

 

───

 

「で、何してるの?」

「ハッキングの勉強、得意?」

 

ジャガーはゲヘナ食堂の空いた席でパソコンを開きながら「ハッキング入門書」なる本を読み進めていた。少し離れているが、そのページを覗けばカヨコにも理解できる内容の初歩的な技術が記されている。

 

「ミレニアムの生徒ならともかく私はそこまで得意じゃない」

「便利屋ならそこにコネとかある?」

「依頼はこなしたけれど、コネに繋がる程ではないよ」

「そっか…」

 

たどたどしいタイピング音をBGMにカヨコは怪しい依頼人のジャガーを見つめる。名前通り猫と呼ぶには獰猛な顔付き、一般市民と比べてスラリとした体格は気になるが、それ以上に許せない事がある。

 

「ねぇ、あなたがハルカの首を絞めたって本当?」

「そうだよ、それが?」

「なんでそんな事をしたの?」

 

彼女の顔付きは鋭く、並の生徒なら逃げ出す程だ。しかしジャガーはパソコンを見つめたまま答える。

 

「本気のあの子と戦えると思って?死んでもいいとか言ってるならあれくらいしてもいいんでしょ?」

「……それを本気で受け取ったの?」

「…」

 

パソコンから目を離し、カヨコに身体を向ける。マスクに隠れているが表情は真剣なつもりだ。

 

「あの子にこう言ってくれるかな?『大事に思われているなら気軽に死ぬって言うな。じゃないと大事な人の前で無惨に殺す』」

「……それができるかは置いておくとして、ハルカと社長には伝える」

 

カヨコは自分の銃に向けようとした手を元に戻した。言動も行動もそこらの不良共と危険さの桁が違うが、ハルカの一言による反応以外では技術や訓練を少しずつ取り込む様子からして修行には真摯に打ち込んでいる。報酬も期待される以上、依頼を反故にして事を構える理由も無い。

しかし、カヨコの胸の中で何かがざわめいている。一言で言えば『脅威』だろうか。もし彼が得た技術を周囲に暴力として振るったとすれば?それを自分達便利屋68に向けられれば、誰が傷つく?一呼吸置いてその思考を収める。彼は風紀委員会に監視される立場、彼女らに反逆した所で空崎ヒナから無傷で逃れる事はないだろう。それにあの天雨アコも憎悪を抱いた共通の敵、『ベアトリーチェ』とやらがいる限り友軍であるゲヘナを先に片付ける愚行を犯す事は無い。そう結論着けてタイピングを見守る事にした。

 

「そもそもアリウスと戦うのに必要な技術なの?」

「一応ね、正確にはこれの応用かな」

 

───

 

「映画を見るわよ!」

「どうしたの?マシンガン鬼ごっこは疲れた?」

「あれくらい余裕よ、でも休憩にして別の事もやってみないかしら?」

「意外と楽しかったけど、まぁそうしようか」

≪あなただけが楽しんでも仕方ないのだけど≫

 

先程は物陰に隠れるアルを狙撃を避けながらマシンガンで追いかけて、掃射と狙撃の応酬の中で片方は風紀委員会も手を焼く能力の高さに、もう片方は他の社員の修行を乗り越えるスペックに感心していた。

 

「で、何で映画?ただ休むだけでいいのに?」

「あなたの動画を見て思ったの。ベアトリーチェ?が許せないのは伝わったけど映像の工夫とアウトローらしさが足りないわ」

「やっぱりか…」

 

ジャガーオーグの撮影した動画はただベアトリーチェを馬鹿にして無抵抗な食べ物や的を破壊するだけ。インパクトと敵意は感じるものの程度が低く幼稚だ。

 

「その相手にふさわしい一言を言えないなら、せっかく見つけても締まらないわよ」

「まぁ、ただ殺す死ねしか言えないよりはね」

 

人を殺すのに洒落た文句は必要無いが、相手をおちょくるならその文句があれば困らない。

 

「タイトルのチョイスは任せるよ、勉強だからね」

「ふっ、期待して待っていなさい!」

 

そうして数分後、風紀委員会休憩室のテレビで小さな上映会が始まった。アルはクッションに優雅に腰を掛け、ジャガーは無造作にその近くに座る。始まった内容はよくあるスタイル、アクションとアウトローそして恋愛が2時間近く詰め込まれていた。ポップコーンやドリンクは無いがそれを静かに見る二人、甘くて苦い恋模様が終わりスタッフロールが流れる頃にはため息をついてジャガーは立ち上がった。

 

「私の選んだ映画は気に入ったかしら?」

「恋愛模様は良かったと思う、銃撃戦の出来は前の同僚がダメ出しするかもだけど」

「そう?アウトローらしく決まっていたじゃない」

「『魅せる』動きだからかな?絵にはなるけど…物足りないな、でしょ?」

 

ジャガーは意見を求めて映画の観客に声を掛けた。

 

「はい、ヒナ委員長には劣りますが映画としては完成度は高いと思います。いい休憩時間になりました」

 

もう一つクッションを取り出して座っていた火宮チナツを始めとする風紀委員数名がスタッフロールを見送りながら充実した表情をしていた。舞台が盛り上がるたびに休憩室で周りの目に付き、休憩室が小さな映画館になったようだ。

 

「恋愛以外全部ヒナちゃんが上回っているよね…。チナツちゃん、アウトローらしさもヒナちゃんが上?」

「えっと、それは、その……」

「万魔殿に突撃したって話らしいよ、アル師匠?」

「あのタヌキで有名なマコト議長に?!やるじゃない空崎ヒナ!」

「あなたに褒められる事はしてないわ」

 

感心したアルが淡々とした返事に振り返ると気怠げな表情で委員達を見る空崎ヒナ本人が立っていた。

 

「ヒナ委員長!」

「チナツ、前回の訓練の報告書と美食研究会の被害状況のまとめは?」

「一時間程前に終わらせて休憩に移りました」

「そう、他のあなた達は業務を終わらせたの?」

「「あっ!」」

「はぁ……、業務の割り振りを考えようかしら?」

 

ヒナはため息と共にサボタージュ犯をどうするか思案する。その一言にチナツ以外の委員達は顔を青くして震え始めた。

 

「それなら、この子達ちょっと修行に貸してくれない?」

「どういうつもり、ジャガー?」

「いや、マシンガン鬼ごっこを人数多めでやりたいだけ。アル師匠の指揮する鬼から逃げるのも面白そうだし、無茶してもチナツちゃんが治してくれる。どうかな?」

「え、私が?風紀委員を?」

 

勝手に名前を出されたアルを横目にジャガーの提案をヒナは受け取り、思う所があったのか結論を出した。

 

「……訓練として受理したわ、あなた達はレポートとして内容をまとめる事。いいわね?」

「「りょ、了解!」」

 

ヒナが立ち去った残りのメンバーにジャガーオーグは鋭い視線を向ける。アルにはマシンガンを押し付けて、準備運動か腕を交差して伸ばす。

 

「君達、休憩は済んだ?準備運動は平気?楽しませてくれる用意は?」

「次は私が追いかけるターンという訳ねジャガー、まさか風紀委員会が彼一人に負けるなんて無いでしょう?」

「……ジャガーさん、あなたの強さは知っていますがマシンガン鬼ごっこ、でしたか?あなたにはヘイローが無いんですから私の手間がかからない範囲で無茶をしないでください」

「よっぽどの相手じゃないから大丈夫だよチナツちゃん。ヒナちゃん程じゃなくても楽しませてよ?」

 

肉食動物が逃げる側だとあべこべだが、その身体能力の十全な活用で便利屋や風紀委員会とも互角の勝負を楽しみ、レポートには『楽しかった』の一文が何者かに書き足された。

 

───

 

「これが依頼料、お詫び含めて多めにしたよ」

「……確かに受け取ったわ」

 

アルはジャガーから封筒を受け取り、中身をしっかり確認した。

 

「最後に聞いていい?君はアウトローがそんなに好きなの?」

「当然!それが私の生き方よ!」

「…そんなにいい物じゃないと思うけど、幸せならいいんじゃないの?」

「?」

「それと、君は殺したい奴はいる?」

 

彼女はその質問に呆然としたが、毅然と答える。

 

「え?……いいえ、そんな相手いないわ。さすがに人としてそれは踏み外していけないもの」

「そうか…気が変わったらボクに、僕に相談するといいさ」

 

ジャガーオーグは振り返り、そのまま歩き去った。




アル社長からは報酬面ではともかく危険な客として覚えられたかもしれない
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