オーグメントと青春   作:鳥鍋

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ジャガーは刃物を使う事ははだいたい得意


出撃準備

 

とある日の昼下がり、ゲヘナ万魔殿執務室にて机を囲むアンバランスな三人がいた。二人は万魔殿の制服を着た小柄な生徒達、一人はジャガーの食客。それぞれがハサミと紙を手に取って何かを作っていた。

 

「ちょきちょき……できた!くまさん!」

「すごいですね、イブキ」

「えへへ〜」

 

イブキは茶色い紙を丸い熊の形に切り抜いてイロハに自慢気に見せて、イロハは作業をしながら彼女を褒める。

 

「ねぇねぇ、ジャガーのおにいちゃんは何を作ってるの?」

「もう少し…できた!」

「これは……鳥、ですか?緻密に切り取られていますね」

 

ジャガーオーグはカッターで黒い紙から細い物を取り外すと、丸い枠から翼が飛び出すように飛ぶハチドリを描いた線と黒い部分で作られた切り絵が完成した。そのまま額に飾っても恥ずかしくない緻密さである。

 

「トライバル風切り絵、見様見真似だけどそれらしくなったかな?」

「器用な物ですね、ジャガーさん。私は虎を作って見ましたがこれではむしろ猫かもしれませんね」

「んー、お土産屋さんみたいでいいと思うよ?」

 

イロハの切り出した紙は四足でしっかり立つ黄色い虎の形を取っている。頭を押しても上下することは無いが切り絵としては出来がいい。

 

「イロハ先輩のもすごーい!イブキも立ってる切り絵作るよ!」

「ふふっ、慌てなくても紙はここにありますよ」

「はいどうぞ。イロハちゃん、この書類の山使ってもホントに大丈夫?大事な物とか無いよね?」

「どれもマコト先輩が急に考えたどうでもいい事ばかりです。領収書なんかの重要な物なら別に保管してありますよ」

 

ジャガーが手を伸ばした机の中心には存在感を放つ書類の小山と色付きの紙がいくつか重なった物がある。特に彼のスペースにはその書類で練習した跡が広がり、文字の刻まれた鳥や枠の残骸が散らかっている。

 

「あら、またサボりかしらイロハちゃん?マコトちゃんに知られたら面倒くさいわよ?」

「イブキちゃんとジャガーさんのワンシーン、これは万魔殿新聞に掲載しなければ!」

 

横から彼らを見てやってきたのは何かのファイルを持って来たサツキ、イブキを中心に切り紙の写真を撮影するチアキの二人だ。

 

「サツキちゃんとチアキちゃん、これもボクの仕事だよ?それとそのファイルは?」

「マコトちゃんからのプレゼント、後で読むといいわ」

「そっか、ありがとう」

「イブキちゃん、そのくまさん持って!」

 

サツキからファイルを受け取る横でイブキにカメラを向けるチアキ、数回シャッターを切ると机の上の他の作品に気が付いた。

 

「あ、この猫と鳥もすごい!誰がどれを作ったの?」

「こっちの虎さんはイロハ先輩が作って、鳥さんの絵はジャガーのおにいちゃんが作ったの!」

「へぇ、意外と器用なのね」

「刃物の扱いでここまで来たみたいな物だからね」

 

サツキの感心に含みがあるようにジャガーは答える。それに思う所があるのかイロハが視線を向ける。

 

「…イロハちゃん、今ボクは少し幸せだよ。『奴』を除いて無闇に刃を向ける相手はいない」

「それならいいんですがね、マコト先輩やヒナ委員長があなたにやられたら仕事が増えるので本当にやめてくださいよ」

「初めてマコトさんに会った時はヒナちゃんを始末しろって言ってたけどね」

「本気で私が止めたからアンチアリウス同盟にこぎつけたんですよ、言ったでしょ仕事が増えるって。誰が不良達を止めるんですか」

「そっか…」

 

イロハはマコト以上に考えているのだろう。そしてのらりくらりとマコトの無茶振りを避ける為に今日はイブキと過ごしていたが、面倒事そのものの自分がいる事にジャガーは少し申し訳なく感じる。

 

「気負わなくていいわジャガーさん。マコトちゃんの悪巧みもイロハちゃんのサボりもこれがいつも通りだもの」

「そのいつも通りにボクがいても?」

「マコトちゃんの懐はヒナちゃん以外には深いわ」

「…」

 

サツキに疑わしい視線を向けると、どこからか糸を通した5円玉に似た穴の空いたコインを取り出す。

 

「あなたはだんだん、パンデモニウム・ソサエティーの居心地がよくな〜る〜」

「…催眠術は効かないよ」

 

ため息をついたジャガーはコインを掴んで茶番を止めた。

 

「あ、ちょっと!」

「いい事を教えるよ、既に掛かった相手には催眠術は効かないって」

「既に?」

「ずっと幸せを感じるように、って」

「それは素敵な催眠術、なのかしら?」

「じゃなかったらここまで来て無いかもね」

 

遠くを見るように答えるジャガーオーグ、糸を掴みながら黄昏れる姿はどこか締まらない。

 

「ジャガーさんが催眠術に勝利した瞬間!これも激写しないと!」

「このまま?もう戻っていい?」

 

チアキのカメラが彼らに向いた時、飽きたと言わんばかりにコインを手放して机に戻る。

 

「じゃあ続けるかイブキちゃん…ごめん、やっぱり今日はもう終わりで」

「ジャガーのおにいちゃん、どうしたの?」

 

ソファに置いたファイルをチラリと見たジャガーは慌てた様子で机の上を片付け始めた。散らばった紙を捨て、切り絵を作ったボードを遠くに置く。

 

「いや、()()()()()()()()()()ってだけだよ」

「はぁ、仕事が増えますね」

 

───

 

少し暗い時間帯、万魔殿の戦車ガレージ。ジャガーは4本目のナイフを手で回し、ベルトのホルスターに差し込んだ。戦車が並ぶ隣のサイクロン号にはバイク用のボックスが乗せられている。

 

「マコトさん、頼んだ物は?」

「キキッ、用意したぞジャガー」

 

万魔殿の議員から武器などを受け取る。赤と青のカラーリングのサブマシンガン二丁のギミックを動かしてからベルトにぶら下げ、大型のマシンガン一丁の取り回しを確認しベルトを使って背中に掛ける。

 

「アレもちゃんと用意した?」

「もちろんだ、意外な所を気にするのだな」

「ゲヘナ中調べて探したのは私ですがね」

 

ため息をついたイロハが持った何かのブランドの紙袋を手に取り、その中身を首元に巻き付ける。ジャケットと噛み合う様に黒く、胸元より下まで長く垂れ下がるマフラー。

 

「コレでだいたいの準備は完了、最後にイブキちゃんから取って来たら…」

「ジャガーオーグ、本当にやる気か?」

「イブキちゃんの敵討ちだよ?マコトさんも多少は望んでいるでしょ?それに…」

「それに?」

 

マコトに耳打ちでコソコソとその意図を答えた。

 

「キキッ、キキキキ!その通りだジャガー!マコト様の事をよく分かってるじゃないか!」

≪……はぁ≫

「確かに、エデン条約前後での政治問題を考えるならベターではありますがね」

 

ジャガーの意図に笑って納得するマコトに、イロハはその方法も悪くはないと賛同する。

 

「それに、契約の証明にもなるし。戻って来なくてもいいよね?」

「それなら万魔殿だけで雇われるのはどうだ?その時は給料に色を付けない事も無いぞ?」

「じゃあその時はよろしく…時間はもう少し後、手はず通りに」

「キキッ!いいだろう。健闘を祈ってやる」

 

───

 

何処かの赤い部屋、大人達は会合を開き何かを語り合っていた。

 

「ベアトリーチェ、一つお尋ねしたいことが。貴女の元に”ジャガーオーグ”という方がいたはずですが......アレは何なのですか?」

 

異形の黒服の大人がジャガーオーグについて訪ねる。

 

「私があなたにそれを教える義理があると思っているのですか? 大体、アリウスを.......私を裏切った薄汚いケダモノに価値など在りません」

 

ベアトリーチェは複数の目を黒服の大人に冷たく向ける。

 

「ジャガー、と言ったか。古代の神話にも似た名前があっただろうか。もしもかの神の器なのだとしたら、実に興味深い。是非とも詳しく話を聞かせてもらいたいものだ」

 

タキシードに双頭のマネキンの大人はカタカタと首を鳴らし、興味を示す。

 

「水を差すようで恐縮ですが、 私が見た限りアレには余白というものが感じられません。恐らく、既にかの者の記号も解釈も終わってしまっている.......存在が固着し、変化の余地がない存在なのでは?」

「そういうこったぁ!」

 

コートを着た首無しの大人が持つ遺影の様な絵が所感を語り、肯定とも便乗とも取れる合いの手をコートが叫ぶ。

 

「時間の無駄です。彼らが持つ技術は既に私達の技術に取り込み、道具の一つへ適用しました。ゴルゴンダの言う通り、アレはもう何の役割も持たない無価値な存在です」

 

───

 

暗闇の中、風の音と共に二つの赤い光が浮かび上がる。光の元は髑髏にも似た顔から漏れ出て、歪な人型のソレは何かを待つ様にただ前を見ている。その周囲にソレに似たマスクを被っている複数の生徒が集まると、誘導されながら機械音と共に何処かへ歩いて行った。

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