オーグメントと青春   作:鳥鍋

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エスコート

 

『つっかれた…歩き方とか姿勢にも気をつけるのはまだ慣れないよ…』

『恥ずかしくないようにシャンとして、そうして私の隣に立つのにふさわしいってお父様が言ってたわ』

『僕以上に気を付けて疲れない?』

『気を抜くタイミングはちゃんとあるから平気、むしろあなたが気を抜きすぎ』

『そっか…。また今度息抜きに遊園地でも行かない?』

『いいわね、エスコートしてくださる?』

『はいはい』

『はいはい、じゃないでしょ?』

『ごめんごめん…喜んで、お嬢様』

 

───

 

聖園ミカは夜道を歩いている。その足取りは軽く、昼間なら楽しく散歩をしているようだ。それとは裏腹に片手に持つサブマシンガンには力が籠もり、纏う空気は何やら物々しい。そうして歩く横からから不意に低いエンジン音が響き渡る。その音がだんだんと大きくなり、止まる頃にはミカの数メートル前にはバイクに乗ったジャガーの戦士がそこにいた。

 

「まさかこんな所で会うとは思わなかったよ、ミカちゃん。久しぶり、かな」

「あなたは確か……ジャガーオーグ?アリウスの飼い猫が私に何の用?」

「そのアリウスに用があるんだけど、君は?」

「あなたに関係無いでしょ?それとも、あなたが仲間と勝手に思っていたサオリを助ける気?」

「いいや、ボクが用があるのはベアトリーチェだよ。サオリさんは…どんな顔して会えばいいか分からないや」

「それで、あなたは私の邪魔する気なの?こんな所で立ち止まるつもりはないんだけどな」

「『復讐』したいから?」

 

ミカの金色の目が見開かれるが、すぐに表情を笑顔で隠す。

 

「へぇ~、よく分かったね?」

「経験者だからニオイで分かる。…サオリさんが目的?うん、反応したから分かりやすいね。ベアトリーチェはあまり興味無いのかな」

「だって、私の大事な物を全部、ぜーんぶ奪っておいて許されてるなんておかしいでしょ?」

「…それもそうだね。だから殺す、当然の流れだ」

 

ハンドルから右手を離してブレードを伸ばす。夜闇の中で銀の光が反射してミカの顔を照らす。

 

「それがあなたの正体なんだ。で、結局何がしたいの?邪魔ならどいて」

「道は同じでしょ?乗ってく?」

「何のつもり?」

「強いて言うなら…共感かな?その憎しみ、晴らして幸せになるに越した事は無い。だからどうかな?」

 

少し考える素振りを見せたミカは数歩進んで、バイクから手の届く範囲に止まる。

 

「車じゃなくてバイクは初めてだけど、エスコートは任せていいかな、猛獣さん?」

「素敵な旅をお楽しみください、お嬢様?」

 

ジャガーはおもむろにサイクロン号から降りてブレードを閉じた右手を差し出す。それに応えて銃を左手に持ち替えたミカは右手で彼の手を取った。

 

───

 

「それで、一人くらい見せしめにしてもいいんじゃないかって言おうと思ったけど殺人はゲヘナでの契約違反だから黙っておいた」

≪そんの事をしても治安は良くなる訳がない、マコトでも分かる事なのに≫

「あはは☆ゲヘナでも分別があるなんて思わなかったよ」

「…思ったよりゲヘナ生徒が死んで面白いとか相手が苦しんで楽しいって言わないね、君は。本命がアリウスだから当然か」

「……」

 

聖園ミカを胴体に抱き着かせるよう後部に乗せて夜の風をサイクロン号で切り開く。整備されない道を高い性能で気にせず突き進みながら快適な旅を提供している。

 

「サオリさんの殺し方は決めた?できれば彼女に手伝って欲しい事があるから後回しだと助かるけど」

「……あなたの事情は知らない、勝手にベアトリーチェに会いに行けば?」

「とりあえず首を…っとそろそろか」

 

石造りの建築物が立ち並ぶ中で数人の地に伏せる人影を見つけ、バイクは止まる。

 

「サオリさん達の匂い、ここを通ったのは間違い無いね」

「アリウス同士で戦闘があったなんて何でだろうね?」

 

一度降りたジャガーが倒れた生徒の傍らにしゃがみ、真っ二つに割れたマスクを拾う。ガスマスクではなく強いて言えば骸骨に近いデザインだろうか。

 

「んー、君達マスク変わった?」

 

ジャガーがそれを細かく見分すると同時に倒れたアリウス生徒の一人が死霊の如く立ち上がり、ホルスターからナイフを取り出す。

 

「……ね、死ね死ね死ね!」

「えいっ!」

 

ジャガーの背後からナイフを振り回したがバイクから降りたミカの拳を喰らい、マスクは粉々に仰向けで倒れた。

 

「やっぱりか…これSHOCKERのマスクのコピーだよ。殺意を刺激して戦力を底上げしている」

「殺意?あはは☆そんな物をわざわざ使うなんて教育が完璧じゃないって自分から教えてるみたいじゃんね」

「鬼に金棒って奴じゃないの?誰でも殺せるアリウスに殺意を増やすマスク…半端な力じゃ止められない」

≪ネルちゃんやツルギさんが着けたら…殺らないとボクが死ぬかも?≫

≪バカ野郎!あたしが人殺しをしたくて戦ってる様に見えてんのか?≫

≪アリウス……ここまでやる程の地獄か、ベアトリーチェとやらには落とし前を着けるべきだな≫

「だったら何?私の目的はサオリだよ、そんなのに構わなくても別にいいでしょ?」

「まあ君の殺意がそれ以上なら気にする事は無いね、個人的に急ぎたいし。お乗りくださいお嬢様、なんちゃって」

 

───

 

薄暗い地下道、ミカをサイクロン号に乗せたまま四つのヘッドライトと痕跡を頼りに突き進む。

 

「近いね、そろそろ鉢合わせるよ」

「すごいねジャガーオーグ、あいつら以上に猟犬に向いてる。アリウスの生徒会長が雇っただけあるね」

「エデン条約前だと持て余されたけどね」

 

地下道の戦闘の痕跡と匂いが新しく感じる。遠くから響く喧騒の先に彼女らの存在を確信した。

 

「準備は?」

「できて当然でしょ?」

「じゃあ先に行くよ?」

 

その方向にジャガーオーグは駆け出し、ミカはハンドルを片手で握りサイクロン号に身を任せる。足並みを揃える為にどちらも目に見える程度だが充分な速さ。そのままスクワッド達の音と匂いに辿り着く。

 

「?」

 

不意に赤い光が見えた。二つの小さなそれは砲弾の様な速さで徐々に大きくなる。何に似ているのか、強いて言うなら「目」だろうか。このタイミング、距離、スピード、これでは回避しきれない。せいぜい直撃を避ける程度、咄嗟に身体を右に傾けた。

 

瞬間、人型の流星が左腕を掠め、舗装された壁に轟音を伴ってクレーターが生成された。ジャガーオーグはバランスを崩すが何とか立ち直る。同時にサイクロン号も停止、ミカも流星の墜落現場を振り返る。

 

「何……あれ?」

 

サイクロン号、ベルトのプラーナ循環機構、その二つからして予測はしていた。触角の生えた黒いマスク、黄色のネックカバー、プロテクターを装着した戦闘服。

 

「バッタオーグ…。やっぱりいたのか」

 

大量発生型相変異バッタオーグ。仮面ライダーを始めとした標的との戦闘に引き連れた尖兵、その一体。だが記憶にあるそれらとパーツが大きく違う。両腕はあそこまで重厚ではなかった。壁を凹ませた両脚には畳まれたジャッキなど取り着けてなかった。

 

「あんなの私でも見たことない……あなたは知ってるはずでしょ?ベルトがお揃いなんだから」

「…ボクの同類だよ。ずいぶんカスタマイズされてるみたいだけど」

「わかった!裏切ったあなたの代わりなんじゃないかな?」

「それで用済みのボクを殺しに、か」

 

バッタオーグは足を引き抜いて二人の方向、特にジャガーオーグに身体を向ける。そして腰を落とすと同時に何かを押し込む音がした。

 

「ミカちゃん、これ持ってて」

 

ジャガーはベルトからコンバットナイフの入ったホルスターを取り外し、ミカに押し付けながら後部のボックスから小さなケースを手に取る。

 

「バイクも預ける、後で返してくれると助かる」

「いいけど、あなたは?」

「まずはアレを片付ける」

「じゃあ先に行くよ、運転ありがとね☆」

 

軽い感謝と共にミカとサイクロン号は地下通路の奥へと進んだ。そして通路に残ったのはオーグメントだけになった。

 

「君も来てたのは予想していた。どうして見つからなかったか分からないけど、あの茹でダコの化け物がボクに差し向けたなら殺すだけだ」

 

ジャガーオーグは右腕のガントレットからブレードを伸ばし、鋭い殺気と共に向ける。

 

≪待って、殺すの?≫

「…そういえば契約があったねヒナちゃん。まあ半殺しにして戦闘不能にすればいいでしょ」

 

アンチアリウス同盟を思い出しながら押っ取り刀で歩き出す。不気味な程静かだったバッタオーグもこちらに飛び出し襲いかかる。ジャガーはその速さを受け止め、バッタオーグは刃を重厚なガントレットで受け止め合う。金属のぶつかり合う音と淡い火花が暗がりの通路に広がった。

 

───

 

「悪役登場☆ってところかな!……まだ覚えててくれてたんだね?」

 

鋼鉄の箒と共に彼女は有象無象を薙ぎ払った。エンジン音の中で彼女は戦場に佇む。

 

「会えて嬉しい……って顔じゃなさそうだけど、どうしたの?そんな、魔女でも見たみたいな顔しちゃって」

 

聖園ミカは黒い竜巻を携えて猟犬の前に立ち塞がった。




魔女のホウキは排気量650cc以上
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