ジャガーオーグはアリウスバッタオーグを蹴り飛ばした。正直、腕力も耐久力も彼には及ばない。改造されたといえ量産品に新型と互角の戦いをしろと言うのが無茶だろう。それでも痛みや苦悶すら感じず機械的に向かって来るのは面倒だ。早くトドメを刺そうとブレードを伸ばして保護されていない首元を狙う。そう思いゆっくり近づいた時にちょうど相手は立ち上がる。力比べでは勝てないのにその両腕でジャガーの両腕を掴む。
「量産バッタオーグにしてはがんばるね」
そのまま振りほどく、直前に硬質的な腕がジャガーの腹に何かを押し付けながら、もう片方の手でベルトのプラーナの排出スイッチを押す。相手の両腕は使えないにも関わらずに。
「なっ!別の腕?」
ベルトからプラーナが吐き出され、目的は達したと言わんばかりに両手を離して後方に飛び跳ねる。直後、貼り付けられた何かは閃光弾程では無いが電撃の様な音と光を響かせる。
「爆弾?いやまさか…チェンジ」
風と力を取り入れようとしても電子回路が弾ける音がするだけ。ベルトから、体内からも同様の感覚がする。手を握ってもいつも以上の力が入らない。身体能力を強化するマシンが麻痺したのは痛手だ。
「電子機器の麻痺…EMPってヤツか」
「こっちだ!ジャガーオーグを殺すぞ!」
「ギャハハハ!スクワッドもジャガーオーグも裏切り者は死ね死ね死ね!」
アリウス生徒が怒号を上げて通路や障害物の陰からこちらを狙う。どの生徒も骸骨とバッタに似たマスクを被りこちらに分かりやすい殺意と銃口を向けてきた。
「はぁ…下級構成員のマスクで殺意が増えない理由が分かった気がする」
「撃て撃て!」
ジャガーの想定より人数は少ないが、この状態での集中射撃は少し不味い。人数に押されて殺されたサソリオーグの二の舞いだ。故にこちらから仕掛ける。
≪ネルちゃん!≫
≪しゃーねーなぁ!≫
「おりゃぁ、くらえぇ!」
相手の一斉射撃と同時にサブマシンガンを手に持ち、弾幕をオリンピック競技よろしく飛び跳ね縦横無尽に振り回す。プラーナを取り込まずとも改造された肉体なら人間の限界程度には動く事はできた。やや頭上から放たれた弾丸にアリウス生徒二人は怯み、直後、後頭部に衝撃が起きる。顔面を鷲掴みにされ二人とも地面に叩きつけられた。
「きぇああぁぁぁ!」
落としたサブマシンガンに代わり、ショットガン二丁を別の生徒のマスクに向けて壊そうと撃ち込む。一人には直撃、二人目は命中したが仕留めきれず、三、四人目は物陰に身を隠した。そして横合いからはバッタオーグの刃の生えた腕の突きが迫る。叩きつけた生徒二人を顔面から掴み盾にして防ぐ。彼女らのコートが身代わりにならなければ胸元を貫かれていたことだろう。
「…チェンジ」
ベルトが麻痺してもプラーナの扱いは可能、盾にした生徒から吸い取り風と力を再び取り入れる。腕力が戻った事を確認し、ブレードを顔面に向けて伸ばすが相手の左腕に防がれ、第二の左腕がジャガーの右腕を掴む前に盾にしたままの生徒を押し付けた。
≪ヒナちゃん≫
≪私の出番……!≫
背負ったマシンガンを肩に掛けた小さなケースのぶら下がったベルトからずらして向ける。バッタオーグ、障害物から狙う生徒全てに雨あられと弾丸が殺到し埋め尽くされる。
「ぐあっ?!」
「がっ!」
アリウス生徒は倒したが、バッタオーグはいない。
「上っ!」
上からの振り下ろしをショットガンを拾いながら後方に避け、着地と同時に撃った二発が直撃する。バッタオーグはよろめいたが、決定打にはならず姿勢を立て直した。
「やっぱり急所を狙うか同じ場所を撃ち続けるかだよね」
ショットガン二丁を腰に戻し、拾い直したサブマシンガンを構える。バッタオーグはそれを待ってか待たずかジャッキで強化されたジャンプで飛び込む。速くもと見え見えの動きは今更当たらない。すれ違いざまに横腹にブレードを伸ばし、黒い流星は不時着する事になる。
「腕が4本あったところで、量産型には変わらねぇだろ。おらおらおらおらぁっ!!」
着地に失敗したバッタオーグを鬼のように撃ち続けながら走る。相手が完全に立ち上がる前に近付くと、サブマシンガンを戻しブレードで黄色いネックカバーを巻かれた首元を狙う。しかし、機械の腕二本が刃先を掴み何とか首とは別に逸らす。その間に、膝立ちになったバッタオーグの右手の拳がジャガーのマスクに迫る。バシン!と人体を殴る男がした。歓喜も悲観も無いバッタオーグの目が捉えたのは右拳がジャガーの手のひらで受け止められている事。
「面倒くさい、早く終わらせる」
自分もベアトリーチェに協力し続けたらいずれこうなったのかもしれない。恨みも組織の命令も無いがせめて一息で殺してしまおう。機械の腕を振り払って斬りつける。完全に立ち上がったバッタオーグはガントレットで防ぎ、右足の爆発的な脚力で蹴りつける。
「おおっと!」
腰を大きく逸らして避けれる程の上段の蹴りを頭に喰らっていれば無事では無かっただろう。この隙を狙い姿勢を戻して袈裟斬り、戦闘服を大きく切り裂いた。返す刀で再び斬る、それを機械の腕が火花を散らして止めた。だがジャガーにはまだ左腕がある。突きで首を狙うが見え見えの急所狙いが当たらないのはお互い様、上半身を多少ずらし両腕でその左腕を掴んで止める。
「面倒な態勢だな!」
ジャガーの両腕とバッタの二対の腕が動かせないまま膠着、そこから抜け出そうとバッタオーグの本来の左腕が抜け出しブレードを伸ばした。意趣返しのようにジャガーの黒いマフラーの巻かれた首元を狙う。直後、首筋が抉られた。
「…うえっ!まずっ!」
先程のブレードは虚空を切った。抉られたのはバッタオーグの首筋だ。相手は両腕が使えないはず、なのに何故、その疑問は頭部を近づけた事、マスクの口元が露出して汚れている事が答えだ。機械的な思考をするバッタオーグでも噛みつかれて、肉を食い千切られたと結論づけるのは遅くない。
「やっぱり生肉はダメだ!」
長い犬歯の口元がマスクで覆われると同時に固定された両手を引き抜いて、固定していた部分を引き切りグローブと機械の腕に切り跡を刻む。次の攻撃にバッタオーグは対応しようとするが遅い。プロテクターとベルトの隙間の
「急所狙いならこれが一番、アルマジロ君のお株を奪っているけど、まあいいや」
それでも相手は止まらない。渾身の蹴りをジャガーオーグの胸に向け、そこを掠める。姿勢を戻す前に右足を掴まれパンチやキックに移れない。
「ジャッキ、スプリングかな?強化としては悪くないと思うよ」
子供は無邪気ながら残酷に虫の足を千切り取る。ジャガーオーグがバッタオーグの足のジャッキを引き千切る姿もそれに似ていた。
「さて、そろそろトドメ…」
「いたぞ!殺せ殺せ!」
自治区の入口から追加のアリウス生徒がギラギラした殺意と共にやって来る。もたもたしすぎて増援が来たらしい。
「バッタオーグは今はどうでもいい。それよりベアトリーチェだったね」
≪待て、ミカ様の復讐は放っておく気か?サオリに退職金を手に入れる手伝いを頼んだのがなくなるぞ?≫
「それと復讐を否定するのは別の話だよ、ツルギさん。幸せになる為にボクはこの生き方をしているんだから」
バッタオーグを蹴り飛ばして引き離す。壁に叩きつけられて動かなくなった。
「バッタオーグが!畜生!次は私らが殺してやる!」
「マダムの命令だ!死に晒せケダモノが!!」
「邪魔だよ、どれくらい耐えられるか見物だね…」
マシンガンを構えて殺意溢れる少年兵達に応戦を始める。弾幕をかき分けて前に前にとジャガーは進む事にした。
───
「スクワッドを──サオリを、そのままになんてしておけない……。その女が、何の代償もなく先生の庇護を受けるなんてダメ……」
「……」
「だから先生、私を止めないでね」
倒れたバイクを起こしてミカは自治区のどこかに走り去る。
「そんなに……私が憎いのか、ミカ。……仕方ないのかも、しれないな」
「おまけにジャガーオーグも手を貸している。奴は敵討ち、復讐によって殺人に手を染めたなら私達も、いやマダムを殺すはず」
「それでも結局味方が増えた事にはなりませんね……」