オーグメントと青春   作:鳥鍋

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刃の可能性

 

「ぐばっ!」

 

マチェットを振り下ろしたアリウス生徒をジャガーオーグは顔面から殴り飛ばした。隊長格だったのか自分のブレードと似た素材の武器を使っている。

 

「まだだ、グレネード!私ごとやれ!」

 

伸ばした腕を掴んで一瞬動きが遅れる。隊長格の指令に応えた部隊員のグレネードランチャーを持った一人はジャガーオーグに向けて、手榴弾を持つ二人は投げつける構えを見せた。

 

「片手はまだ使える、おらおらあぁぁぁ!」

 

グレネードランチャー持ちの生徒はサブマシンガンの連射を喰らい、狙いと姿勢を崩す事になった。しかし手榴弾の投擲を阻止する術は無く、2個がこちらに放物線で迫って来る。

 

「ほっ!」

 

片方の手榴弾は左手のサブマシンガンで弾き返し、先程よりも低く宙を跳んだ。もう片方は彼らの足元に転がり炸裂を待っている。

 

「ごめんね!」

「ぐぅ?!」

 

右腕を掴む隊長格ごと手榴弾の方に仰向けに押し倒し、ちょうど背中でそれを覆う形になった。次の瞬間、小規模な爆風と破裂音が自治区の街並みに広がった。

 

「いてて、ふぅ…危なかった」

「貴様ぁ……殺す殺す殺す!」

 

それでも被害の少なかった者、別の生徒達は殺気のまま襲いかかり、幽鬼のように揺らめく身体のユスティナ聖徒は無言で銃を向ける。

 

「流石マスク、殺気が段違いだ」

 

物陰に隠れながら倒れた生徒のマスクを外して握り壊す。

 

≪殺すと連呼している割に、戦術は崩れていない。あなたの言う殺意に振り回されず行動しているから脅威度も変わらないわ≫

≪あの目玉女の教育の賜物ってか≫

 

ヒナの注意にネルが吐き捨てる。多対一はジャガーオーグの得意分野ではない。

 

「じゃあ各個撃破!」

 

だがゲリラ戦なら別の話、気配を消して一人ずつ排除、かつてDESTRONでやった事と変わりない。地形を把握している点では相手が有利だが、索敵能力はこちらが上だ。ブレードとプラーナを用いて沈黙させる。

 

「かっ……!」

「てきっ……」

 

二人組の1人目からは背後からブレードで首筋をなぞり、2人目が反応する前に顔を掴んでプラーナを奪う。3人、4人目の部隊員を片付け、5人目と6人目のミメシスを切り捨て次の部隊を最後にベアトリーチェの元に向かおうと考えた。が、別の匂いを感じ取り物陰に再び隠れる。頭上から響く銃声の連射が地面を削り取り、動かなかった場合の惨状を思わせる。

 

「そっか、殺し損ねたから来るよね」

≪腹部にナイフが刺さったままでも動けるなんて……巡航ミサイルを用意した連中ならあり得るのかしら≫

≪それに耐えたあんたも大概だと思うぞ≫

 

どこからか手に入れた二挺のサブマシンガンを両手に、機械の両手でマシンガン一挺を建物の上からこちらに向けるバッタオーグ。ジャガーオーグが反応するよりも速く左足で飛び跳ねて掃射、それに合わせてこちらに気付いたアリウス生徒が集まり始める。

 

「バッタオーグに合わせて殺せ!」

「あちゃー…」

 

マシンガンの銃身を脇に挟んで掃射、生徒の数人に命中するがバッタオーグの射撃が鬱陶しい。隠れながら反撃しても飛び跳ねる相手を捉える事ができない。

 

「次だ!堕ちろ!」

 

物陰からマシンガンを持ったまま飛び出しバッタオーグに連射。オーグメント同士では銃撃は有効打とならないが目眩まし程度にはなる。右足のジャッキをもいだ以上、落ちる範囲はある程度予測できる。狙いは甘くなったとはいえ止まない弾丸の雨を特訓の成果を元に突っ切り、捕食者として狙う。

 

「おらぁ!」

 

ブレードの無いただの右拳がバッタオーグの顔面に突き刺さった。バランスの悪い足で体幹を支える事は困難、引き金を握ったままの両手が思わぬ方向に向いて壁やアリウスの戦力へ流れ弾が跳ぶ羽目となった。追い打ちをかけるように左腕からブレードを伸ばし、相手のマシンガンを野菜の様に真っ二つにする。

 

「死ね!」

「ふっ!」

 

近くにいた小隊やユスティナ聖徒のミメシスが撃ち続けるが、バッタオーグの両腕を掴み、盾として回り込む。しかし攻撃は止まる様子を見せない。

 

「マダムの命令だ!バッタオーグもろとも奴を殺せ!」

 

量産型と比べて腕力は上、引きずり込む事は容易。バッタオーグの両腕を掴んだまま無理やり物陰まで移動した。

 

「同じ手は効かない!」

 

ベルトに再び伸びる機械の腕を掴む。相手のサブマシンガンを持った両腕を解放したが、片手ずつ持った得物を近すぎる相手には向けにくい。

 

「足の次は腕!」

 

金属やコードが無理やり変形して壊れる音と共に、身体の外側にアームを強引に引き千切る。バッタオーグが引き金を引けたのは、子供の残酷な行為と同じ目に遭ってやっとの事だった。

 

「近接戦闘は、オリジナルに劣るな!」

 

撃たれながらもちぎったアームを握ったまま銃を持つ手を払い、顔を殴る。バッタオーグも反撃を狙いブレードを伸ばすが、それは失敗に終わる。バツン!と肉を切る音がして、上腕部から重厚な右腕が金属の鈍い音と共に落ちた。

 

「ボクがハサミジャガーとも呼ばれているのは、これが理由だよ」

≪……マジかよ≫

 

ジャガーオーグは両腕のブレードをハサミの様に交差させて右腕を切り落とした。オーグメントの人体を明確に切り裂いたのは初めてだが、血液の勢いが悪くドロドロとしたそれが多少流れただけですぐに止まった。そこにダメ押しとばかりにもう一本のコンバットナイフを抜き取る。手慣れた速さと片腕のハンデでそれを防ぐ手立てはバッタオーグに残されていない。1本目が生えたままの鳩尾同様に2本目のナイフが削られた喉元に吸い込まれた。銃を落とした左手で持ち手を掴んだまま、バッタオーグはドロドロした小さな血溜まりにうつ伏せで倒れ込んだ。

 

≪……見ていて気持ちいい物じゃないわね≫

≪私もこうなっていたのか……?≫

「ふぅ…バッタオーグはやられたけど、まだやる?」

 

マスクの中の最強達も死から程遠いキヴォトスの住人、血濡れた光景に動揺している。それを他所にブレードを振るって血糊を払いながらアリウスの生徒に問い掛ける。

 

「……!まだだ、撃て撃て!」

「遅い!」

「かっ……!」

 

人を殺す訓練を重ねたアリウスの生徒は常人より早く我を取り戻すが、その隙は殺人を重ねたジャガーオーグには充分すぎる。四人のうちの二人を切り捨て、もう二人の銃を持つ手を真上に向けて空を撃たせる。

 

「この!殺……して、や……?」

 

抑えつけられた二人は立ち眩みでもしたのか銃を落とし、地面に埃を立てて横たわった。

 

≪燃費悪いんだよねこの体、その癖容量も少ないし≫

≪うるせぇ風の音が少ないのはそういう事かよ≫

 

プラーナは食物に代わるエネルギー、相手から吸い取り充足感に満ち足りる。触れただけで倒れ伏すなど外から見れば原因不明で不気味な事だろう。

 

「速く行かないとマダムオーグを殺せない。退いてもらうよ」

 

───

 

「でも、だからこそ……私にはできない……。私が、あなたの結末をこんな風に決めてしまったら……。私に救いなどないと、自ら証明する事になってしまう……」

「ミカ……お前は……」

 

サオリ達は最初は気付かなかったが、地下通路の奥からずるずる、ずるずると重い物を引きずる音がする。

 

「何者だ?!」

「殺さないんだ…」

「ジャガーオーグ……何だそれは」

 

アリウスにかつて雇われた殺人者が人型のナニカの片手を引きずりながら歩いていた。その口元は血の滴る肉を食らったかの様に染まり、荷物を引きずる右手は罪を犯したかの如く赤黒さで穢れていた。

 

「…復讐したくてたまらないんじゃなかったのかな?」

 

血塗れの殺意がなめ回す様に先程まで殺し合いをしていたであろう二人を見つめる。値踏みしているのか行動を考察し、口を開こうとしたその時、また別の気配を感じ取った。

 

「サオリ!ミカ!」

「先生……!」

「……!!」

 

通路の奥から走って来たのは息を切らしながら必死にたどり着いたシャーレの先生とアリウススクワッドの残りのメンバー。予想を超えた惨状に全員が驚きを隠せない。

 

「…この前ぶりかな、先生」

「ジャガー、どうしてここに?」

「火事場泥棒とか、ドサクサに紛れて?とにかくアレを殺すのにふさわしいタイミングが今だと思った」

「君の掴んでいるそれは……何?」

「アリウスの秘密兵器って所かな?知ってた?」

 

サオリは片腕を失った人型の何かに絶句するが、一呼吸置いて冷静に答える。

 

「いや、初めて見た。ヘイローが無いが生きているのか?」

「そう、アリウスの生命維持装置は高性能みたいだ。それはそうと、サオリさんを殺さなかったのは何でかな?だって…」

 

ジャガーオーグはミカのポケットから新品のコンバットナイフを抜き取り、それを彼女の銃を持ってない方の手に乗せる。

 

「アリウススクワッドのリーダーの生首があれば、ティーパーティーに復権して汚名を雪げるのに。シャーレの先生がそれを確認するなら価値も保証されるはずだよ」

「え……?」

「何だ、それは……」

「?…その為にここまで来たんじゃないの?」

 

ミカとサオリは「訳が分からない」とその表情で返答する。それが分からないのはジャガーオーグも同じ、少し困惑して声色から余裕を無くす。そんな中、先生は毅然とした態度で彼に言葉を投げかける。

 

「ジャガー、いやジャガーオーグ。それはダメだ。キヴォトスでその方法は取ってはいけない。むしろミカにとっては逆効果だ」

「ミカちゃんは、彼女は復讐しようとしたのに?…あ、そうか。サオリさんは操られていた側だからマダムオーグの、ベアトリーチェの首の方がふさわしいのか。じゃあミカちゃん、今度こそ殺しに行こうか。本当に殺すべき相手を。そうしたらまた幸せに…」

「違う!……ここは私に任せて欲しい」

 

先生から感じた気迫は、修羅場を乗り越えたジャガーでさえ気圧される。彼は2、3拍置いて再び息を吸って、やっと返答をする。

 

「…先に行くよ。奴の居場所で待っているから」

 

ジャガーオーグはバイクに再び跨り、バッタオーグを肩に乗せながらエンジンを鳴らす。アリウスの植えつけられた殺意よりも研ぎ澄まされたモノを背負いながら通路の奥へと突き進んだ。

 

───

 

「…ふぅ。久しぶりだね、マダムオーグ」

「ジャガーオーグ……先生という不可解な存在だけでなく、あなたという不愉快な存在もここに来る事は想定はしましたが、まさか聖園ミカに接触しサオリや私の首を用いてティーパーティーへの復権を図ろうとするとは……私の予想を超えて薄汚いケダモノでしたか」

 

アリウス旧校舎の最奥のバシリカ、ジャガーの戦士は無粋なエンジン音をかき鳴らしてそこの主を気取る怪人に語り掛ける。

 

「…それを言うならこんな悪趣味なモノを用意しておいてボクを殺せなかったクセに、よく言うよ」

 

肩に乗せた荷物を雑に投げ捨てる。バッタオーグの無表情の仮面は赤い目でただ天井を向いていた。

 

「改良をしたとはいえ、低出力のオーグメントでは勝てませんでしたか。しかし、データを入手出来たのは収穫ではありました」

「彼の体中調べておいて、マスクの量産しか出来ないなんてやる事がショボいね。もっとオーグメントを量産とかやらなかったの?」

「確かに興味深い情報も確認しましたが、崇高に至るにあたり必要性が少ない物ばかり。個々の生徒に殺意以上の過剰な能力を与える理由も無い。ただそれだけの事です」

 

「ふーん」と言いながらジャガーオーグはホルスターからナイフを出し入れして言葉を続ける。

 

「じゃあなんでバッタオーグをけしかけた?」

「内部データは抜き取ったのでその肉体はもはや不要、適度な改良をして防衛に加えたまでの事」

「資源が少ないクセに贅沢に使い捨てるね…それとも『儀式』とやらによっぽど自信があるからどうでもいいとか?…そこにいるアツコちゃんを使う事だけなら分かるけど」

「……やはり先生とは行動目的を共有させていないという事でしたか。それならば先程の発言による反応にも説明がつく。聖園ミカに抱いた情によりわざわざ敵を増やすとは、実に滑稽な物ですね」

 

ホルスターからナイフを取り出したジャガーオーグは、その切っ先を相手に向けて不機嫌そうに答える。

 

「その馬鹿にした情や思いに、これからアンタは引き裂かれる。その首囲んで宴を開いてやるよ。…まあシャーレの先生にそれを見てもらいたいから殺し合いはもう少し先かな」

「これから儀式を始めようというのに悠長ですね」

「…もうすぐ来るよ」

 

ジャガーのマスクが入口の方を向くと、慌ただしい足音と共に先生とスクワッド達は至聖所へと辿り着く。

 

「お待ちしておりました、先生。──私の敵対者よ」

「待ってたよ、先生。あなたに見て欲しい物がある」

 

ベアトリーチェは悪意や嘲笑と共に儀式の中心として彼らを迎える。ジャガーオーグは殺意と多幸感をもって、気のおける友人でも来たかの様にナイフを手の中で回しながらサイクロン号に寄り掛かった。

 

「あー、お先にどうぞ?」

 

何故か流れを仕切られている事に不満を持ちながら、ベアトリーチェは演説でもするかの様に儀式の内容、自身の目的を語り「これこそが『崇高』へと至る道」と得意気に語る。

 

「生徒たちのための先生だよ。忘れられ、苦しむ生徒に寄り添いたいだけ」

 

しかし、先生は言った。自分は審判者でも救済者でも絶対者でもないと。その在り方は生徒の為に、罪を犯したサオリやミカ達に寄り添う。故に、首をもって復讐と復権を果たそうとした行いは許されなかったと、ジャガーは少ししてから気付いた。

 

「ならば、それを証明して……」

「待った」

「……ジャガーオーグ、今更何だというのです?」

「アリウスの生徒会長、あなたにシャーレの確認の元渡したい物があります。受け取って、ください!」

 

先生とベアトリーチェの間に割って入ったジャガーオーグはその手に持ったナイフを真っすぐ投擲。その目に留まらぬ速さを相手は刀身を掴み、不要なゴミの様に投げ捨てる、直前にナイフ自体に刺さっている物に気が付いた。引き抜くと『辞表』と大きく書かれた封筒だった。

 

「これは……」

「本日付けを持ちまして、アリウス分校の食客を辞めさせてもらいます。ついでにマコトさんの美容室の請求書も。先生も確認したね?…これでもう、ボクはアリウスでもゲヘナでもない、ただのジャガーオーグになった」

「馬鹿馬鹿しい。元より不要な存在、こんな物を出して何になるというのですか」

「こうなる」

 

ジャガーオーグはベアトリーチェから目を離し、足元のソレに手を伸ばす。グチュ、とナイフを抜き取る音はスクワッドにもわずかに聞こえた。続いて彼女らの目に映ったのは、バッタオーグの体に馬乗りで腕のブレードを用いて胸部を切り裂く姿。刃物を受け止められないだろう、装甲を剥がされた身体の近くで握るナイフ。

 

「待つんだジャガー!」

 

グチャリ!骨の少ない腹部にナイフを振り下ろした。それに続いてグチャリ!心臓の部分の骨を避けながら的確に刺し抜いた。グチャリ、グチャリグチャリグチャリグチャリグチャグチュグチャグチュ……。コツン。

 

「…あったあった。これが生命維持装置かな」

 

胸部や腹部を切り開いて見つかったのは臓器に絡み付いた見慣れない装置。ズルズルと引き抜いてから、片手で握り潰す。

 

「…さよならバッタオーグ、名も知らぬ犠牲者」

 

最後に左手をバッタオーグのマスクに添えて右腕のブレードを首元に伸ばす。斬るべき場所に押し付けて、右から左へと鋭く引く。

 

「これが、あなたの教えようとした『殺人』だ」

 

ゴロリ、頭部をベアトリーチェの方に放り投げ足元に転がる。それが形を保った時間は短く、吹き出る、いや書き換わる様に白い泡と化す。マスクも、装甲も、血肉も、全て書き換わって泡となり、しぼんで消えた。そこにただのシミと機械部品を遺して。

 

「ソレを殺したからと、何のつもりですか」

「人殺しをこの目で見たのは久しぶり、それとも初めてかな?アンタの教育、中途半端な洗脳と違って最後までトドメ刺せるんだよ。分かる?」

 

シミの中に残ったナイフを拾って立ち上がり、ブレードを向けながら己が何者か、殺意を以て答える。

 

「僕は殺人者、自分の幸せの為に殺す。SHOCKERの技術をコピーしたお前は邪魔だ。その赤い肉、グチャグチャにしてやるよ」

「出来る訳がありません!この崇高な私に、薄汚いケダモノがそんな事を!」

 

ベアトリーチェは肉体を大きく変えて、見上げる程の姿となる。花の様に開いた頭部、触手めいた長すぎる両指、単純な巨体。

 

「これこそが本来の姿──偉大なる大人の姿なのです………!!」

「どこが大人だよ…マジでマダムオーグだ。で、殺せるんでしょ?ならデカくてダサいだけだね」

「身の程を知りなさい!この薄汚いケダモノめ!!」

 

ジャガーオーグが不遜に吐き捨てた言葉に怒りを露わに光弾を撃ち込む。土煙と共に小石や瓦礫が弾け飛び、それらが先生達の前で晴れると何も無かった。

 

「ジャガー?!」

 

彼をを探そうと怪物のベアトリーチェは辺りを見回す、と同時に銃撃を身体に浴びて鬱陶しそうに手を叩きつけ反撃する。

 

「ジャガーオーグだけに任せるな!」

「姫ちゃんを助けましょう!」

 

アリウススクワッド達も先生の指揮で攻撃を始める。銃声と爆発の中で見失った彼を探すのは困難、警戒を続けながら攻防を続ける。

 

「鬼さんこちら!」

 

突如、バシリカの中にエンジン音が重く響く。サイクロン号は先程の場所で走り出す時を待っていた。

 

「そんな物でなんとかなるとでも?」

 

ベアトリーチェが二の句を告げる前にエンジンは、いやマフラーからは火を吹いた。助走と共にロケットよろしく宙に飛び、異形の巨体を容易く飛び越す。その車体の上部には両の足でジャガーオーグが立ち、右手に何かを持っている。

 

「なっ?!」

「Fuck you Beatrice!!」

 

巨体故に両腕の動きは鈍い。ジャガーオーグが近付く程に見えてきた得物、ナイフの刺突を光線で薙ぎ払うよりも速く花開いた顔面で受け止める以外に逃れる術など無かった。

 

「がぁっ!」

「パリファライズ、開始!」

 

───

 

「……ここは」

「魂の世界は初めてかな?妖怪いちご大福」

「散々、胸くそわりぃモン見せてくれたな、あ?」

「ジャガー、お前に言いたい事はあるが後だ。きぃいいい……」

「アレがエデン条約を、先生を……許さない」

 

黒と乳白色とで分かれた空間には、4人の人影が殺意を持って空間の主を見据えている。

 

「空崎ヒナ、なぜ彼女らが……」

「それだけじゃない」

 

ジャガーオーグはナイフを振るい、足元に切っ先を向ける。そこから光が塊となって形を創り出すと足となり、腕となり、人の形に形成された。その人型にジャガーオーグは怒りと殺意を秘めながら語りかける。

 

「今度こそ復讐の機会だよ、ミカちゃん」

「へぇー、こんな悪趣味な事を今までやってたんだね。でも……」

 

聖園ミカとなったプラーナは自分の現状に不満はあるが、それ以上の殺意を持ってベアトリーチェに視線を向けた。

 

「殺したいのは私も同じじゃんね!」

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