オーグメントと青春   作:鳥鍋

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アニマ・アニムス

 

「あなたが何故私の目の前にいるのですか!?聖園ミカ!今頃はバルバラに叩き潰されているはず!」

「知らなーい。ちょっとは自分で考えたりしないの?オバサン!」

 

邪悪な程に黒い空間、その中心にただ一人で困惑するのは武器も強靭な肉体も持たないベアトリーチェ。そこにジャガーオーグは他の生徒達と歩きながら殺意を向けて、聖園ミカは裸の王様を笑っている。

 

「説明を忘れていたね。まあ噛み砕くとプラーナってプログラムのハッキング、魂に入り込んだみたいな物かな」

「魂、生命エネルギー……あなたはプラーナ、生命エネルギーを分け与える事が出来た様ですが、逆にそれをミカ達から奪取し隷属させたという事でしたか。結局は必要の無い技術と思えば、これは神秘に固執している黒服が黙っていないでしょう」

「感心した?それはそうとみんな、武器を」

 

ジャガーの合図に応えた4人は虚空を握る様に構えを取り、それぞれの手に馴染み深い銃器が現れる。重量も覚えている為手がブレる事も無い。

 

「っし!長ぇ事ムカつくもん見せられたお返しをしなくちゃなあ、あぁ?」

「アリウスの大人……潰す潰す潰す潰す!!けきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!」

「私は、あなたをねじ伏せる為にここにいる。先生への仕打ち、エデン条約を奪った事、全て許さない」

「これがアンタの触れた逆鱗、各学園の怒りだ。アリウスに刷り込んだ殺意以上に強いかもしれないね。それとミカちゃん」

「なに?」

 

ミカはジャガーオーグの呼び掛けに首を傾げる。よく彼を見てみるとその手にはホルスターに入ったままのナイフが握られている。またナイフ、小声を漏らそうとすると手の中で淡く輝き形を変えて、蜂の巣の意匠が刻まれた細長い棒の様な物に変わった。

 

「何これ?」

「日本刀、全てを支配しようとした先輩の武器だ」

 

ギラリ、鞘から抜いた刀身は金属の光沢が鋭く閃いている。キヴォトスでもなかなか見られない、優美で冷酷さを感じられる逸品だ。

 

「今度こそ、これで首を獲るんだ」

「そんなに首が大好きなの?私を人殺しにしたくてたまらないんだねあなた!」

「あんなの殺しても心は痛まないよ。むしろ君が一番殺さなきゃいけない相手だ、行けるね?」

「……そうだね」

 

ミカは刀を右手で受け取り、素振りなのかベアトリーチェの方向に一振りする。風を切る音は素人ながらも殺意を感じる強さがあった。それでも相手は余裕を取り戻し答える。

 

「学園の最強とされる生徒の生命エネルギーを集め、私自身にハッキングを仕掛けたのは評価に値します。ですが、武装と戦力の条件が現実と同じであれば何を用意しようとも無駄な事!偉大にして崇高なる私自身の力と切り札があれば……」

 

空気を読まない銃声がベアトリーチェの脆い肉体を叩きつける。痛みに悲鳴を上げる事なくジャガーのサブマシンガンで蜂の巣へ変えられてしまった。

 

「…ふぅ。さて首取ろうか」

「この程度で私を殺せると見くびっているのですか、ジャガーオーグ!そして出なさい、バルバラ!」

「まあ簡単には行かないか」

 

ベアトリーチェはその肉体を変貌させると同時に、足元からいくつもの人型と、大柄な人型のモノを創り出す。その胴体と四肢はラバー素材に包まれて、尋常の生徒では持ち上げる事すら難しい火器を片手ずつに持ち、無機質なガスマスクはやはり表情を見て取れない。

 

「あのユスティナのハイグレード版か…3人とも、行ける?」

「当たり前だ!」

「けひひひ!」

「……仕方ない」

 

バルバラと他のミメシス達は早速銃を向けて一歩ずつジャガーオーグの方向へと近寄って来る。

 

「着いてきて!」

「オッケー!」

 

それよりも速くジャガーは飛び出しミメシスを斬り裂いて道を開く。引き金よりも速く手足を、首を、銃器を最短経路でスパスパと切り落とす。ミメシスでなければぬかるむ程の血溜まりができただろう。それに続いてミカは不慣れな日本刀を腕力と膂力で強引に振り回す。刀身を光らせながら斬るというより叩き潰し、押し返すその表情には不満が見える。

 

「ああもう!殴るより便利だけど綺麗に切れない!」

「最初はそんなモン!どうしてもダメなら形を変えて!首が獲れたらそれでいい!」

「なら……」

「隙だらけですよミカ!」

 

異形のベアトリーチェは顔面から柱の様な光線をミカへと発射、悍ましい色の光の中に飲み込む。

 

「隙だらけはどっちだ!」

「があっ!おのれジャガーオーグ!」

 

そこに気を取られた隙を狙い、虹色の刃を数メートルも長く伸ばして斜め上に斬り上げる。プラーナの刃は人間でいう胸部に届いたが、切り口が浅い。残心の構えを取り、急速に飛び込んで敵の懐に潜り込む。それを防ぐべく弾幕を張っても遅すぎた。

 

「ぐあぁぁぁ!!来なさいバルバラ!……いやミメシス!」

 

切って、刺して、抉る。その痛みは肉体から来る物では無い。しかし自分自身が削られる、その感覚の正体に気付いたベアトリーチェは急いで自分からジャガーオーグを引き離そうと巨大な手で払い除け、ミメシス達に命じて排除させようとする。

 

「潰れなさい!」

「やなこった!」

 

枝の様に広がった手を後方に跳び避け、ミメシスの集団の中に飛び込む。再びバラバラになるミメシス達、しかし焦燥的な声が背後から響く。

 

「後ろだ!デカブツが来るぞ!」

 

ネルの声からしてバルバラがこちらを狙っている。構えが整っていない状況、避けるが先か、恰好の的として消し飛ばされるのが先か。ともかく走ろうとしたが、想定より攻撃が遅い。

 

「私を忘れてたなんて、節穴なんだね?デカブツさん!」

 

振り返ると、バルバラの右横から左横腹にかけて光る物が貫いている。ミカが持っていた物は日本刀だったはず、との思考を置き去りにして飛び込んだ右のアームブレードはバルバラの喉元を刺し抉った。

 

「みんな!」

「おうよ!」

「きぇあああああああ!!」

 

密着して重火器の威力を発揮できない今が絶好の機会、戦闘中に背を向けられた事にムカついたネルは遠慮なくその背中を近付いて狙い、狂乱の声を上げるツルギは高く飛び上がる。

 

「逃さない……!」

 

ネルは容赦無く二丁のサブマシンガン『ツインドラゴン』による射撃を近距離で叩き込み、空中のツルギは右手のショットガンを振り下ろす事でガスマスクと頭蓋を激しく損壊させる。さらにヒナの大型マシンガン『終幕:デストロイヤー』が背中の中心、正中に突きつけた零距離射撃によってついに力尽きて重火器を手放す。

ジョキン!トドメに喉元の刃を交差させてその首の半分が千切れる。身体の各部が壊れたバルバラは耐えきれず崩壊、消滅する事となった。

 

「あたしらの前で背中向けんじゃねぇよ」

「戦闘において合理的な判断ができなかったのかしら」

「……切り札も大した事は無いな」

「間違って『ブタ』を引いたんじゃない?」

 

血の付いていない刃を払って、ジャガーオーグはミカの持つ剣を見た。柄は刀の拵えから聖なる十字に、刀身自体も淡く光りスパンコールに似た輝きと星空の暗い青。日本刀の長さ以外の面影の残っていないバスタードソード、正に光の剣だった。

 

「それにしても…いい剣だね」

「でも、あなたのナイフなんでしょ?だったら折っても文句は言わないでね!」

「アレを殺せるならそれでいい!」

 

光の剣に、聖園ミカの魂が表した武器のカタチに魅せられたジャガーオーグだが、切り替えて殺意を目標へと向けた。

 

「そのバルバラを撃破した所で勝ったつもりとでも?次のバルバラとミメシスを作り出すだけ……」

「遅えよノロマが!」

「静かにして!」

「ぐあぁぁ!!」

 

息巻いた様子でバルバラを再び作り出そうとしたベアトリーチェに、近距離からネルの胴体へのぶちかましと遠距離のヒナの顔面を狙った連射が有無を言わせず炸裂する。

 

「くたばれクソ野郎!図体デカくてわけわからんモンになれて嬉しいかよ!」

 

ネルはそのまま近距離で殴り、蹴り、撃ち込み、相手の巨体を大きく揺らす。小柄な体格かつ至近距離では反撃が困難でされるがままだ。

 

「かぁはははははは!貴様の崇高などまやかしだ!壊す!そんなくだらない物、壊してやる!」

 

続いてツルギが出遅れを取り戻すが如く弾丸をぶちまけて、敵の顔面を、両腕をネルを巻き込まず的確に破壊していく。苦し紛れの光弾や腕での叩き付けもツルギの再生力の前では効果が薄く、どんどんとその身体を削られる。

 

「私の邪魔をしたのに大して強くないのね……それでも許さない!」

 

ヒナは特に怒りを顕著にしている。それを具現化した弾丸の奔流にベアトリーチェは大した抵抗を返せず、ただ押し返される。純粋な実力を発揮されれば崇高を自称しようとも成すすべが無い。

 

「なぜですか!なぜ、崇高たるこの私が、私の魂が彼らに勝てない!」

「負け惜しみかな?力をもらって粋がっていたのにすっごくダサいよ、オバサン!」

「愚かな子供の分際で黙りなさい!聖園ミカァァ!!」

 

弾丸の嵐に揉まれながら、破れかぶれにベアトリーチェの顔面から光が溢れて再び怪光線がミカへと向かう。それに二度飲み込まれる、とならず剣で受け止め、水流を障害物にぶつけた様に後ろに受け流され、歩きながら切り開き、徐々にベアトリーチェへと近付く。

 

「おのれ、崇高たる私の攻撃で……」

「それ以外言うこと無いの?」

「があぁぁっ!?」

 

再び顔面に光が集中する直前、音よりも速く頭上から流れ落ちる物がベアトリーチェの後頭部を叩き付ける。それが隕石だと咄嗟に気付く者はミカ以外にはいなかったが、その衝撃で地に伏せた瞬間を見逃す者もいない。

 

「くだらない崇高、だね!」

 

ジャガーオーグは真っ先にブレードを怪物の首に刺し込み、頸動脈はここだろうと見切りを付けて縦に引き切る。血飛沫が飛び散らない事に不満を覚えるが、追い打ちとして固定する為に刃の向きを変えて再び刺し込んだ。

 

「ぎぃあぁぁぁぁ!!」

「今だミカちゃん、聖園ミカ!復讐!するんだ!!」

「もち、ろん!!」

 

抵抗しようにも首に食い込んだ刃で身動きできない、身体の至る所が破壊されて反撃も不可能。その姿のままできる事は、相手をただ見て呪いをぶち撒けるのみ。

 

「聖園ミカァァァァァァ!……ギィヤアアアァァァァァァ!!!」

 

顔面に光と星空の剣が刺さった事で上がる断末魔は汚らしく、プラーナの3人も顔を歪める。対照的にジャガーオーグは動じずに刃を刺し続けるが、それは長く続かなかった。

 

「ああああぁぁぁぁ!!」

「うおっ?!」

 

その巨大な右腕は今にも崩れそうなボロボロ具合だったが、辛うじてジャガーの身体を掴む事はできた。が、簡単に振り解ける程度にしか力が無く、抵抗のブレードに簡単に斬り落とされた。

 

「まだ生きていたか…もうここも長くない、行くよミカちゃん」

「行くって、どこに?」

「次はこのカスの身体を殺そう。僕の身体と刃で、その肉を引き裂こう。きっと今までの苦しみから開放されるよ」

「……私はもうダメだよ」

「……うは、そうは行くものか……。理解しましたよ、ジャガーオーグ……!」

「まさか…!」

「パリファライズ、解除!」

 

その場にいた全員が浮遊感を覚えた。魂の世界から剥がされる。プラーナのネル達は光に還っていった。ジャガーオーグという器に戻ったというのが正しいだろうか。しかし、聖園ミカは自分の中に結び付けていない。彼は刃を肉から外し、急いで手を伸ばす。

 

「ミカちゃん!」

 

彼は刃を肉から外し、急いで手を伸ばす。お互いが手を伸ばせば掴める距離、ミカは剣から手を離し、それを見たジャガーオーグは安堵する。

 

「私は、あなたとは違うの……!」

 

ジャガーオーグの右手に流星の様に速く裏拳が飛ぶ。彼は理解できずに反応が遅れ、綺麗に弾かれた。

 

「え…?このままじゃ『君』は死ぬんだよ?!」

「別にいいの。だって私はサオリの時よりも殺意を持っちゃったんだよ。それに、大人を刺し殺す感覚を知った。そんな『私』は、私に戻っちゃいけないの……」

「?…嫌な相手なら別によくない?」

「あはは!私の事、なんにも分かってないんだね!そうやってセイアちゃんを、サオリを殺そうとした私は魔女なんだよ?本物の魔女になった私は生きていちゃいけないんだよ?」

「幸せの為に人殺しになるくらいなんともないでしょ?」

 

ミカは憐れみと悲しさを感じる笑顔で、少しずつ光に消える手を胸に当ててジャガーオーグから読み取った思いを伝える。

 

「ジャガーオーグ。あなたはキヴォトスの外から来た存在なんでしょ?あなたの目指す幸せ、失ったもの、取り戻すモノ。それを追い求める限り、きっとキヴォトスでもあなたの世界でも救われない」

「…」

「そんなあなたについて行きたくないだけだよ☆バイバイ、自分から化け物になった未練がましい猛獣さん」

 

もはや時間の限界。ベアトリーチェの領域から自分だけが剥がされる。聖園ミカに届かない手を伸ばしたまま彼は領域の外へ追いやられ、星空の色の剣は戻れない魂と共に砕け散った。




???「あらら」
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