オーグメントと青春   作:鳥鍋

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獣のためのキリエ(後編)

 

「サオリさん、コレを殺すんだ。今までの苦しみ、全てを込めて」

「そうはさせない、ジャガーオーグ」

 

先生はジャガーオーグとサオリの間に入り、何やらよく分からないタブレットを片手に彼を見据える。

 

「何のつもり?先生」

「サオリにそれをやらせる訳にはいかない」

「…この手の奴らを放置したら、第2のアリウスを創り出してまた別の誰かが苦しむ。サオリさん達の為にもケジメを付けさせた方がいい。それに…」

 

くつくつと笑い声が漏れるのを抑えきれずに浮ついた声で述べる。

 

「自分で教えた『人殺し』が自分に返って死ぬなんて、こんな無様で滑稽な事なかなか無いよ?」

「やめて!」

 

意外な相手からの一声にジャガーは驚く。やっとの思いで助け出した囚われの姫、ミサキ達に支えられたアツコが彼女自身も驚く大声で彼を止めた。

 

「もうベアトリーチェの教えで苦しまなくていいの。それなのにサオリを、私達を人殺しにするのはダメ!そんな事をしたら、あなたを絶対に……赦さない」

 

アツコの、アリウススクワッド達の視線と表情は険しく、彼の殺意と正面から打ち勝てるだろう。

 

「私は…アツコを助け出しに来ただけだ。マダムの、ベアトリーチェは赦せはしないが生死などどうでもいいんだ。だからもう、放っておいてくれ」

 

ナイフを持った手を下ろしたサオリには、戦闘で見せた激情など欠片も存在しなかった。

 

「じゃあ先生、あなたがトドメを刺すのは?」

「生徒の前に立つ先生としてそれはできない」

「殺されかけたのに?恨みならいくらでもあるでしょ?」

「それでもダメだ」

 

スクワッド達生徒にできないなら、大人である先生に提案を持ちかけるがそれも毅然とした態度で却下された。

 

≪私も、先生を撃つよう命令した事は赦せない。けれど人殺しにさせる事は別。ジャガーオーグ、先生と敵対するなら私もあなたの敵になる≫

≪ヒナちゃん…≫

≪……奴を殺しても、トリニティは、私達は受け入れない。そして、ミカ様を殺した事も忘れるな≫

≪ツルギさん…≫

≪あんたも分かってんだろ、あんたとこいつらとは違うって事は。人でなしの生き方に巻き込むんじゃねぇよ≫

≪ネルちゃん…≫

 

殺人を誰かに委ねる事は多数決と固い意志により否決。ジャガーオーグは今までに無い経験にため息をついた。

 

「…そっか。元々コレは僕の役目なんだ。うん。仕方ない。サオリさん、コレ持って。壊れてるけど」

「ジャガーオーグ…?」

 

彼はサオリからナイフと交換する様に自身のスマホをサオリに持たせる。

 

「まだ生きてる?茹でダコ女?」

「私はまだ……まだ!」

「肉体も魂もボロボロでよく喋れる。思ったよりすごいねお前」

「まだ私にはバルバラもアリウスの兵力も……」

「そういうのいいから、これだけ言わせてくれるかな?」

 

赤い右手に刺した虫ピンナイフに手を乗せながら、ジャガーオーグは思った一言を見下ろして告げる。

 

「お前、大人の為の楽園を創るって言ってたけど…自分の幸せ、というか野望の為に好き勝手やるなんて正直SHOCKERと同じだよ。大人未満のケダモノと同類だった気分はどう?」

「おのれ…ギイィィィィ……!!」

 

右手の中指をナイフで縦に割く。悲鳴が心無しか小さく、もはや体力や生命力の限界なのだろう。

 

「幸せの邪魔だから、せめて盛大に死んで彼女達の幸せになってね、ベアトリーチェ」

 

ジャガーオーグはサオリのコンバットナイフを、ベアトリーチェの目玉に向けて高く振り上げる。

 

「そこまでです、ジャガーオーグ」

「……!!」

「…誰?」

 

改造と修羅場を乗り越えて得た五感でも突然現れたとしか認識できない声の方向を向くと、そこにいたのはオーグメントやベアトリーチェとも異なる異形。紙やインクの匂いがする首の無いコートに遺影の男らしき存在。

 

「始めまして、私は『ゲマトリア』のゴルコンダ……。先生とは以前お会いしたかもしれませんので挨拶は省略するとしましょう」

「で、何の用?今コレを殺すから後にしてくれるかな?」

「私は戦いに来たのではありません。マダムを連れ戻しに来たのです」

「…知らないよ。僕の為にもコレは殺すから」

 

ジャガーはベアトリーチェの手の甲のナイフから手を離して、ゴルコンダに軽く殺気を向けるが、どこ吹く風とも言わんばかりに話続ける。

 

「そういう訳にも行きません。それと、マダムの報告書やデータからあなたの正体も分かりました」

「正体?」

「えぇ。バッタオーグ、いえ仮面ライダーでしたか。あなたはその英雄の物語のジャンルの存在である事」

「英雄に物語って…」

 

思い当たる節はあるが、黙って話を聞く事にする。

 

「英雄の物語を構成する要素は幾つかありますが、特筆すべきは『倒されるべき悪』と『それを成し遂げる者』と言った所でしょう。ジャガーオーグ、あなたの場合は前者にあたります。あなたは既にその役割を全うしているのですよ」

 

確かに罪の有無関わらず人を殺し、その殺した家族の生き残りたる仮面ライダーに自分は倒された。

 

「そしてこの物語はあなたが主軸のジャンルではなく先生を主軸としたジャンルですので、その物語が進行中なのにも関わらず他的要素が関わるのはあまり好ましくありません。既に役割を終えているのなら速やかに舞台から退場し、客席から物語の行末をご覧になるべきでした、ジャガーオーグ。あなたは先生や我々と戦う以前に最初から負けていたのです」

「そう言うこったぁ!!」

 

何故物語の目線で語られるかは分からないが、自分の本質らしき物を掴まれているのは気分が悪いというか不気味にも感じる。

 

「…要するに先生っていう主人公に僕が関わるなって?別に元の世界の幸せを取り戻せたらそれでいい。このカス女はSHOCKERの技術をコピーして邪魔になるから殺すつもりだったけど…アンタも技術をコピーする気?ゴルコンダ?」

「あなた自身の技術も興味深いですが本題では無く、既に大量発生型相変異バッタオーグのデータがある以上不要です。しかし、それらを使ってあなたを攻撃するつもりもありません」

「ただし、ここでコレを殺したらその限りでは無いとか?」

 

コンバットナイフを手の中でくるくると回し、いつでもどこかに振り下ろせる事を見せ付ける。

 

「殺害する理由は先程仰った第2のアリウスが創り出される事ですが、彼女にはそれを為す力も無く、キヴォトスにはアリウスの様な土地は他に無い。もはや先生やあなたの敵対者ではありません」

「それでもただ殺したくなったって言ったら?」

「忠告しましょうジャガーオーグ。彼女を手に掛けても意味が無い。このテクストの中での殺人は外敵を増やすだけ、その行為は復讐ではなくあなたの八つ当たりに過ぎませんよ」

「…はぁ」

 

ため息と共にしゃがみながら、手の甲のナイフをやや乱暴に抜き取り、それを使って縦に割けた中指を切り落とす。急所を刺し抉った時と違い、血が流れる様は生きた存在である事を思い知らせる。

 

「ゴルコンダってヒトに感謝しなよ、このいちご大福が…よっ!」

 

小さくうめき声は聞こえたかもしれないが、首から持ち上げたベアトリーチェをゴルコンダの方にドサリと投げられて露骨にぞんざいな扱いを受ける事になった。

 

「あなたは主人公どころか……先生の敵対者でもなく、ただの『舞台装置』だったのです。まぁ彼に殺される事で脇役程度にはなるでしょうが、それも私達の本意ではありませんので」

 

ベアトリーチェを渡されたゴルコンダは彼女を貶しながら先生の方に向き、「この物語の結末はこうではなかった」「友情で苦難を乗り越え、努力で打ち勝つ物語……?」などと物語目線で先生達の結果を見ていた事を語り、それを追おうとした彼らをヘイローを破壊する爆弾の製作者として止める。ジャガーはSHOCKERにもいない奇妙な存在として、動く機会を伺い観察していた。

 

「最後にいいかな?」

「何でしょうか」

 

ジャガーオーグの一声には殺意は無かったので、ゴルコンダは警戒心を緩めて応える。

 

「この物語の主人公はボクじゃないのは理解した。正義の味方に倒される悪人でもある事も。でもボクが幸せの為に進む、そんなスピンオフがあってもいいんじゃないかな?」

「なるほど……私の扱わないテクストにもその様な物語があるかもしれませんね。失礼しました、先生。それでは、また」

 

ゴルコンダ達はどこへとも無く消えて、匂いも気配も追えなくなった。

 

「…ふー。あーあ、殺せなかった」

 

ジャガーオーグは気が抜けたのか2本のナイフを地面に落とし、バシリカの地面にあお向けで倒れる。

 

「ごめんねみんな、あの茹でダコ頭の生首をトリニティに突き出せば罪を許して貰えるはずだったのに…」

「ジャガーオーグ、お前はミカと私達、どちらの味方だったんだ?」

「…『復讐』の味方かな。サオリさんは友達だけど死ぬ時は死ぬから仕方ないし。友達だった人も殺したから何ともないよ」

 

サオリの質問に姿勢をそのまま気の抜けた声で答える。彼女はそこに引っ掛かり疑問を呈した。

 

「それだとお前も復讐の対象になるはずだろう。きっと、私達など目でもない数を手に掛けたお前なら間違いない」

「あー、ボクも結局『復讐』に殺されたんだった…ごめんね風見志郎、政府の人達…。あの子に会うのと君達の復讐は関係ないのに変な寄り道しちゃったよ…」

 

ため息をつきながら、彼の体から弱々しい風が吹いた。マスクの光が消えて力を感じられない。

 

「今日はもう無理…。先生、話があるかもしれないけどしばらく後で頼むよ…」

 

そうして錠前サオリ達は負うべき責任のありか、人外合成型オーグメントの人を殺すマスクと対照的に生命を守るマスク、それらを先生と話し合う。その後彼は助けが必要な生徒の元へ助けに向かう。しかし、ただ一つ違う事があった。

 

「先生…そこにあるバイク、サイクロン号使って…。その方が速い」

「えっと、私バイクに乗った事は無いけど…」

「アシストがあるから気にしない、ほら早く」

 

先生は渋々ではあるが、お姫様を助ける白馬の王子様へと変わり、物語の英雄よろしく疾走するのだった。




ここで殺してたら最終編は無かった
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