「これより、ジャガーオーグに対する聴取の記録を行います」
トリニティ総合学園のとある建物、使われてない寮の長机にてジャガーオーグを始めとする人物が席を囲んでいた。
「…よろしく」
一人はジャガーオーグとして名前を記録されている青年。白いシャツとスラックスでマスクは無く表情はにこやかだが、周囲に振りまく空気感は尋常の物ではない。
「けひひ……」
それに対するは正義実現委員会のリーダー、剣先ツルギ。その凶悪な顔付きだけでも対面している彼を殺せるかもしれない。
「殺すなら一撃で頼むよ、できればここをね」
ジャガーは手錠を付けられた両手で胸の中心をトントンと叩く。程々の厚さの胸板に弾丸を撃ち込めば容易く心臓を貫通することだろう。
「ツルギ、落ち着いて」
今にも銃に手を掛けそうなツルギを隣に座ったシャーレの先生が宥める事で、彼女は憑き物が落ちたかの如く表情を穏やかにして、記録をしているティーパーティーの監察官はホッとする。
「ふー…。すごいね先生、ボクと殺し合ったその子を落ち着かせるなんて」
「生徒を刺激しないで欲しい」
ヘイローの無い相手を生徒に殺させる訳には行かない。気迫をぶつけられてもどこ吹く風のジャガーの存在に先生は不安を感じてしまった。白いシャツを着た大人とも青年とも取れる見た目の彼に何処か違和感を感じたまま、先生と監察官は慎重に言葉をかける。
「これよりティーパーティーの監察としていくつかの質問をします。それらに偽る事無く答えてください」
「私もシャーレとして君に聞きたい事があるんだ」
「大丈夫、分からない事以外はちゃんと答えるよ」
値踏みをするような濁った目で見つめる青年に言葉にできない不安を感じるが、決意を固めて言葉を投げかける事にした。
───
「……次の質問です。あなたが所持していた人間の指のような物は何なのでしょうか」
「アリウスを支配していたベアトリーチェの指。アレを君達の手土産にすればトリニティがボクを受け入れるはず、そう思って切り落とした。本当は生首でも持ち帰りたかったけどね」
なぜアリウスに味方しそして裏切ったか、トリニティに敵意を持っているかなどに続いて突如ツルギが立ち上がり、ショットガンを彼の額に突きつける。殺し合いで見た必要以上に狂った表情が無く、ただ静かに殺せる備えをしていた。
「どうかな、なんて言うまでもないか」
ヘイローが無い存在に銃を突きつける意味は先生が撃たれて生死をさ迷った事も含めて理解している。だがそれ以上に彼は危険だ。さも当然のように人を殺し、その一部を持ち帰る発想はキヴォトスにあってはならない。
「ツルギ、銃を降ろして」
「先生……はい」
「別にいいでしょ先生?ボクは人殺しなんだ、殺しても誰も責めない」
「君のように生徒に罪を負わせる訳にはいかない」
「強情だね先生。で、トリニティはあの指をもらってくれる?」
ティーパーティーの監察官は彼の質問に毅然とした姿で正しく答える。
「いいえ、トリニティ総合学園として功績はあれども人殺しと公言するあなたをゲヘナのように雇い受け入れる余地はありません」
「じゃあずっと閉じ込めておく?…それも嫌かな、暇だし、帰れないし」
「帰るとは?」
「言ってなかった?ボクはキヴォトスの存在じゃない事」
「確かに、あなたの特徴を見ればそれも納得できます。先生と同じ場所から来たのでしょうか?」
「…じゃあ先生に質問いいかな?」
「大丈夫、何かな」
先生は少し身構えるが、落ち着いてそれを聞く。
「あなたはニュースや企業は見てる方?」
「それなりには知っている」
「『石神グループ』『ファウスト』、これに聞き覚えは?」
「……無い、と思う」
「そっかぁ」
『ファウスト』という単語は知ってはいるが、わざわざ別の単語と並んでいる以上噂の銀行強盗のリーダーとは関係無いはずだ。それらを並べたと言う事は、目の前の彼はどこから来たのだろうか。
「まぁいいや。ティーパーティーの君、できれば働く場所が欲しいな。暇もしないし資金も集まる。ちょうどいい職場とかないかな?」
「無い訳ではありませんが、ティーパーティーを便利に扱っていませんか?」
「選択肢なんてそんなに無いと思うけどな」
いくら危険な存在だとしてもキヴォトスの生徒が処刑として殺人を犯すなどもってのほか。追放をしよう物なら野放しにしたせいで何をしでかし責任問題が起こるか分かった物ではない。監禁・拘束も一つの手ではあるが派閥による干渉が厄介、何より戦力を持て余している。
「普段は普通に働いて、適当な戦闘…指名手配狩りとか、正義実現委員会の援軍とかが必要になったら投入するみたいなのは?」
「……お前のような相手は正義実現委員会にいらない」
「ボクの実力はよく分かっているでしょ?」
「それでもダメだ」
委員長であるツルギのお墨付きがあれば実力と危険度は大きく認められるだろう。しかし、相手への印象が良くない以上そこまでの道のりは厳しそうだ。
「信用してくれるまで待つよ、真面目に働いて金を稼げたらいいんだ」
「そうですか……これでティーパーティーからの質問を終わりにします。行きましょう先生、ツルギ委員長」
監察官の生徒は席を立ち、先生達もそれに続くよう促す。しかし先生は以外な一言を放つ。
「これから私とジャガーだけで話をしてもいいかな?」
「危険です!手錠が付いていても人殺しなんですよ?!」
「きぃえああぁぁぁぁ!!」
監察官は驚きと同時に警告をして、ツルギは鬼の形相でジャガーに叫びながら再び銃を向ける。
「私と彼ならきっと大丈夫だよ」
「でも……」
「彼は意味なく人を殺す相手じゃない」
「……危険を感じたら急いで私を呼んでください」
二人の生徒は心配そうに部屋を後にして、大人と青年のみがその場に残った。机を挟み向かい合う彼らには命を奪い合う凶器も殺気も無く、ただ沈黙のみが支配する。そのまま何秒か過ぎるまでお互いを見つめ続けていると、先生が言葉を切り出した。
「ジャガー、いや別の呼び方がいいかな?」
「…!ジャガーでいいよ、今はコレで通しているから」
わずかに驚くがそれでも笑顔を崩さず青年は、ジャガーは気軽に答える。
「君は何者?」
「…それはどんな意味合いで?」
先生の単刀直入な質問にジャガーは困った顔で答えあぐねる。
「君はどこから来た誰なのかを知りたいんだ」
「どこから…生まれとか、アリウスの前にいた組織とか、そういうの全部?」
「それらを知った上で君の扱いを決めたい」
「端折らないと長いよ?」
「それでもいい、全部聞かせて欲しい」
先生の視線は真剣そのもの、彼の姿を捉えて離さない。そのまま5秒過ぎた辺り、目元を抑えて彼はため息をついた。
「はぁ、分かったよ。一から全部言うからさ。でも人払いはちゃんとしてよ?」
先生はタブレットを持ちながらそれに頷いた。
────
とある教会のステンドグラスから照らされる光は、棺の中の少女を迎えるかのようだった。
『なんで、なんでっ!…許さない、許せない!』
『落ち着いてくれ、■■君』
その棺に喪服の青年が嗚咽と泣き声と共に縋り付く。痛ましさを感じさせる姿に壮年の紳士は居た堪れず止めに入った。
『でもっ、ボクが!』
『君のせいじゃ無いんだ、仕方ないんだ…』
青年は顔をぐしゃぐしゃに濡らし、赤く腫れた目で紳士の方へと振り返った。
『ボクが強かったら、武器を持っていたらこんな、こんな事にはぁ…』
『もういいんだ、君は□□の側にいてくれた。だから見つけられた。それで良かったんだよ…』
『それでも、許せない、許せない…。ああ、うあぁぁ…』
聖堂の中に響く泣き声は少なくした参列者の耳から離れる事は無かった。そこまでならただの悲劇の一つとして終わるはずだった。
『■■■■さんですね?』
『…あなたは?』
『□□さんの件、誠にご愁傷様です。さぞ絶望に苛まれている事でしょう』
『これから用があるから退いてくれる?』
『復讐、でしょうか』
コートの裏ポケットに入れたナイフと拳銃の硬さを感じながら怒りを露わにする。
『だから?邪魔だよ』
『法で裁ききれない相手を探偵を使っての情報収集、それでも正しい情報を見通せるとは限らない。それに憎しみがあろうとも1人の能力では目標を1人2人殺害するのがやっとでしょう。それでは復讐を完遂できず幸福には辿り着けません』
『!…どこからそれを』
『私達の力があればそれらを完遂した上で新たな幸福を手に入れられます。いかがでしょうか?』
『…乗った、下手に抵抗するより良さそうだ』
そうして青年は悪魔の誘いに乗った。そこで狂気の技術に出会い、怪物へと至る。
『お前が新しいMaschine合成オーグメント改造の被験者か。第2試作型とはいえクラークやイワン、緑川以上の完成度でperfektな存在にしてやろう』
『ドイツ語?あのカス共だけは殺させてよね。で、どんな改造?を僕にするの?』
『オーグメント改造のModellはもう決まっている。南アメリカの肉食動物Panthera onca、つまりジャガーだ』
「そしたら僕はどうなる、ドクター?」
その発言をもったいぶりながら訂正を促し、その名を告げる。
「ドクトルだ。そしてお前のコードネームは、【ジャガーオーグ】」