「ボクが殺した奴らは、金持ちのバカ息子とかそういう奴らと取り巻きだった。そいつらがもみ消しだかコネを使って、気付いた時には大した事件にならなかったんだよ」
───
『や、やめてくれ!頼むからお願いします!』
『むぐぅ!むぐむがもご!』
『それであの子に手を出すのをやめてくれたらよかったんだけどな…』
薄暗い部屋の中、裸で椅子に縛られた男は泣き叫びながらジタバタと藻掻き、他にも体格の違う何人かが頭に袋を被せられてロープで簀巻きにされていた。それらとは反対に立っているのは大きな鋏を手に簀巻きの人間を見分するマスクの異形、コードネーム『ジャガーオーグ』がいた。
『コレがお前の父親、母親、兄とその家族だったか』
『何でこんな事するんだよ?!おい!』
『あー、お前の家族がいたのは偶然。僕もお前らに家族を奪われたから同じ様にやってみようかなって』
もちろん犯したりしないでただ殺すだけ、と加えながら鋏からジョキジョキと金属音をわざとらしく鳴らす。
『分かりやすいのは手の指だよね、いやあの娘の顔も酷い事になっていたから顔のパーツを先かな?』
『やめろ!今ここでパパから手を離したら好きなだけ金をやるからさ!』
『いらない、あの子から奪った全ては僕らに返せないだろ?だからそれ以上をここで返せ』
ジャガーオーグは簀巻きの男を足から掴み立ち上がる。鋏を右手で持ちながら左手で掴まれ逆さまに身体を揺らす姿は屠殺された家畜を思わせる。
『拷問の時は指が一番痛いらしいね』
大型の鋏を片手で足の親指に合わせるのは手間ではあるが不可能ではない。しっかりと研いだ刃を改造された腕力で力強く縦に握り下ろした。
『ぐむ?!ぐむうううう!!』
ボタ、ボタ、ボタと温かい雫が鉄の臭いと共に服を伝う。続いて2本、3本と切り潰し片足の指は10本に分かれていた。
『むー!むー!』
『?』
それを聞いていたのか他の簀巻き達もどうにか逃げようと抵抗するか、怒りを表現しようと抗議の声を上げ、何も分かってないけど怖い事だけは分かる小さな簀巻きもいた。
『チェーン下ろして』
要望が外部に聞こえたのか、無機質な鉄の鎖が天井からUの字に降ろされる。そこには鉄のフックが取り付けられ何かをぶら下げるのにぴったりだ。
『よいしょっと』
簀巻きの足に巻き付けたロープからフックに引っ掛けると、まるで屠殺された家畜に似た無様な姿になった。血に塗れた服と合わさってより哀れな獲物に見える事だろう。
『おい、パパに何するんだよ!』
椅子に縛られた男と宙吊りの簀巻きの距離は1m程、何があったかをよく観察できる特等席だ。
『解体ショーって見た事ある?』
『えっ?…やめろ、やめろやめろやめろ!!』
ジャガーオーグは鋏の次に牛刀の様な刃物を取り出す。それを簀巻きの男に向けて握った。
───
「もういい、やめて」
「ここからいい所なのに、あいつに内臓食わせて吐いた時は…」
「もう一度だけ言う、やめるんだ」
先生の気迫はベアトリーチェに向けられたソレに近い。オーグメントと言えどもこれ以上相手を刺激する理由にはならず、大人しく引き下がった。
「…はぁ、ならここまで。こんな風にあの娘以上の苦しみを味わってもらったけど、それでも幸せになれなかった。だけど、そこから提案を持ち掛けられた」
───
『ジャガーオーグ』
『…なんだよ、もう全部終わったんだ。後はあの娘の所に行くだけだよ』
『そこで朽ち果て泡になるだけか?お前に提案がある』
『提案?』
『これだ』
とある邸宅、マスクを外した青年は書類の束を受け取り、じっくりと確認をする。
『人工子宮、クローニング…それって、また□□に会えるって事?』
『その通りだ、しかし条件がある。これより正式に私が編成する部隊、DESTRONの傘下となれ』
『そこで何をすればいい?』
『お前の能力を活用し、敵対者や目撃者の暗殺を行え。私が設計したのだから簡単だろう』
『関係ない人を殺すのか…』
『でなければ彼女に会えない、さあどうする』
『…分かった、やるよ』
『ならこれを受け取れ』
青年は悪魔の誘いに乗った。資料を置き、ドクトルが手渡したソレを受け取る。真新しい鋼の匂いがする籠手、もしくは手甲を左右の腕に取り付け重さと着け心地を確かめる。
『スイッチを入れてみろ』
その通りに手の甲辺りにぶつかる感触をそれだと認識し、カチリと機械的な音と共に長い刃が飛び出した。
『これは…いいね』
その刀身に映る獣は、血濡れた姿で仄暗い期待を抱いていた。
どこかで、肉と骨を切り裂く音がした。
───
「それがボクという獣、ジャガーオーグの正体だ」
先生は無言で彼を見据えていた。悪事に走る生徒、自分と相容れない悪い大人は見てきたが、直接的な殺人という手段に走る存在と対峙した経験は無いはずだ。
「一応言っておくけどキヴォトスではバッタオーグ以外誰も殺してない、それは確かだ。アレはボクの世界の存在でほとんど死んでたからあなたが気にする事じゃない」
「それでも君はサオリを殺させようとした」
「復讐は当然だと思ったけど…ここでは違うらしいね」
青年は机に両腕を肘から置いてため息を吐く。
「で、ボクをどうするかは決めた?殺すなら今のうちだよ、正義の味方」
「私は正義の味方じゃないかな。でも、少なくとも生徒の味方ではある」
「なるほど…生徒の味方なら罪を犯したでも味方、だからあなたを撃ったサオリさん達の味方にもなった。だったら尚更マダムオーグを、ベアトリーチェを殺しておけばよかったのに」
「仮にそれが正義の味方のやり方としても、私は生徒の為のやり方を選択するよ」
「そっか…やっぱりあなたと殺し合うのは何か違う気がする」
青年の言葉には感心と期待外れが混ざっていた。それに先生は油断する事なく己の在り方を真っ直ぐ答え、彼の真意を聞き取る。
「君は、このキヴォトスで何をしたいんだ?」
「ひとまずあのいちご大福には落とし前は付けた。その後は帰る為の手がかりでも探すつもり。ここでもっと力を付けたり楽しめるに越した事は無いけど、やっぱりあの娘に会いたいからね」
「……戻るって事はつまり」
「また誰かを殺すかもしれない?それについては…分からない」
先生は彼が元の世界に行った先でまた罪を重ねる事を危惧しているのだろう。それに対しては答えを濁すしかできない。
「元の場所がどうなってるのか予想が付かない。SHOCKERが政府を掌握するなり都合よく進むならいいとして、あの仮面ライダーは、知らないオーグメントは危険すぎる。最悪DESTRONもSHOCKERも食い荒らされてあの子はもう…」
最悪の想定と共に頭を抱えたくなる。多幸感に溢れる事と新しい幸福を得られない心配は共存できるようだ。
「それでもボクは戻る。あの子を確認してその上でやりたい事をやる、それ以外はキヴォトスで思う所は無いよ」
「それなら約束して欲しい事がある」
先生は真剣にそれを誓わせるべく一言を告げる。
「生徒達を絶対に殺さないで欲しい」
「…言うと思った」
青年は予想通りすぎる発言に納得して小さく笑う。
「相手がボクを本気で殺しに来たらそれは守れない。それを除いていいのなら約束するよ」
「それではダメだ。生徒達を手に掛けたりそれを強要したら君はベアトリーチェと同列、それ以下の存在になり下がる」
「あなたからどう思われても別にいいけれど…」
「もしそうしたら、私は君を敵として全力で対処する」
「…これ以上は幸せになれないのは分かった、生徒は殺さない。けど大人は知らない、それでいいかな」
「できれば意図的に誰かを殺さないで欲しいけどそれでいい」
少しの妥協が入ったが、なんとか約束として持ちかけられた事に先生は安堵する。だが、話はこれで終わりではない。
「他にも聞きたい事がある」
「あのマダムオーグの情報は大して知らないよ?」
「いや違う」
先生はタブレット端末を取り出して新しい話を切り出した。
「ベアトリーチェと戦っていた時に君から他の生体反応を確認した」
「…」
「ネル、ツルギ、ヒナ、そしてミカ。どうして君が生徒達と同じ反応を出していた?君は、彼女達に何をしたんだ?」
「それかぁ」
復讐が終わったから狂気は控えめ