オーグメントと青春   作:鳥鍋

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ずっと忘れてた

 

判決は下った。諸々の功罪を鑑みて経過観察処分としてトリニティでの労働を課される。トリニティらしいデザインのきっちりした書類にそう書いてあるのを確認しながらジャガーオーグはテラスの彼女を見た。

 

「それで、わざわざこちらまで伺いどのような要件なのでしょうか」

「労働だからね、ボクの力をティーパーティーに売り込みに」

 

アフタヌーンティーセットを並べた机でティーカップを片手にトリニティ総合学園のトップ、ティーパーティーの桐藤ナギサは笑顔を崩さないようにジャガーオーグを見る。彼はキヴォトスに来た時のまま、マスク含めて元の姿でテーブルから一歩離れて立っている。

 

「売り込むと言われましても、トリニティには正義実現委員会を始めとした戦力が既に揃っている事はアリウスやゲヘナにいたあなたもご存じではありませんか?」

「そうなんだけどね…ボクの事はだいたい調べがついているでしょ?」

「えぇ。セイアさん達サンクトゥス派があなたを酷く警戒していた事も、アリウス生徒のマスクの大元を持ち込んだ事も……アリウスの大人ベアトリーチェの指を私達に押し付けた事も」

 

ナギサはティーカップをソーサーに置き、厳しい目でジャガーの起こした事を淡々と並べる。

 

「自分の事ながらどれもトリニティに厄介すぎる…。だからこそボクを売り込む、というかティーパーティーで管理してくれると助かる。バカ共やカス共がボクで何をするか分からないでしょ?」

「言い方はともかくあなたは私達という後ろ盾が必要と言いたいのですね」

「そういう事。正直、装備面とかサポートが欲しいからね。そのサポートの代わりとして何か仕事や頼み事をボクにすればいい」

 

悪意ある言い方だが、自分に必要な事を正直に語る。それでもナギサの態度は厳しい。

 

「頼み事と言いましても、そもそもあなたを信用してもいいのでしょうか」

「仕事なら失敗してないよ?」

「いえ、疑っているのは能力ではなくあなた自身の人柄と行動です。アリウスを裏切り大人とはいえ相手の指を切り落とした相手を信用できると思えますか?」

「ナギサさん、君はあのカスとは違う。ボク達を切り捨てて勝手に化け物になるようなアレとは」

「セイアさんが警戒する時点であなたも十分に化け物では?」

 

ジャガーの表情は見えないが、下がった声色で返事をする。

 

「…今更だよ。それより話を進めない?」

「えぇ。私達の手が届く範囲に存在してくれるのならば構いませんが、それ以上の関係をティーパーティーと持つべきではないでしょう」

「化け物を飼ってるのが外聞的に良くない、いや…指を持ち帰ったから頼み事をしたらやり過ぎてしまうのが怖い?」

「私には相手を必要以上にいたぶる理由も趣向もありませんので」

 

「そっか…」と言いながら困ったような素振りで右手を頭の横に置いて多少うつむく。素振りだけでは本心は見えないが、耳が痛い事実だったのだろうか。

 

「…なら、監視の目がある仕事を振り分けてくれたらそれでいい。正義実現委員会のサポートとか、普通のアルバイト先とか」

「それなら用意できますが、くれぐれも本性は隠すように。でないとティーパーティーでも擁護はできませんので」

「ついでに指名手配犯でも教えてくれるかな?財布の足しにしたいからね」

「……相手が犯罪者でも本性をぶつけないように。勝手に行動せず逐一報告をしてくださいね?」

「そこまでボクを気にしてくれる組織の人も珍しいよ。こことゲヘナ以外知らない」

「むしろあなたが所属していた場所が人員の管理をしていないのがおかしくありませんか?」

 

ナギサは引き気味で彼の性質が形作られた原因を察した。だからこそ猟奇的な物を自分達に押し付け、ミカに殺人を強要した大人らしき相手が恐ろしくそして許せない。

 

「アリウスはともかく、『あそこ』は軍隊じゃないし。噂のシャーレも似たようなモノじゃないの?」

「似ている?」

「ボクも先生もその生徒も、実質好きにやれる権利を持ってる。ドクトルには縛られてたけど、一応自分の意思だし」

「あなたは……『何』に所属していたのですか?」

「えっと…『計量的な知能の埋め込み改造により持続可能な幸福を目指す組織』だったかな。今からトリニティの所属になるから気にしなくていい」

 

更に怪訝な顔をするナギサの前で、わざとらしく咳払いをして自分のペースに持ち込んだ。

 

「改めてボクはジャガーオーグ。得意な事は潜入と闇討ち、五感の鋭さには自信がある。給料をくれるなら好きなように扱っていいよ」

 

───

 

「ふぅ……」

「ナギサ、彼と話したそうだね」

「セイアさん……とても緊張しましたよ……」

 

ジャガーオーグが去ったテラス、遅れてやってきた百合園セイアは椅子の一つに座って緊張の糸が切れたナギサを労おうとした。

 

「大人とは何度か話す機会がありますが、表現しづらいけれど確実に彼は先生とは何かが違いました」

「ふむ……アリウス以上の殺気とでも言うべき物と、獣としての敵対者を排除できる姿勢。それらを君は感じたのではないかな?」

「殺気だけでも厄介ですが、獣とは?」

「彼は獣としての要素を強く組み込まれている。故に市民よりも感覚が鋭く、アリウスの生徒達より容赦が無い」

「それは……。いえ、報告にあった殺意を強化するマスク。その力が私達にそう見せてたのでは無いでしょうか」

 

ナギサが両手で若干強くティーカップを包む。恐怖と緊張で震えた体を温めるかのようだが、セイアは先程の予想を否定した。

 

「それは違う。彼の力は元からあった、いや肉体に組み込まれた。そう表現したほうがしっくり来るんだ」

「……?!まさか人体改造?アリウスにはそのような技術の報告は…バッタオーグ!ですがそれは……」

「アレはアリウスの技術では無い。生徒達もそう言っていたのは嘘では無いだろう。名称と特徴からしてつまり……」

「出どころは同じと言う事ですか。しかしそのような技術はミレニアムでも倫理的に行われるかどうか」

「考えられるとするなら、外の世界……だとしても私達には手が届かないのかもしれない」

 

どこか遠くを見るように彼が不可解な存在だと噛み締めるが、意識を変えて目前の話に持ち込む。

 

「結局彼との話し合いはどうなった?」

「ティーパーティーと正義実現委員会管理の元、職場の斡旋と指名手配犯の情報提供、トリニティがいつでも自分を切り捨てられるようにと契約の解除をのタイミングを約束しました」

「監視の目を持ち込む事に異論は無い。トリニティが彼を切り捨てた先は我々が知る事では無いから契約としては間違っていないだろうが……やはりトリニティから手が離れた後でも彼を野放しにしてはダメだ。少なくとも信頼できる受け取り手が見つかるまでは」

「セイアさんがそこまで危険視するなら管理体制を厳しくしなければなりませんね」

「それだけじゃない。彼は何か大事な物を我々から奪った気がしてならない。そしてミカから感じたアレは……」

「ミカさんからの報告は『アリウススクワッドかベアトリーチェの生首でティーパーティーに復権できる』と……」

「アリウス自治区で聞いたそれは冗談には感じなかった」

「やはり……」

 

ティーカップを握る手が強くなる。セイアはナギサの纏う気迫に驚く事なく現状を告げた。

 

「少なくとも今すぐには問題ないはずだ。今のところ彼を首輪で縛り付けている。そのまま何事もなく飼い殺しに、いや、あのイメージがある限りは……」

「セイアさん?」

「ナギサ、彼の耐久力は私達より低い。そのまま私の見た未来通りならばいずれ片がつくはずだ」

「そうですか……。では危険な依頼も時々入れておきましょう」

「あからさまに見えないよう注意してくれたまえ」

 

ティーパーティーの2人は獣をどう飼い殺すかを目標に事を進める。しかしセイアはナギサには共有できない感覚を振り返っていた。

 

「ミカから感じた喪失しているなにかはやはり、美甘ネルと同じ……いや、ここからはナギサにどう言えばいいのか……」

 

───

 

「ただいま」

≪誰もいないのに?≫

≪でも言うでしょ?≫

 

ジャガーオーグは玄関を開けて、アリウスの時よりも大きな部屋で荷物を下ろす。トリニティ自治区のフラットタイプの集合住宅、ティーパーティーの計らいによりその一室を住まいとして彼に提供された。

 

「交渉はあれで良かったのかな?」

≪セイア様がお前の事を恐れている中で、ナギサ様に力をちらつかせるな……≫

「はぁ…得意じゃないからねああいうの…」

 

上着や装備を外してもマスクは外さず備え付けのソファで背もたれに寄りかかる姿は恐れられてる者としては威厳がない。それでも殺人者は殺人者だった。

 

「トリニティにはカス共が多いから活躍できると思ったけどね……。特にミカちゃんは復讐仲間だしあの状況はね」

≪そんなモン、勝手に入れるんじゃねえよ≫

「はぁ…カスは存在がマイナスだから殺した方が得なのにね」

≪ジャガーオーグ、あなたは人を殺す事が目的からズレている。聖園ミカを助けるという大義名分すら立てていない殺人者の存在を私達も先生も許しはしないわ≫

「…はぁ。じゃあ先輩みたいにおしおきで留めておくか」

 

獣は自分の行いをネルとヒナに否定されて少し落ち込むが、反省はしなかった。

 

≪感情、いや思考が抑制されているわね≫

≪やっぱ洗脳って奴はクソだな≫

「だからこそカス共を殺せた、後悔はしてないよ」

 

せいせいとした感覚でソファから立ちあがり、ジャケットをハンガーポールに引っかける。その途中で上着の内ポケットから光る何かを見つけた。

 

「あ…ずっと持ってたのに忘れてた」

 

傷つけないように丁寧に取り出して、表面を手で拭う。アクリル板のような物でカバーされたそれに写されていたのは、静かに微笑みを浮かべる少女。気品と明るさを感じさせる彼女にはヘイローが無い事にプラーナ達は気が付いた。

 

「あぁ、そっかぁ…。ここでプラスにならない殺しは彼女の役に立たないんだった…」

≪へいへいそうかよ≫

「…いつか戻ったら、カス共がいない綺麗な世界で一緒に暮らすんだ。君達も一緒に来る?」

≪勝手に帰ってろ、あたしは興味ねぇ≫

≪……ときめくのにときめかない≫

 

ジャガーオーグは自分の原点を思い出した。彼女の微笑みがあるなら道を大きく逸れないだろう。

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