燃え盛る火の海の中、人の気配すら漂わぬ死の大地の只中。
「セイバー、召喚に応じ参上しました」
迫り来る数多の骸骨をその手に持った不可視の武器のもと、一刀にて切り伏せたその存在は、身体を起こした己が召喚者であろう傷と泥に塗れ、血が染みた左腕を抑えた男に振り返る。
青年というにはまだ頼りなく、少年というには少し幼さに欠けるどこにでもいそうな男。およそこの様な地獄にいるとは思えぬ凡庸な者。それがその存在がこちらを見る男に抱いた印象だった。
「問おう」
圧倒的な力を携え、こちらを見下ろす力強い視線に射抜かれた男はあまりの迫力、そしてこれまで我が身に降りかかった出来事を受けて微動だに出来ずにいた。
そんな心情を知ってから知らず。その者は確かめる様に、そして試す様に男に言葉を投げかける。
「貴方が私のマスターか」
人理修復という果てのない旅路。その始まりの一歩。
ーーー男はその日、運命と出会う。
「ヤバい、ヤバい!ヤバいヤバいヤバイヤバイヤバい!!」
ガラガラと音を立てながらこちらを追い回してくる骨達が持つ得物から身を交わしながら、自分ーー『小鳥遊 勇人』は先程矢を掠めた左腕を抑えながらあてもなく火の海の境を走っていた。
「マジでなんだってこんな目に……!?」
量子ダイブ、魔術、レイシフト、マスター適性者、カルデア。
あれよあれよと訳のわからないまま標高ウン千mの雪山に作り上げられたらしい巨大な施設に放り込まれた挙げ句、その上聞き覚えのない単語ばかりを念仏の様に唱えられ、いざ集められたとなると隣で居眠りしていた同年代の男に巻き込まれる形でその施設の所長である女性によって一緒に会議の様な場から放り出されるという理不尽な目に遭い。
不貞腐れて施設をブラブラと見学していた時、急な衝撃が来たと思えば施設中がサイレンやら振動やらでもう大変。
色々考え、来た道を戻って管制室とやらの扉を開いたと思えばそこもまぁぼうぼう燃えてて。あまりに現実離れした光景に立ち尽くしてたら変な光に包まれ、気づいた時には災害現場の真っ只中。
しかも周りには物騒なものを持った骨の山。しかもそいつらが問答無用で襲ってくると来たもんだ。
「ふざけんな、こちとらただの一般人だぞっ!?」
口から自然と溢れる悪態なんてお構いなし、降るわ迫るわ矢、槍、剣。
どう考えても当たれば無事じゃ済まなさそうなものからなんとか身を交わし、必死になって逃走する。
『ーーしもし! もしもし!!』
そんな時、左手に付けられていた通信機器から雑音が薄れつつある声が響いた。
「っもしもし!? なに、なんだよこんな時に!?」
『よし、繋がった! もしもし、こちらカルデア管制室、ロマニ・アーキマン!繰り返す、こちらカルデア管制』
「誰でもいいよ、もう! なんか用!?」
『っすまない、小鳥遊勇人君っ、で間違いないか!? マスター候補の47人目、一般から招集された……』
「多分それ!! あんたこのカルデアの人だろ!? だったらこの物騒な訓練止めてくれよ!!」
自分からすればいきなりのよくわからない実践訓練。しかも相手は止まってくれない。足を止めたらどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。
『すまない、こちらからはその事態を止める事が出来ない』
「っふざけんな!! こんな訓練死人が出るぞ!? 実際こっちはすでに怪我して……」
『……落ち着いて聞いてほしい』
帰ってきた返答にカチンときて、思いっきり吠え叫ぶ。しかし帰ってきた声はいたって冷静で。
『ーーーそれは、訓練なんかじゃないんだ』
どうしようもなく、苦しそうな声だった。
「はぁ……はぁ……」
なんとか骨の山を撒き、近くにあった火の手があがっていないご立派な日本家屋に土足のまま逃げ込み腰を下ろす。
「2004年……冬木……レイシフト……嘘だろ?」
既に通信のきれたロマニ某から簡潔に受けた説明をまとめ、絶望感から頭を抱える。
何かしらによって起きた爆発に巻き込まれた46名のマスター候補達。それらを集めたカルデアという組織が観測した2016年以降の人類の絶滅。その原因となる特異点。それを調査、解明するためのタイムスリップもどき。
……その実験に巻き込まれ、こうしてこの場所に送り込まれた自分という存在の立ち位置。
「……どうすりゃいいんだ」
あまりに無力、あまりに無慈悲。
「そんなの、自分に何が出来るんだよ……」
だが、聞かされたのは何も悪い事ばかりではない。どうやらこの地に飛ばされたのは自分だけではなく、どうやら一緒にあの会議から叩き出された居眠り男こと藤丸立香もここにいるらしい。しかも傍らには強力な味方、サーヴァントなる存在も一緒だとか。
「……すぐにでも、合流しないと」
サーヴァント。英霊と言われる伝承として語り継がれる名を残した、または伝説として刻み込まれた偉人、英雄達。
それらを召喚し、契約を行う事で自らの使い魔とする。いわば人類の歴史が生み出した最強の助っ人。
藤丸が一緒に行動するサーヴァントは、聞く所によると普通の英霊とは少し違うみたいだが。
ともかく、今の無力な自分が1人で彷徨うよりは何倍もマシだ。教えられた方角に向け急いで移動しないと。
『ーーーッ!』
「な、うっ、そだろ!?」
しかし、いつのまにか自分を見つけたさっきの骸骨たちが、豪快な音と共に部屋になだれ込む。急いで立ち上がり、外へ向かって走り出す。
『ーーッ!』
「やばっ、ゴッ!!?」
庭に飛び出た瞬間、真横で待ち伏せていた骸骨の振りかぶる右腕が迫っていた。
咄嗟に腕で防いだものの、肉のない骨だけの細腕とは思えない力で庭に備え付けられていた倉庫の様な所に吹き飛ばされた。
「ぃ、グ、がっぁあっ……!」
痛い、痛い、痛い、痛い。
ビリビリと力の入らない腕は折れているかどうかわからないが、全く言う事が効かない。
「ッ、……ーーっ」
そして、顔を上げてみるとこちらに向かってジリジリと距離を積めてくる骸骨。
手に持った武器は遠くに燃える炎の輝きを鮮明に捉え、ギラギラとした殺意を覗かせる。
逃げ場はもう無い。唯一正面にある出口も、既に骸骨が近づいて通れそうも無い。それどころかあまりの痛さに情けないことに立つことすらままならないらしい。
「ーーー」
死ぬのか、と。心の中でそんな確信が固まりつつある。動けない無力な人間、敵対する人外の存在。くるはずもない助け。
誰がどう見たって、助かる道など残っていない。
「ふざ、けんな……!」
しかし、込み上げてくるモノがある。
痛む腕を動かして、血が固まりつつある左腕の傷口を抑え、抑え切れない感情が口を動かす。
力の入らない身体を動かして、爆発する様な想いだけで無理やり身体を起こし、目の前の敵を睨みつける。
「死んでたまるか……こんな、所で……!」
喉を震わせ、生ける屍達が迫る中、死にかけていた身体が息を吹き返す。知らずに眠っていた魔術回路が身体中を走り。
ーーーそして、男が気が付かない内に、傷口の上で握りしめた右手に『何か』が浮かび上がる。赤く、血の色に似た紋様。複雑な、しかしなぜか在るべきだと思われる形が刻み込まれていく。
「死んで……ッ」
諦めも悪く声を絞り出したと同時に、限界まで近づいた骸骨の群れが勢いよく男に迫る。
しかし、骸骨達が男に触れる事は叶わなかった。
「ーーーフッ!」
『ーー!、……ッ!?』
突如、何者かが男と骸骨達の間に挟まる様に身体を滑り込ませ、瞬く間に襲いくる敵を一息に粉砕した。
「……え?」
「セイバー、召喚に応じ参上しました」
ガラガラと砕け散り霧散する骨の残骸の音と、凛とした声が自分以外の人間がいるはずのない倉庫に響く。背を向けたまま、こちらに話しかけてくる存在に目を向ける。
そこに立っていたのは、煌めく金色の髪を特徴的な形に結い、青いドレスを纏う小柄な少女だった。小さく、しかし溢れる様な心強さを感じる背中に、1人で逃げ続けた男に安心感を与えるには十分だった。
ーーー『聖杯』という名の願いを叶える願望の器をめぐり、七騎の英霊とマスター達によって巻き起こる『聖杯戦争』という殺し合い。
男が立つこの地こそ、その死闘が繰り広げられた戦地。あるいは、その可能性が含まれたいつかの場所。
「問おう」
男が無意識に行ったのは、サーヴァントの召喚。特異点となった冬木を支配する存在へのカウンター。そして『土地』という縁によって引き寄せられ、男の呼び声に答え契約した一騎当千の英霊が一柱。
背にする存在に向き直った少女は、その輝く瞳で勇人を射抜く。見目麗しい、この地獄の様な場所に降り立ったのが不思議とすら思える可憐な少女。
しかし、その口から発せられる声は力強く、有無を言わさぬ程の気迫を感じる。
「貴方が私のマスターか」
男を見下ろすセイバーと名乗る少女。そして、その少女を見上げるマスターと呼ばれた男。
果ての無い輝ける旅路。その始まりの幕間の物語。
騎士王殿、第一再臨でこんにちわ。色々設定考えてましたけど、とりあえずこんな感じでどうっすかね。
土地の縁、場所の運、カルデアサポート。その全てが交わった結果座よりご案内された王。でもヒロインというわけではなく、完全に王とその従者にする予定があったりなかったり。
もしヒロイン作るとなると2部6章キャストリアになります。事あるごとに見てしまった主人公の心に出てくる王としての自分の在り方に焼かれ、比べてしまい、しかしそれ故、そんな自分をアルトリアとキャストリアで明確に分け接してくれる主人公に惹かれていくなんて感じになるんじゃ無いかなと。知らんけど。