「……根拠も無ぇ、説き伏せるだけの舌も持たない。それでこのオレが納得するとでも?」
「そこまでは正直」
「はぁ? じゃあなにか、お前がオレに示せるのは、サーヴァントに対する信頼だけってか?」
「……突き詰めたら、そうかな」
そこまで言いきったところで、訝しむ様な、呆れる様な視線がキャスターから向けられる。
そんな視線を向けられても、本当にキャスターに示せるものと言えばそれぐらいしか自分には無い。それ以下は存在しないけど、これ以上も持ち合わせていないんだ。できればこれで
「……ブッ、く、ッハッハッハッハ!」
しかし、これまでこちらに向かって鋭い視線を送っていたキャスターが、まるで堪えきれないと言わんばかりに笑い始めた。
さっきまでの張り詰めた空気がプスリっ、と抜けていく様子に我々一同唖然。セイバーまでビックリするあまり何事かと表情を変えるが、当のキャスターは未だに大笑い中。
一体何がキャスターのツボにハマったのか、余計に混乱してしまう。
「悪ぃ悪ぃ。信じる、ねぇ……まさかここに来て感情論とはな。予想外……いやぁ? この場合、期待通りって所か」
ひとしきり笑った後、キャスターが自分に向けて笑顔を浮かべながら近づいてくる。手に持っていた杖をいつのまにか収め、ポンポンと肩まで叩いてくる始末。これまでとは余りに違う雰囲気に、流石にちょっと怖くなる。
「すまねぇな。なるべく戦いにモヤっとしたのを持ち込みたくなくてな、ちょっとばかり確かめさせてもらった」
「試す……?」
「あぁ、オレも正直あのセイバーとこいつが別だってのは分かってたんだが……あの騎士王様が契約したマスターがどんな奴か、試してみたくてね」
キャスターの言い分としてはこうだ。先程まで観察していた藤丸やマシュに関してはある程度認めており、手を組む事にはなんの異論もない。セイバーに関しては言わずもがな、名実共に文句なし。
しかし、その騎士王のマスターを名乗る人間、つまり自分はどんな奴か。キャスターが知りたかったのはそこだったらしい。
というか、キャスターは2人のセイバーが別人だっていう事は知っていたらしい。そう言えばさっき、『白だ』とかなんとか言ってた様な……。
「個人的な感情で動くなんざ魔術師としては失格だろうが、マスターとしてはギリギリ合格だ。生意気にも一本筋が通ってやがる」
「って言う事は……」
「おう、時間をとらせて悪かったな。これなら仕事に文句はねぇ。キャスター『クー・フーリン』、これより遠慮なく腕を振るわせてもらう!」
隣で聞いていた藤丸の声にキャスターが笑いながら答える。そして、これまでひた隠しにしていたその真名を堂々と明かすり
「クー・フーリンって言うと……!」
「はい、先輩! クー・フーリンといえば、アイルランドにてその名も轟く大英雄! 魔槍ゲイ・ボルクとルーンによる魔術を自在に操り、様々な武勲を打ち立てたとされる一線級の英霊です!」
「まぁ、肝心の槍は今持ってねぇんだけどな……」
どうやら藤丸にはその名前に聞き覚えがあるのか、マシュのやや興奮気味な解説にもうんうんと頷いている。
かくいう自分はあんまり聞いたことがない。やっぱり無事に帰れたら伝説や神話とか一通り調べといた方が良いのだろうか。このちょっとした盛り上がりについていけないのがほんの少し悲しい。
「どうして今になって真名を?」
「一応信頼の証、とでも言っておくかね。それに、そこのセイバーには既に知られてるんだ。どの道遅かれ早かれバレるのなら、自分から言っておいた方がお前さんたちも楽でいいだろ?」
「それは……そうだけど」
所長さんがクー・フーリンに
そう、信頼の証。真名をバラすにはリスクが伴う。それを告げたという事は、クー・フーリンなりに自分達の事をちゃんと認めてくれたという事だろう。
「セイバーも悪かったな。つまらん事だろうが、こっちもマスターに対しては色々思う事もあるもんでな。さっきも言ったろ、背中を預けるなら確証が欲しい、と」
「……いえ、ユウト達が何も言わないのであれば、私から特に言う事はありません。それに貴方が味方になるというのなら、この私も心強い」
「オレもだ、セイバー。騎士王の剣、こちらも頼りにさせてもらう」
だが、これでようやく一歩前進。カルデアの人達と合流し、現地にいたサーヴァント、クー・フーリンも協力者として参加。
戦力は十分。これであとは冬木のセイバー……もう1人のアーサー王の元へ向かうだけ!