「さて。戦力も上々、親睦も深めた所で、そろそろセイバーの所へ殴り込みに行くか」
「はい! よろしくお願いします、クー・フーリンさん!」
「おっと、それから。仮にとは言えボウズはもう俺のマスターだ。こっからはさん付けも敬語も無しにしようや」
クー・フーリンの言葉に元気よく声をあげる藤丸だが、その声を聞いて待ったをかける。あくまで対等に、これからは同じ目的を共にする仲間なのだと提案する。
「……わかった。よろしく、クー・フーリン!」
それを聞いて、藤丸は嬉しそうに頷いた。
「ちょっと、まるでピクニックみたいに言わないでよ。それに、相手が何処にいるかなんてわかってるの?」
「当然。奴の根城は既に把握してる。あの野郎、ここ最近は頑なに動こうとしないからな」
そんな2人の会話を聞いた所長さんが、クー・フーリンに冬木のセイバーの居場所を問い詰める。
彼が言うにはしばらくは一定の場所からは移動する事はなく、もっぱら自身の手先であるサーヴァント達を動かして何かを探させてばかりだったらしい。
「この街の心臓部。あそこに見える山の地下にできた鍾乳洞の奥……『大聖杯』に、奴は居る」
そう言いながら、ゆっくりと一つの地点に指を指す。彼自身も特異点の原因だとあたりをつけ、なおかつ冬木のサーヴァントを纏めるセイバーが陣取る、大聖杯なる場所を。
クー・フーリン先導の元、目的地の洞窟に向かう。前衛にクー・フーリン、中衛にマシュと自分達。そして殿にセイバーが請け負い、たまに出てくる骸骨をあしらいながらぐんぐんと進んでいく。
しかし道中無言で進んでいるのも寂しいのか、ここに来て自己紹介以外何もしていなかった同じマスター適性者である藤丸と会話している。
「……嘘だろ、藤丸ってそんな良い加減な方法で連れてこられたのか?」
「うん、まぁ。あんなに必死になって困ってるって言われると、つい……。あと、立香でいいよ」
「え、なんか呼び方の響き的に藤丸のほうがいい」
「なんで?」
そう言って困った様に笑う藤丸に、開いた口が塞がらない。
と言うのもなんとこの藤丸立香、ほとんど拉致同然でカルデアまで連れてこられたらしく、たまたま訪れた献血を終えた所にその場に居合わせたよくわからない人に半泣きになりながら説得され、しょうがないかと嫌々頷いた瞬間布を被せられて即時連行されて連れてこられたらしい。
藤丸に頼み込んだ人の正体はカルデア到着後、目覚めてすぐに出会ったマシュと、その場に居合わせた教授さんによって日本に派遣したカルデアのスカウトだと知らされたとの事。
一歩間違えば人攫い……いや、何も間違えていない、ただの人攫いである。本人の同意があったとはいえ、果たして藤丸家の両親にはこの説明がなされているのかが疑問だ。
「勇人さんは、どうやってカルデアに?」
「自分の場合も似た様な感じかな。……藤丸みたいに無理やり連れてこられる事は無かったけど」
「あはは……」
恐らく方法は藤丸と同じ。学校近くに来ていた献血バスで血を取られたが、実際はアレで色々と検査をしていたのだろう。
恐らく藤丸に聞いたマシュやその教授さんの口ぶりから察するに、日本のそこかしこで同じ様な検査が行われていたのかも。
しかし藤丸がほとんど着の身着の儘連れてこられたのに対し、自分の場合は一応両親にも突然我が家に訪れた黒服の人達が国家承認の施設に行くという話を通していたし、それなりに用意の時間も貰ってカルデアに来た。
もっとも、出発する空港に着いた時には企業秘密云々という事で目隠しやらなんやらをさせられのだが。
そこでふと考えてみると、藤丸のマスター適性者としての番号は48。集められた候補者の中でも一番最後だった筈。……という事は、もしかして本当に期限ギリギリの所を無理矢理引っ張ってこられたという訳ではなかろうか。
どうりでスカウトさんも必死な訳だ。刻一刻と迫るタイムリミットで何としても人を集めなければならない中、そこでようやく見つけた人間。逃すわけにもいかないし、かと言ってしっかり説明している時間があるわけでもない。
恐らく藤丸にその場で説得を持ちかけたのも、ほぼ賭けだったのだろう。……いや、ダメなものはダメだけど。
「……と、言うわけですけど何かいう事はありますか、所長さん?」
「わ、私!? 私は知らないわよ、スカウトが勝手にやった事でしょう!?」
一通り話し終えた後、スカウト云々の話をし始めたあたりで少し遠くへ逃げる様に縮こまっていた所長さんに話かける。急に話を振られた事にびっくりしたのか、ちょっと声が上擦ってるのが少し面白い。
「ですが所長。説明のあった勇人さんはともかくとして、先輩に対する強引な勧誘は紛れもない犯罪行為です。裁判にでもなれば、我々カルデアの敗訴は確定かと。そうなれば立場的には所長の責任問題にもなりうる可能性があります」
「え、嘘でしょっ。私裁判にかけられるの?」
「ま、まぁその辺で。カルデアに来た時はマシュやレフ教授から最初にすごい勢いで謝られましたし……」
補足するマシュの話を聞いて、所長が信じられないと言わんばかりに顔を少し青くするが、その間を割って入る様に、藤丸が2人を宥めている。
……自分も当事者なのでなんとも言えないが、それにしたって人が良すぎる。普通不満の一つも吐いても良いと思うが、そんな気配も全くない。
「それに、悪いことばかりじゃなかったから」
そしてあろう事かこんな状況に陥った筈だというのに、藤丸の口にした言葉は意外な事だった。
「……貴方、何言ってるの? 普通、訳もわからず変なところに連れてこられた挙句、こんな目にあったら文句の一つでも出てくるでしょ?」
「そうかもしれませんけど……マシュやドクター、レフ教授、所長に勇人。そしてここで出会ったクー・フーリンやセイバーさん。カルデアに来てから出会った人達は、みんないい人でしたから」
…………驚いた。この状況で出てくる言葉としては、あまりに優しすぎる。しかも、どうにもこの言葉は自分の上司である所長さん達を気遣っての事じゃない。恐らくこれは本心でそう思ってる。
「っ確かに、ここが危険な所っていうのはわかるけど。今ここにはクー・フーリンやセイバーさん……そしてなにより、俺には最初からマシュがいてくれたから」
「ーーー先輩」
そう言って笑う藤丸に、マシュが小さな声を発した。何か堪え切らないものを掴む様に、マシュがキュッと、自身の両手を握りしめる。
……なんの確証もないけれど、恐らく藤丸がマシュに助けられた様に、マシュも藤丸によって助けられたのではないだろうか。
力や魔術でもない。きっと、心を打つ様な決定的な何かを。
そうでもなければ、あんな顔……。
「この後も色々あると思うけど、これだけ強いサーヴァント達がいるんだ。きっとなんとかなるよ」
「……ですが、先輩。私には」
しかし藤丸がそこまで言い切った後、何か思い詰めたかの様にマシュの顔に影が差す。さっきまで握りしめていた手を解き、開いた手のひらを力無く見詰める。
「私は……英霊の証とも言える、『宝具』が使えないんですっ」
ーーー吐露したのは、その身に押し寄せる力不足の実感。あるいは、自身を信じるマスターに対する不甲斐なさか。
盾の少女は、これまで何度も心の内に溜め込んでいた不安を吐き出した。
パーフェクトコミュニケーション、リツカ・フジマル。この作品でも遠慮なくその素質を発揮していただきましょう。
漫画版1話に出てくる平謝りするレフ教授が実はめちゃくちゃ好き。