「ぇ、は? 自分が、マスター?」
死にかけた所を助けてくれた目の前の女の子に問われた言葉に驚き、つい聞き返してしまう。現実感のない出来事の連続に、感覚が少し麻痺しているのかもしれない。
「……えぇ。サーヴァントセイバー、召喚に応じ参上しました。マスター、指示を」
「っサーヴァント!? いや、指示って言われても……って、なにこれ!?」
こちらに判断を仰ぐ少女に伝える言葉を言い淀んでいると、ふと妙な熱さが残る右手を見る。そこには何と不思議な真っ赤なタトゥー。
形としては一枚の木の葉……に、似た感じの形。色が色だけに紅葉の様にも見えなくも無いが、いかんせんこんなオシャレなものを身体に刻んだ覚えは無い。なんならついさっきまで手にこんなモノが浮かんでいなかった筈なのだが。
「令呪……やはり貴方ですね」
「れいじゅ……?」
『ようやく繋がった! 無事か、小鳥遊君……って、うわぁ! 何だこの反応!?』
「あ、ロマニ」
目の前の少女も自分の手に映るこのタトゥーの様な物に見覚えがあるのか、こちらを見ながら意味深に呟いている。
れいじゅ、という正式名称は知ることが出来たものの、未だ得体の知らない謎なものが身体に刻まれてるっていうのはいい気分じゃない。
そんなこんなで2人して手の模様を眺めていると、ロマニ某から通信が入った。だが、こちらの無事を確認するなり何かを発見したのか素っ頓狂な声をあげている。
『ちょ、ちょっと待ってくれ小鳥遊君! きみ、すぐ近くに誰か居たりしないか!? こっちからじゃまだそっちの状況は見れないんだ!』
「すぐ近く……セイバーっていう人ならいるけど?」
『セイバー!? すごいぞ、この数値。小鳥遊君、その人はサーヴァントだ!!』
「あ、あぁ……自分からサーヴァントとは言ってくれたし、なんなら助けてくれた。それに、自分がマスターか、って」
『ま、マスター!?』
こちらの一言一言に驚きの声をあげるロマニ某。当人である自分が一番意味がわからないんだから、事情を知るそちらがしっかりしてほしい。
「失礼、そちらの方」
『っはい!?』
「そちらはマスターの協力者と見て間違いありませんね。出来ればこの状況の説明をして頂きたいのですが……」
『わ、わかりましたっ!』
セイバーの覇気のある声に押され、ロマニ某がハキハキと返事を返す。
そこからはまた簡潔に。カルデアがどういう組織か。マスター(?)である自分の立ち位置、そしてこの特異点の状況。
自分よりこの状況に慣れていそうなセイバーには順を追って説明するつもりはなく、自分が聞いたのよりはスムーズに話が進んでいく。
「……人類の消滅、特異点。そしてカルデア。なるほど、どうやらこれは普通の聖杯戦争とは違うようですね」
『君は聖杯戦争に参加したことがあるサーヴァントなのかい?』
「えぇ、まぁ。奇しくもこの冬木の地で。しかし、これはひどい……この炎は十年や二十年では消えないでしょう。私がいた頃とは似ても似つかない」
なるほど、わからん。
簡単にいうとセイバーは以前この地で聖杯戦争なるサーヴァント同士による闘いを経験した身であり、今回も同じく参加者として召喚されたと思いきや出てきたのは業火に包まれたかつての街と、未熟も未熟な初心者マスター。
本来なら泣きたくなりそうな貧乏くじの筈なのに、セイバーからはそんな様子は全く見られない。
「呪いが土地そのものに染み付いている。……もはや、人の住める場所では無いでしょう」
『どうやら、そのようだね』
だが、しかし。
ロマニと言葉を交わすセイバーの、遠くに見える崩れた街並みや、骸骨の襲撃によって大きく損傷したこの家屋を見て少しばかり悲しそうに目を伏せた姿が、ほんの少し気になった。
だがそれも一瞬、すぐにその視線は力強い光を宿し、もう一度自分に向き直る。
「何はともあれ、契約したサーヴァントの身であるという事に変わりはありません。例えこの戦いが険しく、困難な物であろうとも、この剣は我がマスターの為に奮いましょう」
「……わ、わかった。じゃあよろしく、セイバー。自分の名前は小鳥遊勇人、好きに呼んでくれ」
「えぇ、わかりました。では、ユウトと」
向き合った自分とセイバー。互いの名前を呼び合う。そして、手に持っているであろう見えない武器をカンッと地面に突き刺して、堂々とした
立ち姿をこちらに見せる。
「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ーーーここに、契約は完了した」
そして、改めて契りを交わす。頷きながら投げかけられた言葉の頼もしさに、なんだか少し泣きそうになる。
『ちょ、ちょっとまってくれ。まだ君の真名を聞いていなかった』
「……失礼しました。名を明かす事はそのまま弱点を晒す様な物ですが、この状況ではそうも言ってはいられませんね」
「え、セイバーが本名じゃ無いの?」
「セイバーとは、あくまで私という個の存在を英霊という型に嵌め込むための通称の様な物です。本来の名は別にあります」
魔術やサーヴァントに詳しく無い自分にわかりやすいように、セイバーが説明する。
セイバーとは剣にまつわる伝承や逸話を持った英霊が当てはめられるクラスであり、その中でもセイバーは最優と謳われるほどの優秀なカテゴリーらしい。要は目の前のサーヴァントはそれだけ強力な存在であるという事だ。最弱に等しい自分にとってはこれ以上ない協力者、極まるだけ極まった不幸の裏返し、神はどうやら自分を見捨ててはいないらしい。
ロマニの声を聞き、改めてセイバーは再度自らの存在を明かす。
「ーーー我が真名は『アルトリア・ペンドラゴン』。かのブリテン国に名を刻んだ、誉れ高き円卓の騎士の1人である」
最後の啖呵、もしかしたらもう少しかっこいい物思いついたら変えるかも。