俺の隣人が悪の首領達ってどういう事なんだよ 作:塩焼きそば啜郎
あの冬の夜。基本的に間抜けだけどもどこか頼もしい、そんな隣人と越した大晦日から、もう五年が経とうとしている。
「……やっぱし、楽しく無いなぁ」
休日だが、やけに気分が乗らない。あの人がいなくなってからもう三年だ。二年とちょっと前に『組織の一大計画を始動する!』とか何とか言って部屋を空けたのを最後に、あの人が帰って来る事は無かった。そしてその一ヶ月後、テレビで流れた文言を俺は忘れない。
『悪の組織、シャドルー壊滅 ICPO大手柄』
「……ベガさん、どうなっちゃったのかなぁ……」
もう誰もワープしてこない部屋で、一人呟いた。すると目の前に、一人の大柄な男が現れる。
「久しぶりだな」
「そうそう、こんな感じで突然現れてそれにびっくりしてってぎぃいぃいやぁああぁぁぁ!?!?!?!?」
「うるさいな……」
「ベッ、ベガさん!?」
「ベガ、か……その名は俺が貰おう」
「なんだこの喋り方!?」
改めてその姿を凝視する。上半身は何故か裸でボロ布を纏っているが、布から覗く顔と赤いピッチピチのズボンは間違い無くあの人の物だ。だが喋り方がおかしい。『俺』なんて使わなかったし、何より雰囲気が暗くなってる。
「先程シャドルー本部の跡地に行って来たが、やはり記憶は戻らん。そこで記憶の断片を頼りにここへやって来たのだ」
「記憶喪失……?でもベガさんっぽいし……俺の名前覚えてます?」
「……龍成」
「おおッ覚えてるッ。じゃあこの階層に住む人の名前は?」
「……ギース・ハワード、キング・クルール、ヴィネガー・ドッピオ、シグマ」
「やっぱりベガさんですよ!自信持って良いですって!」
「では過去の俺を見せてくれないか?何か思い出すかも知れん」
「分かりました」
俺はスマホに保存してた動画をベガさんに見せて言った。ねずみ花火を爆発させまくったベガさん、シグマさんに滅多打ちにされるベガさん、海上アトラクションで醜態を晒すベガさん……ろくな思い出が無いな。
「……これが、俺……?」
「残念ですが全て事実です(無慈悲)」
「い、いいや信じられん!そうだ、これだけ無様(自傷)なら何か蔑称がある筈だ!」
「ケツアゴサイコ野郎!ムキムキ坊主!腹黒!精神年齢五歳!!」
「ぶるあぁああ!!(大破)」
ベガさんだ!やっぱこの人ベガさんだよ!すると、チャイムがなったので開けると、そこにはギースさん達が。
「何の騒ぎだ……龍成、ってそこの大男!その情けない表情!」
「圧倒的不審者感!」
「異常にムキムキな体とピチピチスーツ!」
「そしてその漂うオーラ!」
「「「「ベガ!?」」」」
「……」
ベガさんは無言で頭を抱え続ける。全員が無言でそれを見守った。
「……フフ」
「ん?」
「フハハ……」
「お?」
「フハ……フフフハハハーッ!!そうだ、私はベガだ!どんな姿だろうが私はシャドルー総帥のベガなのだ!!龍成ィ!」
「……はい!」
「今日はこの部屋で飲むぞ!私の完全復活記念でな!!ギース、早速高級料理をバンバン取り寄せるのだぁ!」
「フン、今日だけならいいだろう!!」
「久々に楽しめそうですね!」
皆がそれぞれの場所に駆けていく中、俺はベガさんを見た。その顔は、あの時見た物と同じ、自信に満ち溢れたあの総帥の顔だ。
「お帰りなさい、ベガさん」
「ただいまだ、龍成!そしてこれからも宜しく頼むぞ!!」
今は思わないけど、いつの日か、またこの疑問を考える事があるだろう。
……俺の隣人がシャドルー総帥ってどういう事なんだよ?