仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

14 / 42
第13話です。
タイトルはビル・エヴァンスの『Waltz For Debby』から引用しました。本当に大好きな曲なので、一度はサブタイトルにしたかったんですよね〜。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
WONK - Passione

【イメージST】
牛尾憲輔 - Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition - chainsaw edge fragments -


13 - ワルツ・フォー・デビー(F)

 ──くん。

 

 

 

 

 

 ──じくん。

 

 

 

 

 

「優司君」

「……!」

 

 どうやらずっと、カウンターに置いていた問題集を枕にして寝ていたみたいだ。

 目の前にいる花蓮と横にいる絵麻の視線が何となく辛い。

 

「大丈夫? ずっと寝ていたみたいだけど」

「すみません。……あれ? 僕、何してたんでしたっけ……?」

 

 確か、化け物に襲われて、花蓮から何かを貰って、自分も同じような化け物に変身をして、そして──。

 

 ──あれ? 本当にそうだったっけ?

 くっきりと頭の中で浮かんでいた光景が全て段々とぼやけていく感覚が生じて、何だか不思議な感じだ。

 

「何言ってるの? 期末がもうすぐだから勉強見て欲しいって言ったのはそっちじゃない」

「そうそう。()()()()()の二人だけでやれば良いのに、何で私までお姉ちゃんに……」

「全く。両手に花とはこういうことだねぇ〜。羨ましい」

 

 不満そうな絵麻に、優司を茶化す武史。そして笑顔で振る舞う花蓮。

 未だに花蓮が自分の彼女だなんて信じられないが、これは紛れも無い事実なのだ。

 

 堪らない嬉しさに優司が少しだけ口角を上げていると、幸せそうな空気を察した絵麻が溜息を吐く。

 

「私も早く彼氏作りたいな〜」

「絵麻ちゃんなら出来るわよ。大丈夫」

 

 花蓮の励ましに笑顔を見せる絵麻。それが二人の仲を明確に表していた。

 その様子を見ながら優司は微笑み、ただ幸せをまた謳歌し始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

 翌日。優司と絵麻は一緒になって教室の中に入った。そろそろ期末試験ということもあって空気は張り詰めているが、それでも挨拶をしてくれるというのは非常に有り難い。

 

 二人が着席をしたところで、男子生徒が聴かせるように呟いた。

 

「良いよな〜。お前はこんな美人な彼女と一緒に登校出来て」

 

 いつもなら優司は照れ、絵麻は恥ずかしがりながら反論をする。その様子を楽しむのが一連のやり取りの醍醐味とも言えるのだ。

 だが、

 

「え? どういうこと?」

「何言ってるの? ()()()()()()()()()()()()()()()

「……え?」

 

 声を掛けた男子生徒だけでなく、その他全員も言葉を失う。

 しかしながら当の本人達はどうして皆が驚いているのか一切解らないようである。

 

「……え、逆に皆さん、何でそんなにびっくりしてるんですか……⁉︎」

 

 それに対して誰も何も答えようとはせず、不思議な顔をしながら勉強に戻っていった。

 

 ──今日、一体どうしたんだ……?

 

 その疑問に答えてくれそうな者は、きっと何処にもいないのだろうと察した優司と絵麻も、勉強道具を取り出して自分の世界へと没頭し始めた。

 

 

 

────────────

 

 

 

「──っていう事があったんですよ」

「ふぅ〜ん」

 

 夕食を食べた優司は、花蓮の部屋で今日あったことについて話していた。

 花蓮は自分のデスクに座って大きな窓の外にある満月を眺めていることから、ソファに座る優司の顔を見ていない。それに一抹の不安を覚えるのだが、話は安心してくれているようでホッとする。

 

「おかしいですよね。僕の恋人は花蓮さんだけなのに、まるで絵麻が僕の恋人みたいで……」

「……嫌だった?」

「いや別に、そんなことは無いですけど……」

 

 すると花蓮は椅子から立ち上がって優司の前までやって来ると、ソファの背もたれを左手で押す、所謂壁ドンの類をやってみせた。

 恋人の突然の行動に驚く優司。同時に妖艶に微笑む花蓮に見惚れてしまった。

 

「花蓮さん……?」

「もし絵麻ちゃんが君の彼女だったとしても素敵だよね。……けど、君の彼女は私でしょ? それは変わらない事実なの」

「……そう、ですよね」

 

 何とか納得をした優司の唇に、花蓮は自身の唇を重ねた。

 その状態を何秒か続け、そして離した。

 

「これでどう? 納得した?」

「……はい」

「言っておくけど、もう私は自分一人の身体じゃないんだし」

「え……⁉︎ それって──」

「勘違いしないで。君が考えたことより、もっと深い意味だから」

 

 ──だよな……。

 自分と花蓮は()()()()()()は一切していない。だから考えた意味のことはありえないのだ。そうなったら素敵だとは思ったが、学生という立場上良かったと胸を撫で下ろす。

 

「じゃ、明日はデートだから。おやすみ」

「あ、はい。おやすみなさい」

 

 半ば追い出される形で部屋を退散した優司。

 彼はすぐに自室には帰らず、ずっとドアの前で考えていた。

 

 ──何だ……? 何かがおかしい……。

 

 薄らと違和感を覚えたのだが、それが一体何なのかが分からない。

 きっと勘違いだろう。あれだけ素敵な人が自分の恋人であることが未だに信じられないだけだ。

 そう言い聞かせた優司は、そそくさと自室に戻って行った。

 

 

 

────────────

 

 

 

 翌日、出掛けようと荷物をまとめている花蓮に、突然絵麻が話しかけてきた。

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

「ん?」

「何か、ずっと違和感があるっていうかさ……。よく分かんないんだけど、うーん……」

 

 胸に引っ掛かっているモヤモヤとしたものを吐き出そうとするが、上手く出来ない。

 

「……何だろうね? 絵麻ちゃんが持っている違和感って」

「うーん……。まぁ良いや。デート楽しんできてね」

「うん。有り難う」

 

 絵麻はそう言って店の方へと去って行った。どうやら優司と花蓮がデートに行っている間、店を手伝ってくれるらしい。こういう時に協力してくれるのは非常に有り難いことだし、良く出来た妹だなとも思う。

 

 そうして家を出て庭の方に行くと、花蓮の水色のフィガロの前で優司が待っているのが見えた。

 お待たせ、とすぐに鍵を解除して乗り込むと、すぐにエンジンをかけて出発をした。

 

 今日はまず都市部へと買い物に行き、それから食事をして、最後は優司が寄りたい場所に行ってくれるという。

 

 山道を下っている最中、優司はふと窓の外からあるものを目にした。

 それは白い布が敷かれた長机であった。いくつか花束や缶コーヒーの類が置かれていることから、献花台と思われる。

 

 じっと眺める優司。この場所は何か自分にとって大きな意味を成す場所のような気がしてならない。

 

 次の瞬間、頭の中で映像が急速に流れ始めた。

 自分が知らない記憶。自分が忘れてしまった記憶。自分が思い出したくない記憶。

 

 その全てを、思い出してしまった──。

 

 けれども運転席に座る花蓮に言うことは無い。

 今はただデートを楽しむだけだ。

 

 活気のある都市部に着いた後、フィガロは大きなショッピングモールの立体駐車場に入った。

 そこでは花蓮のリクエスト二つ全てに応える予定だ。

 

 2階にある洋服店の大手チェーンにてそれぞれの服を選び合う。

 優司が選んだのは白いワンピースであった。曰く、いつものキャミソールワンピースではあまりにもスタイルが目立ち、他の男から嫌な目線を向けられる危険性があるからとのことだった。

 花蓮が選んだのは焦茶色のパーカーと赤色のマフラーだった。もう少しお洒落をした方が良いというものと、このマフラーを巻いてバイクで風を切って欲しいという理由であった。

 それぞれが買ってやり、嬉しそうに受け取った。

 

 次に行ったのは3階にあるラーメン店だった。

 二人は同じ醤油ラーメンを注文し、その味に舌鼓を打つ。

 初めてのデートもラーメン屋だったね、と花蓮が言ったので、そういえばそうでしたねと返す。

 ただ暖かく美味しいものが全て胃の中に収まっていって、あっという間に無くなった。

 

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎようとしていた。

 

 ショッピングモールを抜けたフィガロは翡翠荘のある山の方へと走り出す。

 車内ではビル・エヴァンスの『Waltz For Debby』が流れている。美しい旋律は二人の耳から入って心を癒すのと同時に、楽しいデートが後1箇所に行けば終わってしまうことへの悲壮感を浮かび上がらせる。

 

 そのため終始無言になってしまったので、花蓮が打破しようと話し掛けた。

 

「最後に行きたい場所って何だったっけ?」

「山の近くに、小説の舞台になった電車の車庫があるんです。今は使われていない廃墟になっていて入れるので、行ってみたいんですけど、良いですか……?」

「勿論! 行こう行こう」

 

 徐々に空に雲が掛かり始めた。そういえば今日は昼過ぎから雨が降るかもしれないと予報で言っていた。

 普通であれば折り畳み傘や洗濯物の心配だけすれば良いのだが、それ以外にも不吉なことが起こりそうな気がして、そっちの方にばかり目を配ってしまう。

 

 いよいよその場所に辿り着いた。

 道路のすぐ隣には広大な土地が広がっていて、数々の線路や列車を収容するために用意されたのであろう建物が建っている。

 

 車を降りてその中へと入って行く。

 実際に踏む線路やバラストと呼ばれる石の感触は非常に固く、更に予想以上の大きさは心を刺激する。

 

「凄いね! ここ!」

 

 思った以上に花蓮が喜んでくれていたことに優司はホッとする。

 自分の趣味で行きたかった場所を彼女が喜んでくれることは、凄く嬉しいことであるのだから。

 

「花蓮さん、一つ訊いても良いですか?」

「ん? 良いよ。何?」

 

 突然優司が言ってきたので、花蓮は笑顔で彼と向かい合う。

 徐々に雲の数が多くなってきた。冷たい風が吹き始め、身体を段々と冷やし始める。

 その中で優司は口を開いた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは全部、花蓮さんが作った世界なんですよね……?」

 

 

 

────────────

 

 

 

「最後に君が倒さなきゃならないユーザーは、私だよ」

 

 そう教えられたのは、今から1週間前の話であった。

 椅子に括り付けられた絵麻。告白をする花蓮。その全てが意味不明で、何もコメントが出来なくなってしまう。

 そんな彼を気遣ってか、花蓮が説明を始めてくれた。

 

「まず最初から話すね。……私ね、海外の大学にいた時に、その大学の人達に襲われたの。無理矢理釣れられて、誰もいない廃工場みたいなところで三日三晩犯されて、『飽きたから』っていう理由で解放されたの。理由が理由だったからそれもショックだったけど、それ以上に……初めてが優司君じゃかったことが嫌だった……。

 そんな時に野宮社長に会ったの。『これを使えば貴女のやりたいことを現実にするための力と強欲さを手に入れられる』って言われてドライバーを渡されて、やりたいことはただ一つだけだと思ったわよ。『優司君が私の恋人として一生(そば)にいて欲しい』って」

 

 あまりのことに優司は言葉が出ない。

 構わず花蓮は続ける。

 

「それでね、もう他のユーザーがいなくなって邪魔は無くなったから、もうそろそろ潮時かなって思ったの。

 けどね、君には絵麻ちゃんがいるでしょ? そしたら私が君の隣にいることが出来ないじゃない。……だから、私と同じ目に遭ってもらったの。私の能力の一つは端的に言えばね、『人の考えを弄る能力』なの。だから、それを使って樋口と一緒にいた不良グループに襲わせたってわけ」

 

 ──じゃあ、絵麻は……。

 

 何処となく怒りが湧いてきたのだが、それよりも先に気が付いてしまったことがあった。

 

「……まさか、木野塚マリアは貴女が……⁉︎」

「そう。だってあの()、君を傷付けようとしたじゃない。はっきり言って、死んでもらいたかったのよ」

 

 まさかこんな冷酷な人間が自分の隣にいただなんてと思うと、優司は背筋が凍ってきた。

 

「どうするの? 私を倒すの?」

 

 すぐに答えを出すことは出来なかった。

 本当なら今巻いているドライバーのレバーを押すべきなのだろうが、左腕が全く動かない。

 

 すると庭の方から大量の足音が聞こえてきた。花蓮が覗き込むと、万太郎が何人もの重装備を着けた兵士を連れて、銃口を花蓮の方へと向けている。

 

「……せっかくだし、場所を変えようか」

 

 花蓮は窓を開けると、身体を黒い粒子状にして庭に降りる。こうして直接兵士達に囲まれる形となった。

 彼女に万太郎が声をかける。

 

「ようやく分かったよ。君は元々ライドボットの身体で我々と接していたんだな。だから食事も摂らなかったし、あんな大事故でも無事でいられた。入院中一時的に心電計で心拍が感知出来なくなったのは、何処かに本来の肉体を移動させて入れ替わるため。そうだろ?」

「ご明察。流石ね」

 

 その時ようやく優司がライドボットの身体で降り立ち、花蓮の後ろに立った。

 

「覚悟は出来た?」

「……」

「まさか、大切な人をこの手で殺めたくせに、まだ躊躇ってるの?」

 

 大切な人。

 それはきっとつい先程手に掛けた広瀬杏奈のことだろう。

 あれだけ自分のことを見てくれていた彼女を殺したことへの罪悪感は、ユーザーズシステムの効力があるとはいえ多少はある。けれどももう吹っ切れた。

 

「広瀬先生のことですか? ……だったら問題無いです」

「そうじゃないわよ。もう1人、いるのよ」

「え?」

 

 花蓮は笑顔で振り返る。

 身体が何故か「それ以上聞くな」と警告を出しているのだが、その癖動けないので対処のしようが無い。

 

「気にならなかった? どうしてスパイダーユーザーには首を捻る癖があったのか。どうしてスパイダーユーザーを倒した後、深田博が現れなかったのか。だったら答えは一つだよね──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が最初に殺したスパイダーユーザーの正体は、深田博その人だよ」

「……へ……?」

 

 頭が真っ白になった。同時に目の前も何も見えなくなってしまった。

 あの怪人が、自分の慕っていた人……?

 会えなくなったのは、自分のせい……?

 

 思考が追いつかず身も心も一切動けない状態になってしまった優司に背を向けた花蓮は、腹部にユーザーズドライバーを出現させる。

 すると空から側面全体に羽のような透明なパーツが付いた、白を基調に虹色の靄のような模様が薄らとあるガジェットが、ゆっくりと天から降臨した。

 

 それを右手で受け取り、左手の人差し指で側面を一周して装飾を内部へと仕舞い込むと、ドライバーのスロットに装填した。

 

01(ZERO-ONE)

 

 ホッパーフォームになる際に流れるものと同じEDM系の音楽が、夜の広い庭に響く。

 花蓮は左腕を右側にやると、ゆっくり元の位置に戻しながら同時に右腕を挙げ、左手をレバーに掛けながら右腕を左側に配置した。

 そしてその中で妖艶な笑みを浮かべ、次の姿になるための言葉を呟き、レバーを下げた。

 

「変身」

『変身シークエンスを開始します』

 

 次の瞬間、黒くなった身体が巨大な球体へと変形をし、白に虹色の靄が掛かるものとなった。

 ガジェットのように全体から大量の腕が伸びているのだが、一切何も見えていない透明な面からは、ドライバー以外何も身に着けていない花蓮の姿が見えている。

 

『VIRUS』

 

 最強にして最恐の怪物──ヴァイラスユーザーが降臨をした瞬間である。

 

 けれども優司は、動くことが出来ない。




【参考】
【鉄道がわかる】線路の周りにはなぜ、石があるの?|子どものためのニュース雑誌「ニューズがわかる オンライン」
https://www.newsgawakaru.com/knowledge/21570/
ウイルス粒子の形を見てみよう!|ウイルスってなに?|一家に一枚「ウイルス」
https://www.ims.riken.jp/poster_virus/virus/virion/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。