仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第14話です。新年一発目でございます。
実は完結まで、今回を含めて残り3話となりました。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
King Gnu - 破裂

【イメージST】
牛尾憲輔 - Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition - chainsaw edge fragments -


14 - ワルツ・フォー・デビー(S)

「これが……花蓮ちゃんの……」

「そう。それじゃあ、腕試しと行こうかな」

 

 すぐに兵士がヴァイラスユーザーに銃口を向ける。そして間髪入れずに大量の銃弾を浴びせた。

 けれども全く効いている様子を見せない。それどころか、数多くある腕で銃弾を掴んで投げ捨てる余裕もあるくらいだ。

 

 異形の怪物に自分達の攻撃の効果がまるで無いということに、兵士達は恐怖を覚え始める。

 もしもあの腕で反撃でもされたら──。

 

 その想像を具現化する瞬間がやってきた。

 黒い腕が白く発光を始めると、それぞれの前に虹色の六角形の模様のようなものが現れると、そこから白いビームを発射した。

 どうやら彼等を殺す気は無いらしく、向けられている銃にのみ当てて使い物ではなくしているのだ。

 

 ここで優司はようやく動き始めた。

 ゴリラガジェットを変形させて、ドライバーのスロットに装填をして走り出した。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 仮面ライダーブートレグ ゴリラフォームに変身をした優司は、ジャンプをして右の拳をぶつけようと試みる。

 ヴァイラスユーザーは目の前に再び六角形の紋様を出現させる。それがバリアになって、攻撃を跳ね返すのだ。

 それに怯まず次々と両手の拳を浴びせようとするのだが、全く届かない。全てがブロックをされてしまう。

 

 挙げ句の果てにはビームを撃たれて思わず後退してしまった。

 

「ッ……!」

「折角だし教えてあげるとね、私は別に自分で手を下して木野塚マリアを殺したわけじゃないの。こうしたのよ」

 

 するとヴァイラスユーザーからライドボットが次々と吹き出し、彼女の前で6つの人形を作り出す。

 黒ずくめのスーツに身を包んで、サングラスと帽子によって頭部もよく確認出来ない彼等の姿に、ブートレグと万太郎は見覚えがあった。

 

「まさか……カメレオンユーザーをやったのも……⁉︎」

 

 万太郎が呟く。

 

「そう。ついでに言うと、木野塚マリアを殺したのも彼等。自分でやるのは気が引けるからね」

 

 淡白にヴァイラスユーザーが言うと、男達は感情の籠もっていない無機質な声を出した。

 

「「「「「「変身」」」」」」

 

 その瞬間に六人の身体は更に黒くなり、姿を変え始めた。

 新たな姿は戦闘員に姿が似ている黒い怪人のものであるが、口元には鋭い針が付いていて、更に両腕には刃が、両肩には小さなスピーカーが装着されている。

 

「ウイルスを最も運んでくれるのは蚊。この六人は、私に従順になってくれる(しもべ)

 

 僕であるモスキートユーザー達は、突如としてスピーカーから高周波の音を流し始めた。

 万太郎達は何ともならないのだが、ブートレグだけが悶え苦しみ始めた。

 どうやらライドボットの身体を持つ者だけに効果のあるものらしい。

 

 そこに6人のモスキートユーザーが飛んで来て、ブートレグに次々と両腕の剣で斬りつける。

 ゴリラユーザーの身体は鋼のように頑丈なのであるが、それでもガリガリと削っていくのだ。

 反撃の出来ない彼は成されるがままになっていて、痛みこそ覚えないが徐々に身体が動かなくなり、遂にはその場に倒れ込んでしまった。

 

「ブートレグシステムは不死身だから無敵だとは言ったけど、戦闘不能になる条件が2つあるの。一つはライドボットが故障をすること。もう一つは集中力が切れること。今回の場合は完全に前者ね」

 

 至って淡々と説明をするヴァイラスユーザー。

 ブートレグは何とか立ち上がろうと試みるのだが、全く上手く出来ない。

 その様子を見た彼女は大きな球の中でニヤリと笑う。

 

「じゃあ、そろそろ仕上げといこうかな」

 

 ヴァイラスユーザーの中にいる花蓮は、ドライバーのレバーを押し込んだ。

 

『VIRUS FINISH』

 

 するとモスキートユーザー達がヴァイラスユーザーの周りを取り囲むと、彼女の真上に出現した六角形の紋様から白いエネルギーが放出され、六体の怪人の針と剣に集約されていく。

 

「何をする気だ……!」

 

万太郎が少し震えながら訊く。

 

「今から能力を使って、私が待ち望んでいた理想郷を創り出すの。私が優司君のものになっている、幸せな世界」

 

 聞いただけでその場の全員が震え上がった。特に倒れているブートレグがそうだ。

 彼女の能力は『人の思考を書き換える能力』。自分の脳内は弄られ、偽りの楽園の中で過ごさなければならなくなることに対し、強烈な嫌悪感が襲い掛かって来たのである。

 

 しかし身体が動かない状態では抵抗する術など無い。おまけに万太郎達もあまりの光景に固まってしまっている。

 なのでヴァイラスユーザーがやることをただ見るしか出来ない。

 

 そして、モスキートユーザーが外側を向いて両腕を前方に出し、虹色の光線を出した。

 その鮮やかな色が見えたのを最後に、全員は意識を失った。

 

 

 

────────────

 

 

 

「──で、何で思い出したの?」

 

 雲が暑くなってきた。陽が来なくなった線路の上で、花蓮は優司の顔を見る。

 彼の顔はいつも以上に険しい。返事は返って来ず、少し時間を空けてから語り始めた。

 

「帰る道にあった献花台。あれですよ。あそこで花蓮さんはユーザーになって、僕は深田さんに襲われて貴女に助けられた。あそこは全てが始まった場所です。……記憶を失ったとしても、身体があの匂いと感覚を全て覚えているみたいです」

 

 成程な、と花蓮は深く呼吸をする。

 暗い表情のまま優司は話を続けた。

 

「僕は貴女を倒さなくちゃいけません」

「そうね」

「ドライバーは何処ですか?」

「……車のトランクの中」

「捨てなかったんですね。しかもトランクの中って。……まるで殺してくださいって言っているようなもんじゃないですか」

 

「……そうよ」

 

 頑張って少し煽ってみたら、想定外の返答が来た。

 何が聞き出せるのかと思っていた途端に予想外の答えを提示され、更に花蓮の顔がどんどんと曇っていき、今にも目からは雨のように涙が流れ始めそうである。

 

「こうやって自分の望んだ世界、自分が望んだ人間関係を叶えたって……ちっとも嬉しくなかった。……どれだけ君に愛してもらっても、心が全く満たされなかったの。多分、私が高望みして皆を苦しめた罰なんだろうね……。だからお願い。私のことを殺して。そうすれば、全部が終わるから」

 

 花蓮の震えた声を聞くと、黙って優司は車の方へと向かい始める。

 だが途中で立ち止まって横を向かずに静かに告げた。

 

「花蓮さん。……もし……もしもこういう形じゃなかったら、ちゃんと愛せたのに……。本当に残念です。……後、ごめんなさい」

「何で優司君が謝るの……」

「貴女の気持ちに気が付けなかった。もっと早くしていれば、きっとこんなことにはならなかったのに……」

 

 俯きながら線路の上を歩く。

 荒い石の感覚を靴の上から感じながら歩き、アスファルトの地面に到達してすぐのところに車は停車していた。

 すぐにトランクを開けてみると、確かにそこに浅葱色のドライバーは無造作に置かれている。

 

 それを腹部に巻くとレバーを押し、目を閉じてトランクの中に上半身を預けた。

 

 ライドボットが遠くから飛んで来て、花蓮から少し離れたところで形を成していく。

 二人が再び向かい合ったところで、それぞれのところにガジェットがやって来て手の中に収まる。

 

「……さっき殺してくれとは言ったけど、最後は抗ってみても良い……?」

「……はい。勿論です」

 

 変形させてドライバーに装填をする。

 

08(ZERO-EIGHT)

01(ZERO-ONE)

 

 そしてゆっくりと左手をレバーに添えて指を絡め、静かに言葉を発してレバーを下げた。

 

「「変身」」

『『変身シークエンスを開始します』』

 

 身体が黒く変色をして変形。色が付けば完全に異形の姿へと変貌を遂げた。

 

 完全に灰色の雲によって青い空が隠されたのと同時に、ブートレグがジャンプをして跳び掛かったことで戦いが始まった。

 

 パンチやキックを凄まじいスピードで繰り出していくのだが、全てをバリアによって防御されてしまう。

 何度も何度も懸命にやってみるのだが、やはり結果は同じで、おまけに紋様から出されたビームによって後方へと吹き飛ばされてしまう。

 

「ッ……!」

 

 更に追い詰めるため、ヴァイラスユーザーは自身の身体からモスキートユーザー達を放出。

 彼等は背中の翅を展開すると、ブートレグの元まで飛んで刀を当てようと試みる。

 それを軽々と上の方にジャンプして避けるのだが、まだ上にいた二人に剣を当てられ、床に叩き付けられる。

 

 一人が刃で上半身と下半身を一刀両断した。ダメージは無くすぐにくっついたから良いのだが、このままではやられっぱなしだと立ち上がってそいつの顔面を殴る。

 後ろからもう二体やって来た。片腕の剣で貫こうとしたので、それを折って逆に首に斬りつける。

 

 一応は一体一体に対応出来るのではあるが、流石に6人を一度に相手するのはかなりの集中力を使うため、徐々に疲弊の色を見せ始める。

 そんな彼の前にヴァイラスユーザーが紋様を出現させ、爆発を引き起こした。

 

「ガァァァッ!」

 

 吹き飛ばされるブートレグは何とか立ち上がるのだが、満身創痍と言った状態である。

 

「これで、ゲームセットかしら?」

「……それはどうでしょうね」

 

 足が覚束無いブートレグが一体何を仕掛けるのかと警戒していると、彼の元に秘色のガジェットが飛んで来た。

 言わずもがな、杏奈が変身に使っていたスキッドガジェットである。

 

「広瀬先生……。お借りします……!」

 

 ドライバーからホッパーガジェットを取り出すと、スキッドガジェットの頭部と脚を仕舞ってドライバーに装填をした。

 

10(ONE-ZERO)

 

 ギターをメロディラインにしたロック・ミュージックが流れ始める。

 その中でブートレグはレバーを下げた。

 

『変身シークエンスを開始します』

 

 身体が黒色に変色をして、瞬時に秘色の姿へと変わる。

 10本の白濁とした触手がスカートのように腰から伸びていて、上半身には白い鎧が装着されている。そして頭部には透明で同じ白色の大きな三角帽子が着けられていることから、赤色の複眼が良く映える形となる。

 

『SQUID』

 

 これが仮面ライダーブートレグ スキッドフォームである。

 

「姿が変わったからって、私に勝てると思っているの?」

 

 モスキートユーザーの針が震えている。どうやら先の戦いで使った高周波をまた使っているらしい。

 しかし何故かブートレグに効いている様子は一切無い。

 

「⁉︎」

「ハァッ!」

 

 するとブートレグは触手を長く伸ばし、モスキートユーザー達の方へと動かす。

 両腕の剣で斬り裂こうと試みるのだが、触手が想像以上に素早いため中々出来ない。

 そしてある個体は腹部を貫通され、ある個体は巻き付かれて圧死。またある個体は叩かれて横にある壁に激突してしまう。

 

 こうして瞬時にモスキートユーザーは倒されてしまい、残骸はヴァイラスユーザーの方へと戻って行く。

 

「どうして……⁉︎」

「烏賊って、凄く聴力が弱いんです。勿論、身体にはダメージがあるでしょうけど、聞こえない以上もう気持ち悪くなったりはしないですよ」

 

 ──やられた……!

 自分が目の前で初めて変身をした時と、記憶を取り戻してからの十数分。その中で彼は自分を倒すための手筈を考えたとういうことか。

 改めて彼の恐ろしさを身に感じることとなった。

 

「……けど、私本体は倒せるのかしらねぇ……!」

 

 ヴァイラスユーザーは自身の前に多くの紋章を出現させ、そこから光線を発射する。これで一網打尽にしようという算段だ。

 それをブートレグは触手で防ぎながら彼女の元へと走り出して行く。光線が当たって触手が千切れたとしても、結局は元に戻るので殆どノーダメージというわけだ。

 

 いよいよ彼女の目の前に辿り着いた。

 触手で攻撃を仕掛けるブートレグに、ヴァイラスユーザーは紋章で防御をしながら別のものでビームを繰り出す戦法で対抗をする。

 

 どちらも一歩も譲らないため、一進一退の攻防が続いている。

 しかし新しいバリアを張る一瞬の隙をついた触手がヴァイラスユーザーに当たったことをきっかけに、ビームの数が少し減った。

 今がチャンスとばかりに触手を更に速く動かして、バリアの隙間から次々と攻撃を繰り出して彼女を後退させた。

 

「ッ……! アッ……!」

 

 まさか当たるとは思っていなかったヴァイラスユーザーは、与えられた衝撃に苦しむ。

 

「……もう、終わりにしましょうか」

「……そうね」

 

 二人共息が荒い。もう集中力が切れてきた証拠だ。

 そろそろケリをつけなければいけないだろうと、疲れで震える手を使ってレバーを下げた。

 

 するとブートレグの前に触手の先が来て、赤色のエネルギーが火球のように集まる。

 ヴァイラスユーザーの前に再び紋様が集まって、それが虹色に光り輝くのだ。

 

『SQUID FINISH』

『VIRUS FINISH』

 

 そして遂に赤色と虹色の光線が勢い良くで放出をされた。

 激突した際の衝撃は凄まじく、線路の中の石は動いて木々は揺れ、空を埋め尽くす雲が一気に晴れそうな程である。

 威力は互角であるため、丁度中央で立ち止まった二つの光線。主がそれぞれ次々と気を送り込んでいくのではあるが、全く動かない。

 

 ──もう、良いかな……。

 

 その時、虹色の光線が突如として姿を消し、赤色の光線が真っ直ぐに美しい球体へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 酷い雨が降り始めた。

 外で雨が地面を打ち付ける音が店の中にも響く。

 武史が買い出しに行っているために臨時休業になっている今、中にいるのは自分一人だけだ。電気を点けていないことから外の光だけで店内を照らしていることで、異常に寂しく感じてしまう。

 

 優司も花蓮も二人で行ってしまった。

 そのことが心の中で何故だか引っ掛かり、もどかしく感じられてしまう。

 そんな風に思ってはいけないのに、どうしてなのか分からず、それに対して更に胸が痛めつけられるような気がするのだ。

 

 一つ大きく息を吐いた時であった。

 

 ──ごめんね。絵麻ちゃん。

 

 聞こえる筈も無いのに、何故か耳元で声がした。

 主は間違い無くあの人のものである。

 

 突然涙が溢れてきた。

 理由なんて解らない。否、解ってはいるのだろうが、あまりにもありすぎて整理がつかないのだ。

 だから何も考えずにただ涙を流すだけにする。

 

 それは、一つの楽園が終わることを表す合図となったのだった。

 

 

 

────────────

 

 

 

「もう全員消えちゃったか……」

 

 暗い社長室の中で野宮が呟く。

 優司を除く全てのユーザーがやられてしまった。全てのガジェットは彼に集中している。

 しかしもう使うことなんて無いだろう。

 

 ふと左の壁に立て掛けられている二つの棺桶の中を見た。

 中に入っているのはそれぞれ男と女だ。少し冷えた箱の中で二人は気持ち良さそうに眠っている。

 

 そのうち女の入っている方を撫で、彼にしか聞こえない声で呟いた。

 

「そろそろ、行こうかな」

 

 

 

────────────

 

 

 

 翡翠花蓮が創り出したユートピアが終焉をしてから、1ヶ月近くが経った。

 記憶を書き換えられた全員は全てを思い出し、元の日常へと戻った。

 

 だが、一つだけ変わったことがある。花蓮がいなくなったことだ。

 武史には「よく分からないけど、更に研究に集中するために何処かに行った」と説明しておいたが、優司と絵麻の表情を見れば何が起こったかの大体の察しはついたのかもしれない。

 それから今日まではまるで生き地獄のように感じられた。

 

 今、優司は都心部の広場にある噴水の前の階段に座っていた。

 勢い良く吹き出す冷たい水は、ただでさえ寒い12月の空気の温度を下げ、彼の身体を冷やしていく。

 

 しかしそんなことはどうだって良い。住んでいる屋敷のある山から、少しでも逃げられるのであれば何処でも良かった。

 忘れたかったのだ。逃げたかったのだ。正直、ここまで自分に嫌悪感を抱いたのは初めてのことだったのだから、どうすれば良いのか分からず、ただ溜息を吐くことしか出来ない。

 

 するとすぐ後ろで自動車が停まる音がした。

 停車をしたのは黒塗りの高級な自動車なのであるが、俯いている優司はまるで知らない。

 

 そして降りた者が彼に話しかけた。

 

「やぁ」

 

 自分に対して声を掛けているのだと気が付いた優司が振り向き、背後に立つ男の顔を見上げる。

 その顔を確認した時、思わず立ち上がってしまった。

 そして心の中に様々な感情が流れ出して、処理が難しくなってしまう。

 

 何故なら──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梶本優司君だね? 初めまして。少し、話をしないかい?」

 

 その男は、諸悪の根源(野宮小五郎)だったのだから。




【参考】
イカデビル|仮面ライダー図鑑|東映
https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/804
メ・ギイガ・ギ|仮面ライダー図鑑|東映
https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/713
イカ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%82%a4%e3%82%ab
イカもタコも音が聞こえる:5号館を出て
https://shinka3.exblog.jp/11756457/
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