今回からシーズン2が始まります。何だったら今回から読み始めても大丈夫だと思います。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージOP】
THE RiCECOOKERS - NAMInoYUKUSAKI for SPEC【甲】
【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
雨の日の夜のことだった。
1月の寒さによってより冷たさが増した雨が関東に降り注いだその日に、一人の女が死んだ。
広い団地の通路で女性が横たわり、それを男が傘も差さずに眺めている。
余程目の前で起こっていることが信じられないのか、目を大きく開いてその場から動けなくなってしまう。
次の瞬間、男は突如として意識が朦朧としてきた。
腹部に感じる強い痛みから、自然とそうなったわけではないことが分かる。
倒れ込む男。
雨によって視界はぼやけ、殆どが黒い塗り潰されてしまう。
ただ最後に確かに見えたものがある。
糸が切れたように倒れた女の横で彼女を見下ろす
人の形をしたその頭部はまるで──。
またこの夢か、と
上体を起こして金色の髪の毛を手で掻き、気持ちを朝の清々しさに合うように調節しようと試みるのだが、中々上手くいかない。
溜息を吐いて起き上がり、洗面台に足を運ぶ。
相変わらず酷い顔だ。寝起きだからだろうが、それに加えてあの夢だ。鏡を見る度に自分が嫌になってくるし、二度と太陽が昇らなければと懇願したくなってしまう。
けれども陽が昇ることは当たり前であるし、最早自分の顔は見慣れてしまった。
なので気にせず洗顔料を使って顔を洗い、着ているパジャマを脱ぎ捨てる。
軽くシャワーを浴びて身体から憑き物を落とした気になった後は、予め用意していたサイズの大きな黒いチェックシャツと、白いズボンを履いてリビングに戻る。
床に座ってベッドに身を預けると、目の前に配置されていた机の上のノートパソコンを開き、作業を開始する。
こうして颯太の長い一日は幕を開けるのだ。
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「我々の目的は、
「同感だ。時間が無い中で、あまりにも呑気なことではないでしょう?」
「しかし、ラシャ様も容認していらっしゃる。我々がどうこう言ってはならないのだよ」
広い和室の中で何人かの男女が集まり、何やら話し合っている。
恐らく作られて何十年と経っているであろうアンティークの黒い机や椅子は、例え物が意識をしなかったとしてもその高級感を醸し出すことを止めない。
向かい合って座る彼等が一斉に上座を見る。
そこには白いローブやフードで身を包み、顔も緑色の顔料で大樹が描かれた白い仮面で隠した謎の男である。
部屋の雰囲気に異様に合っている彼は、視線を感じて暫くした後に重い口を開いた。
「別に私も好きでやっているわけではない。しっかりと目的があるわけだ。心配だろうが……どうか分かってくれ」
彼の低い声は当に鶴の一声と言うべきもので、議論をしていた全員がそれ以上何も言葉を発することが無くなってしまう。
決して質素でも何でもないこの空間を用意した意味が無くなってしまうとは誰も言わず、静かに時間が経っていくだけだった。
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自分の職業は警察官だ。
目に映るものをしっかりと吟味して真実を見つけ出す。そのために目に起こるものは決して取りこぼしたくない。
例えそれがどれだけ不条理なものであろうが、残酷であろうが、全てを知るということは一つの義務なのだ。
──だが、だとするならば、今目の前で起こっている光景は一体何なのだろうか?
「ハァァッ!」
まるで漫画のキャラクターのように太い腕と脚を持ったマゼンタ色の怪人が、緑色の身体に赤色やオレンジ色の模様が輝く怪人と戦っている。
パワーで押し通そうとするマゼンタ色の怪人と、それを上手く避けながら対処をする緑色の怪人。
繰り広げられる戦闘は夢なのか現なのか。真実なのか虚偽なのか。
判別を出来る余裕はまるで無く、ただ自分には眺めることしか出来ない。
どうしてこうなった?
何が原因で自分はこれを見せつけられているのだ?
──全部、あの男のせいだ……。
思えばそれ以前に昨日から狂い始めたのだと思う。
しかし今更後悔しても遅い。
目の前の戦闘を見ながら頭の中で思い描いたビジョンは、運命が変わったであろうここ一日の出来事達であった。
それらと全て重なって最悪な偶然と化した光景を交互に脳内と両目で眺め、ただ茫然自失とする。
始まりは、昨日の夕方からだった──。
キッチンに備え付けられているカウンターテーブルの前には、カウンターチェアやソファが置かれていて、更に室内にはいくつものテーブルが設置されている。
数々の段ボールや奥に設置されたロッカーが無ければ、洒落た照明のせいで職場でも何でもないカフェのように思われる。
テーブルのうちの一つに座るのは、スーツを着た中年男性──
次々と机上に積み重ねられている書類に目を通して印鑑を押し、パソコンに文字を打ち込んでいく。
カウンターテーブルでは
警視庁が使っている赤色のジャンパーに身を包んだ長身の身体をカウンターチェアに預け、凄まじいスピードでキーボードの上の指を次々に動かしているのだ。
たった二人だけしかいないこの部屋。
けれどももう1人加わることとなる。
「戻りましたー」
アメリカの国旗やその他様々なマークが貼り付けられた緑色のジャンパーを羽織る青年──
出先から戻って来たばかりだというのに、かなり爽やかな感じがする。
「どうだった?」
「駄目っすね。やっぱり何処にも駐車されてなかったですし、その時間に使った工事会社は一件も無かったです」
「やっぱり無駄足だったか……」
岩田に報告をした浩介はキッチンにある赤い冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して飲み出す。
洋平も机上に箱ごと置かれているエナジードリンクに手をつけ、活力を前借りし始めた。
そうしてスポーツドリンクの入ったペットボトルを持ったまま、窓側に置かれたホワイトボードに歩み寄る浩介。
いくつも赤い油性ペンでばつ印が付けられた貼られた地図に、また1つ印が付けられる。
「ここも駄目……。もう流石に歩き疲れましたよ」
「僕もちょっと目がしばしばしてきましたよ……」
洋平は目を押さえて肩を回す。
光る四角い画面をずっと見ていてはそうもなってしまう。
「すまない。……ただ、これで
岩田の発言に二人が彼の方を向く。
「勘弁してくださいよー。だったら俺達でも無理じゃないですか……」
「渋谷さんはまだしも僕は戦えないですよ……。誰か即戦力とかいないですか?」
重い空気が立ち込め始める。
それが何を表しているかは暗黙の了解らしく、考えるだけで疲労が溜まっていく。
この流れで浩介が何かを思い出した。
「そういえば、今日来る新人の方ってまだですか?」
「もう終業時間ですけど」
窓の外を見ればもう陽が西に大分傾き、時計の時針は『5』に近付いている。
本来であれば帰る時間でも何でもなく、そもそも終業時間などというものは本来存在しないのだが、彼等の部署には存在する。そういう部署なのだ。
「荷物の整理や引き継ぎがあって、夕方から此方に来るそうだ。そろそろ来てもおかしくないんだが……」
するとドアが開く音が聞こえてきた。
この時間帯に誰かが来るということは珍しいため、全員が其方の方を向く。
しかし誰が来たのかは、話の流れとして何となく察することが出来た。
音を立てた者が部屋の中に入って来る。
両手に持った大量の荷物が入った段ボールを床に置いて顕になったその姿を端的に言うのであれば、モデルのようにスタイルの良い長身の女だった。黒いジャンパーと白いワイシャツ、黒いロングスカートに身を包み、ボブカットの黒い髪の毛は少し青みがかっている。
洋平と岩田は「綺麗な人だな」と心の中で呟くだけであったが、浩介は顔を赤くして露骨に胸のうちに湧いてきたものを示している。
「遅れて申し訳ありません。本日付けで、此方の部署に配属となりました、
敬礼をする由姫。
固いままの表情を変えないままポーズを決めたところで、時針は『5』の文字に差し掛かり、外からはサイレンから流れる優しいメロディが微かに聞こえて来た。
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今時の大学は選択さえすればオンライン上で何処でも授業を受けられるのかと、進路を決める際に聞いて驚いた。
いざ自分が使うとなると、本当に便利だと颯太は文明の発展に感心をする。
技術力の発展の結果の一つが、今歩いているこの飲み屋街とも捉えられる。
時刻は午後6時。陽が落ちて店の灯りが点き、まるで虫のようにその中へと吸い込まれていく。
自分もこれからその中の一人になるのだと思うと、何故か途端に変な気分になる。
赤色の提灯が揺らめいて『焼肉専門店 ぎゅう』の看板を仄かに照らす待ち合わせ場所が近付くと、前方からスーツを着た男が目の前から歩いて来た。
彼の姿を確認した颯太は、何事も無かったかのように足を進める。
すると男が通り過ぎ、そのまま去って行った。
少し経った後で胸元にピンク色の付箋が貼られていることに気が付き、取って確認をする。
『前の4人組に近づけ』
黒いボールペンで文言が書かれた面の裏側を見ると、QRコードが印刷されたステッカーが貼られている。
書いてある通りに前を向くと、そこには仕事帰りの由姫達四人がいて、颯太自身の目的地に入って行く。
──まさか、ようやくか……?
思わず笑みを浮かべた颯太は、バレないように彼等の後ろに着き、電気で出来た行灯が入り口で光る中に入店をした。
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この店は岩田の行きつけだと言う。
嘗て自身が担当をしていた部署の面々が、仕事の後に立ち寄って親睦を深めたらしい。
確かに新宿にいながら下町の雰囲気を感じられる内装や、ゆったり出来る個室は落ち着くことの出来る。それに店を営む夫婦と、左手の薬指に質素な指輪を着けた若者の接客が心地良い。ここは結束を固めるのに打って付けの場所だ。
うち一つの個室から上の方に煙が上がっていく。
発生源は無論肉が置かれている金網だ。肉の色を赤色から黒色に変化させていく中で生じるものである。
変色を終えた肉を由姫が次々に取り分けていく。
左隣に座る上司の岩田を初め、目の前に座る浩介、彼の右隣に座る洋平へ次々とトングを使って取り皿の中に入れる。
「別に、君も肉を食べて良いんだぞ」
「そうですよ。今日は佐藤さんの歓迎会なんですから」
洋平の言う通り、今繰り広げられているのは由姫がこの部署に来たことを歓迎するためのものだ。
なのに主役が目の前のご馳走に手をつけるどころか、只管に配るだけと言うのはどうも居た堪れないような感じがする。
だから1枚でも多く食べて欲しいのだが、
「いえ。上司の皆さんにやっていただくのは申し訳無いので」
と言ってトングを持つ手を止めず、自身は何枚かを取って白米と共にレモネードで流し込むだけだ。
礼儀正しいのか何なのか判らないが、それが佐藤由姫と言う女の質なのだろうと岩田と洋平は静観する。
年長者達が優しく見守る一方、彼女の目の前に座る浩介は顔を赤くしていた。
スタイルが良く顔も整っている女が座っていることに、26歳になってもここまで胸が昂るのかと驚いてしまう程である。
「あ、あの!」
思わず声を掛けてしまった。
「佐藤さんって、その……好きな人とかいるんですか⁉︎」
「え? いないですし、今後貴方がなる可能性は低いですよ」
数手先まで読まれた答えを出され、実質的な浩介の敗北が確定をした。
落胆をする浩介に岩田が注意をする。
「気を付けろ。場合によってはセクハラだぞ」
「そうですね。私だから良かったものを」
「はい……。というか、いい加減合コンとか開いてくださいよ柿沢さん!」
何故か矛先が洋平の方に向いた。
「そうは言われても僕既婚者ですよー。開いたら奥さんがこれですから」
洋平は左手の小指を見せた後、人差し指のみを出した両手を頭上に持っていってジェスチャーをする。
その際に微かに見えた薬指の指輪が、無意識のうちに浩介に追い打ちをかけた。
「良いよなー既婚者は! 何だかんだ幸せそうで!」
「おい。そんなやけになって酒を呑むな。倒れるぞ」
笑い合う三人。
きっとこの中にしか分からないものがあるのだと悟った由姫は、静かに肉を頬張る。
炭火で焼かれたことによって凝縮した旨味を堪能すると言う、今日の仕事にようやく取り掛かることが出来たのだ。
四人のいる個室からほんの少ししか離れていないカウンター席の真ん中では、颯太が右隣に座る同年代の若者と並んで焼き鳥を貪っていた。
『パンダ・プリンセス THE FINAL』の文字と共に可愛らしいキャラクターが描かれる白いパーカーを纏う
一方の颯太はそんなことお構い無しに串を丸ごと持っていってかぶりつく。しかし満はそれを許容しているのか、特に何も言うことは無い。
美味い肉の塊に舌鼓を打っていた最中、満が落ち着いた様子で口火を切った。
「最近どうだ?」
「? どうって何が?」
「原稿だよ。もう1年休載してるだろ。打ち切りとかにならないのか?」
「大丈夫大丈夫。そこは編集さんが何とか上手くやってくれて、席残してくれてるから」
串を持つ手を止めずに笑顔で答える颯太。
彼の様子が余計に心配になったのか、更に質問を続ける。
「やっぱり、アレが理由か?」
手が止まった。同時に浮かべていた笑みも消えかかり、微妙な表情が現れる。
「……だな。まるっきり駄目になった。何を題材にすれば良いのか、どんな言葉を選べばよいのか、もう全く判らなくなっちゃった」
不味いことを言ってしまったと満が咄嗟に謝罪をしようとすると、颯太が先手を打った。
「……けど、やっと書けるかもしれない。そろそろ待っていたものが来るから……」
「……そうか」
再び二人は焼き鳥に手を伸ばした。
これ以上訊いて話すのは野暮だと思ったためである。
出された料理の美味しさに颯太が見せる笑顔は、高校生の時から変わらない。
3年間その姿を見てきた満にとってはそれが何よりも安心材料となるのだ。
そして静かに食事は再開され、世間話に花を咲かせて1時間程経った後に閉会となった。
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さて、彼等が飲んで食ってを楽しんでいる時でも労働をしている者と言うのは確かに存在をする。
何気無く街中に溶け込んでいて、視認出来たとしても特に見向きもされないのだが、確かにいるのだ。
今マンションに荷物を配達しているこの男もそうだ。
閑静な住宅街の中に2トントラックを停めて荷物を下ろし、待っている顧客の元へと足を走らせる。
かなりの重労働だ。
にも関わらず誰から称賛されるわけでもないし、寧ろ数分遅れただけで嫌味を言ったり舌打ちをしてくる顧客もいる。
いっそのこと辞めてしまうことが出来たらどれ程に幸せだろうと思いながら、エレベーターを使って1階のエントランスへと降下した。
そしてこれが最後の配達先であったため、次の配達に備えるべく事務所に戻ろうとトラックの方に向かった──。
ドーン!
突如として聞いたことの無い類の凄まじい音がした。
音源はトラックの所である。
恐る恐る見てみると、停まっていたトラックのバン*1が破壊され、跡形も無く潰れている。
到底自身が車を空けていた2、3分の間に出来る芸当ではないことから、配達員は驚愕する。
更にそこにいるのが見えた。
化け物だ。暗い夜道では後ろ姿だけしか確認出来ないが、腰に何かを巻いたマゼンタ色の化け物である。
ゆっくりと化け物が振り返った。
闘牛のような2本の角を持ったその顔はあまりにも恐ろしく、配達員は腰を抜かしてしまう。
その中でも何とかして私物のスマートフォンを取り出し、『1』を2回、その次に『0』を押して耳元に当てる。
「もしもし! 助けてください! ば、化け物がぁ……⁉︎」
怯えて目の前が何も見えなくなってしまった配達員を他所に、化け物は突如として身体を黒い粒子状に崩壊させる。
そのままバラバラになった化け物は夜風に乗って何処かへと去って行った。
しかし恐怖に飲み込まれてしまった配達員はそんなことに気が付くこと無く、遠くから聞こえてくるサイレンの音に安堵するに止まった。
【参考】
鉄球を使った解体工事とは?|株式会社北斗
(https://www.hokuto-recycle.co.jp/column/2461/)
トラックの荷台で役立つ知識!荷台寸法・はみ出し対策まで!|トラック王国ジャーナル
(https://www.55truck.com/journal/17.html)
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