仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第19話です。
急ピッチに作ったやつなので推理もガバガバですがご了承ください。許してください!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
THE RiCECOOKERS - NAMInoYUKUSAKI for SPEC【乙】

【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック


19 - 2人目の仮面ライダー(F)

 突如として出現をしたキリンユーザー。

 彼に蹴り飛ばされたミノタウロスユーザーは立腹していて、身体を上下する様子は血を激らせる闘牛のようだ。

 

「蹴り飛ばしやがって……! こっちもやってやるよぉっ!」

 

 ミノタウロスユーザーがキリンユーザーの方に走って大きな右腕を再び振るう。

 敵として認定をされたキリンユーザーはなんと、地に着いている両足をほんの少しだけ浮かし、右へスムーズに並行移動をした。

 

「⁉︎」

「良いだろ。これが俺の能力だよ」

 

 突進をして来て何度も両手でパンチを繰り出すのだが、(さなが)ら幽霊のように浮遊することで軽やかに全てを回避。

 逆に右足で巨体の胸に蹴りを入れた。

 しかしやはり図体が大きいことから安定しているのか、ミノタウロスユーザーは1歩下がっただけだ。

 

 なのでキリンユーザーは何度も何度も浮かんだ身体の両足を使って何度もキックをする。

 例え小さな威力のものだったとしても、蓄積をされれば大きなものとなる。

 そのため、徐々にミノタウロスユーザーは押されていき、遂には吹き飛ばされてしまった。

 

「ハァッ!」

「グッ……!」

 

 これなら勝てると思い、ゆっくりと着地をしようとした──。

 

 

 

 

 

 その時、

 

「⁉︎ グァァァッ!」

 

 突如としてキリンユーザーが宙空で苦しみ出し、地面に落下した。

 どうやら浮遊をするための精神力が切れたらしい。

 

 しかしそれだけに止まらず、ずっと痛みか何かに悶えている。

 ようやく立ち上がった所に、ミノタウロスユーザーが言った。

 

「そっちがそんなことやるなら、こっちはこうしてやるよ!」

 

 するとミノタウロスユーザーは自身の身体から黒い粒子を吹き出し始めた。

 背中や両肩、両足の爪先から放出されるそれがミノタウロスユーザーの前に集まると、大きな斧のような形を成して固まる。

 右手に持つことによって、威力の高い武器となって完成をした。

 

「は⁉︎ 武器使うのは反則だろ!」

「自分も浮いてるくせに何言ってるんだよ!」

 

 それとこれとは話が別なんだよ、とでも言ってみたかったのだが、絶対に隙を与えないとばかりにミノタウロスユーザーは横文字に斧を振った。

 抱えるようにして寸前でキリンユーザーは食い止められたのだけれども、右足で左脚を挫かれてしまった所に斧を強制的に離され、そこに一閃されてしまう。

 

「ッ!」

 

 痛みを感じることは無い。

 しかしダメージとしては確実に身体に蓄積をされているに違いない。

 

 左足で由姫の前まで蹴り飛ばされてしまったキリンユーザー。

 立ち上がろうとするのだが、どうやら身体を形成しているものに問題が起こったらしい。

 一体何が起こっているのか分からず静観することしか出来ない由姫は我に返り行動を起こそうとするのだが、如何せん拳銃から弾丸は全て無くなってしまっているし、そもそも生身で勝てるような相手ではない。

 

 どうすれば良いのかと思っている最中、何故かミノタウロスユーザーは攻撃をして来なかった。

 止めを刺すには絶好の機会である筈なのにである。

 

「まぁ良い。俺が興味あるのはお前らを殺すことじゃねぇ。あのトラック潰すことだからな。じゃあな」

 

 そう言ってミノタウロスユーザーは自身の身体をボロボロに崩壊させると、風に乗って何処かへと去って行ってしまった。

 これで残されたのはキリンユーザーと由姫だけになった。

 

 あー、と怠そうな声を出して立ち上がったキリンユーザー。

 

「じゃ、俺も帰るわ」

「待ってください。貴方一体何者なんですか?」

 

 何処かに行こうとするキリンユーザーに、由姫が訊く。

 目の前の化け物が先のものとはまるで違うようなのは百も承知なのであるが、それでも同じ穴の(むじな)であるかもしれないと警戒しているのだ。

 

「何って、アイツと同じ化け物だろ」

「それはそうなんですけど、何て言うか……少し違う気がして……」

「ふぅん。分かってんじゃん。それじゃ」

「え、ちょっ、待ってください!」

 

 由姫の質問に一切答えること無く、キリンユーザーは敵と同じように自身の身体を崩して撤退して行った。

 

 ──一体何がどうなってるの……?

 

 独り取り残された由姫が最初に思ったことだ。

 この部署に配属された際に若干危険を覚えたのだが、想像を優に超えて危険であるがために寧ろ安心感すら覚えてしまう。

 それに目の前で繰り広げられた群像劇に似たものを未だに信じられない。

 

 どうやって報告しようか悩みながら帰ろうと振り返った際、由姫の視界に入って来たのは先程の路地から出て来る颯太であった。

 

「いたた……」

 

 頭を左手で押さえて猫背になってしまっているその様は、何かの苦しみに必死に耐えていることを表している。

 その根源が何処にあるのかは、彼が右手に握っている紫色の道具によって判明した。

 黒いベルトの部分は無いものの、確実に先程の怪物が装着していたドライバーであった。

 

 すぐに駆け寄って颯太の右腕を掴む。

 

「……またアンタか……。何?」

 

 序盤に少し驚いた様子を見せるだけだった。

 

「そのデバイスは何なんですか? あの化け物とどんな関係なんですか? 答えてください……!」

 

 すると、突如として颯太は(うずくま)ってしまった。

 先のチャラチャラとした様子だと嘘から逃れようとしての猿芝居とも取ることが出来るが、到底そうには思えなかった。

 右手からドライバーを落とし、自分の身を守るように両手で頭を抱えて脚を曲げるのは、今にでも助けなければならないサインである。

 なので由姫はジャケットのポケットからPフォンを取り出し、通話アプリを開いた。

 

「公安501から警視庁。捜査現場にて20代前半と思われる男性が蹲って苦しんでいます。すぐに救急車の手配をお願いします」

『警視庁了解』

 

 苦しそうな声を出して更に身体を縮こませる颯太に「ちょっと待っててください」と声を掛けて背中を摩る由姫。

 しかし何処からもサイレンの音は聞こえない。呼んだばかりであるので当たり前なのだが、どうしても焦ってしまうのだ。

 

 代わりに聞こえてきたのはPフォンの着信音だった。

 一体こんな時にどんな用件なのか逆に興味が湧いた由姫は電話に出る。

 

「もしもし?」

『もしもし佐藤さん?』

 

 電話は浩介からだった。

 そこまで期待をせずに聞き流そうとしたが、そうもいかない内容であるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今野和人、捕まえましたよ』

「はい……⁉︎」

 

 驚くべき内容を聞いたのと同時に、遠くの方からタイヤが地面を滑る音が聞こえてきた。

 その方を見るとどうやら青色のセダンが走り去って行く様子だったらしい。

 

 別に普通のことだ。

 しかし何処か引っ掛かりを覚えた由姫はその車とナンバーを目に焼き付け、再び颯太の方に目をやった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 浩介と洋平が今野を見つけたのは、三鷹駅近くのネットカフェだった。

 100個近くある個室の中の一つにいた今野に声を掛けると、突如として逃げ出そうとした。

 しかし浩介の瞬発力は凄まじく、すぐに手を掴まれてしまう。

 

 振り払ってまた逃走を図ったため、埒が開かないと結局は「公務執行妨害で逮捕しましょうか?」と言う洋平の穏やかで静かな脅しに負け、元いた個室にて話を聞けることになった。

 

 中には数日分の着替えが雑に畳まれた状態で置かれていて、その上に飲みかけのペットボトルが転がっている。

 そこから今野の絶妙な生活感が漂い、吐き気に似た感覚を覚える。

 

 椅子に今野を座らせて洋平が訊く。

 

「今野さん。少し前にサーフ運輸をリストラされてますよね?」

「そうだよ、だから何だよ?」

「だからユーザーになってトラックを破壊して、警察から逃れるためにあのネットカフェに逃げたんですか?」

「違ぇよ。家賃滞納したから大家から逃げたんだよ。だってアンタらが来たのもそれだろ?」

 

 浩介の言葉に今野は不貞腐れた様子である。

 彼の言い方は決して逃れようとしているものではないと思い、洋平はPフォンの画面を見せる。

 そこには何か六角形のデバイスの写真が映し出されていた。

 

「じゃあ、これに見覚えは無いですか?」

「何だよそれ?」

「え、本当に知らないんですか?」と浩介は驚く。

「俺が嘘言ってるように見えるのかよ」

 

 そう言う風にも見える、とのことは決して口に出さず、今野の許可を取って所持品を調べさせてもらう。

 散らかった部屋にあるのはゴミや着替え、更にはパソコンに財布と言った貴重品だけ。特段怪しいデバイスは何処にも無かった。

 

 ──彼じゃないのか……?

 

 考えられる場所を全て探したとしても全く見当たらず、二人は狭い個室の中でただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 ドライバーを初めて使った。

 瞬きをした瞬間にまるで身体が別物のような感じになって、飛んで来たものをドライバーに挿れて変身をして、それで化け物に挑んだ。

 

 けれど負けた。

 奴が何処かに去って行ったから良かったけど、初戦を黒星で飾ったことは全く変わり無い。

 

 しかも元の身体に戻ったらさっきのお姉さんに呼び止められて、急に頭が痛くなって──。

 

 それで──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走馬灯のようにそこまで思い出した所で、颯太は目を覚ました。

 外の夕陽によって照らされる身の覚えの無い白い天井と固いベッドの感触が気持ち悪く感じられてしまう。

 

「目が覚めましたか?」

 

 寝ている自身の左側から声を掛けてきたのは、そこに座っている由姫だった。

 

「……あれ? さっきのお姉さんじゃん……」

 

 寝起きであることから言葉に力は籠もっていないのだが、ゆっくり上半身を起こしている彼の調子としては初めて会った時と同じものだ。

 

「……ある程度は元気そうで良かったです。改めまして、警視庁公安部の佐藤と申します。壱宮颯太さんですよね?」

「そうだけど、何?」

「色々とお訊きしたいことがあります。まず、ずっと私のことを着けて来たんですか?」

 

 頷いた颯太は「鞄の中かな?」とだけ言う。

 彼の言葉が意味していることを探ろうと自身の鞄の中を覗きながら漁ると、見つけた。

 ボタン式電池のような小さなものだ。厳密に何かは判らないが、話の流れからして恐らくは発信機の類だろう。

 

「嘘でしょ……!」

「勘違いしないで欲しいんだけど、俺が入れたわけじゃないからね。俺はただ尾行しただけだから」

 

 いつの間に自分の鞄にこんなものが入っていたことに驚愕する由姫。

 貴方がやったんですか、と訊くと颯太は首を横に振った。

 

 しかし肝心なのはこれではない。

 気を取り直して本題に入るために由姫は一枚の写真を見せた。

 そこに写し出されているのは、颯太やミノタウロスユーザーが使っていたデバイスである。

 

「それで、これ、何なんですか?」

「『ユーザーズドライバー2』って言うのが正式名称。使えばライドボットって言う機械を使うことが出来る」

「じゃあ、さっきの化け物は……!」

「そう、俺。紫のゴツい奴じゃなくて、緑の方ね」

 

 さも当たり前かのように言うことが不思議で仕方が無い。

 異様な凶器とも取れるものを持っていることに何の躊躇いも覚えていないような颯太の様子に、由姫は更に問い詰める。

 

「どうしてこんなものを持っているんです⁉︎」

「何でって、貰ったんだよ」

「……え?」

 

 その時、部屋の扉が3回ノックされた。

 ガラガラと引き戸が開かれて入って来たのは岩田であった。

 軽い自己紹介をして颯太に話しかける。

 

「気分はどうだ?」

「え、あ、はい。頭が痛いくらいでもう大丈夫ですけど……」

「そうか。それも全て、このドライバーを使った影響だろう」

「? どう言うことだ?」

「恐らくだが、君の脊髄に埋め込まれているICチップが神経回路に異常を来している。連続で使用すれば、生命の保証は出来ない」

 

 目を見開いて驚く颯太。

 意味を理解出来ない由姫であったが、何となく不味いと言うことだけは判った。

 

 今の由姫は知らないことであったが、ユーザーズシステムを使うには脊髄の近くに専用のICチップを埋め込む必要がある。

 脳から各神経系へ走る電気信号を感知してライドボットを操作させるためである。

 

 岩田曰く、電気信号を受け取る際に誤作動が起こっているとのことだ。

 

「なので、ドライバーは此方で少し預からせてもらう」

「は⁉︎ ふざけんなよ! 俺はあれが無きゃ駄目なんだよ! あれが無きゃ全部が水の泡になるんだよ!」

「落ち着いてくれ。後日改めて返却させてもらう。それまで待ってくれ」

 

 納得は出来ないがここで更に言うのも野暮だと思ったのか、颯太は上体を再びベッドに戻した。

 身体を二人の方から背けた所で岩田がまた話し始める。

 

「それから、もう帰ってもらって大丈夫だ。検査でも特に異常は見当たらなかったからな」

 

 颯太の背中が微かに踊っているように見えた。

 先程とは打って変わった彼の様子を無視し、由姫は岩田に耳打ちする。

 それに岩田も小声で返す。

 

「ちょっ?と待ってください。今逃がしちゃって大丈夫なんですか?」

「検査で異常は無かった。いつまでも居させるわけにはいかないだろ。大丈夫だ。ちゃんと監視は着ける」

 

 岩田が言うのであれば問題は無いかと思ったが、それでも不安だ。

 決して、彼が杏奈物騒なものを持っているからそう思っているわけではない。寧ろ手元から離したからこそ、彼が何を仕出かすのか見当がつかないのだ。

 

 颯太が起き上がった。

 退院出来ると聞いてすぐに近くに置いてあった自分の荷物をまとめ始める。

 

 財布やスマートフォンをズボンのポケットの中に入れていく颯太の手が少し震えていることに、由姫は彼が焦りを覚えていると思った。

 笑顔で鼻歌を歌うその内側に入っているものを追求する覚悟は、今の由姫には無かった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 さて、その日の夜の話である。

 

 もう太陽が室内を照らさなくなり掛け時計が午後7時を指し示す中、岩田はキッチンに立っていた。

 袋麺を(どんぶり)に入れ、近くのコンビニで売っていた調理済みのマッシュルームや焼き鳥の缶詰をトッピング。更に真ん中の窪みに生卵を投入した所で沸騰したお湯をかけてそれぞれにプラスチック製の蓋をし、蓋をしてキッチンタイマーを3分にセットしスタートボタンを押した。

 

 そしてジャケットのポケットからスマートフォンを取り出し、メッセージアプリを確認した。

『後どのくらいで完成する?』と言う文言を送ると、送信先の『常田八雲』と言う男は2分程経った所で『あと5時間 徹夜でやる』と返信してきた。

 だったら問題は無さそうだと岩田はホッと息を吐いた。

 

 一方、カウンターテーブルに座った三人は調理の終わりを雑談と言う形で時間を潰しながら待っていた。

 一番左端に座る由姫が他の二人に訊く。

 

「結局局今野は無実だったんですか?」

「えぇ。探してもドライバーやガジェットの類は出て来ませんでした……」

 

 右隣の浩介が答える。

 

「防犯カメラにも、トラックが破壊された時刻に彼がドリンクバーや本棚を行ったり来たりしている様子が写っていました。確実にシロですね」

 

 そのまた隣の洋平も続く。

 

「すみません……。佐藤さんのお役に立てなくて……」

「え? 別に私のために捜査したわけじゃないですよね?」

 

 気を惹かせようとした言葉に由姫はカウンターを喰らわせる。

 通常運転なのだが、それが浩介にやけに刺さる。

 

 するとタイマーが大きな音を立てた。

 すぐに音を止めて蓋を開けると、中で即席のラーメンが美味しそうに湯気を出している。

 それらを三人の所と一番右端の席の前に置く。

 

「待たせたな。今日の夜食だ」

「え。チキンヌードル、ですか……?」

 

 何となく不安そうな由姫に浩介が言う。

 

「3分で出来て具も何も入れなくても美味しい。夜食に打って付けのものですよね」

「僕は正直、もっとちゃんとしたもの食べたいですけどね……」との洋平の愚痴には誰も耳を貸さなかった。

 

 岩田が着席した所で合掌をして麺を口の中に運ぶ。

 インスタント食品特有の独特な風味が襲い掛かって来るが、慣れればそれも美味く感じられ、タレの染みた焼き鳥やマッシュルームの旨味が癖を正してある程度万人受けするよう調整してくれるのだ。

 

 舌鼓を打っている所で洋平が口火を切った。

 

「それにしても、まさか素手でトラックの荷台を潰すだなんてねぇ……」

「え? 斧じゃないんですか?」

 

 それには岩田が答えた。

 

「斧を使ったらV字に凹むだろ。ある程度均等に潰れていると言うことは、素手でやった可能性が一番高い。と言うか、何で斧なんだ?」

「だって、使っていましたし……」

「けど、全ての事件であのユーザーが使ったのは、素手ですよ」

 

 丼を持ったまま洋平は離席をし、近くのテーブルに置いてあったパソコンを操作する。

 席に座った状態で待っていると、モニターにパソコンの画面にあるものと同じものが映し出された。

 

 それは由姫が遭遇したものを含めた5件の事件の映像らしい。

 これまでの映像は深夜帯のものが多かったことから由姫が確認することは難しかったが、5件目に関しては日中に起こったことから全容がようやく見えてきた。

 

 何気無い風景の中に停車をしているトラックのバンの上に黒い粒子の大群が現れ、それが素手のミノタウロスユーザーに形を成す。

 落ちていく勢いを使って拳を振り下ろすと、巨大な手によって繰り出されたパンチは一瞬でバンをぺちゃんこに潰した。

 そして中の荷物が一気に溢れ出たことと化け物が地面に降りて来たことに恐れた配達員が逃げ、入れ違いに由姫がやって来た所で映像は終了した。

 

 以前の4件分のものも再度見てみると、確かに斧のような物騒なものは持っていない。

 全てを己の拳一つで終わらせていることに改めて驚きを覚えた。

 

「本当だ……。出してもいない……」

「まぁ、持ってパンチをしても邪魔になるだけだからな」

 

 確かに岩田の言う通りだ。

 パンチをする方の手で握ると逆にやりづらいだろうし、逆だったとしても斧の重さに引っ張られて威力は半減してしまう。

 どちらにしろ素手でバンを潰す際に持つことはあまりにも非効率的だ。

 

「……ん? 待てよ……」

 

 すると突然浩介が何かを思い出したようだ。

 

「何か、聞き込みの時に斧がどうのこうのって話してる人いたな……」

 

 自分のジャンパーのポケットから手帳を取り出してペラペラと捲ると、お目当てのものが見つかったらしい。

 

「ほら」

 

 全員に見せたのは1件目の事件の際、近隣のマンションに住む会社員から貰った証言だ。

 

 ──まさか昔のバイト先が、斧持った怪物に……。

 

「しかも何がおかしいって、この人以外斧に関する証言をした人がいないんですよ」

「犯行の時あんな物騒なもの持っていたら絶対その特徴伝える筈ですよね?」と洋平が言う。

「えぇえ。後はマゼンタ色の怪人って言ったり、そもそも見てなかったり……」

 

 まさかの急展開に全員が驚愕をする。

 今まで捜査線上に上がることの無かった人物の存在はあまりにも唐突であったが故に、岩田はそれを否定しようとするかのような発言をする。

 

「しかし、ユーザーズシステムは近くにいなければ使えない。足立区の自宅で仕事をしている彼が10キロ以上離れた場所で犯行をすることは不可能だ」

「けどもし車か何かで移動していれば、一応犯行は可能ですよね?」

 

 洋平の言葉に由姫は自身の記憶の中にあった、一応覚えておいたことを引っ張り出した。

 

「そう言えば……5件目の現場の所で、走り去って行った青い車がいたんですよ。別にただ走っていただけだとは思うんですけど、どうも引っ掛かって……」

「ナンバーは覚えているか?」

「確か……多摩2文字、数字200、すずめの『す』、57-91です」

 

 車のナンバーを聞いた洋平はパソコンを操作する。

 そうしてすぐに車両の照会が終わったようだ。

 

「その車の持ち主は……佐川(さがわ)と言う人ですね。本籍は東京都足立区……あっ! この住所って、その聞き込み先じゃないですか?」

 

 浩介が画面を確認し明記されている住所を見ると、「ビンゴですね……!」と一言言った。

 もしただの偶然と言われればそうなのかもしれないが、今の状況でその言い草が通用するのかと言われれば難しい。

 

「犯行時刻の殆どが深夜帯だったのは仕事を終わらせてから移動するためと、目立たないようにするため。そして今日は土曜日で休日だったから昼間から犯行が出来たのか……」

 

 すると呟いた由姫がまた1つ疑問を増やした。

 

「けど、動機は何なんですかね? ただ面白いからやってるってだけなのか、それとも別の理由があるのか……」

「確か、学生時代にサーフ運輸でバイトしていたとか何とか言ってましたね……。その時に何かあったとしたら……」

「じゃあその恨みを晴らすことが、ユーザーズシステムを手に入れてようやく出来るようになった、とか?」

 

 三人が岩田の方を見る。

 部下達の視線を一身に浴びた岩田はすぐに指示を飛ばした。

 

「まずは家宅捜索令状を請求して家宅捜索。同時に佐川を任意で引っ張る」

「「「はい」」」

 

 

 

────────────

 

 

 

 2時間後、由姫に浩介、洋平の三人は足立区にある佐川のマンションに車を走らせていた。

 令状が届いたため、これから家宅捜索を行うのである。

 

 浩介が運転する車の助手席に座っていた洋平がサーフ運輸に問い合わせてみた。数年前にアルバイトでいた佐川と言う男は一体どんな男だったんですか、と。

 すると当時彼が働いていた営業所の担当に繋いでくれ、佐川について話してくれた。

 

 佐川が大学生の頃にサーフ運輸でアルバイトをしていたことは確かだった。

 勤務態度自体は真面目で、これと言ったことも無かったそうなのだが、ある日事件が起きた。

 

 運転していた配達用のトラックに自動車が激突。幸い両者に怪我は無かったのだが、激突したバンの中に入っていた荷物が全て悲惨な状態になってしまった。

 このようなケースでは通常、ぶつかって来た自動車の運転手側に破損した荷物の賠償責任が生じる。

 しかしトラックに搭載されていたドライブレコーダーに、佐川が運転中にスマートフォンを数秒間見ている様子が記録されていた。

 当の本人は「ナビを見ていただけ」と主張したのだが、そんな言い訳が通用するわけもなく、自動車の運転手の賠償金額はおよそ半額に下げられ、佐川は道路交通法違法に触れる可能性がある行為をしたとしてクビになった野田。

 

 はっきり言ってしまえばただの逆恨みだ。正当な理由があれば復讐しても良いと言うわけではないのだが、流石に筋の通っていない復讐は如何なものかと思う。

 

 一刻も早く止めさせる。

 そのために彼等は車を急がせるのだ。

 

 暫くしてようやく目的地に辿り着いた。

 近くの路上に停車をし、1階にある『佐川』と表札の掲げられた部屋のインターホンを鳴らした。

 

 しかし何度押しても応答が無い。

 出ようとしていないのか、それともただ単に部屋を開けているのか。

 

 お待たせしました、と遅れて浩介が駆けて来た。

 丁度帰ろうとしていた管理人に頼んで鍵を預かったらしい。

 一応は家宅捜索令状が出ているので、勝手に入ったとしても問題は無いだろう。

 

 鍵を挿してドアを開けた。

 中は真っ暗だった。部屋の灯りはどれも点いていないため、僅かに差し込む外の光でしか様子が確認出来ない。

 

 ──まさか……!

 

 由姫が走り始めた。

 マンションの敷地内を抜け、住人が使うと言うそこから程近い駐車場にやって来る。

 

 もう午後の9時過ぎと言うこともあってかなりの車が停まっている。

 車種や色も様々なのであるが、その中にお目当ての青いセダンは何処にも無かった。

 

「逃げられた……!」

 

 暗い夜の中で少し呆然としてしまう。

 しかしこのまま立ち尽くすわけにもいかないと思い、自身が運転する銀色のセダンに戻って無線を使い通信を始めた。

 

「公安501から警視庁」

『公安501どうぞ』

「本日葛飾区青戸で起きた器物損壊事件に関与していると思われる容疑者が自家用車で逃走した模様。車両の追跡を願いたい。ナンバーは多摩2文字、数字200、すずめの『す』、57-91」

『警視庁了解』

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 慌ただしい一日を終え、一度沈んだ太陽がまた登って数時間が経つ。

 

 この日もいつものように洗面台で顔を洗って、編集部から貰った黒いバンドTシャツと茶色いチノパンに袖を通すと、テーブルの上に置いていたノートパソコンで満と通話を始めた。

 今日の大学の講義は午後から。互いに一人暮らしをしている身同士で寂しくないよう、時間に余裕があればたまにビデオ通話でもしながら食事しようと言う颯太の提案によるものだった。

 

 颯太は輪切りにしたトマトやレタス、ベーコンを入れて焼いたホットサンドと野菜ジュースを用意し、満はコンビニで買った弁当を食べている。

 

 通話しながらにも関わらず無言になっていた所で、満が話し掛けてきた。

 

『お前、昨日救急車で運ばれたってマジか?』

「え、何で知ってんだよ⁉︎」

『風の噂で聞いた。大丈夫か?』

「ん〜まぁ……。そのショックで何か書けるかと思っていたけど、後でそれ以上にショックな出来事があったから何も浮かばなくなったわ……」

 

 入院したまではまだ良い。

 けれどもまさかドライバーを回収されるとは思っていなかった。あれが無ければ本当に不味いのに。

 

 思いだすだけで何処となくイライラとしてくる。

 誤魔化すようにコップの中の野菜ジュースを胃の中へ流し込んだ。

 

『最終回書くだけなんだろ? もう1年以上休載してるんだから、そろそろじゃないか?』

「う〜ん……そうだよなぁ……」

 

 正直考えたくもなかったことだ。

 その瞬間、出来るならそのまま打ち切りにでもなってくれと思ってしまっている自分がいることに気が付き、自分が徐々に嫌になってくる。

 創作者の性とも言うべきものだろうか。

 

『じゃあ、俺この後用事あるから、また明日な』

「あ、ああ。じゃあな」

 

 通話が終了をした。

 まだ机上には半分近くホットサンドが残っている。

 しかしどう頑張っても食べる気が起きそうになかった。

 

 すると突然、ベッドの上に放置していたスマートフォンが着信音を鳴らし始めた。

 誰からなのかを一切確認せずに電話に出る。

 

「もしもし? あ、お疲れ様です。──はい。はい。──すみません、そうなんです。ドライバーが警察に押収されて。──いや、『大丈夫』って言われても、どうすれば……。──え? いや、でも、ここからタクシー使ったとしても結構時間掛かりますよ」

 

 通話の相手からの言葉に戸惑う颯太が立った時、外から独特な短いクラクションが3回聞こえた。

 

 ──あれに乗れ。

 

 乗ったからと言って一体何になると言うのか。

 自分に変化が訪れるとも限らない。寧ろ停滞するかもしれない。

 

 だが、それでも何かが起こるような気がした。

 良い方か悪い方かは見当もつかないが、それでも行くしか選択肢の無いと宣告されているように感じた。

 

 なのですぐに残りのホットサンドを全て飲み込み、玄関でハンガーに掛けていたペールブラウンのフライトジャケットを羽織り部屋を出た。

 

 住んでいるマンションの前には黒と銀色のボディに黄金のラインが入ったオートバイが放置されていた。

 ハンドルに貼られている『最近出来た新型だ 使え』の文言が書かれた付箋を取って跨る。

 

 何故か初めて乗った感覚は感じなかった。

 寧ろ何だか嘗ての戦友に久方振りにあったような感じである。

 

 ハンドルに掛けられていた迷彩柄のフルフェイスヘルメットを被りエンジンを蒸す。

 そしてアクセルを回して発車させ、何処かへと走り出して行った。




因みに本作に出て来たチキンヌードルのレシピは、昼食を早く済ませたいと考えた末に生み出したものです。
一食の食費がかなり浮くのでおすすめです。

と言うか、これから1つの事件を2話で収めなければならないのか……。



【参考】
2点間の直線距離がわかる距離計算サイト(GoogleMap対応)
https://www.kyori.jp/index.asp
警察官は捜査令状が必要な時には最短何時間くらいで用意出来ます… - Yahoo!知恵袋
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10114041380
検問で車のナンバープレート番号を警察官が無線で確認し合う時、最… - Yahoo!知恵袋
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1114758941
ナンバープレート情報局・管轄地図・東京都
http://nplate.html.xdomain.jp/map/m36.html
一文字隼人|仮面ライダー図鑑|東映
https://www.kamen-rider-official.com/zukan/characters/1410
ジャケットの種類|選び方や特徴は?メンズコートとの違いも紹介 - ファッション通販 SHOPLIST(ショップリスト)
https://shop-list.com/men/lp/prj/jacket-type
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