前回『アクト』に登場をした常田八雲を(名前だけですが)登場させることが出来たので、今後も少しずつ前作のキャラクターを出していければと思っています。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。後、評価とかもつけてくださると有り難いです。
【イメージED】
米津玄師 - 感電
【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
少し前の話である。
佐川のマンションから帰って来た三人は分駐所にて仮眠を取り、そして時計の短針が『7』を指している今になって起き始めたと言う感じだ。
「まだ佐川は見つかってないんですか……?」と由姫。
「今機捜*1が必死に探してるが何とも……」
テーブルの前に座る岩田が言う。
「まさかここまで捜査が難航するとは……」
洋平は蒸気が出るアイマスクをしてソファに寝そべっている。
「頼むそろそろ見つかってくれぇ……」
カウンターテーブルに突っ伏す浩介。
全員が完全に疲れ切っている。
もう24時間以上連続で活動しているのだ。疲労が身体から一切抜け切れていないため、体力が限界に近付いてきていた。
すると彼等の願いに応えるかのように、テーブルの一つに置かれているマイク付きの無線機から声がした。
『機捜213から公安第五課』
まさかと思い岩田が応答する。
「公安第五課どうぞ」
『渋谷区神宮前一丁目、原宿駅表参道口付近にて手配中の青いセダンを発見。運転手が戻り次第聴取します』
「了解。こちらも向かいます」
──ようやくお出ましか……。
全員の身体に精力が戻って来た。
そしてまずは浩介と洋平が地下駐車場に向かう。
「佐藤君」
由姫も続こうとすると、岩田に止められた。
「はい?」
「これを持って行ってくれ」
そう言って岩田が由姫に手渡したのは、緑色のアタッシュケースだった。
受け取ってみるとかなり重く、中に入っているものを開けてみたくなる欲求に駆られてしまう。
しかしきっと許されないだろうと思って理性でそれを抑えた。
「きっと壱宮君も現れる。もし佐川がユーザーズシステムを使ったら、これを渡してくれ」
「何で、ですか……?」
「それしか方法が無いからだ。頼んだぞ」
そうは言われても、とは思ったのだが、こうしてああだこうだ言っていてはお目当ての者が逃げてしまうと思い、空気を読んで重いバッグを両手で持って部屋を飛び出した。
────────────
2台の車が現場に辿り着いた。
明治神宮のすぐそばにある大きな交差点に繋がる道路に駐車をしていた青色のセダンから離れた所に、密行中の機動捜査隊が乗車した車が配置されている。公安第五課の面々が到着するまで佐川の動向を監視するためだ。
その後ろに由姫達が停車をする。
これで後はターゲットを待つのみであった。
しかし一向に佐川は現れない。
機動隊が彼の車を発見し無線で連絡をしたのが20分前だ。辺りを見渡したとしても特に宿泊などをするための施設は無いため、そろそろ帰って来てもおかしくはない。
一体どうしたのだろうと由姫がフロントガラス越しに外の景色を眺める。
今日は日曜日だ。そのため人通りがそれなりに多いのだが、車の走る量は意外にも少ない。明治神宮には大江戸線や山手線で行けるからだろう。
この人通りの中から佐川が現れるのか。
もしくは紛れて何処かに逃げてしまうのか。
どちらもあり得る話であることから、瞬きをする間も自分に与えずに外を観察する。
様々な人々が流れるように歩く中で、見つけた。
スーツを着た長身の男は写真で見たのと同じ姿をしている。
思わずそっと車を降りると、ドアを閉じる直線に『佐藤さん、その人です!』と浩介から無線が入る。
──やっぱりそうか……!
佐川が青色の車のすぐそばまで来た所で彼と目が合ってしまった由姫。
恐らく彼女が何者なのかを察したのだろう。佐川は急いで車に乗り込み、アクセルを踏んで全速力で逃げ始めた。
「しまった……!」
由姫も自身のセダンに乗って赤色のパトライトを取り付けて走り出した。
明治神宮の広い敷地に沿っている道路の上で二台のカーチェイスが幕を開けた。
交通量がゼロに等しくて良かったと思う。何せ相手は猛スピードで進んでいる。もし通行人やらがいたら大惨事になる。
『青い車止まってください。近くに停車してください』
スピーカーを使って佐川に警告をするのだが、一向に止まる気配は無い。
寧ろ追手から逃れようと更に速度を上げてしまう。こんなことをしても意味なんて無いのに、全く哀れなことだ。
この時の由姫は気が付かなかったが、二台が差し掛かった十字路を右折した際、その様子をバイクに乗った颯太がたまたま目撃した。
朝方に繰り広げられるドラマのような光景に驚いたのだが、それ以上にサイレンを鳴らしながら追い掛けているのが由姫の車であることが更に彼を驚愕させる。
「絶対、追った方が良いよな……!」
決意した颯太はウィンカーを出して急遽左折。
そうして計3台の乗り物は先程よりも狭くなった道路を進むことになった。
ここは駅からもかなり離れた道であるため、人も車も全く通っていない。況してや路上駐車をしている車すら無いと言う状況だ。
壮大な追いかけっこの舞台としては最適なのであるが、カーナビを見た瞬間に由姫は顔を引き攣った。
「ヤバい……!」
1キロメートル進んだ先に差し掛かる場所から一気に人通りが多くなるのだ。
そのためここで食い止めなければ向こう側にいる無関係な民間人に危害が加わってしまう可能性が高い。
それに気が付いたのは後ろを走る颯太もだった。
この辺りは以前来たことがある。全く人のいない穴場に近い場所だと思って暫く歩いてみたら、急に人数が多くなってびっくりしたことを覚えている。
しかしながら今の彼に佐川の車を止められるような力も方法も無い。なので由姫に任せるしかない。
──さぁて、一体どうする?
お手並み拝見の名目で目の前で起ころうとしている光景を眺めていると、突然銀色のセダンは反対車線に移りどんどんスピードを上げ始め、すぐに目標を追い抜いてしまった。
すると由姫はいきなりサイドブレーキを引いてハンドルを左に回した。
後輪が強制的にブレーキを掛けられたのと同時にに前輪の向きが変えられたことで、ドリフト走行をしたセダンが横向きになって佐川の運転する車の行先を遮る壁の役割を成す。
「「⁉︎」」
「止まれぇぇぇっ!」
急いで佐川がブレーキを掛けるがそれは全くの手遅れであった。
けたたましい音を立てて激突。徐々にスピードを落としながら前進をして行く。
そうして佐川の車は100メートル程した場所で停車をしたのだが、壁となった由姫の青いセダンはどんどん転がって行き、離れた所でようやくタイヤが地面に着いて停車した。
そこら中にひびが入り、ガラスの類が全て割れ、最早原型を留めていない車を見て最悪の事態を想定した颯太はバイクを走らせる。
バイクを停めてヘルメットを取り崩壊した車に駆け寄ると、割れた窓の中から甲から出血して血を垂らす左手が伸びた。
それを両手で掴んでゆっくり引っ張ると、所々に擦り傷が出来た由姫の姿が現れた。どうやらエアバッグが彼女を守ってくれたらしい。
「いたた……っ……⁉︎」
「よっ」
手を握ってくれた相手の正体に驚く由姫。
まさかこんなすぐに現れるとは思ってもいなかった彼女に、右手を挙げて爽やかに挨拶する颯太。
最早「どうしてここが分かったんですか?」と訊く余力も無く、有り難うございます、と一言言っただけだった。
「大丈夫?」
「……何とか」
「しっかしまぁ、思い切ったよな。結果としてこうなっちゃったけど」
颯太の指差す方にあるのは、前方部分が少し凹んでしまっている青色のセダンだ。
思っていたよりも損傷の少なかったことは意外だったが、乗っている佐川の様子は大丈夫なのだろうかと心配になってくる。
「大丈夫なんですかね……」
二人は一先ず無事を確認しようと何方から言うわけでもなく前に進んだ──。
その時だった。
『只今より、意識を転送します』
三人が来た方から黒い粒子が大群となって飛んで来た。
二人に危害を加えること無くそれは一つの形を成していく。
それは先程まで追っていた佐川の姿であった。
決して幻なのではない。あまりに精巧に作られていることから、由姫は一応は事実を知っていてもまだ現実だと受け入れるのに時間が掛かる。
「ったく、危うく死ぬかと思ったぜ……。この車気に入ってたのによぉ……っ!」
とても苛ついている佐川。愛車をこんな風にされては無理もないだろう。
「いつもそうだよ……。たかがスマホ見てただけでクビになって、就職も難航して、ようやく就職出来たと思ったら職場では白い目で見られて……。俺の人生滅茶苦茶だよ……っ!」
「はい? それ全部貴方の自己責任じゃないですか。現実逃避も
独り言に正論をぶつける由姫。
お前ってそんなキャラなの⁉︎ と颯太は驚きを隠せない。
咎めるどころか、彼女の発言は火に油を注ぐだけの結果に終わったため、佐川の表情は怒りに満ちていく。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ! とっとと消えてもらおうじゃねぇか!」
すると佐川の足元に小さいガジェットがやって来て、ジャンプをして彼の右手の中に収まった。
マゼンタの色をしたそれには小さな両腕や両脚、更に牛のような頭部が付いていて、表面には土煙を模したような灰色の模様や『L07』『MINOTAUR』の白い文字がある。
その頭部や両腕両脚を仕舞い込んでただの六角形にすると、腹部にユーザーズドライバー2を出現させてスロットに装填をした。装填することによって上部にある銀色のレバーが内側へと持って行かれる。
『L:
軽快な待機音声が流れる中で、佐川は怒りを込めて言葉を放ち、ドライバーを自身の方へと右手で作った拳で押し込んだ。
「変身!」
『変身シークエンスを開始します』
ライドボットによって作られた身体が本来の黒色に戻って全く違う形状へと変化。
そこにガジェットと同じマゼンタの色が入ることで彼の姿はミノタウロスユーザーに完全に変わった。
「お前だったんだな、あの牛男の正体って」
「だったら何だって言うんだよ? お前、俺と戦うのか?」
「……」
それで颯太は思い出した。
今の自分はドライバーを絶賛没収中であった。ガジェットがあっても肝心のドライバーが無いのであれば言語道断。戦う術なんて存在しないのである。
どうしようかと内心焦っていると、
「壱宮さん。これ使ってください」
由姫が突然声を掛けてきた。
彼女はただのスクラップと化した車の中を漁り、そして緑色のアタッシュケースを取り出して颯太に中身を見せた。
入っているものは5つの銀色のガジェットが円形に取り付けられたホルダーともう1つ、未知のドライバーだ。
通常のドライバーの右側に左右対称な銀色のパーツがあるユーザーズドライバー2Sである。
「これは……?」
「ウチの室長が貴方に渡すようにと言っていました。どうぞ使ってください」
──これでまた戦える……!
高揚感のままにドライバーを取ろうとすると、その表面にピンク色の付箋が貼られていた。
色と四角い形に既視感を覚えて何なのだろうと書かれている文言を確認する。
ほんの少し萎えてしまったのだが、今は再び戦える喜びを味わおうとその感情を無視して付箋を外し、腹部に右手で持ったドライバーを当てた。
すると自動的に左端からベルトが伸びて腰を周り、右端にくっついた。
『只今より、意識を転送します』
颯太の意識が徐々に薄れていく。
後ろの方から何かが迫って来る音を微かに聞き取りながらゆっくりと身体が後ろに倒れていった。
一体何が自分達の許に来たのかを確認したのは、倒れる颯太の身体をキャッチした由姫だった。
それはライドボットの大群である。彼女の前で次々と人の形に固まっていくのと同時に、アタッシュケースの中に入っているホルダーを回収する。
そしてベルトの右側にホルダーが付いた状態のユーザーズドライバー2Sを装着している颯太の身体を模したことで完成した。
「よし。これでようやく戦える」
「は⁉︎ 何だよそれ⁉︎」
「何なんだろうな? こっちが聞きてぇし教えてやりてぇよ。……けどさ、トラックを破壊して人様に迷惑かけるような奴に話が通じるかどうか判らない。だから──」
横からマラカイトグリーンの色をしたガジェットがジャンプして来たので、颯太は右手でキャッチする。
横向きに両脚が下に付いていて左上に頭部があるその姿は麒麟と言う空想上の生き物を模しているかのようだ。表面には赤色やオレンジ色の煌びやかな模様が描かれていて、その上から『L03』『KIRIN』と白く印字されている。
「肉体言語で教えてやるよ」
颯太は笑っていた。
しかしその笑みは単なるものではなく、様々な負の何かをごった煮にして作り上げたものであることを察し、由姫とミノタウロスユーザーは恐怖を覚える。
器用に右手だけを使って両脚や頭部を仕舞ってただの六角形にし、左側のスロットに装填した。
『L:
ミノタウロスユーザーが変身した際と同じ待機音声が流れる中、ホルダーに付属しているガジェットの中で『R01』『REMODEL』と黒く書かれたガジェットを取り外して右側のスロットに装填する。
『R:
元々流れている音声に更に新たな音楽が掛け合わさることによって、全く未知のオリジナリティ溢れるものが聞こえてくる。
颯太は両腕を右へと伸ばして、ゆっくりと上に挙げて左へ移動させる。
左腕は上にL字にし、右腕はそれに垂直になるよう配置する。
そのポーズを保ったまま颯太は叫んだ。
誰も知らない新たな形態になるための言葉を──。
「変身!」
両腕を前に伸ばしてドライバー全体を押し込んだ。
すると真ん中にある六角形の左半分には麒麟の顔を模したイラストが、右半分には『R』の文字が表示される。
『変身シークエンスを開始します』
颯太の身体が黒く変色をする。ライドボット本来の色を取り戻したのだ。
しかしその姿を見られたのは一瞬のうちだけで、彼は変形をして再び様々な色を手に入れる。
こうして誰も知らない新たな形態が完成したのだ。
「おぉ……! これ良いなぁ」
それはマラカイトグリーンをベースに、赤色とオレンジ色の煌びやかな模様が美しいアーマーを胸部と両肩に装着した戦士であった。。
銀色の両腕と両脚は、手袋やブーツが装着されているように造形されている。
鎧と同じマラカイトグリーンの頭部には赤色の複眼や口元に銀色のクラッシャーがあって、その周りは赤色やオレンジ色の装飾で覆われており、両耳がヘッドフォンのように丸くなっている。
「凄い……!」
昨日初めて見たキリンユーザーの姿は禍々しさの中に優しさや美しさに似たものを感じた。
けれども今の彼の姿から禍々しさなどと言うものは全て消え去り、戦士として相応しい姿に昇華されている。
『KIRIN with REMODEL』
キリンユーザー改め、仮面ライダーリモデル キリンストレートフォームはミノタウロスユーザーと対峙する。
準備運動の如く両手や両足を回している余裕そうな様子からは、何故だか物凄い殺気を感じてしまう。
「姿が変わったからって何だって言うんだよっ!」
ミノタウロスユーザーが斧を取り出す。
体調不良になったからとは言え一度は苦戦を強いさせた武器だ。それを出すと言うことはそれだけ相手も本気になっていることだろう。
「それで、勝算はあるんですか?」由姫が訊く。
「勝算? そんなこと言われたって今貰ったばっかだからなぁ……。取り敢えず力でどうにかする!」
──この人、まさか馬鹿なのか……?
由姫の中で疑問が浮かんだ。
城北大学に通っていると言うことはそれなりに学力があると言うことだ。
しかしどうやら学力と頭の良さと言うものは必ずしも結び付くものではないのだなと実感する。
一先ずお手並みを拝見することにしよう。
斧を持ったミノタウロスユーザーが全速力でリモデルの方に走る。
そうして斧を振り翳すのだが、リモデルは自身の両足を地面から浮かしてスムーズに横に避け、その流れで右足で右の横腹に蹴りを入れる。
昨日と同じ攻撃だが、威力は格段に上がっているのか、ミノタウロスユーザーは蹴られた場所を押さえて少し苦しむ。
その隙に胸部に次々と両手でパンチを繰り出し後退させ、両足で彼を蹴り飛ばした。
「ハァッ!」
「グッ……!」
よろけながら後ろに退がるミノタウロスユーザーに対し、宙空で一回転して華麗に着地をするリモデル。
力で押し切るとは言っていたが、その言葉が通用する程の強さを持っていることが目に見えて判る。
「まだまだ行くぜ!」
浮遊しながら近付いて拳を喰らわせようとするリモデルに、ミノタウロスユーザーは左の拳をぶつける。
痛みが襲って来た。自身の腕は相手よりも一回りも大きいにも関わらず、それを凌駕する力を彼は持っているのだ。
更に背中から模様と同じ色をした炎に似たエネルギーを噴射させて、威力を増加させるだけでなく後ろへと押し出す役割を果たしてくれている。
リモデルは戦いながら徐々に勝ちを確信した。
今回は確実に手応えがある。前回は途中の途中でピンチになってしまったが、絶対に行ける。
なので手を離して身体を少し浮かせ、背中から出る炎の勢いを使って強烈なキックを喰らわせようとした。
「貰ったっ!」
「は⁉︎」
しかしそれはミノタウロスユーザーにとって好都合だったようだ。
急には止まれないために軌道修正も攻撃のキャンセルも出来ないリモデルに対し、ミノタウロスユーザーは斧で彼を押し返した。
「のぁっ⁉︎」
しかも身体の向きが180度変わってしまったため、強烈なキックが由姫の方まで迫って来る。
まさか自分に矛先が向くとは思ってもおらず、軽くパニックになってしまう。
そうこうしているうちに寸前まで来てしまった。
──ヤバい……! 死ぬ!
走馬灯の類が流れる暇も与えられない。
まさかこんな不手際に近いことで自分の一生が終わってしまうのかと急に悲しい気持ちに襲われ、そっと目を閉じた──。
けれどもいつまで経っても衝撃が無い。
痛みも感じずに天に召してしまったのかと目を開けると、何故か生前にいた路上に立っている。そして前方にはミノタウロスユーザーもいる。
『生前』とは記入したのだが、実際は死んでもいなかったことに由姫はすぐ気が付いた。
ではリモデルは一体どうなっているのか。
ふと目の前に視線を集中させると、キックをする体勢で宙空で停止をしていた。
しかも、
「⁉︎」
「どう言うことだ⁉︎ 何であの女にだけ攻撃が当たらないんだ⁉︎」
「あー、何回かやってみたんだけどさ、このガジェット、攻撃したいって思わないと無理みたいなんだよね」
右脚を再生して着地をしながらリモデルが教えてくれたことで、由姫は小学生の頃に読んだ、三流出版社が妖怪の雑学を載せただけの本に記載されていたことを思い出した。
麒麟は殺生を嫌う。
だから道端に咲く花や地面を歩く名も無き小さな虫を殺めないために、地面から足を浮かして歩くのだ。
もしその性質を受け継いでいるのだとすれば、戦闘中ずっと浮かんでいることも、今自分に攻撃が一切当たらないことも説明がつく。
「と言うわけで、残念だったな」
「……ふざけるなぁっ!」
全く上手く事が進まずミノタウロスユーザーは激昂をし、再び斧を持ってリモデルに迫って来る。
「自分から来てくれるって滅茶苦茶有り難いな」
リモデルは右足でミノタウロスユーザーの右手に回し蹴りを喰らわし、斧を離させる。
斧が落ちる寸前に左手でキャッチをすると、回った勢いを利用して斧を相手の胸にお見舞いした。
「おりゃぁぁぁっ!」
「ガァッ!」
後方に飛ばされるミノタウロスユーザー。
自身の振り回していた斧の威力は実に恐ろしいものであったことを、胸部が崩壊していることで表している。矛と盾の言い伝えはよく知られているが、まさか目に見える瞬間が来るとは誰も思っていなかった。
「じゃあ、そろそろ終わらせるか」
再びドライバーを両手で押し込む。
すると今度は胸部ではなく背中から煌びやかな炎が吹き出し始め、浮かび上がったリモデルが前に進むのを手助けする力となる。
宙空を走っていると更にスピードが上がり、全く知覚出来ない程の速度になっていく。
そしてミノタウロスユーザーの前で右足を前に出し、ヒビが入ってボロボロになっている胸部に強烈なキックを喰らわせた。
『KIRIN × REMODEL FINISH』
「ライダーキック!」
その凄まじい威力によってミノタウロスユーザーの身体を貫通し、地面に着地。
後ろで黒く変色した敵の身体がバラバラと崩壊していく音を聞きながら立ち上がると、行き場を無くして何処かに去ろうとするミノタウロスガジェットを拾い上げた。
最初こそ抵抗していたのだが、手の中に収まった瞬間に手懐けられたのか大人しくなる。
これで一段落ついたと由姫がホッと胸を撫で下ろす中、リモデルが向かった先は佐川の乗っていた車であった。
前部だけが潰れた車の運転席側のドアを剥がし、中に乗っていた佐川の身体を出す。
「ん……⁉︎」
目を覚まして見た最初の光景が自分を負かした相手であるため、佐川はすぐに逃げようとするのだが、胸ぐらを掴まれて地面に足をつけさせてもらえないことから逃げることが出来ない。
「な、何なんだよ⁉︎」
「あのドライバー、何処で手に入れた」
先程までの軽いノリではなく、あまりにも重いトーンで言葉を発するリモデル。
恐怖のあまり佐川は思わず失禁しそうになってしまったのだが、堪えて怯えながら答える。
「も、貰ったんだよ!」
「誰に?」
「若い男だよ……。
答え終わったとしてもリモデルは手を離さない。
一体何をされるのかと恐怖が増強されていく。
「手を離してください」
横から声が掛けられた。
見ると、立ち上がった由姫がリモデルに銃口を向けている。
しかし未だに手を離すことは無い。
今度は由姫の方をまじまじと見つめるのだ。
「離せ壱宮っ!」
吠える由姫。
仕方が無いなと言うかのように、佐川をゆっくりと地面に下ろす。
ようやく解放された佐川は、緊張と緩和の激しい差によって失神してしまったようだ。
リモデルの身体もミノタウロスユーザーと同じように黒く変色して崩壊する。
ライドボットが元いた場所に戻って行く中で、颯太の意識は肉体に戻って瞼が開いた。
立ち上がった颯太が腹部に装着されているドライバーを外して立ち上がり前を見ると、由姫が眠っている佐川の許に行っている。
「午前7時17分。銃刀法違反、道交法違反、公務執行妨害、器物損壊罪の容疑で逮捕します」
前に出された両手首に手錠が掛けられる。
しかし当の本人である佐川は何も気が付かない。
これで一件落着だなと颯太が彼女に背を向けて歩き始めると、
「何処に行こうとしてるんですか?」
声を掛けられた。
「何処って、帰るんだよ。もう別に良いだろ」
「いいえまだです」
由姫が近付いて来る。
面倒くさいと思いながらも振り返った次の瞬間、ガチャリと下の方で音がした。
確認すると、なんと自分の両手が手錠によって繋がれてしまったではないか。
「は⁉︎ 何すんだよ⁉︎」
「一応来ていただこうかと思いまして」
「だとしても手錠する必要無ぇだろ!」
「そうしないとバイクで逃げるでしょ? はい、午前7時18分、銃刀法違反、公務執行妨害、その他諸々で逮捕します」
「ふざけんなーーーーっ!」
颯太の叫び声が路上のこだまする。
けれども遠くから鳴り響くサイレンの音によって全てかき消されてしまった。
────────────
「ねぇ。本当に
「間違い無い。母親が
質素ながらも豪勢ないつもの和室の上座に座るラシャ。
その後ろに立つ、緑色のジャージに身を包み髪の毛をピンク色に染めた童顔の男が彼に話しかける。
子供のように身体の何処かを常に動かしている童顔の男に対し、ラシャは指先一つ動かしはしない。
「ところで、ドライバーはもう他の誰かに渡しているのか?」
「うん。けど誰にしようか悩んでいるところだからね。もうちょっと時間くれない?」
「……分かった。頼んだぞ──」
「納谷」
────────────
その夜、颯太は由姫と岩田に連れられて分駐所の地下駐車場の中を歩いていた。
逮捕された後は軽く取り調べを受け、公安第五課の他の面々に顔を合わせられ、今まで拘束されていると言うわけだ。本当に出て来る息が全て溜息になってしまっている。
なので岩田から話しかけられるのだが、どの返事も意図せずにぶっきらぼうになってしまう。
「改造したドライバーには、ICチップが肉体に及ぼす影響を極限まで抑える機能を搭載しておいた。特に影響は無かっただろ?」
「えぇ……まぁ……」
「君には、我々がユーザーを倒すことの手伝いをしてもらいたい。何も対抗する
「断れば?」
「このまま検察に送ることだって出来る、とだけ言っておこう」
完全なる脅しであった。
それでは困る。まだやらなければならないことが山程ある。
しかし彼等に協力するのもそれはそれで嫌だ。
すると岩田が突然立ち止まって振り返り、颯太の顔を見て言った。
「それに、君も追いたくはないか?
「!」
「君の協力者がどれだけ情報を持っているのかどうかは判らないが、我々といた方が情報は早く伝わるぞ」
由姫には岩田が何を言っているのか解らなかった。
しかし、颯太が暫く間を開けた後に「分かった」と言ったことで、それが何か特別なものであると察する。
「それから、佐藤君が乗っていた501号車だが」
「あ、すみません……」
そうだ。
自分は赴任して3日目にして愛車を壊したのだ。
予算の削減やら何やらで警視庁内がそれなりにひもじい思いをしている中なので、相当な叱責があるのではないかと身構えてしまう。
「いや問題無い」
けれども全く無かったのでとりあえず一安心だ。
「代わりの車なら用意してある。今度、壱宮君のNEWユーザーズストライカーもそこに収納させてもらう。……これだ」
岩田の目線の先にあったものを見て、颯太と由姫は思わず言葉を失ってしまった。
そこにあったのは、2トントラックに近い見た目をしたバンだ。
白い車体にはオレンジ色の模様があり、丸い円の中にハイビスカスを頭部に着けた妖怪のイラストと『沖縄珈琲のお店 キジムナーコーヒー』の文字が入ったロゴマークが描かれている。
要は移動販売車と言うわけだ。恐らくは張り込みだとかの時に使うための偽装車両であろう。
しかしいくら予算が無いとはいえこんな見た目のものなのか。
いつも軽口を叩いている颯太でも流石に思った感想を口には出せない。だが由姫は違ったようだ。
「いや、え、あぁ、これは……その……」
「可愛い……!」
「え、マジで?」
これが、二人の最悪な出会いだった。
余談ですが、由姫のモデルになったのは『SSSS.DYNAZENON』に登場したムジナや『名探偵コナン』の佐藤美和子、その他諸々です。
当初は『閃乱カグラ』の雪泉みたいなキャラにしようと思ったのですが、颯太と組んだ時がイメージ出来なかったので今みたいな感じになりました。髪の毛が少し青っぽいのはその名残です。
【参考】
ドリフト走行の基本|埼玉県川口市でトラックレンタカー・GTRレンタカーサービス【パワーズレンタカー】
(https://powers-rentalcars.com/blog-driftcarrental/)