数週間振りの投稿……⁉︎
今回からは前回の4話分を2話に収める形にするので、相当長くなります。どうかお付き合いください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージOP】
THE RiCECOOKERS - NAMInoYUKUSAKI for SPEC【丙】
【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
「脱稿した⁉︎ この2週間のうちに?」
「あぁ。一応編集からオッケー出たから、来週の雑誌で完結して、多分8月くらいに本が出ると思う」
「マジで何があったんだよ……」
「色々あったんだよ」
いつものようにビデオ通話をしている颯太と満。
深夜帯に行っていることから、二人共寝巻きに着替えて眠そうにしていたのにも関わらず、颯太の一言でどうやら満だけ眠気が吹き飛んだようだ。
今まで原稿が書けないと悩んでいた人間が、数日で書き上げてゴーサインを貰えるなど凄まじいことであるため、満は驚くことしか出来ないのだ。
「……それはあれか? 部屋の内装がちょっと変わっていることと関係しているのか?」
「え?」
満の言う通り、颯太の部屋の内装はまるで違うものになってしまっていた。
以前までは特段何も置かれていなかったのだが、今は違う。背後にある棚には大量の可愛らしいぬいぐるみが置かれていて、壁の色も白色からピンク色になっている。どう考えても颯太の趣味とは思えないような代物ばかりであった。
どうやらそのことには触れて欲しくないらしく、すぐに話題を切り替えた。
「そ、それよりさ、お前はどうなんだよ? 人探しは」
「別に。やっぱり収穫無しだな」
ぶっきらぼうに返す満。
「高校の頃からやってるから、もう3年くらいになるだろ? それでも見つからないとか、下手したらその人死んでるんじゃないのか?」
「そうじゃないと良いんだけどな……。と言うか、死んでいるとしても多少は情報出て来るだろ」
「じゃあずっと見えない蜃気楼みたいなのを掴もうとしているような感じか?」
「お前滅茶苦茶絶妙に人のこと傷つけるな。けど実際そうだよ。マジで何を追っているんだろうな、俺は……」
何となくしんみりとした空気になり、颯太はテーブルの上に置いていたマグカップに口をつけた──。
その時だった。
「誰と通話してるんですか?」
「ん? あ、ちょっ、まっ!」
突然女性の声が聞こえ、満が一体誰なのか追求をしようとした瞬間に通話が切られた。
慌てた様子で遮断した颯太は、声の主に抗議する。
「何でそんないきなり入って来るんだよ⁉︎」
「別に良いじゃないですか。
「そりゃあ、そうだけどさぁ……」
正体は由姫だった。
白と黒の縞模様のネグリジェを着ている彼女からは、職場でのものとは違う雰囲気を感じられ、通常であれば少し胸がときめくのであろうが、今はそんなことはどうだって良いのだ。
──こうなったのも全部、あの事件のせいだ。
二人が共通して脳裏に思い浮かべたのは、とある事件についての記憶である。
少しでも現実から目を背けるために、それぞれが回想を始めた。
────────────
今から2週間前、颯太と由姫が初めて出会ってから数日が経った頃に時は遡る。
夕方の分駐所に五人は集まっていた。
岩田は定位置とも言えるテーブルに、颯太はソファの上に、由姫と浩介は別のテーブルに隣同士で、洋平はカウンターテーブルに座り、モニターを見ている。
そこには建物だったであろう黒い大きな残骸を撮った写真や、その中に入って内部を撮影したものが映し出されていて、それを見ながら岩田が全員に詳細を説明する。
「事件が起こったのは4日前の午後7時。中野区新井薬師のマンションで起こった。突然激しい音と共に202号室が爆発。その影響で建物そのものが全焼し、202号室の住人である
「爆発の原因って何か判っているんですか?」と浩介が訊く。
「消防が調査した結果、マンション中に二酸化硫黄が発生していた。恐らく、硫黄に引火したことによる粉塵爆発と言った所だろうな」
「確かに、温泉みたいな匂いしてたもんな……」
颯太の発言に全員が疑問符を浮かべる。
当の本人にとっては何気無い発言だったのかもしれないが、そう言う意味が解らなくかと言って意味なんて無いものは人間一番怖いものだ。
なので洋平が真意を確かめようとした。
「それ、どう言う意味ですか?」
「そのマンション、俺の家だったからね」
颯太が平然と言い放った内容に驚愕する一同。
どうしてこんなに平然としていられるのか分からないのだが、それ以上の謎を解明するために洋平が再度問う。
「じゃあ今、住む所とかどうしているんです⁉︎」
「……私の家に来ています」
挙手をして答えたのは由姫だった。
あまりに想定外のことに驚くどころか固まってしまったのだが、浩介は少しして叫び声を上げた。
「ええええええ⁉︎」
由姫の話によれば、3日前の朝に突然颯太が家に現れ、「家が燃えてしまって通帳とパソコン以外の全てが燃えてしまったから、次の家が見つかるまで泊めて欲しい」と土下座されたらしい。
成人した男と女が一つ屋根の下と言うのはかなり危うい状況であるため追い返してやろうとも考えたのだが、彼の様子からあまりにも可哀想に感じてしまったことと「家賃の半額を払う」と言う言葉によって、もし変なことをしようとしたのなら仕方無く泊めたのだと言う。
変なこと。
それを直接的な表現で言うのであれば『強制わいせつ』なのであるのだが、颯太の場合は意味合いがまるで違った。
例を列挙すると以下の通りだ。
「折角作ったのにどうして餃子食べてくれないんですか⁉︎」
「俺は中華料理駄目なんだよ! て言うか、何だこの焦げたやつは! 人間の食うもんじゃねぇだろ!」
「はぁっ⁉︎」
「まさかお風呂の中で身体洗ったんですか……⁉︎」
「悪いな。俺はシャワー浴びない主義なんだよ」
「嘘でしょ……。私まだ入ってないのに……」
「あの……」
「ん?」
「深夜帯までパソコン弄るのやめてくれません? 全然寝られないんですけど……」
「あーごめん。後10行だけ書いたら寝るから!」
「……」
「ホント最悪ですよ……」
両手で顔を覆いながらあの時の決断を後悔する由姫。
その様子からよっぽどストレスが溜まっていることが目に見えて判る。
変なことをするなとは言ったが、想像の斜め上を行く行動を連発してくるので対処のしようがなく、今は殆ど容認しているようだ。
「お、お前! 佐藤さんに手出したりしてねぇだろうな⁉︎」
「そんなわけないでしょ」
浩介が声を震わしながら指摘したことを颯太は素っ気無く返した。
意中の相手がこんな薄い本で女を片っ端から貪っているキャラクターのような雰囲気の男と同棲しているだなんて、今にも脳が破壊されそうなので致し方無いのではあるが、それにしてもこんなに敵意を剥き出しにされると流石の颯太でもかなり怯えてしまう。
「て言うか、お前も何だよ? 風呂入る時に『おっぱいは見ても良いけど背中は見るな』って、普通逆だろ」
「他は良いですけど、絶対背中は見せないですからね……!」
「あ、そうですか……」
「そんな……佐藤さんが取られたなんて……」
「お前もうちょっと人の話良く聞けよ」
良からぬ流れになりそうであったため、部下の中で最年長である洋平が話を戻した。
「それで、硫黄は何処から来たんですか?」
「偶然目撃した近くの部屋の住民によれば、間宮透が玄関に置かれていた段ボール箱を持った瞬間に爆発したらしい。恐らく、その中に硫黄が入っていたんだろうな」
「じゃあ、これは殺人を目的にした犯行ってことですか⁉︎」と続けて浩介。
「恐らくな。爆発が起こる瞬間に階段を駆け降りる人影を見たらしいが、顔は暗くて良く見えなかったそうだ」
「だとしたらそいつが犯人の可能性がありますね……!」
浩介の言葉の次には少し間が開いた。
ここで颯太と由姫が最大の疑問を岩田にぶつけた。
「それで? 何で俺達が駆り出されるわけ?」
「ただの爆発事件、ってわけじゃないですよね?」
確かにそれだけなのであれば、消防や捜査一課にでも任せれば良いだけの話だ。
そうでないと言うことはどうせ一筋縄では行かないものなのだろう、と薄々気が付き始める。
すると岩田は手元のタブレット端末を操作し、モニターに1本の動画を映した。
それはどうやら防犯カメラが撮影した深夜帯の映像で、1本の街灯から出る光だけが路地を照らしている。
「これは、火災が起こった時刻、マンション近くの防犯カメラの映像だ」
人の往来が一切無い真夜中に突然、街灯から出る白いものとは違う赤色の光が仄かに確認出来た次の瞬間、それは現れた。
僅か一瞬であったが、赤色の炎のような鎧を全身に纏った黒い怪人が街灯の灯りの中に姿を見せ、すぐに何処かに去って行ってしまった。
そこで映像は終わっている。
「見ての通りだ。そもそも一体どうやって発火したのかが不明の現段階では、このユーザーが犯人と考えて良いかもしれない。壱宮君と佐藤君は間宮透の通っていた学校に、渋谷君と柿沢君は再度親族に明日聞き込みを行って欲しい」
全員が「はい」と返事をする。
もう時刻は6時近くになっていて今から活動をしても何も始まらないとし、この日はこれでお開きとなった。
────────────
帰宅をして夕飯を済ませ、風呂に入った二人は寝るまでの時間を各々自由に過ごしていた。
由姫はベッドに寝転んでスマートフォンを弄っている。SNS上ではHINOSHITAと言う家電会社が最近出した、『H-WATCH』と言う名前のスマートウォッチに関する口コミが流れている。どうやらかなり好評らしい。
一方の颯太はベッドにもたれ掛かりながら床に座って、テーブルの上に置かれているノートパソコンで原稿を書いている。何とか数行を書いたのだが、まだまだ完成には至れない。
時刻は午後10時。
特段やることも無いため、由姫が「明日も早いんでもう寝ましょう」と言って、ベッドに備え付けられた小さい棚にあるリモコンを取る。
「あのさ」
「何?」
「俺別に行かなくて良い?」
まさかの言葉に由姫は起き上がってしまう。
「どう言う意味ですか? それ」
「いやだってさ、ただの聞き込みでしょ? 別に俺いらねぇじゃん。警察が勝手にやれば良いじゃん」
「それは、そうですけど……」
凄く嫌な感じに聞こえる。
徐々に苛立ってきた。
「それに、俺は自分が興味ある事件以外に関与したくないの」
「はい⁉︎ もうちょっとこう、人を救う戦士としての自覚とか無いんですか?」
「無い! まずそんな臭い理念に沿って行動してるわけじゃないし、こないだのトラックのやつだって指示されたから行っただけだしね」
怒りに似た感情が遂にピークに達した。
すると颯太から突然質問が投げかけられた。
「佐藤さんってさ」
「?」
「どうして警察官になったの?」
突拍子も無い質問で遭ったため由姫は困惑する。
「そんなこと訊いてどうするんですか?」
「ん? いや、何となく気になっただけ」
彼の発言には一切裏は感じられなかった。
本当にただの好奇心で訊いているだけなのだろう。
別に話して損なことは何一つ無いため、話し始めた。
「私の義理の母が警察官だったんです。で、高校生の時に私がストーカー被害に遭って、何も出来なくて独りで抱え込んでいた時に、母親が助けてくれて……。それで決めたんです。同じように何処かで苦しんでいる人を助けられる警察官になろうって」
由姫の目はこれまでの気怠そうなものではなく、ただ決意と熱意だけで構成されている全く別物のように感じられた。
しかし颯太はそれを見ても「ああそう」とだけ言ってすぐに原稿の執筆へと自身の興味を向けた。
──折角言ったのに。
「壱宮さんはどうしてユーザーになったんですか?」
「……まぁ、色々と」
しかも自分の答えはかなり大雑把なものである。
ここに来て再び怒りが湧いた由姫は、突然由姫は颯太の右耳に口を近付け、気持ち悪いくらいに優しい声で囁いた。
「別に明日来なくても良いんですよ? 週刊誌とか暴露系WanTuberに、『小説家の壱宮颯太は女の家に入り浸って、嫌がるのを無視して毎晩その女を抱き潰している』って情報流しても」
「おい後半真っ赤な嘘じゃねぇか」
「こう言うのは流れただけで負けですよ」
全くもってその通りだ。
こう言うのは真実かどうかではなく、そもそも言われた時点で負けが発生しているようなものなのだ。
もし流されようものならどうなるのか、雑誌連載を抱えていてある程度の地位を得ている颯太ならば想像に難くない。
ニヤリと笑って離れた由姫の方を向かず、面倒くさそうに答える。
「分かった分かった。行くから。どうせ大学休みだし」
「お願いします」
「あ、ちょっと待って。明日行くってメールするから、俺のサポーターに」
「じゃ、お休みなさ〜い」
「おい聞け」
そして颯太がメールを送信した所で、由姫はリモコンで電気を消し、二人はそのまま眠りについた。
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「何とか復讐は出来ました……。有り難うございました」
『そう。なら良かった』
「……それで、僕はこれからどうしたら良いんでしょうか……?」
『明日は学校に警察が来るらしい。だから何処かに逃げた方が良いだろうね。後は僕が指示するから』
「宜しくお願いします……」
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翌日。浩介と洋平は間宮透が入院している病院にやって来た。
道中にて「佐藤さんがあんな奴と……」と落ち込みながら運転する浩介のことが心配になった洋平であったが、病院に着くなり気を引き締めて顔立ちが変わったため、それが杞憂だったことを判ったのだった。どうやら切り替えが出来るタイプらしい。
待ち合わせ場所は1階にある食堂だった。
朝早いこともあって病院関係者ですらいないような中に、草臥れた様子の二人の男女が座って待っていた。間宮透の両親である。幸か不幸か、事件当日は二人共仕事で家を空けていたため、被害を受けずに済んだ。
向かい合って座る。
近くに寄って改めて見ると、完全に憔悴し切ってしまっている。家は燃え、最愛の息子は目を覚まさない。殆どを自分達の知らない一瞬のうちに失ってしまった。その悲しみと苦痛は耐えられないものだろう。
それを察しながら慎重に話を聞いていく。
「ではやはり、硫黄だとかをご購入したことは無いと」
「はい。私も妻も購入する機会は無いですし、息子も特には……」
洋平の質問に父親が答える。
「最近息子さんに変わった様子などはありませんでしたか?」
「特には何も無かったと思います……。いつも通り元気でした」
常套句のような青い浩介の質問には母親が答えた。
震えた声を出しながら、両手で何か樹木のような柄が彫られたペンダントを握っているのが見えたが、それは別にどうでも良いことなので無視をする。
すると、
「……こんなことは言いたくないんですが……もしかしたら、バチが当たったのかもしれないな」
「……そうかもしれないわね……」
突然何かに納得をし始めた。
二人が詳細を訊く前に父親から話し出してくれた。
「こんなことを人に言うと変な目で見られるかもしれないですけど、私達はとある宗教に入っていまして。ただ、息子がその活動が嫌になったようで」
「私達は別に、抜けても抜けなくてもどっちでも良かったんです。……そんな矢先に息子がこんな目に遭ったので、まさかとは思って……」
嗚咽する母親の背中を摩って落ち着かせようとする父親。
その様子を見て痛ましいと思った浩介と洋平だったのだが、あくまでも職務であると割り切ってその後もいくつか質問をし、この日は退散した。
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一方その頃、颯太と由姫は日野市にある野宮透が通っていた高校にやって来た。
今日は土曜日で授業は午前だけと言うこともあり、既に授業は終わっている。聞き込みには最適であった。
間宮透が在籍している3年B組に来た二人は、干し柿を食べながら雑談をしている男女数人のグループに交ざって話を訊くことにした。
どうやら干し柿は彼等から少し離れた所で委員会の仕事をしている、
何処か嗅ぎ覚えのある香りがするそれを食べてみると甘くてとても美味しく、感想を伝えると嬉しそうに会釈をしてくれた。
舌鼓を打ちながら早速話を聞く颯太と由姫。
「こないだ怪我した間宮透さんってどんな方でした?」
「明るい奴でしたね。凄いノリが良いって言うか」
「それに私達が追い付けないとかしょっちゅう……」
男子生徒に続いて女子生徒も答える。
彼等は彼等で明るい感じであるため、それ以上と言うことは相当なのだろう。言うなればクラスのお調子者だろうか。
「……けど、ね?」
「ん? 何? 何かあったの?」
颯太の言葉に生徒全員が顔を見合わせる。どうやら話したくないことがあるらしい。
全員が後ろの方を向いて何かを確認すると、ようやく重い口を開いてくれた。
最初に話してくれたのは男子生徒だった。
「実は……間宮、このクラスの
「つまり、いじめってことですか?」
頷く男子生徒。
女子生徒はそれに続く。
「最初はまさかと思っていましたけど、やっぱりただ仲の良いだけじゃないと思って……。そう思ってたら間宮が……」
「やっぱり、藤崎がやったんじゃねぇか?」
「じゃなかったら誰がやるんだよ……」
「その藤崎って言う人は今何処に?」
「体調悪いって今日は休んでいます」
話を聞き終わった二人は廊下を来た方に歩いていた。
先入観を持ってはいけないのだが、何となく事件の全容が見えてきたような気がする。
1年の頃から潤は透にいじめを受けていたらしい。
きっかけは全く不明だ。あくまで可能性の範疇ではあるが、何かの腹いせに潤をいじめ始めたのではないのだろうか、とクラスメイト達は言っていた。
だとすれば潤はその復讐として透を襲ったのだろうか。
そんな考察を静かな声で繰り広げていると、
「あの!」
いきなり後ろから話しかけられた。
振り返るとそこにいたのは、眼鏡を掛けた少し気弱そうな青年だった。確かクラスメイト達に干し柿を配っていた谷山と言う生徒だ。
「もしかして、間宮が藤崎をいじめていた件調べているんですか?」
「ん、いや、まぁ……」
流石に本当のことは言えず、言葉を濁す颯太。
「あの、実はなんですけど……」
「何でしょう?」
何かを言うことを躊躇っている谷山。
彼が言い出し易いような雰囲気を颯太は出すのだが、隣にいる女は常に無表情であるため、「おい顔」と指摘をする。
そんな二人を他所に、谷山は言った。
「実は、僕もいじめられてたんです。間宮君に」
「「……え?」」
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谷山から聞いた話によると、彼と潤は透からいじめを受けていたらしい。
発端は全く以て不明。一度訊いてみた所、ただの暇つぶしだとか何だとかの適当な理由だったと言う。
その上彼によれば、いじめには透が所属しているサッカー部の部員達も加担をしていたらしい。
要は集団で二人をいじめていたと言うことだ。
しかし妙だったのは、その加担していたと言うサッカー部員についてだ。
聞き込みを行った際に「知らない」と言ってきたので、試しに颯太が「うちの編集部がお前らの個人情報とかやらかした恥ずかしい話とか集めてくれたんだけど」と人様には言えないような武勇伝を読み上げてみると、意外と可愛いもので半べそをかきながら「本当に知らないんです!」と言っていた。
そんな様子から彼等が嘘をついているようには到底思えなかった。
じゃあ、何故谷山はそんなことを言ったのだろう。ただ単純に何かサッカー部に恨みでもあったからなのだろうか。
その謎を突き止めるためにも、潤の家に行く必要がある。
しかし、颯太と由姫は高速道路で高井戸まで来た矢先、調布市の方で暴れている
事件現場の近くで聞き込みをした帰りに寄ったことから、既に陽が間も無く暮れてしまうような時間になっていた。
だが透の家から車で5分くらいの住宅街にあったために到着出来た。同時に、それは潤がユーザーとして放火をすることが可能であることを示していた。
白い外壁が綺麗な一軒家のインターホンを鳴らすと、潤の母親が出て来た。
「すみません警察の者です。息子さん、ご在宅ですか?」
「あ、はい。少々お待ちください。潤ー?」
洋平が母親と対応してくれている。
呼び掛けても返事が聞こえることは無く、母親は「体調が悪いと言っていたから、寝ているのかもしれない」と答えた。
けれども応対を任せていた颯太は見逃さなかった。
恐らくは家の後ろにある別のドアらしき所から、リュックサックを掛けたジャージ姿の青年が出て行く瞬間を。
「柿沢さん! あれ!」
浩介が潤を指差す。
その方を洋平が見ると、2人分の視線に気が付いた潤は一目散に駆け出して行った。
「待てっ!」
急いで後を追う二人。
この十字路を右に曲がればすぐに追いつける。そう思って目の前の道を右折すると、予想通りに潤の背中が見えた。
距離にして約10メートル。頑張れば余裕ですぐに距離を詰められる。
だが現実はそう上手く行かない。いくら訓練を積んでいる警察官とは言え、相手は高校生だ。もう40代の洋平はさておき、10の位が1つしか違わない浩介でもその差を埋めることは難しく、徐々に切り離されていく。
そして潤が左の角を曲がったのを見て同じ道を行くと、そこには誰もおらず、二人は対象を完全に見失ってしまった。
一方、二人の警官を振り切った潤はただ只管に道を走っていた。
ここまで来れば追手もいないだろう。自分にはまだまだやらなければならないことがあるんだ。だからここで捕まるわけには行かない。
少々油断をしてしまったのだ。
それが仇になった。
突如として行手を阻むようにオレンジ色の移動販売車がやって来た。
どうせ自分には関係の無い車だと思ったのだが、助手席に座る颯太が「いた!」と潤を指差したことで彼等が追手の一部であることを察し、来た方を引き返した。
颯太がパトライトを車体に着けると、由姫は車を発進させる。
あまりスピードが出ない移動販売車──通称『キジムナー号』は潤を追い掛け始めた。
途中、潤は元来た道ではなく、逆の左側の道へと走る。
遅れて移動販売車も左折をし、更に追跡を行おうとした。
そこにいたのは、ドーベルマンのような顔をした怪人──ヘルハウンドユーザーであった。
ランプブラックの身体に、炎が燃えている様子を模したバーガンディーの甲冑が纏わりついて輝いている。
「ユーザー……!」
「じゃ、運転頼むわ」
「あ、はい」
颯太は自身のリュックサックの中からユーザーズドライバー2を取り出し、腹部に装着する。
『只今より、意識を転送します』
目が閉じられる。
意識を移行した先であるライドボットが現れた場所はヘルハウンドユーザーの目の前ではなかった。
車内の後ろにあるNewユーザーズストライカーの上だった。それに跨るような形で、ヘルメットを着けた颯太の姿を形成する。
2つのガジェットをそれぞれのスロットに装填する。
『L:
『R:
音楽が流れる中でポーズをとり、短い言葉を放ってドライバーを押し込んだ。
「変身!」
『変身シークエンスを開始します』
颯太の身体が一瞬のうちに全く別の異形の戦士のものへと変わった。
『KIRIN with REMODEL』
仮面ライダーリモデルに変身をしたのと同時に、ヘルハウンドユーザーが後ろへと猛スピードで走り出した。
それを確認した由姫は自身の上から垂れ下がっている、紐で繋がれた粗末なレバーを引っ張った。
すると運転席側の後ろのドアが開いてスロープが出たため、リモデルはそこからバイクを発進させてヘルハウンドユーザーを追い掛けた。
住宅街から抜けた先の路地をかなりの速さで走るヘルハウンドユーザー。
その速度は走った場所に炎で跡が出来ていることから、スポーツカーが最高速度を出して追い付けるかどうかと言うレベルではあるのだが、リモデルの乗るNewユーザーズストライカーは優に距離を積めることが出来る。
このマシンの性能に感嘆するリモデルに対し、ヘルハウンドユーザーはまさかのことに焦りを覚えてしまう。
そのためスピードを上げて距離を開けようとするのだが、すぐに追い付かれてしまう。
追いかけっこは大凡後1分以内で終わると確信したリモデルは、ドライバーの右側に挿れていたガジェットを取り出す。
それをホルダーに仕舞い込んで、『R03』『GUN』と印字された別のガジェットを装填する。
『R:
左手を一時的にハンドルから離して掌でドライバーを押し込む。
『変身シークエンスを開始します』
すると両腕と両脚の形が微妙に変わる。
腕のグローブの長さは短くなり、両腕と両脚にバレットベルトが巻き付いているような感じになっている。
更に両耳がピストルのような形になっていて、銃口は上を向いている。
『KIRIN with GUN』
キリンガンフォームに変身したリモデルの右手に黒い拳銃が装備される。
銃口を前方に向けて引き金を引いて弾丸を発射。ヘルハンドユーザーの背中に命中した。
「ガァッ!」
たった1発の小さな攻撃にも関わらず、走るのを止めて苦しむ。
何故か妙だと思いながらもラッキーなことであるとバイクを止め、銃を向けながら降車して近付く。
「おい。大人しくしろ、藤崎」
「⁉︎ どうして僕のことを……!」
「大体分かるんだよ」
二人が向かい合っている所にキジムナー号も到着をした。
颯太の身体を守らなければならないために加勢することは出来ず、ただヘッドライトで照らすことしか出来ない。
「⁉︎」
しかしどうやら効果があったらしい。
ただの淡い光にも関わらず、左腕で顔を隠しながら後ろに退くことで徹底的に避けている。犬の化け物をモチーフとしている筈なのに、宛ら吸血鬼のようだ。
まさかこんなことで苦しむとは思っておらず、リモデルも由姫も驚愕してしまう。
「……良く分からないですけど、壱宮さん、お願いします」
「……」
「壱宮さん?」
だがリモデルは一切動かない。
今彼を止める絶好の機会だと言うのに。
「ふざけるな……! 僕には、
「あー、やっぱそっか」
何かを察していたようなリモデルの態度に困惑する由姫。
そんな二人の様子を無視し、何故か左手を目の前に出した。
すると次の瞬間、突如としてリモデルの前に炎の壁が出来上がった。
激しく燃え盛っている中に入って行くことはまず無理であるため、リモデルは何か別の手を使って向こう側に行こうと考え、身体を浮かして壁を飛び越えた。
着地をしてみるとそこにヘルハウンドユーザーはいなかった。
どうやら隙をついて逃げ出したらしい。
しかしここから捜索するつもりは無いらしく、リモデルはガジェットを外して身体を崩壊させ、意識を車内にある本来の肉体に戻した。
「お疲れ様です」
「お疲れ……」
素っ気無く言い合う二人。
何故か互いに無言を貫いている中で、遠くからサイレンの音が徐々に聞こえてきた。
その後パトカーや消防車がやって来て、炎の壁の消火や事情聴取が行われた。
颯太と由姫はあくまでも関係者だったため、聴取はかなり早く終わる。
もうすっかり夜になってしまった路地でランプの光だけが灯る中を由姫は歩き、その後ろを颯太が着ける。
「藤崎潤の家族への聞き込みは柿沢さんと渋谷さんがしてくれているみたいです。私達は逃げた本人を追いましょう」
こんな夜更けにジャージ姿の高校生が逃げていれば、確実に何処かの景観に捕まるだろう。
しかし油断は出来ない。後のことは浩介と洋平に任せて自分達は捜索に徹することに決めたのだ。
すると後ろから颯太が話しかけてきた。
「なぁ」
「?」
「アイツのこと、別に好きなようにして良いんじゃない?」
「……はい?」
思わず振り返ってしまう。
加減を間違えたブラックジョークなのだろうかと思ったのだが、颯太の目は至って真剣なものだった。
因みに言っておくと、今回の中に大量の伏線が隠されています。
余談ですが颯太のキャラクターの元となったのは一文字隼人は勿論のこと、『MIU404』の伊吹藍や『TRICK』の上田次郎、『SPEC』の
浩介は『斉木楠雄のΨ難』の海藤瞬と『家政夫のミタゾノ』の村田光を掛け合わせた感じです。
洋平は野間口徹さんそのものですねwww
後、『アクト』の世界と『ブートレグ』『HEROEZ MISSION』の世界は全くの別物です。
そのため、『HEROEZ MISSION』に登場した椎名夫妻は『アクト』での二人とは別人です。
報告するタイミングを逃したため、念の為ここで失礼します。
【参考】
ヘルハウンド(へるはうんど)とは【ピクシブ百科事典】
(https://dic.pixiv.net/a/%e3%83%98%e3%83%ab%e3%83%8f%e3%82%a6%e3%83%b3%e3%83%89)
職場のあんぜんサイト:化学物質:硫黄
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7704-34-9.html)
職場のあんぜんサイト:労働災害統計
(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=100541)
硫黄 - 静電気に気をつけよう。粉じん爆発の危険あり|図解でわかる危険物取扱者講座
(https://zukai-kikenbutu.com/kikenbutu/2-iou.html)