仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第22話です。
久々に投稿です!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 感電

【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック


22 - 付加価値(S)

 浩介と洋平は藤崎家にて母親に聞き込みを行った。

 息子の部屋を鑑識やら何やらが調べる様は、平凡に暮らしている主婦にとってはあまりにも異様であり、軽いパニックのような状態になりながら話をしてくれる。

 

「最近……息子の様子が何処かおかしいとは思ってたんです……。あんまり元気が無いようでしたし……。けどまさか、そんなことが……」

 

 彼女の口振りから、潤はいじめのことを一切話していなかったことが判る。

 実際、もしもいじめを受けたことを身近な人に、相当勇気がいるだろう。持てるかどうかも判らない勇気を、彼はたまたま持ち合わせていなかった。ただそれだけの話だ。

 

「ご自宅に硫黄の類はありますか? もしくは、息子さんがそう言う話をしていたとか」

 

 洋平の質問に潤の母親は首を横に振った。

 次に浩介が質問をする。

 

「では、息子さんの行き先に心当たりは?」

 

 ──僕には、()()()()()らなきゃならない奴がいるんだ……!

 潤はそう言って逃げていった。

 それが誰なのかは判らない。

 しかしもしその者がいじめの共犯者だとするならば、その者の場所に行くに違いないと勘付いたのである。

 しかし母親は「すみません」と言うだけであった。

 

 とにかく諸々のことを信じたくない、と言うより信じたとて受け入れられるわけが無いことの連続に、母親は滅入ってしまっている。

 後のことは他の警察官に任せるのが最適だろうと思い、二人は家を後にした。

 

 途中、Pフォンに岩田から連絡が入った。

 機動捜査隊や地域課が潤の捜索を手伝ってくれることになったらしいので、引き続き頼むとのことだった。

 

 洋平は並んで歩く浩介の様子が少しおかしいことに気が付いた。

 思い詰めた様子で俯いている彼の様は、失恋した時に見せたものとは全く違うものであり、少し不安を覚える。

 

「俺、何が何だか分からなくなってきましたよ……」

 

 浩介が口を開いた。

 

「こんなこと言いたくはないですけど、家を燃やした藤崎潤より、そのきっかけのいじめをした間宮透達の方がどうかしてるでしょ……。けどどうして僕達は、これから被害者に楯突いて加害者の方を守らなきゃならないんですか……?」

 

 人として極めて妥当な考えだ。

 どれだけ綺麗事を言っている人間だとしても、必ず本心では根幹にこれを持っているに違いない。

 決して口に出すことは無い、まるでタブーのような疑問。それを今、彼は言ったのだ。

 

 すると洋平は立ち止まり、いつも見せているような笑みで語る。

 

「僕も娘に同じこと言われたことがあるよ。その時は全然答えられなかったけど……今なら何となく分かる」

 

 少し切なそうな洋平の目を浩介は逃せなかった。

 

「僕達にはね、人の価値を決めたりすることは出来ないんだよ。誰が良くて誰が良くないかなんて言うのは所詮人の決めた尺度に過ぎないからね。……だから、僕達に出来ることは、その価値の目安を客観的に決めてくれる人達の元に送ることだけ。そのために僕達は彼を逮捕しなくちゃならない」

「そう……ですか……」

 

 それだけ言って洋平は再び前方に向かって進み始めた。

 長身の背中をただじっと見ているだけの浩介であったのだが、彼も再び洋平の隣にやって来る。どうやらある程度の覚悟は出来たようだ。

 

()()()()もそこに送らないといけないですよね」

「そうだね。じゃあ行こうか」

 

 そして二人は車に乗り込む。

 自分達の職務を全うするため、車を走らせようとした。

 

 すると再び着信が入ったために洋平が通話に出る。

 発信者は岩田であった。

 

「はい」

『つい先程、警視庁宛てにメールがあったんだが……』

「何ですか? こっちは今から犯人の所に向かうんですけど」と浩介。

 

『ああ。メールの内容はその件についてで、実は──』

 

 

 

────────────

 

 

 

「アイツのこと、別に好きなようにして良いんじゃない?」

「……はい?」

 

 最初はタチの悪い冗談だと思っていた。いつも軽いノリで生きている颯太のことなのだから、どうせブラックジョークの類なのだろう、と。

 しかし声のトーンこそいつもと変わらないものの、その表情はいつもとまるで違っていた。なので由姫は少したじろいでしまう。

 

「別にこないだみたいな無差別の奴じゃなくて同情の余地とかはあるじゃん」

「だから人に危害が加わっても、最悪死んでも良い、って言いたいんですか?」

「……別に良いんじゃない? 自業自得、因果応報でしょ」

 

 昨日抱いたのもとは別の怒りが湧いてきた。

 別に怒りを覚えたとてどうと言うわけではないのだが、それでもだ。

 

「そんなこと、私が許すと思っているんですか……?」

「それは警察官として? 仕事だからそう言っているの?」

 

 返答が出来なかった。

 一体どっちで言っているのか、自分にもまるで分別がつかなかったからである。

 

「規則とかなんてどうだって良いじゃん。殺したい奴を殺したいだなんて気持ちは誰でも持っていて、規則とか倫理とかに縛られているそれが、たまたま爆発しちゃっただけでしょ? 何で止めるわけ?」

 

 颯太は決して笑わなかった。

 まるで獲物を狙う獣のようである彼の目線によって、由姫の身体は一切の動きを封じられている。

 

「それに佐藤さんだって昔怖い思いしたんじゃん? だったら多少は気持ち解るでしょ?」

 

 追い討ちをかけられてしまい、側から見れば最早手詰まりと言っても良いのかもしれない状況になる。

 

「教えてよ。佐藤さんはさ、どう思っているわけ?」

 

 暫く沈黙が生まれる。パトライトや住宅から出る光が彼等を勝手に照らす。互いの顔が仄かに光って目立つので、この時間の中では良い迷惑であった。

 そして熟考の末、縮こまってしまった身体に付いている口をようやく動かし、由姫は答えた。

 

「……勿論、私も同じように殺意を覚えましたよ。最初は恐怖と、何も出来なかった自分に対する憤りだけでしたけど、徐々に相手のことが憎くて憎くて仕方無くなった……」

 

 やはりそうか、と言うかのように颯太はゆっくり頷く。

 

「……けど、母に言われたんです。『実行しちゃったら、次はまた貴方が被害に遭う。永遠に(いたち)ごっこは終わらないよ』って。もし藤崎潤が次のターゲットに復讐を果たせば、絶対に次は彼に復讐を果たそうとする人が現れる。……だから、この最悪なループを止めるために、彼を止めます……!」

 

 パトライトの光が、真っ直ぐと颯太を見つめる由姫の顔を再び照らす。

 純粋ながらも覚悟を持った彼女の目を見てから軽口を叩く気は無くなったらしく、颯太は少し微笑んで「ああそう……」とだけ呟く。

 彼の呟きが何を意味しているのかは不明である。それを考えている間も与えずに語りかける。

 

「じゃあ行くか」

「行くって、何処に……?」

「決まっているでしょ。それとも何? 来ないの?」

 

 割と挑発的な口調だ。

 しかしそれに乗るしか手は無い。と言うより、自身は乗せる側なのだ。

 

 だから由姫は先にキジムナー号に乗り込み、エンジンを掛ける。

 遅れて颯太が助手席に座って出発を待ち侘びる。

 

 互いに準備は出来た。自身の信念に基づいて行動を起こすために前を見据える。

 そして仕上げとして由姫は無線機を持って報告をする。

 

「公安501から警視庁。只今から──」

 

 

 

────────────

 

 

 

 どうして僕が……。どうして僕がこんな目に合わなくちゃならないんだ……⁉︎

 

 藤崎潤はまだ夜になったばかりの街の中を歩いていた。

 自身が住んでいる場所と比べて住宅の数は少なく、街灯だけが広い路地に立っているだけである。

 なのでここを進んで行けば誰にも会わずに目的を達成することが出来るであろう、と考えたのだ。

 

 向かう場所はただ一つ。自身をいじめたもう一人の場所。

 ただの暇つぶしとして自身の心身を痛めつけた彼に復讐をしに行く。

 

 やる奴はやられる覚悟がある奴。

 そんな言葉が何処かのギャンブル漫画に書いてあった。

 だとするならば自分のやっていることは正当な行為だ。重みが違う。きっと世間も、両親も、誰もかも理解を示してくれるだろう。

 

 そう考えると、そのためにこのドライバーを貰えたことは本当に救いとなった。

 下校中にの潤に突然長身の男が現れ、僕が君のやりたいことの手助けをするから受け取って、と言ってドライバーとガジェットを手渡して来た。

 

 男の指示通りにドライバーを装着して得体の知れない身体で、間宮透の家を燃やした。

 男じゃない何者かが段ボールを置いてインターホンを鳴らし、透がそれを持ち上げた瞬間にそこに意識を集中させるだけで良いと言われた時は半信半疑であったが、勢い良く爆発が起きて大きなマンションがオレンジ色の炎に包まれ、結果としてただ黒い残骸となったのを見た時に確信をした。これなら行ける、と。

 

 いよいよ目的地まで100メートルを切った。

 これでようやく、と潤はゴクリと唾を飲み込むと、リュックサックの中からユーザーズドライバー2を取り出し、腹部に装着しようとした──。

 

 

 

 

 

 すると、

 

「よぉ。さっきぶり」

 

 彼の行手を阻む者が現れた。

 街灯の光によって照らされた正体は、ドライバーを腹部に巻いた颯太であった。

 

 ──さっき邪魔した奴か……!

 

 今は致し方無いと、潤は振り返って走り去ろうとする。

 しかし逃げ道はサイレンを鳴らしながらやって来た車両によって塞がれてしまった。無論、由姫が運転するキジムナー号によってである。

 

 ここまで来て手詰まりになってしまった。

 目に見えて判るくらいに潤は苛立ち始める。

 

「もうそろそろ観念しねぇか? 復讐とか面倒じゃん?」

「五月蝿いっ! もう少しなんだ……! もう少しで……!」

 

 言葉を紡ぐことを中断し、潤はドライバーを腹部に当てる。

 ベルトが伸びて腰を周り、先が反対側に着いて巻き付いた。

 

『只今より、意識を転送します』

 

 横にバッタリと倒れ込んでしまう潤。

 何処かからかやって来たライドボット達が新しい身体を形成し、元に肉体の前に立った。

 

 そこへガジェットがやって来る。

 犬のような両脚や頭部が付いているランプブラックのガジェットで、炎を模したバーガンディーの模様が描かれた表面には『L04』『HELLHOUND』と印字されている。

 

 そのガジェットの両脚や頭部を両手で仕舞い込むと、ドライバーのスロットに装填する。

 

『L: 04(ZERO-FOUR)

 

 軽快な音楽には似合わないような苦い表情を見せながら潤は言葉を発し、ドライバーを右手で押し込んだ。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 全身が黒くなって形状を変え、再度着色が施される。

 これによって潤の身体は完全にヘルハウンドユーザーのものになった。

 

 彼はどうやら本気らしい。

 そう感じた颯太は、

 

「……そうだよな……。やっぱやりたいよな……」

 

 相手の想いに納得をしているようで、何処か優しい微笑みを浮かべている。

 彼の右手の中にキリンガジェットが現れたので変形をすると、ホルダーにあった銀色のガジェットを1つ取り出す。

 

「佐藤さん。さっき言った通りにしてよね。後、絶対藤崎のドライバーは外さないで。外すと脳がとんでもないことになるから」

『了解です。任せてください』

 

 無線で由姫と何やら確認をした颯太は、ガジェットを交互にドライバーに装填する。

 

『L: 03(ZERO-THREE)

『R: 01(ZERO-ONE)

 

 両腕を右側にやってゆっくり上へぐるりと回す。

 そして左側で両腕をクロスして、時間帯には合わないようなそれなりに大きな声で叫んで、前に伸ばした両手でドライバーを押し込んだ。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 一瞬の隙の偽物の身体は黒色に染まり、その後戦士の姿を形成して着色される。

 仮面ライダーリモデル キリンストレートフォームが参上をした。

 

 向かい合う二人の異形の者。

 煌びやかな模様や鎧が街灯によってシックに光っている。

 

 先手を打ったのはヘルハウンドユーザーだった。

 凄まじいスピードで走って来て、右の拳をぶつけようとしてくる。

 

 リモデルは自身の身体を宙に浮かせて上って行き、半ば強制的に空振りに終わらせる。

 それに止まらず、宙空の両足をバタバタと動かして、胸部に次々とキックを喰らわせていく。リモデルの得意技の一つであった。

 

 後退をするヘルハウンドユーザーであったのだがしかし、隙をついて横に高速移動。

 標的が消えて身構えるリモデルの背後に回り込むと、振り返った彼の腹部に炎が纏われた左手をお見舞いした。

 

「オァッ⁉︎」

 

 流石に少し離れた場所に落ちてしまう。

 これだけに止まらず、ヘルハウンドユーザーは目にも留まらぬ速さでパンチやキックを繰り出し、右足でリモデルを蹴り飛ばした。

 

 何故か使った両手や両足首をを軽く振って回すと、立ち上がったリモデルの目の前で爆発を引き起こして吹き飛ばした。

 

 まさかまさかの攻撃によってどんどんと押されていき、その上ヘルハウンドユーザーとの間に炎の壁が生まれてしまう。

 しかも1枚だけではない。念には念を入れてと、何枚も積み重なっているのだ。

 このままでは逃げられてしまい、ここまで来た意味が無くなってしまう。

 

『壱宮さん』

「分かっているって」

 

 由姫が何を言いたかったのかは不明だが、どうせ催促の類だろうと思って遮る。

 するとリモデルの許に、小さな両腕や両脚、牛のような頭部が付いていて、表面には土煙を模したような灰色の模様や『L07』『MINOTAUR』の白い文字が書かれているマゼンタのガジェットがやって来た。

 

 ドライバーのレバーを操作して2つのガジェットを取り出し、ただの六角形にしたマゼンタのガジェットをドライバーの右側に装填する。

 

『L: 07(ZERO-SEVEN)

 

 更にホルダーから1つ別のガジェットを持って来る。

『R04』『HAMMER』と印字されたそれを、片方のスロットに挿れた。

 

『R: 04(ZERO-FOUR)

 

 すぐにドライバーを両手で押した。

 

『変身シークエンスを開始します』

 

 一方のヘルハウンドユーザーはと言うと、すぐに逃げ出そうとしていた。

 何せ相手の行く道は何枚もの高い炎の壁によって遮られている。浮遊しながら此方に来るのにもかなりの時間が掛かるだろう。

 

 なので今のうちに目的地までの残りの道を進もうと、後ろを振り向いて片足を踏み出した──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、

 

「オラァァァァァッ!」

 

 雄叫びが上がったのと同時に、突如として猛烈な勢いの熱風がやって来た。

 それを背中で喰らったヘルハウンドユーザーは、何故か強い衝撃を受けて前に倒れてしまう。

 何が起こったのかと思って再度前を向くと、何枚も聳え立っていた壁が全て消えてしまっている。恐らくは先の風が全てを無に還したのだろう。

 

 その風を起こした張本人は、大きな銀色のハンマーを持ちながら、ヘルハウンドユーザーから少し離れた場所に立っていた。

 

 胸部と両肩にあるマゼンタの鎧は西洋の甲冑のようであり、灰色の両腕両脚は一回り程大きくなって重厚感を増している。

 頭部にある2本の角はそのままなのだが、顔の色がマゼンタになっているだけではなく、複眼の色も緑色になっている。口元は鼻にリングを着けられた牛をモチーフとしていて、こめかみの辺りから闘牛のような角が生えており、更に耳はハンマーの頭部を模したものへと変化する。

 そしてドライバーの中央にある六角形の中では、左半分に牛の顔、右半分にハンマーの絵が映し出されているのであった。

 

『MINOTAUR with HANMER』

 

 これが仮面ライダーリモデル ミノタウロスハンマーフォームである。

 先程とは打って変わって威圧を感じる見た目の戦士の姿に、ヘルハウンドユーザーは少々たじろいでしまう。

 

「姿が変わった……⁉︎」

「凄ぇよな。一振りであんな高いのを消せるんだから」

 

 ──まさか、そのハンマーで……⁉︎

 

 与えられる情報の一つ一つが自身を最悪の結末に導いて行くような気がしてならない。

 

「そう言えばさ、お前の弱点が判ったんだけどさ」

「?」

 

 すると次の瞬間、ヘルハウンドユーザーの左肩に衝撃が走った。

 左肩だけではなく、続けて右の脇腹や頭部など、4箇所程に違和感が走って上手く動かなくなってしまう。

 

 一体何が起こったのか。

 その答えは、キジムナー号の中からドアを開けて拳銃を前に向けている由姫が示してくれた。

 原因は銃弾であったのである。

 

「俺も浮いたりする時そうなんだけどさ、滅茶苦茶神経使うんだよ。で、神経過敏になってちょっとした攻撃でも凄い痛いの。もしかしたらそれが使えるんじゃないかと思った、ってわけ」

 

 だから先程の戦いでたった1発の銃弾でも大げさなように見えてしまったのだ。

 

 判明してしまったことへの焦りと同時に、ヘルハウンドユーザーはリモデルへ恐怖を覚えてしまった。

 彼も自分と同じ筈だ。だとすれば先の攻撃のラッシュによって相当なダメージを負っている。自分であればとっくに変身を解除している。

 しかしそれを行わないのは年長だからと言う理由ではなく、計り知れない以上な何かを持っているからであろう。その風貌と相まってこの場から逃げ出したくて仕方が無くなってしまった。

 

「じゃあ、一発でぶっ倒させてもらうわ」

 

 余裕綽々な様子であるリモデルの姿は心の中で渦巻いていたものを最大まで増長させた。

 その結果、ヘルハウンドユーザーは逃げると言う本来の目的を忘れ、本能のままにリモデルへと向かって行く。

 

「アアアアアア!」

 

 けれども銃弾を撃ち込まれたためか、スピードが殆ど出ていない。目視で確認出来る程に速度が落ちてしまっている。

 

 その隙にリモデルはハンマーの柄を使ってドライバーを再度押し込んだ。

 エネルギーのようなものが充満し始めているのか、重さは徐々に増していく。

 

 ハンマーを軽々と振り回しながら目の前から標的がやって来るのを待ち侘びる。

 お目当てのものは全身に炎を纏って自爆でもしようとするつもりなのかもしれない。

 

 互いの間に出来た距離が後数メートルになった所で、リモデルはハンマーを振り下ろし地面に当てた。

 するとその衝撃によって地面にはヒビが入り、木々は揺れ、キジムナー号にも余波が伝わって振動する。

 だがそれだけではなく、ヘルハウンドユーザーの身体が浮かび上がったのだ。まさかのことに本人は全く対処が出来ない。

 

 そして殆ど身動きの取れない状態になった相手に、リモデルはハンマーを横に振った。

 

『MINOTAUR × HANMER FINISH』

「ライダーボンバー!」

 

 猛烈な一撃がヘルハウンドユーザーにクリーンヒット。

 断末魔を上げる暇も一切与えられずに、身体はバラバラに崩壊をしてしまった。

 

 これによって勝敗のついたため、リモデルも同じように自身の身体をただの粒子に戻す。

 そして意識を元の肉体に戻すと、由姫と共にキジムナー号から降りて潤の元へと向かう。

 

 目を覚ました潤は最初は何をどうすれば良いのか判断が出来ていなかったのだが、自分に迫って来る二人の姿を見てすぐに逃げようと試みた。

 だが意識が戻ったばかりの身体では上手く動けず、あっという間に二人は自身の目の前に現れてしまう。

 

 全てが終わってしまうのだと潤が覚悟した時、颯太はしゃがみ込んで目線を合わせた。

 

「お前さ、学校で間宮ともう一人とにいじめられていたんだろ? それで間宮はもうやったから、もう片方に復讐しようと思ってここまで来たんだよな?」

 

 優しい口調で訊く颯太に頷く潤。

 

「そっか……。けどその必要は多分もう無いな」

「……え?」

 

 何を言っているのか判っていない潤に、颯太の横に立っている由姫が淡白に報告をした。

 

「貴方が狙っていたもう一人のいじめの主犯格の──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「谷山君の身柄なら我々が預かっていますから」

 

 

 

 

 

 同時期である。

 戦いが行われていた近くの一軒家に浩介と洋平は来ていて、玄関先で谷山と言う颯太と由姫が学校に行った際に出会った青年と話をしていた。

 

「あの日、間宮透の家に段ボールを置きに行ったのは君だよね?」

「何の話ですか?」

 

 浩介の問い掛けに谷山は首を傾げる。

 しかし絶対に逃しはしないと洋平がタブレット端末である画像を見せた。それは夜深い道の中を、段ボールを両手で抱えた男が歩いている様子を撮影したもので、その顔は今話を訊かれている青年のものと瓜二つであった。

 

「君の姿が現場近くの防犯カメラに写っていたんだけど、これは何かな?」

「それは、その……」

「この中に硫黄が入っていて、それを置いて爆発をさせたんじゃないのか?」

 

 洋平と浩介の言葉に後戻り出来なくなってしまった谷山であったが、前に進む道はいくらでも変えることが出来ると思い、少しニヤつきながら言う。

 

「だったら何なんですか?」

「……は?」

「ただ単に置いただけで、別に僕は家を燃やそうと思ったわけじゃない。だから僕は罪に問えないですよね?」

 

 かなり強気の姿勢である。

 確かに彼の言う通りだ。()()()()()()()()()()()、の話ではあるが。

 

「じゃあ、これは何だ?」

 

 浩介がPフォンを操作すると、突如として音声が流れ始めた。

 音質は悪いが、大体のことは聞き取れる。

 

『用意出来ました。……それで、僕は間宮の家の前に置けば良いんですよね?』

『うん。そうすれば僕の仲間が火を起こすから、家ごとドカンだね』

『本当に助かります』

 

 谷山の表情から血の気が引いていくようである。

 止めを刺したのは洋平であった。

 

「声紋を鑑定すれば、一発で君かどうか判るけど、どうする?」

 

 暫し無音が貫かれた。

 しかしどうやら観念をしたらしい谷山が、少し笑みを浮かべながら話し始めた。

 

「絶対にバレないと思ったんだけどな……」

「君が間宮透と共に藤崎潤をいじめていたんだよね?」

「……そうだよ。けどいつバレるかどうか分からなかったからさ、どうにか誰かになすりつけようと思ったんだよ。そしたら丁度良い所に()()()が来たから、間宮一人の犯行にしようって考えたわけ」

 

 まるで悪びれていない。

 その様子で浩介の拳が徐々に閉じていく。

 

「けどまさかバレるだなんてなぁ。やっぱどうにかして藤崎の奴も消しておくべきだったな──」

 

 言葉を遮るかのように、浩介の拳が谷山の前を通った。

 だが攻撃は谷山ではなく壁に激突。激しい音を立てた後に手を抜くと、真っ白なに大きな黒い穴が出来上がっていた。

 

「ふざけんなよ……。人を痛めつけて、その人の人生を滅茶苦茶にして……逃げようとするんじゃねぇっ!」

 

 浩介の激昂によって谷山は口を慎む。

 反論なんて出来ない。させてもらえない。浩介が向ける鋭い眼光に洋平すらも思わずたじろいでしまうのだが、洋平は職務を全うする。

 

「とりあえず、君には署まで来て話を聞かせてもらうから。逃げ得なんて絶対させないからね」

 

 優しい口調で言う洋平の目は笑っていなかった。

 

 

 

 

 

「どうして、気が付いたんですか……?」

 

 潤が訊くと、まずは由姫が答えた。

 

「冷静に考えてみれば、1人の人間が2人をいじめるだなんてことが出来るのかって考えたんです。取り巻き達がいるんじゃないかとも思いましたけど、サッカー部は誰も関与していなかった。となれば、確実に嘘をついているって」

 

 流石の洞察力だ。

 まだ警察官としてはまだ新人とはいえ、その能力は確実なものである。

 

「それに、谷山は全員に干し柿を配っていたんだよ」

「それがどうしたんですか……?」

「干し柿を干すのには硫黄を使うことがあるんだよ。どうやって干しているのかは分からないけど、硫黄を大量に仕入れられるのならアイツしかいないな、って」

 

 由姫に匹敵をする洞察力に、持ち前の知識量。それらが全て相まって結論に辿り着いた。

 ただ、颯太のものも由姫のものも単独ではただの要素に過ぎず終わってしまう。重ね合わさったからこそ決定打となったのである。

 

「だから、もうお前がそれを使う必要は無いんだよ」

 

 まるで憑き物が取れたかのように潤の目からは涙が出て来た。

 ボロボロと止め処無く溢れるものを抑えきれず、口の中から啜り泣く声が漏れ出る。

 

 颯太はそんな彼の肩に優しく手を重ね、慈愛に満ちた目をし始める。

 

「……良かったな。これ以上、負のループを進めることが無くて……」

 

 殆どいつもと変わらないようで何処か違った声色である。

 由姫はそれに引っ掛かりに似たものを覚えながらも、今はただ二人のことを見つめるに留め、静かにポケットから鉄製の手錠を取り出した。

 

 

 

────────────

 

 

 

 そこから1時間程がたった頃、ラシャと納谷は縁側を歩いていた。

 今日は雲が一つも無い快晴であるため、月の光が真っ直ぐと伸びて艶やかに二人を照らしている。

 その光は決して眩しくない丁度良いものであることから、二人は何気無い会話に花を咲かせる。

 

「藤崎君なら逮捕されたよ。谷山君と一緒にね」

「どちらも重罪だろうな」

「多分ね。まぁ、僕の知ったことじゃないけど」

「相変わらず、君は残酷だな」

「間宮透を消せたのはそっちにとっても良いじゃん。()()が漏れ出ることを防いだんだから」

 

 縁側から外に出る。

 広がっている広大な空間は枯山水を元にしていると思われ、まるで池や森の中にいるようである。

 

 人工的に作られた自然の中では、ラシャと同じように白いローブを着た者達が、太陽を使って光る月に手を重ねている。

 全員の首元では樹木のような柄が彫られた金色のペンダントが揺らめいていて、それが仲間であることの一種の証明のようにも思えた。

 

 彼等はラシャの姿を見つけると、手を重ねながら会釈をした。

 ラシャは何もせず、納谷が代わりに両手で小さく手を振ると、男女の組が近付いて来た。

 ローブによって少し(やつ)れている顔をある程度隠している二人の正体を納谷は知っていた。

 

 間宮透の両親だ。

「ラシャ様」と震えた声で話しかける母親。その肩を父親が持っている。

 

「私達の息子には天罰が降ったんでしょうか……?」

「教団を抜けようとしたから、息子は、あんな目に……」

 

 間宮透はいじめの主犯である被疑者かもしれない。

 しかし彼等からしてみれば、愛する息子は犯罪に巻き込まれた被害者なのだ。

 息子のしていた悪行を知らないのであれば尚更だろう。

 

「……そんなことはない。たまたま運が悪かっただけだ。きっと天は、貴方方の望みに応えてくれる筈だ」

 

 ラシャの言葉に涙を流しながら礼を言う二人。

 何かに縋りつきたくて仕方が無く、その結果として辿り着いたのが仮面を被った得体の知れない者であっただけだ。

 

 しかし全てを知ってしまっている納谷にとっては、その光景がどうにも滑稽に思えてしまい、見えない所で笑いを堪えることに必死に励んだ。

 

 

 

────────────

 

 

 

 事件が終わり、浩介と洋平は岩田が調理してくれたいつものインスタントラーメンを貪っている。

 眠気と闘いながら食事をしているため、所々で箸やスプーンを持つ手に力が入っていないのだが、旨味が疲れた身体に染み渡って徐々に力が前借りをされていくのだ。

 

「とりあえず、何とか今日は早く帰れそうだぁ……」

「そうだね。僕もそろそろ帰らないと、奥さんに怒られちゃう」

 

 とは言いつつも目の前の一品から手が離れない二人。

 その様子を岩田は表情に出さないものの微笑ましく思っていた。

 

「あれ? そう言えば、壱宮君と佐藤さんは?」と洋平が訊く。

「二人なら報告をして先に帰った」岩田が返す。

「マジか……。畜生……」

 

 浩介がよく分からない捨て台詞を言った所で、二人は再び食事に集中をした。

 

 

 

 

 

 一方その頃、颯太と由姫は部屋の中で昨日の夕食と今日の朝食を合わせた食事をしていた。

 本当であれば由姫が何かを作ろうとしていたのだが「俺が作った方が確実に美味しい」と、ナポリタンやらコーンスープやらを作ってくれた。

 それがあまりにも美味しかったため、由姫は悔しがりながらも舌鼓を打っているのだ。

 

「昨日の夜のやつ、私を試したんですか?」

「? 何のこと?」

「……無意識なんですか?」

「いやだから何が?」

「嘘でしょ……」

 

 まさかのことに由姫は少し苛立った。

 しかしここであることを思い出し、少し変わった方法でどうにかしようと試みる。

 

「て言うか、壱宮さんって年下ですよね? だったら別にタメ口使っても良いですか?」

「別に良いけど、今まで敬語だったのにいきなりタメにするのは──」

「これからも宜しくね、壱宮君」

「嘘でしょ、そんな柔軟に対応出来んの?」

 

 小首を傾げながら颯太はナポリタンを啜る。

 我ながら良く出来たものだとニヤリと笑っている彼に、由姫は名前を付けるのも面倒くさいような感情が現れた。

 

「残念だったね。私に呼び捨てにされる負のループに入っちゃって」

 

 わざと挑発するように言ってみる。

 また嫌な顔をするのかと思って見てみると、颯太の表情は話の流れに似合わないような深刻なものであった。

 箸は止まり、目線は何処か遠くを向いている。

 

「……まぁ良いか。もうどうせ抜け出せないし……」

 

 そこまで思い詰めるようなことだったのだろうか。

 流石に謝ろうかと考えていた時、颯太が先手を打ってきた。

 

「佐藤さんはさ、絶対俺より先に死なないでね」

 

 それ以上颯太は何も話さずに手を動かし始める。

 暫く固まっていた由姫であったが、彼女も何も返事をすること無く食事を再開させた。

 

 この日の食事は、完璧に作ったのにも関わらず、何処か塩辛いような気がした。




お気付きになった方もいらっしゃるかと思いますが、イメージOPの『NAMInoYUKUSAKI for SPEC』は1話ごとにバージョンが変わっています。
どれも良いアレンジなので、是非お聴きになってみてください。
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