感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージED】
米津玄師 - 感電
【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
「南が死んだ⁉︎」
「⁉︎」
LINK TVに向かうキジムナー号の助手席で、颯太は洋平からの連絡を受けた。
まさかの展開に二人は驚愕し、由姫はハンドルを切りそうになってしまう。
通話を切った颯太は、未だに驚きを隠さない様子で由姫に詳細を伝える。
「聞いてもらった通りで、向こうは二人がやってくれるらしい」
「不味いよね。もし調べても真相が判らなかったら……」
最悪な結末が頭を過る。
しかしそれをどうにか実現させないように努めるのが自分達の仕事であるのだ。現場のことは浩介と洋平に任せ、今はただスピードを上げて向かうべき場所に急ぐ。
暫くして車両はLINK TVのオフィスに到着した。
数台のパトカーが先に停車をしていて、SATの隊員達が入り口付近で待機をしている。
報告によれば、スタジオの入り口には蔓が吊るされていて、入ろうとすればそれらが攻撃をして来るのだ。
しかもただ打ったりするわけではない。どうやら幻覚作用や睡眠作用があるらしく、ある隊員は発狂し、ある隊員はその場に倒れ込み、またある隊員は廃人のように意識を保ったまま動かなくなってしまった。
つまりは無闇矢鱈に近付くと言うわけだ。
本当であれば今すぐにでも乗り込みたいのだが、人質に何を仕出かすか想像出来ない以上、今はこの場で落ち着いている他道は無い。
歯痒いことではあるが、颯太と由姫はキジムナー号の中でじっと待つ。
可愛らしい車体の中では、二人が暗い面持ちをしている。
「……何も出来ないって、こんなに歯痒いんだね」
由姫が呟く。
目の前には現場があるのに、そこに足を踏み入れることが出来ず、ただ車窓の方にもたれかかるだけである。
「でしょ?」
颯太はいつもと変わらぬ口調で相槌を打つ。
「その言い方だとさ、壱宮君は何も出来ずに終わっちゃったこととかあるの?」
「……」
何か軽いことでも言ってくれるかと思っていたのだが、颯太は何も答えてくれなかった。
しかし、
「……あるよ。1回だけ。言っちゃえばさ……
あまりにも気になる発言だけを残してくれた。
だが踏み込む勇気を、何故か颯太に対しては持つことは叶わなかった。
どうして彼にだけそうなのか、今の由姫には全く不明であった。
──お前があの子を殺したんだろ⁉︎
颯太の脳裏ではその言葉が鮮明になっていて、何度も何度も反復をしている。
それを打ち消す術は思い付かず、ただ取り繕うように口角を上げ、陽が暮れた中を様々な光に照らされるテレビ局を眺めた。
「俺もループの中にいるのかもなぁ……」
その言葉を、由姫は決して聞き逃さなかった。
────────────
一方の南情報通信である。
狙っていた南本人はビルの屋上から落下をし、即死であった。浩介が見た所によると、屋上に誰かがいたらしい。その者がまさか突き落としたのではないかと考えたのだが、事件前後の防犯カメラには特に何も写っていなかった。
即ちこれは自殺と考えられ、そうなると警察は然程捜査してくれなるために、都合良く現場には浩介と洋平だけが残される形となった。
試しに南情報通信のオフィスに入ってみる。
一応はそこそこの人気を得ているネットニュースサイトと言うことが起因をしているのか、狭いオフィスの中はかなり整頓をされている。自殺との認識をされたからか、鑑識もあまり手を付けなかったのだろう。大量の資料がデスクの上に置かれていて、ふとした拍子に全てが雪崩のように落ちそうだ。
「この中から手掛かりを探さないと……」
「ですね……」
露骨に焦りが見え始めてきた。
鍵を握る南は原因不明の転落死を遂げた。しかし肝心なのはその原因ではなく、落ちたと言う事実そのものだ。あまりにも唐突で難解な課題を突き付けられ、二人共軽いパニックのような状態になっているのである。
それでもここから何かを探し出そうと必死になる。
浩介は棚の中を物色して入っている物を一つ一つ確認し、洋平は置かれている資料に次々と目を通していく。
だがどれにも3年前に隆二が自殺したことに関する記述は無い。綺麗な具合に何も見当たらないのだ。
まさか証拠を隠滅したのだろうか。そして警察が来て真実が明るみに出る前に自ら命を絶った、もしくは何者かに殺された……。
あまりに自然なシナリオであるがために、益々血の気が引いていく。
何か他の手を考えるのが適当なのだろうが、そんなことを考えている余裕は無かった。
「本当に無いですね……」
「不味いな……。どうしよう……」
その時だった。
カタン。
突如として何か硬い物が床に落ちる音が玄関の方から聞こえた。
音の鳴った方を見ると、閉じていくドアの隙間から誰かが左の方へ去って行くのが見えた。
慌てて浩介が飛び出してみるのだが、白い電球によって照らされて逆に怪しい雰囲気を漂わせている廊下には誰もおらず、あれが幻だったのか何だったのかも判らないようになってしまった。
──何だ? 今の……。
首を傾げながら現場に戻る。
すると柿沢が何やら驚いた様子で近付いて来た。
「これ……!」
持っている代物は至極ありふれたただのスマートフォンだ。
しかし守屋家から隆二のスマートフォンが発見をされていないと言う事実を考慮すれば、何故洋平が興奮をしているのかも察することが出来た。
そんな都合の良いことがあって良いのだろうか。
半信半疑で洋平にロック画面を見せてもらうと、壁紙は隆二が家族三人で撮ったと思われる写真であった。重要な証拠が見つかったために本来であれば喜ぶべき所なのだろうが、小さな端末の中で屈託の無い笑顔を浮かべる一つの家族を前にして、そんなことが出来るわけもなかった。
感情を押し殺しながら、洋平はデスクの空いている部分に自身のノートパソコンを置く。
そうして隆二のスマートフォンとをケーブルで繋げると、下から上へと飛び立つ鳥のように流れて行く膨大な文字列に対し、キーボードを打ち続けることで対抗をする。
これが洋平の出来る最強の戦い方だ。今、その全てを30センチ強の画面にぶつけるのだ。
そして遂に、隠されていた全てがちっぽけな画面の中に姿を見せてくれた。
────────────
声明が出されてから23時間が経った。
ある程度の移動が許されているとは言え、殆どの時間を一つの部屋の中に軟禁されていた状態では、精神的な苦痛が襲い掛かって来る。
事実、美里も疲弊を隠すことが出来ず、蔓に巻かれた状態で目を閉じようとしている。勿論、命が失われるわけではないのだが、このまま死んでしまうのではないのだろうかと思ってしまえるくらいには疲れていた。
瞼が閉じていく中で、誰かがスタジオの中に入って来るのが薄らと見えた。
けれども誰なのかを視認する前に、美里は完全に目を閉じ切ってしまった。
一方の響は誰がスタジオに入室をしに来たのかを見ていた。
颯太と由姫だ。ドライバーを巻いた颯太は左手の中にスマートフォンを、由姫は右手の中に拳銃を握り締めて歩き、響から数メートル離れた場所に立ち止まる。
「来たか」
「来ましたよ。ちゃんと真実を持って」
由姫がそう言うと、颯太は手に持っていたスマートフォンを掲げる。
それが誰の物であるのかすぐに判った響は驚愕した。
「何処でそれを……⁉︎」
「俺らの仲間が見つけたんだよ。ここに全部書いてあった」
そして颯太はスマートフォンを開くと、内部のメモアプリを起動して、保存されていたものを読み始めた──。
遺書
私は警察官として32年、街の平和と人を守るために頑張ってきました。
けど、それらを守る人間としてやってはいけない罪を犯してしまいました。
ここにその全てを記そうと思います。
私が南さんと会ったのは半年前でした。当時私が捜査をしていた窃盗事件の被害者だったのが南さんでした。
初めはただ単に被害者と捜査員と言う間柄だったのですが、事件を究明していく中で親しくなり、いつしか友人のような間柄になりました。同じ釣りという趣味を持つ僕らは休日によく出かけ、そこで親交を深めたんです。
これまで響の友達のお父さん達や、警察の関係者しか友人がいなかった私にとって、彼との時間は非常に楽しいものでした。
けれども、それが全て変わったのは突然のことでした。
ある日、南さんが私にこう言ってきました。
とある事件の取材をしているが、あまり上手くいっていない。なので捜査資料を見せて欲しい、と。
確かに捜査資料は、正式な手続きを経たとしても閲覧出来る物かどうか分かりません。けれども自分が外部の人間に見せるということはれっきとした犯罪行為です。
当然最初は断りました。
でも南さんは会う度に執拗に迫られて、しかも息子や母親に、ある団体を通して危害を加えると言われました。ただの脅しだと思うでしょう。けど二人の写真が誰かから突然送られてきたり、ただ道を歩いているだけで誰かにずっと監視をされているように感じたり、遂には帰宅途中の妻が何者かに追いかけられたりと、本当に家族に危害を加えられてしまうのではないかと思ってしまいました。
なので、南さんに協力をすることにしたんです。
しかし、南さんの要求はこれだけじゃありませんでした。
絶対に自首をするな。もし捕まったとしても、何も話すな、と。
どうしてなのか尋ねてみても、全く答えてくれません。とにかく何も話してはならないの一点張りでした。
そして犯行前にスマートフォンを自分に手渡すようにとのことです。
それらは情報が漏れるのを防ぐためでしょう。
計画を実行するXデーが近づくにつれて、私は追い詰められていきました。自分が犯罪者になってしまう。そして何より、響と美波がこれから先犯罪者の家族として暮らしていかなければならない。
だから私は、もし資料を送ることが出来たのならば自ら命を断とうと思っています。
何処にも逃げられない自分にはそれしか道がないんです。それしか家族を守る方法がないんです。
本当であれば何か他にも良い手立てがあるのかもしれません。
でも今の私にはこれ以外の方法しか考えられません。きっとこのためだけに私に近づいた彼の思惑通りに動かされた。それも踏まえて本当に馬鹿な人間だと思っています。
もしかしたらこのめもは消えてしまうかもしれません。
けど、私はこれを残したくて書いているのではなく、少しでも気持ちを軽くしたくて書いているんです。だから書けただけでもう満足だと、今は思っています。
最後に。
美波に響。これから迷惑をかけることになって申し訳ない。
後はよろしく。
「だから、アンタのお父さんは無罪だけじゃないんだよ」
「嘘だ……。嘘だぁぁっ! 絶対誰かが捏造したんだっ!」
「そう思って徹底的に調べました。……けど、そんな所は何処にもありませんでした」
項垂れてしまう響。
どんな形とは言え真実は全て伝えた。これで人質はきちんと解放してくれるだろう。何せ約束なのだから。
しかしそれは慢心のような物だった。
「そんなわけない……! お前らは、そうやって捜査をしたがらないだけだ……! 許さない……! 許さないっ!」
激昂した響の許に、モスグリーンのガジェットが現れた。
表面にアメジスト色で蔦が描かれ、『L08』『MANDRAKE』と印字されたガジェットは、星のように側面に配置された5枚の葉を使って転がり、響の右手の中に来た。
左手の人差し指を頂点から時計回りに回しながら葉を仕舞っていき、それを腹部に出現したユーザーズドライバー2のスロットに装填する。
『L:
すぐにドライバーを右手で勢い良く押し込んだ。
「変身!」
『変身シークエンスを開始します』
黒く変色した響の身体は再形成の後に着色が施される。
歪な形をした植物の怪人──マンドレイクユーザーに変身をしたのだ。
「そっちがその気だったら、こっちもやってやるよ……!」
颯太の意志に共鳴をしてか、地面をランプブラックのガジェットが走って来た。ヘルハウンドガジェットである。
右手の中に飛び込んだそれの両脚と頭部を片手で器用に収納し、ホルダーに収まっていたガジェットと共にドライバーに装填する。
『L:
『R:
軽快な音楽が流れる中で、両腕を右側から左側へと回し、ポーズをとる。
「変身!」
そして両腕を伸ばして引っ張り、ドライバーの表面を押した。
『変身シークエンスを開始します』
変身を遂げた颯太の姿は、これまでに無いものであった。
両腕と両脚はグローブやブーツを着けたようないつもの銀色のものだが、体幹や両肩はランプブラックになっていて、バーガンディーの装飾がまるで炎が燃えているように見える。
顔は胸部等と同じ色に変化。口元が犬のようになっていたり、頭部から耳が生えていたりしているが、それ以外は何ら変化をしていない。
『HELLHOUND with REMODEL』
仮面ライダーリモデル ヘルハウンドストレートフォームである。
「行くぜっ!」
敵が走って来ることを感知したマンドレイクユーザーは、蔦を勢い良く前方に伸ばす。
するとリモデルは自身の両手の周りに炎を纏わせ、燃えるパンチを蔓に繰り出していく。
所詮はナノロボットの集合体であるため、徐々に落ちていく。
一方の由姫は拳銃を使って一つ一つを撃ち落とそうとするのだが、仮に出来たとしてもすぐに再生してしまう。
「ああもう……! ただの銃じゃ駄目か……」
落胆してしまった由姫は、これじゃただ足を引っ張るだけであると攻撃を止めると、奥の方へ行って別の蔓を銃撃し、人質を地面に下ろす。
そして覚束無い足取りで美里を含めた全員が、由姫の誘導によって退出出来た。
さて、順調に炎を纏ったパンチで蔓を叩いていくリモデルだが、拳だけでは命中率が低いだけではなく、炎も中々広がりにくい。
そのためかなり苦戦を仕入れられていた。
「どうした? そんなもんかっ!」
「ッ! まだまだなんだけどさぁ! 如何せんこれだと要領悪いんだよなっ!」
愚痴を溢していると、蔓が束になって迫り、リモデルを鈍器のように殴って吹き飛ばした。
「ガァッ!」
何とか立ち上がっているリモデル。
だがこのまま拳一つで戦っても一切の勝ち目は無いだろう。
「そんなんじゃ俺は倒せねぇ!」
「言われなくても分かっているよ!」
半ばヤケクソにドライバーの右側のガジェットを取り出す。
そして『R02』『SWORD』と書かれた別のガジェットを装填した。
『R:
再びドライバーを押し込む。
『変身シークエンスを開始します』
刹那、リモデルの両腕と両脚の形状が変化をした。
金属で出来た硬い西洋の甲冑のようであるのだが、大きさや装飾が最小限であることから、恐らくモデルとなったのは1500年代中期から後期に主流だった物であると推測出来る。
更に背中には、アニメやライトノベルの主人公かの如く、2つの剣の鞘がクロスした状態で設置されていて、1本ずつ剣が収まっている。
『HELLHOUND with SWORD』
これが新たな形態、仮面ライダーリモデル ヘルハウンドソードフォームである。
「これで終わりだぁっ!」
マンドレイクユーザーがまた一気に蔓を伸ばして襲う。
塊で来るのではなくそれぞれが個別に来るため、束になっている状態よりも厄介だ。
するとリモデルは背中の剣を二本共引き抜いた。
現れたのは、鍔の付いていない長剣である。
その長剣に炎を纏わせ、蔓を一本一本斬り裂いた。
「ハァッ!」
「なっ⁉︎」
ただ殴って炎を移すのではなく、今回は斬った切り口から一気に伝導させるやり方だ。
なので先に比べて炎が伝わるスピードが速く、蔓はただの残骸として消えていってしまう。
形成が逆転しかけているため、マンドレイクユーザーは次々と攻撃を仕掛けるのだが、何度やっても同じだった。
どんな方向から蔓を伸ばしても、リモデルは己の身体そのものにも炎を纏わせることが出来るため、溶けてしまう。
攻撃のしようが無かった。
「ああクソっ!」
やけになったマンドレイクユーザーは全身から蔓を伸ばしながら迫って来る。
そして走った勢いを使って右足で飛び蹴りを喰らわせようとするのだが、リモデルはそれを軽々と横に避け流す。
続けて右手で裏拳をしても、上体を少し反らすことによって無いものとし、カウンターとして右足で蹴りをお見舞いした。
背中から伸びた蔓も全て、2本の剣から繰り出される炎で形成された斬撃一つで斬り落とすと、剣から炎を出し、その勢いでマンドレイクユーザーを吹き飛ばした。
「うおぁっ!」
突然の爆風に驚きながら遠くの方で狼狽える。完全に不利な状況だ。
しかもまるで勝利宣言のように、剣の柄の先を使って三度ドライバーを押し込んだ。
「ウオオオオオ!」
最後の悪足掻きだ。
マンドレイクユーザーは背中だけではなく胸部や頭、下半身等の全身から蔓を伸ばしながら再び近付く。本気で仕留めるつもりらしい。
しかしリモデルは何もしない。
両腕を挙げて後ろに折り、背中の近くで剣がぶら下がって振り子のように揺れる状態となっている。
いきなり降参か?
慢心したマンドレイクユーザーは足を速め、すぐにでも仕留めようと試みる。
すると、リモデルとマンドレイクユーザーの間が数メートルだけになった瞬間、
「オラァッ!」
リモデルは突然勢い良く剣を振り下ろした。
そこから先よりも巨大な炎の斬撃が飛び出し、一気に伸びて来る蔓を全て燃やし切った。
「⁉︎」
丸裸に近い状態となったマンドレイクユーザー。
どうにかしようにも、自身は敵の射程圏内に入ってしまった。なのでただリモデルが腕をクロスして一気に広げるのを見届ける他手立ては無い。
『HELLHOUND × SWORD FINISH』
「ライダースラッシュ!」
長剣が鋏のようにマンドレイクユーザーの身体を斬り裂く。
ドライバーがある腹部。そこから上と下。計3つに分けられた怪人は、元の黒い粒子となってサラサラと流れ落ち、モスグリーンのガジェットだけが残った。
それをリモデルが拾い上げることで戦闘が終了した一方、由姫は男子トイレの中に入った。
決して卑猥な趣味があると言うわけではない。あくまでも仕事の一環である。
立ち止まったのはドアが施錠されている個室であった。
ドア錠の中の札は赤くなっているため、特段何かが無ければ人が入っていると言う解釈で良いかもしれない。
ドアを2回ノックした。けれども返事は無い。
用を足しているわけなのだから当然だろう。だとしたら相手にとっては、堪ったものじゃない。
しかし再度ノックをすると札が青くなってゆっくりと開かれた。
中にいた人物は本来の用途で使用をしていたわけではない。ずっと元の身体を置いていただけなのだ。目覚めて由姫が眼前に現れたとしても、大人しくゆっくりと立ち上がる。
「守屋響さん。監禁の容疑、及び銃刀法違反で逮捕します」
罪状を読み上げている最中に自主的に捧げられた両手首に、慣れた手付きで手錠を掛ける。
ガチャリと言う音が広い部屋の中に木霊し、虚しく消えていった。
救急車が到着をし、監禁させられていた者達が念の為にとストレッチャーに乗せられて搬送をされていく。
事実、トイレ以外の時間を浮かせられて過ごし、食事は全く与えられていなかったのだ。極限状態によって疲弊をしていて、中には立ち上がるのがやっとの者もいる。なので病院に送ることは適切な処置と言えるだろう。
送られるのは美里もそうであった。
特段何かあるわけでもないのだが、疲労がピークに達しているのも事実だ。車輪によって動く台の上に乗せてもらえるだけでも有り難い。
もうすぐ救急車に到着しようとした所で、誰かが自分の名前を呼んでくれたのが聞こえた。
声の主が近付いて共に救急車に乗り込む。
自身の顔を覗き込んだその正体は、父である洋平だった。
「お父さん……」
「大丈夫か美波?」
「……うん」
力が抜けた声と共に頷く。
それを見て洋平はようやく安堵を出来たようであった。
救急車の扉が閉まる少し前、警察官の誘導に従って歩かされる響の目にその様子が入った。
父が来てくれることを信じた。そして叶った。理想が現実になったのだ。
──どうして俺もそうならなかったんだろうな。
口はほんの僅かに動いたのだが、果たして言葉が出たのかは判らない。
誰も確かめることは無いまま、響は前を向き、救急車はサイレンを鳴らした。
────────────
「彼にガジェットを渡したのは正解だったね」
「ああ。もし我々のことを探られたら不味いからな」
夜が更けて月明かりが眩しい中、ラシャと納谷はいつものように和室で話している。
納谷は満面の笑みを浮かべていて、童顔と相まって無邪気な子供のようだ。
「ただ、南とやらを殺す必要性は無かったんじゃないのか?」
「だって警察に捕まって変なことを話されたら
「……そうだな」
笑顔の中にあるのはただの純粋さなのか、それとも常軌を逸した狂気なのか、この頃まるで判別が出来なくなってしまった。
呆れた様子で立ち上がり、外の方へ足を進ませようとする。
「やっぱり足は動けるようになるんだね」
「らしいな。
「流石は
それ以上特に言葉に耳を貸すことは無く、一歩また一歩と歩き出した。
「……そろそろ、呼び出されるかもな」
────────────
さて、事件から一段落ついて2週間近くが経過した。
まさかの放送事故があったLINK NEWSは一時的に別のニュース番組に差し替えられていたが、美里を含めた出演者全員が回復をしたため、先週からいつものように放送を再開させた。
ユーザー関連のことを知らない一般人達は、LINK TVにて放送されているバラエティ番組の、趣味の悪い検証企画だと思ったからなのか戸惑った感じは無く、寧ろ視聴率は徐々に上がっていった。
響の方はと言うと、大人しく取り調べに応じてくれている。
自身の父を奪ったと疑っていた対象である物に協力してくれるのか不安だったが、今までの態度が嘘だったかのようだ。
特段口数が多いわけではないが、自身にドライバーとガジェットを渡したのは納屋と言う男であること、彼から今回の計画を提案されたことを話してくれた。
それだけでも大きな収穫である。
けれどもそこから何かが進展するわけでもなく、再びユーザー関連の事件の捜査は停滞を迎えた。
そんな中、金曜日に浩介が全員にある誘いをした。
実は浩介は休日、やることが無いために地域のボランティア活動に参加をしているらしい。そこで知り合って仲良くなった女性が、警察官である浩介に相談があるので日曜日に会うことになったのだが、どうやら美味しい料理をふんだんに用意してくれるらしいので、全員で行かないかとのことだった。
幸い全員予定が入っていないため断る理由は無いのだが、女性と二人きりで良い雰囲気になっても良い所に第三者を入れるとは、と若干の抵抗を覚える。
そう言う所が浩介の良さなのだと高を括り、誘いに乗ることにした。
当日、颯太と由姫は出発予定の時間よりかなり早くに家を出て、何処かに向かい始めた。
目的地を教えてくれることは無く、由姫はただ颯太に着いて行くだけである。
到着した先は公安第五課があるビルであった。エレベーターで上の階に上がることは無く、階段を使って地下の駐車場に下り、キジムナー号の中に入る。
忘れ物でもしたのだろうか。しかし定位置である助手席に座って動こうとしないことから、目的は全く違うことが推測される。
「何でここに来たの? 後もう少しで行かなきゃならないいでしょ」
「ちょっと、話を訊きたい人がいてさ」
颯太がそう言ったその時、後ろのドアが開けられた。
開けたのは、スーツ姿に眼鏡を掛けた見知らぬ男性である。
突然現れた他人の存在に由姫は驚愕するが、颯太は笑顔で出迎えた。
「……誰?」
「俺の
紹介をされても尚由姫は警戒をしながら首を傾げるだけなので、男は自らの名を名乗った──。
「滝口だ。宜しく頼む」
────────────
同時刻。浩介はとあるマンションの一室にいた。
日光が窓の中から差し込む広いリビングの食卓にはランチョンマットやグラスが配置され、宛ら高級な小規模のフランス料理店のようだ。
いつも狭いアパートにて暮らしている浩介にとっては、こんな場所で生活を営んでいる人は現実に存在していたのかと驚くばかりである。
近くにあるキッチンでは、一人の女性が料理に取り掛かっていた。
淡い水色のワンピースの上からフリルが付いた可愛い白いエプロンを着け、ショートヘアがサラサラとたまに靡く彼女は、あまりにも美しく、半ば由姫のことを諦めていた浩介が一瞬だけ照準を定めてしまった程である。
しかし、左手の薬指に嵌められた銀色の指輪が輝いているのを見て、完全に諦めて今は友人のような関係を保っているのである。
さて、包丁がまな板の上でトントンと音を立てたり、油が敷かれたフライパンにて何かが焼かれる音が聞こえる度、ソファでただ座っているだけの浩介は何だか居た堪れないようになってしまう。
なのでキッチンの方まで歩き、フライパンに菜箸を入れて具材をかき混ぜている女性に声を掛けた。
「何か手伝いましょうか──」
「椎名さん」
「あ、大丈夫ですよ。お構い無く」
と言う訳で、まさかの碧が登場です。
ここからどうなるんだよ⁉︎
因みにXにてACTサーガ作品のヒロイン達の立ち絵を掲載しましたので、宜しければご覧になってみてください。
https://x.com/KotoShimura06/status/1778338287033414021
【参考】
古くから物語に描かれ続ける毒草 マンドレイク|GardenStory(ガーデンストーリー)
(https://gardenstory.jp/plants/10886)
【刑事事件記録=捜査資料→民事手続での利用|開示手続【運用の傾向】| 企業法務 | 東京・埼玉の理系弁護士
(https://www.mc-law.jp/kigyohomu/2621/)
イメージとは異なる西洋甲冑のリアル!実戦・競技・パレードの3タイプを知らずしてデザインはできない?【CEDEC 2020】| GameBusiness.jp
(https://www.gamebusiness.jp/article/2020/09/06/17576.html)
人質による強要行為等の処罰に関する法律|e-Gov法令検索
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=353AC0000000048_20220617_504AC0000000068)
2028年(令和10年)カレンダー(祝日・六曜・月齢)|便利コム
(https://www.benri.com/calendar/2028.html)