仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第26話です。
最後にアンケートがありますので、答えていただきたいです!
今後の展開に関わるアンケートなので!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 感電

【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック


26 - 虚人(S)

 碧は屈託の無い笑顔を浮かべる。魅力的な物で、誰もが目を奪われて惚れ込んでしまう物だ。

 

 けれども浩介は釣られない。

 先程まで微笑んでくれていた彼が一体どうしたのかと、碧は小首を傾げてしまう。

 

「どうしたの?」

 

 浩介が何かを答えようとしたその時、ピンポーンとインターホンが鳴った。

 何気無いありふれた日常の音なのではあるが、異様なまでに碧に恐怖をもたらしている。

 何故そんなことになっているのか、今の彼女には分からなかった。

 

 試しに覗き穴から来客の正体を確認する。

 洋平だった。

 冴えない彼の顔を見て、碧はホッと胸を撫で下ろす。なんの心配をすることも無かったではないか。

 

「今開けますね〜」

 

 鍵を解いてドアを開けた。

 そこにいたのは確かに洋平であった。これでまた一人客人が来たと、碧は嬉しくなる。

 

 しかし、客人はそれだけではなかった。

 突如として洋平よりも先に十数人もの人が入って来たのだ。

 いきなり何が起こったのかと碧は戸惑いを隠せず、人の流れによってリビングの方へと押し戻されてしまう。

 

 気が動転してしまって判らなかったが、立ち止まった所でようやく誰なのかが判った。

 ヘルメットや防護服を着た機動隊員であった。持っているライフルの銃口は全て碧を狙っていることから、彼等が自分に敵意を向けていることは簡単に理解出来た。

 

「どう言うこと……⁉︎」

「貴女、椎名さんじゃないでしょ?」

「え?」

「こんなにテーブルを飾り付けられる人が、他の部屋だけ散らかっているだなんてありえない」

 

 あの部屋の中身を見ていたのかと、碧はハッとする。

 だがすぐに反論をした。

 

「そ、それは、ただ単に掃除する時間が無かっただけで……」

「それに、貴女は壱宮って人とメールでやり取りしているんですよね?」

「そう、だけど……?」

「嘘つかないでくださいよ。貴女が壱宮って人とメールでやり取りした記録なんて何処にも無いんですよ。どうしてそんな嘘をつく必要があるんですかね?」

 

 ──罠にハマった。

 颯太の名前を出した際に浩介が思ったことであった。

 彼の言う通り、碧と颯太がやり取りをしていたことなど一度も無い。彼の本で考古学系統の作品は無く、仮にあったとしても取材をするなら大学の教授と言った所だろうか。難解な壁画を解読したとは言え、わざわざ碧に訊く必要性は無いのである。

 

「なりすましているんですよね? 椎名碧さんに。けどメールの履歴とかまでは調べられなかったんですよね?」

 

 後ろの方にいた洋平が主題を問いた。

 彼の言葉に碧は何故か焦りを隠すことが出来ず、先程よりも舌を速く回す。

 

「さ、さっきから一体何の話をしているの⁉︎ そもそも、私が本物の椎名碧じゃないって言うのは、何処からの状態なのよ!」

 

 すると洋平はタブレット端末を操作すると、その画面を遠くから碧に見せた。

 表示されているのは一枚の画像だ。沈んでいく夕日によってオレンジ色に染められた病室の中を横から撮った物で、中央に置かれたベッドに横たわっている女性の姿が印象的だ。

 頭に包帯を巻かれ、向けられたカメラの方を見ている女性の姿を見た瞬間、碧は目を見開いて思わず後ずさってしまった。

 

「この人から通報があったんですよ」

 

 洋平が紹介したその女性の正体は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今狼狽えている、椎名碧その人だったのだから。

 

「最初から分かっていたんですよ。貴女が偽物であることくらい」

 

 洋平が告げた通り、彼等を初めとした公安第五課の面々は、碧が別の何者かに成り代わられていることを知っていたのだ。

 

 発端は昨日の朝、保育園に息子を預け仕事に行こうとした碧が、偽碧(仮称)に襲われたことだった。

 碧がその場にうつ伏せに倒れ込んだため、偽碧はもう既に事切れたのだろうと思い、そのまま自宅に向かって準備を始めたのだが、この時はただ単に気絶をしていただけだった。

 そのため、後に通行人が救急車を呼んで搬送されたことにより、この事件が発覚をした。

 

 守屋響の一件で横流しされた捜査資料のことを洗い出していた警視庁は、中でも先の事件で活躍をした公安第五課に白羽の矢を立てたのである。

 

 碧の息子を保護し、岩田を通して本人から詳細を聞いた上で、突入をする算段だった。

 だがいきなり突入をするのは、同じマンションに住む他の住民にも被害を与えてしまう可能性があり得る。

 幸いにも休日に皆でランチをする予定があったため、それに準じる形に作戦を変更したのだ。

 

 つまり偽碧は、最初から手の上で踊らされていただけに過ぎないと言うわけである。

 

「さて、色々とお話を伺えますか?」

 

 浩介が投降を促す。

 身元はバレ、前方では多数の銃が自身を標的にしている。

 このような状況で抵抗をすれば危険であることは誰でも察しがつくであろう。

 

 だから偽碧は両手を挙げて、敗北の意向を全員に示した。

 それを見た浩介がポケットから手錠を取り出して、身柄を拘束しようとする。

 

 だが腹部にユーザーズドライバー2が腹部に出現し、マリンブルーのガジェットがキッチンの方から右手にやって来た瞬間に、今までの仕草が全くの偽物であるのだと察した。

 

「来るわけないでしょ?」

 

 ──不味い……!

 急いで対処をしようとするのだが、偽碧がガジェットを装填し、ドライバーを押し込む方が速かった。

 

『L: 05(ZERO-FIVE)

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 体色が黒くなって変形をし、再度着色をされることによって、新たな怪人が姿を現した。

 黒い身体の上からマリンブルーのナロードレスを着ている。付けられた様々な色のビーズが、まるで星空のようで美しい。

 両手や両脚の首には灰色のブレスレットが巻かれ、長く四角い爪には水色のネイルが施されている。

 そして頭部からは美しい黒髪が流れていて、白い彫刻のような顔面によって美人が微笑んでいるように見える。しかし、後頭部には白い般若の面が着けられていて、隠すように13本の簾が垂れる。

 

『MERMAID』

 

 こうしてマーメイドユーザーが爆誕をした。

 

 目の前に現れた敵に、半ばパニックのような状態になった隊員達が、ただのアパートの中にも関わらず銃を乱射し始める。

 当然のことながら陳腐な銃が通用する筈などなく、全ての銃弾が粒子で出来た身体を通過をして、壁にめり込み窓ガラスを割る。

 

 するとマーメイドユーザーは、突如として自身の肉体を水の塊のようにし、窓ガラスを打ち破って外へと脱出した。

 ここは6階だ。外に誰もいなければ、簡単に逃げ切れると思ったのだろう。

 

 だが一足遅かったようだ。

 何故なら外の道路には、キジムナー号が丁度到着したのだから。

 

「あ! もう始まっていたのかよ⁉︎」

「じゃあ後お願いね。もうバイク出すから」

「うい」

 

 既にライドボットに意識を転送した颯太はNewユーザーズストライカーにまたがり、出撃の時を待っている。

 標的の姿を確認した由姫は車を停め、レバーを引いて颯太をバイクごと放出した。

 

 その様子を宙空で見ていたマーメイドユーザーは、何か自分に不利なことが始まるのではないかと感じ、何処かに去って行く。

 颯太はドライバーを出現させ、ミノタウロスガジェットともう一つ『R05』『ESPER』と書かれた銀色のガジェットを挿れた。

 

『L: 07(ZERO-SEVEN)

『R: 05(ZERO-FIVE)

 

 ドライバーを両手で押し込むと、すぐにバイクを発進させた。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 疾走するバイクの上で颯太の姿が全く違う物へと変化した。

 顔や胴体、両肩のパーツはミノタウロスがベースになっているのだが、両腕と両脚は銀色こそ一緒だがデザインが全く違っていた。漫画の吹き出しのような小さなパーツが大量に取り付けられている。

 そして耳はウニフラッシュと呼ばれる吹き出しの形をしている。

 

『MINOTAUR with ESPER』

 

 仮面ライダーリモデル ミノタウロスエスパーフォームは、道路に詰められている車の間を軽々と通り抜け、ゆらゆらと表面を揺らしながら浮かぶ塊を追いかける。

 混み合っている中を潜り抜けているだけではなく、単純にこのままの速度では追い付かないと思ったために、徐々に通行出来る空間に余裕が生まれた所から更にスピードを上げた。

 

 こんな日曜日の街中では自分に着いて来ることなど不可能だと思っていたマーメイドユーザーだったが、そんな思いとは裏腹にリモデルはしっかりと後を追い、着々と距離を詰めて来る。

 

 そして中野の都心部から少し離れた倉庫街にやって来た。

 もしここから更に逃げられると道路が無い場所に行ってしまうため、ここで追跡を終えるしかない。

 

 リモデルが両腕をマーメイドユーザーの方に伸ばす。

 すると突如として浮かんでいたマーメイドユーザーが、徐々にリモデルの方へと引かれるではないか。

 

「⁉︎」

 

 まさかのことに驚くマーメイドユーザーとリモデルの距離が段々と短くなっていく。

 そして眼中にやって来た所でリモデルは右側へと両腕を振った。

 

「ハァッ!」

「キャァァッ!」

 

 振るわれた腕に連動するかのように飛ばされ、倉庫の壁に激突をする。

 衝撃によって地面に落ちた頃には、塊から人の形に戻ってしまった。

 

 バイクを停めると、両腕を前に伸ばす。

 同時に倉庫の扉の前に置かれていた大量のドラム缶が浮かび上がり、リモデルが両腕に力を込めるとマーメイドユーザーの方へと急速に迫って行き、全て激突した。

 硬い大きな物が続けてぶつかったため、ダメージが次々と蓄積をしていって倒れ込んでしまう。

 

 これがエスパーガジェットの能力であった。

 念じるだけで対象の物を動かすことが出来る。名称の通り、超能力者でしか成し得ないような能力だ。

 

 続けて何かを浮かして攻撃を仕掛けようとするリモデル。

 

「やるじゃない……。けど、こっちにも手はあるのよっ!」

 

 それよりも先にマーメイドユーザーが再び動いた。

 立ち上がった彼女は再び自身の肉体を塊にすると、リモデルの方に猛スピードでやって来る。

 

 また能力を使って跳ね返そうとでもしたのだが、既に手遅れと言うべきであった。

 全身に絡み付いたのだ。水の塊のような、ジェル状の物に纏わりつかれては、身体を思うように動かすことなど不可能。

 しかも厄介なことに、徐々に徐々に全身から力が抜けていっているのだ。恐らくは機械の動きを鈍らせる力でもあるのだろう。まるで自分の身体ではないような感触を覚えるのだ。

 

「どう? もう何も考えられないでしょ?」

 

 ライドボットの働きが鈍ってしまっているため、音声を発することが出来ない。

 

「このままギブアップして、とっとと見逃してくれないかな?」

 

 次の問いかけをしたその時、現場にキジムナー号が到着をした。

 運転席側のドアは苦戦しているリモデルの方を向いており、彼の姿を見てすぐにドアを開けた。

 

 そしてポケットの中から一丁の銃を取り出した。

 黒いコンパクトサイズの拳銃である。この国の警察官が使用する物とは全くの別物だ。

 

 それもその筈。この拳銃は対ユーザー用に開発をされたテーザー銃なのだから。

 作戦を説明された際、岩田から手渡されたのだ。

 君をこの部署に呼んだのは、その並外れた銃撃のテクニックを私が買ったからだ。今までは後方支援のみだったから、もし可能ならこれで思う存分戦って欲しい、と。

 

 その期待に応えるため、由姫は側面にある安全装置の小さなレバーを上げ、銃口をリモデルに纏わり付いているマーメイドユーザーに向ける。

 引き金を引くと、一発の銃弾が真っ直ぐと空気中を横断。狙い通り水の塊を的確に攻撃した。

 しかもこの銃弾からはかなりの高圧電流が流れる。一発喰らっただけでもかなりのダメージを受けるため、マーメイドユーザーは痛みから悶え苦しみながら元の形状に戻ってしまう。

 

「オラァッ!」

 

 ラッキーと言わんばかりに、牛を模した頭部を使って頭突きをし、離れた場所まで吹き飛ばした。

 

「サンキュー!」

「何やられているの? とっととやっつけて」

「チッ、五月蝿ぇな……! 分かったよ」

 

 不服そうに舌打ちをしたリモデルはドライバーのガジェットを両方とも取り出し、別のガジェットを装填する。

 守屋響から回収したマンドレイクガジェットと、藤崎潤との最初の戦いで使用したガンガジェットである。

 

『L: 08(ZERO-EIGHT)

『R: 03(ZERO-THREE)

 

 待機音声が流れる中でも、マーメイドユーザーは再度攻撃を仕掛けようとする。

 だがジャンプをして身体をジェル状にした瞬間に、由姫が再度銃撃をして阻止した。どうやら変身中に攻撃をすると言う御法度を何が何でも犯してはならないようである。

 

『変身シークエンスを開始します』

 

 ドライバーを押して再度変身を遂げた。

 

 バレットベルトが巻かれているようなメタリックな両腕両脚と、銃が上を向いているようなデザインの両耳と正反対なのが、それ以外の部位である。

 両肩のパーツも含め、モスグリーンの身体にはアメジスト色の小さな丸い部品が果実のように付いたりぶら下がったりしている。その影響からかまるで樹木のようにも見えるし、胸部等にもあるために洒落た貴族の洋服のようにも見える。

 同じくアメジスト色の複眼が付いた頭部はモスグリーンで、頭頂部はサンタクロースのような同じ色のナイトキャップが三又になっているようなデザインとなっていて、先端にも果実が成っている。口元も宛ら蔓が巻き付いて出来たマスクのようになっているのだ。

 そして両手には黒い拳銃が1丁ずつ握られている。

 

『MANDRAKE with GUN』

 

 新しい形態、マンドレイクガンフォームの誕生である。

 

「そんなのになったからって、私に勝てるとでも思っているのっ⁉︎」

 

 余裕綽々と言った感じでジェル状になって、猛スピードで襲い掛かって来る。どうやらまたもや纏わり付こうとする算段らしい。

 先程の戦闘でも効果は充分だったため、妥当な考え方であろう。

 

 しかし、今回に関してはリモデルの方が一枚上手だったと言うしかない。

 彼は全身におある果実の部分から次々と蔦を伸ばし、それらを編み合わせてバリアのような物を作り上げる。

 行く手を塞がれてしまい止まった瞬間、バリアに穴が出来て、そこから二丁の拳銃で次々と銃弾を撃ち込んでいく。

 

「グッ……! アァッ!」

 

 塊のまま苦しむマーメイドユーザーに、銃撃を止めたリモデルは蔦を使って左側に払おうとする。

 それを軽々と避けてまた攻撃を仕掛けるのだが、今度は蔦で全身を緊縛されて銃弾を浴びせられながら引き込まれ、リモデルの目の前に来た瞬間に拘束を解かれて彼に右足で回し蹴りを喰らわされた。

 

「タァッ!」

 

 別の倉庫の前にあるドラム缶の群に激突し、元の身体に戻ってしまう。

 そんな彼女にリモデルは両方の拳銃を向けて、少しずつ近付いて行く。

 

「もう諦めて降参しろよ。どうやっても勝ち目無いんだからさ」

 

 彼の言う通りだ。最早勝ち目は無い。どう頑張ったとしても今の所結果は見えている。

 

 もう打つ手は無いのかと半ば絶望をしていたその時、マーメイドユーザーは自身の周りにあるドラム缶を触り、何かに気が付いた。

 そして異形の顔の下でニヤリと笑みを浮かべる。

 

「それはどうかしらねぇ?」

「?」

「私知っているのよ。()()()()()()()()()

「……は?」

 

 頭の中に大きな疑問符が浮かび上がった時、マーメイドユーザーはドラム缶を両手で持ってリモデルの方に投げた。

 最後の悪足掻きかと敵に若干の呆れを覚えながら、高く上がったドラム缶をいくつかの銃弾を出して破裂させた。

 

 次の瞬間、破裂して中に入っていた大量の水が降って来た。

 勢い良く落ちていくそれはまるで雨のようである。

 

 雨。

 そのように形容したは良いが何でもない光景だ。

 しかし、直視していたリモデルが次の攻撃を出来なくなる程度の物であった。

 

「? 壱宮君?」

 

 何があったのか分からない由姫に対し、マーメイドユーザーは笑顔を浮かべるばかりだ。

 

 その時、リモデルの脳裏に様々な光景が現れて消えていった。

 

 一緒に事件を捜査したこと。

 二人でいつもの店に中華料理を食べに行ったこと。

 彼女を責め立てたこと。

 そして、雨の中で死んだこと。化け物が立っていたこと──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──お前が()()を殺したんだろ⁉︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああ!」

 

 銃を落とした両手で頭を抱えながら膝から崩れ落ち、悲痛な叫び声を上げるのは慟哭にも見える。

 背中を震わせ、ただ泣き叫ぶことしか出来ないリモデルの姿は異常で、由姫は唖然としてしまう。

 

「貴女、一体何したんですか……?」

「何って、ちょっとこの人が嫌がりそうなことをしただけよ」

 

 悶え苦しむリモデルの姿はかなりショッキングな物だった。

 いつも飄々としていて、少しイラつくような屈託の無い笑顔を向ける姿をいつも見ているため、見たくもないような光景だった。

 焦りに不安、悲しみ。様々な感情が心の中をかき混ぜていく。

 

「さて、もう彼は戦闘不能みたいだし、残りは貴女だけかしら?」

 

 マーメイドユーザーがリモデルの横を通り、ゆっくりとキジムナー号に向かって来る。

 彼女に由姫はテーザー銃を向けて発砲しようとしたのだが、引き金に指をかける寸前で引き止まった。

 

 このままマーメイドユーザーを攻撃したとして、果たして自分に勝機はあるのだろうか。

 銃弾にも限りがある。弾切れになった時のことを考えると、あまり良い算段ではないと思われる。

 

 ではどうすれば良いのだろうか。

 考えようにも敵はすぐそばまで迫って来ている。もう考える時間は無いため、由姫はすぐに引き金に指をかけて引き金を引いた。

 

 しかし銃弾はマーメイドユーザーではなく、(うずくま)って何やらぶつぶつと呟いているリモデルの方に行った。

 当たったリモデルは痛みからようやく我に返ったようで、立ち上がって振り返り由姫に文句を言う。

 

「おい! 何で俺撃つんだよ⁉︎」

「そっちがボーッとしているからでしょ! ほら! とっととやっつけて!」

「……上等だ、やってやろうじゃねぇか!」

 

 この男がある種の馬鹿で本当に助かった。

 心の底から颯太のことを尊敬したのは、悲しいことだがこれが初めてやもしれない。

 

 苛立つままにリモデルはドライバーを押して拳銃を拾う。

 

 特殊な殺気を感じたマーメイドユーザーは振り返り、またジェル状になろうとする。

 しかし、それよりも早く蔦が彼女の身体を縛り、宙空に浮かび上がらせた。

 このような状況でも形状変化をすれば通常は逃げ切れるのだが、どうやら蔦からは機械やら何やらの動きを鈍らせる効果を持った物質が出ているらしく、何か対処をすることが出来ない。

 

『MANDRAKE × GUN FINISH』

「ライダーショット!」

 

 標的に銃口を向け、引き金を引いた。

 たった1回指を操作しただけにも関わらず、(おびただ)しい数の銃弾が放たれる。

 それらは全てマーメイドユーザーに全身に当たり、次々と実体に穴を開けていく。

 

「イヤァァァァァァァ!」

 

 そして身体の殆どが大小様々な穴になった所で、断末魔を上げながら身体がただの粒子の塊になり、サラサラと黒い粒が縛られた中から落ちていく。

 何も捕まえる物が無くなった蔓は自動的に果実の中へと戻り、続いてリモデルも自身の身体を崩壊させて、キジムナー号の中にある本来の身体へ意識を戻した。

 

 助手席にて意識を取り戻した颯太はゆっくりと起き上がる。

「ふぅ疲れた〜」といつも通りの姿を見せる彼のことをマジマジと見ていると、それに気付かれて目線が合った。

 

「? 何? 俺の顔に何か着いてる?」

 

 由姫は何も答えられず、ただ颯太の目と目を一つの見えない線で繋ぐことしか出来なかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 あの後、偽碧の本体が遺影の置かれていた部屋の中から見つかった。

 特に抵抗をする様子も無く、機動隊員達に連行をされて、今は外で待機をしているパトカーに乗り込もうとしている所である。

 

 その様子をキジムナー号の横にいる公安第五課の面々が眺めていた。

 

「一応、これで一件落着ですかね。犯人は捕まりましたから」

 タブレット端末を持ちながら棒立ちをしている洋平が呟く。

 

「でしょうね。本人も息子さんも無事だったわけですし」

 テーザー銃をハンカチで拭きながら由姫が答える。

 

「渋谷さんさぁ、因みに椎名さん本人のことは好きだったの?」

「⁉︎ い、いえ、別にぃっ!」

 しゃがむ颯太の言葉に、浩介は何故か焦り出す。それがきっと答えに等しいのだろう。

 

 いつも通りの何気無い会話と、そこから味わえる空気だ。

 奇妙な事件に振り回されることは当然の如く嫌であるが、最中や後に漂う雰囲気はいつしか好物となり、いつかは依存症のようになってしまうやもしれない。

 しかし完治しなくても良い、寧ろ完治したくない病気だろうと言う認識を、気が付いているか否かを別にしても全員が持っているのである。

 

 一つ一つを噛み締めながら偽碧が乗ったパトカーを見送ると、浩介はようやく安堵出来たようだ。

 

「しかし良かったですよ。椎名さんが本当に無事で」

「だな。こう言うので、幸せって崩れ去るからな……」

 

 颯太の口から言葉が無造作に吐き捨てられた。

 浩介と洋平は特に気にしてはいない様子であったのだが、由姫には他人事に思えなかった。微笑みの中に何かを隠し、容器で気さくな人間を装っているように感じられてしまう。

 

 それを彼女に悟らせないようにかどうかは判らないが、颯太は別の話題を提示した。

 

「あれ? そう言えば滝口さんは?」

「もう帰ったんじゃない?」

「えぇ〜。新作の宣伝しようと思ったのに……」

 

 

 

────────────

 

 

 

 少しばかり時間が経った。まだラシャは帰って来ない。

 彼以外の誰とも会話をしない納谷に流石に飽きが来た。それに何処か業が煮えていく感覚を覚えてしまい、自身に搭載された機能を使って彼に電話をかける。

 

「もしもし。今何処にいるの?」

『すまない。少し遠出をしている。ところで、椎名碧になりすましていた彼女だが、警察に捕まった』

「ああそう。じゃあそのまま放っておけば──」

『殺せ』

「……は?」

 

 いつもの冷静な口調ではなく、静かだが怒気に塗れた声で、若干の震えから彼が彼女に何らかの憎しみを抱いていることは確かである。

 あまりにも恐ろしく、思わず文言を聞き直してしまった。

 

『殺せと言っている。個人的に、あの女を生かしておくわけにはいかない』

「ああ、そう……。まぁいいや。分かった。じゃあやっておくね」

『頼む』

 

 通話が切れた。

 ラシャが何を思っているかはまるで不明だし、もし教団として彼女が何か不都合があったとしても知ったことではない。

 どうせ彼女を経由して情報が漏れたら不味いからだろうと自分を納得させた納谷は、身体を粒子状にして、粒子を近くにある緑色の大きな箱の中へ仕舞い込んだ。

 

 別のライドボットを経由してやって来たのは渋谷の近くだ。

 複雑に歩道橋や道路が入り組むこの場では車が大量に通っていて、納谷がいる歩道橋でも車の激しい往来が見え、目が疲れて頭が痛くなってきそうである。

 

 その中で少し遠くの方から一台のパトカーがゆっくりと向かって来るのが見えた。

 後部座席の真ん中では、スーツを着た警察官に身柄を押さえられた偽碧が俯きながら座っているため、あれがターゲットだと察する。

 

「さて、じゃあとっとと片付けるか」

 

 納谷は少し面倒くさそうに表情から一変。ニヤリと笑みを浮かべた。

 その不気味な笑顔は都会の空気に呑まれ、誰にも気が付かれることは無かった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 現場の処理がある程度終わり、後は帰るだけとなった。

 なので颯太と由姫も撤収をしようとすると、耳元から丁度スマートフォンを離した所である万太郎が視界に入った。

 彼が振り返ったので二人は駆け寄り、颯太がいつも通り陽気に絡んだ。

 

「お疲れ様で〜す。言い忘れていたんだけどさ、今度『季節は沈黙する』って言う小説出すんだけどさ──」

「そんなことより」

「そんなことって何だよ」

 

 万太郎が颯太の宣伝を妨害し、神妙な面持ちで伝える。

 

「先程連絡があって、マーメイドユーザーに変身していたあの女が、殺害された」

「「⁉︎」」

 

 驚きを隠すことが出来ない。

 先程まで寧ろピンピンとしていたではないか。

 

「何でなんですか?」

「突然胸を押さえて苦しみ出したらしい。恐らくは、心不全か何かだろうな」

 

 つまりは突然死だろうか。

 しかしあまりにもタイミングが良すぎるため、二人には不自然に感じられてしまう。

 

「それと、壱宮君」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また見つかったぞ。()()()()()()()()が」

 

 もう一つの報告の意味は、由姫にはまるで判らなかった。

 だがふと見た颯太の顔が、この世のありとあらゆる感情を合わせた複合的な物となっていたため、それが只事ではないことに気が付いた。

 

 果たして彼にとっての不幸なのだろうか。

 彼の口角が薄らと上がったために幸せなことなのか。

 

 それが明らかとなるのは、今からほんの少し経った時であった。




【裏話】
今作のイメージOPのタイトルは『Passione』然り『NAMInoYUKUSAKI for SPEC』然り、全て英語になっています。(27話からは少し変わってきます)
シーズン3どうしましょうね……?



【参考】
ワンピース・ドレス:One-piece / Dressの種類(57件)を名前とイラスト付きで解説
https://www.fashionsnap.com/dictionary/categories/?category=%e3%83%af%e3%83%b3%e3%83%94%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%83%bb%e3%83%89%e3%83%ac%e3%82%b9&page=3
漫画の吹き出しの種類!使い分けることでシーンにあった効果が出せる|テラストーリーズ
https://raon-terastorys.com/manga-hukidashi-kind/
人魚(にんぎょ)とは【ピクシブ百科事典】
https://dic.pixiv.net/a/%e4%ba%ba%e9%ad%9a
テーザー銃図解
http://fingfx.thomsonreuters.com/gfx/rngs/USA-TASER-LJA/010050MN1GL/index.html
意外と知らないハンドガンの基礎知識【初心者向け】 | ニュース | アームズマガジンウェブ
https://armsweb.jp/report/3618.html
銃の安全装置(セーフティ)の解除方法と仕組み
https://hb-plaza.com/safety/

颯太と由姫にはくっついて欲しいですか? それとも相棒のままが良いですか?

  • くっつけ! 抱け! 結婚して幸せになれ!
  • お前らは今の距離感が良いんだよっ!
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