今回から4話、アンナチュラる回になります! 「アンナチュラる」の意味が解らない方は、今すぐ『アンナチュラル』を観るんだ!
因みに今回のサブタイトルは、まさきとしか先生の小説『あの日、君は何をした』から引用させていただきました。中学生の時に読んで衝撃的だったんですよね。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージOP】
THE RiCECOOKERS - 波のゆくさき for SPEC【己】
【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
赤色の屋根に『悟空記』と書かれたこの場所には、夕食を食べるには少し早い時間であっても、近所の家族連れが先に訪れていて、狭い店内は活気で溢れている。
この地の殆どが山か畑だからと言うこともあるが、この店で提供をされる品はどれも格別に美味しいのが、彼等がこの店に来る理由だ。黄金に輝く炒飯。光沢のある天津飯。揚げ麺の食感が楽しい五目焼きそば。殆どが一律500円と言うことがまるで信じられない。
全てを作る眼鏡を掛けたポニーテールの女性店員──
一方、彼女と同じように白い割烹着を着て眼鏡を着けた貴文は、右腕だけでワゴンを使って商品を客に運んで行く。強面にも関わらず、彼が作る笑顔は実に良く似合っている。これ、ウチの小宮が作ったんですと綺麗に包装された飴を渡すと子供達は喜んでくれ、更に笑顔に拍車をかけることとなる。
ワゴンの上の料理を全て提供し終わったので裏に戻ろうと顔を上げた時、店の中に置いてある小さなテレビに目が留まった。
夕方にやっている全国ネットのニュース番組で、右上の欄にはこう書かれている。
胃が破裂 20代女性が突然死
胃拡張が原因か
その見出しを見た瞬間、貴文の動きが止まった。
数十秒程しか映し出されない情報に釘付けになっていると、客から声をかけられて我に返った。
そしてワゴンを使って厨房の方に戻って行く度、ふと色々な記憶が呼び起こされてしまう。
それを全て忘れるために、貴文は忙しない仕事の中に戻って行った。
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さて、田端にあるマンションの一室には活気も笑顔も糸瓜も無く、一組の男女が張り詰めた空気を口や鼻から呼吸の容量で出している。
人様からは共同生活と言うものは羨ましがられる対象だろうが、実際にやっている身としてはそんなことは無いのであると大声で否定をしながら、新宿三丁目の巨大な十字路を横断するデモ隊のように足を地面に踏み込んだ感触を味わいたくなる物だ。
「言っておくけど、俺はシャワーは浴びないから」
「いや、けどやっぱり湯船にいきなり浸かられるのは困るんだけど」
寝巻き姿に着替えた由姫は、ベッドにうつ伏せの状態で寝転んでスマホを見ながら、颯太に苦言を呈している。
口ではそんなことを言っておきながら、スマホに書かれた『H-WATCH 先行販売の抽選が決定』の文字を見てニヤけている。
しかしながら記事を読み終わった瞬間、パソコンで自身の本の最終確認をしている颯太に徐々に苛立ち、彼の方を向いて質問する。
「壱宮君ってさ、どうして中華とかシャワーとか駄目になったの?」
「あ、明後日の雑誌に新作のタイトル出るから」
「話変えないでよ」
ここで更に怒りの感情が昂って来た。
「……何か、全然自分のこと話してくれないよね」
「そっちも背中のこと全然話してくれないよな」
「君が訊いてこないからでしょ?」
「その台詞丸々お返しするよ」
吐き出される二酸化炭素の重さが心成しか増しているような感じになる。
もし爆弾があるのであれば、目の前の奴に投げつけてやろうと思う。しかし、投げつけて相手がマンションと共に火に包まれ屑となる様だけがどうしても想像出来ない。
「佐藤さんさ」
「?」
「この前さ、言っていたじゃん? 最悪なループは止めなきゃならないって。……けどさ、自分とか他人には一体何処まで進んでいるのか判らなくて、気が付いたら手遅れって時にはどうすれば良いと思う?」
突然の問いかけは爆弾のようだ。
まさか喰らうことになるとは思ってもいなかった由姫は、仰向けになりながら考えるのだが「……もう、どうしようもないよね」としか出てこない。
「だよね。しかも被害者が復讐するなんて場合もあるけど、ループにはもう一種類あってさ、加害者が何度も何度も犯罪を犯してしまうって言うループもある。……両方共、もし歯止めが効かなくなったり手遅れになったら、死ぬしか道無いんじゃないのかなぁ……?」
爆弾から放たれた火花は、床に沈み込んでいる空気に引火をして激しく爆発。由姫の頭の中にあった憤りの全てを吹き飛ばし、モヤモヤとした言葉に表すことが難しい物で建て替えた。
返す言葉が見つからずスマートフォンを頭上に投げ出して放心に近い状態となった由姫の様子を見てか、颯太は別の話題に変更をした。
「そう言えば、新作のタイトルなんだけどさ、さっき担当の人と話してタイトル変えたんだよ」
「え? それって大丈夫なの? ギリギリで変えちゃって」
「大丈夫大丈夫。だって前のタイトル知っているのは担当に城島、後は滝口さんしかいないし。問題無いよ」
ここに至るまで颯太の顔を見てはいない。
位置の関係上で見えないのもそうなのだが、それ以上に見る勇気を持てなかったのだ。
ただ一つ、颯太の背中がほんの少しばかり震えていることだけは確かに見え、まるで見てはいけない物なのではないかと、背中を彼に向けて再びスマートフォンを操作し始めた。
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翌日の朝。全員が出勤をした所で、突如捜査会議が始まった。
いつものように颯太と由姫が同じテーブルに、浩介はソファに、そして洋平がカウンターテーブルに着席をした所で、岩田はモニターに写真を出した。
笑顔でピースをしている金髪のギャルの女性の宣材写真と、そんな彼女が路上で血を流しながらうつ伏せに倒れている物、更には解剖をした際の物だろうか、金属の台に乗せられた彼女の破裂して黒く染まった腹部が目立つ写真の計3枚である。
「被害者の名前は
事件が起こったのは3日前の午後2時過ぎ。多摩市のファミレスで昼食を摂った後、移動先の世田谷区の路上で突如として倒れ、救急隊員が駆け付けた頃にはもう既に死亡していた。念の為に行政解剖を行なった所、死因は特発性胃破裂であることが判った」
「胃破裂と言うことは、食べ過ぎで破裂したとかですかね? 大食いの練習で食べ過ぎて破裂して亡くなったとか?」
浩介が訊く。
「確かに、彼女が食べた物の量は尋常じゃなかったからな。それも考えられた。だが、そもそも通常の胃破裂であれば先に嘔吐や排便と言った症状が出る筈だ。ただ彼女は突如として胃が破裂し倒れた。なのでその可能性は無い」
胃に大量の食物が入った場合、破裂を防ぐために余った物が口から吐瀉されたり、腸の中に溜まっていた便が半ば強制的に排出されるため、いきなり破裂すると言うことは殆どあり得ない。
首を傾げる一同の声を洋平が代弁した。
「じゃあ、原因は一体何なんでしょう? まさか誰かが爆発させた、なんてことは無いでしょうし……」
「胃の内容物に関しては特にこれと言った不審な物は発見されなかった。そのため、死因に繋がる手掛かりが何も無いと言うことで、我々に捜査の白羽の矢が立ったと言うわけだ」
「まぁ他の部署にとっては、ここは左遷先の何でも屋って言う認識でしょうからね」
由姫の言う通り、そもそもこの部署は一体何をしているのかまるで知られていない。
恐らくは、誰も取り合ってくれない事件を唯一扱ってくれる成れの果てのような場所、とでも思われているのだろうか。
自分がコメントした所で、彼女は隣にいる颯太が一言も話さずただじっとモニターを見ていることに気が付いた。いつもであれば何かと囃し立てたり何だりする筈なのにだ。
「そして、最も気になるのはこの部分だ」
岩田がもう1枚、解剖時の写真を出す。
撮影された上半身では破裂した腹部から喉にかけて、赤色の痣のような一直線の物がくっきりと見える。
表示された瞬間に、颯太は身を前に乗り出した。
「見ての通り、何故か爆発した胃から喉、そして口腔内にかけて炎症を起こしている。検査の結果、強アルカリ性の薬品によってやられたようだが、それが何の薬品によるものなのかはまるで不明だ。
口から食道に、広い場所から狭い場所にかけて広がっていることから、捜査関係者の間では『蛇の絵が描かれた遺体』と呼ばれている。
……実は、このように蛇の絵が描かれた遺体は、これまでにいくつもあった」
岩田の発言に颯太以外の全員が驚く。
セーラー服を着たボブヘアーの写真が表示された瞬間、颯太は少し曲げた腰を元に戻した。
「今から2年前の8月15日。あきる野市の団地の道路で、当時高校2年生だった
それを発端に、他にも立川市や青梅市と言った23区外を中心に計12件も起こっている」
「つまりは、謎のユーザーによる連続殺人事件、と言うことですか⁉︎」
「だとしたらとんでもないことですね。今まで人殺しは無かったですから」
浩介と洋平が喋った後、突如として颯太は立ち上がり、いつものような声の調子と笑顔で口を開いた。
「よし。じゃ、俺は大学の授業受けて来るわ」
「え? 今、このタイミングで?」
「そう。
「?」
由姫が意味を訊き出す間も与えず、颯太はテーブルの上に置かれていた茶色いトートバッグを触り、すぐに部屋から出て行った。
その後ろ姿を見送った後、岩田はまるで他の全員に聞かせるように呟いた。
「それもそうだろうな。何せ舞元りみを見つけた第一発見者の恋人は、壱宮颯太その人なんだからな」
「「「⁉︎」」」
驚愕する三人。
脳が真っ白になってしまった。
「壱宮君曰く、突然舞元りみの胃が破裂。遺体の傍に駆け寄ろうとしたら化け物が現れて、それに意識を奪われたらしい。
当然ながら警察はそんなことを信じずに彼を容疑者としたが、物証も何も無く釈放された。だが被害者の父親はそれに納得せずに彼を糾弾。下校途中の彼を包丁で刺そうとした殺人未遂の容疑で書類送検となった。
そんなことがあってか地元にいられなくなって、逃げるように中野のマンションに引っ越したらしい」
まだ白い頭の中に何を入れられようとしても所詮は入って来ない。
浩介や洋平だけではなく由姫もそうだったのだが、彼女だけは何処となく合点が行ったような気がした。
だから彼は初めて会った時にドライバーに固執していたのか。
少しずつ彼の良く分からない行動に説明がついていく。それが何故か怖くなってしまった。
そして由姫には徐々に使命感のような物を感じ始めて来た。
彼の身に何が起こり、どうしてユーザーとなったのか、知らなければならないと思った。
「……室長。私、2年前の舞元りみさんが殺害された事件、調べても良いですか?」
「ん?」
「何となく、調べなきゃいけない気がするんです。……あ勿論、あくまで私情じゃなくて事件解決のためですから」
彼女の口からは特に何も出ていないが、真意は言われなくても分かると言うことだろうか。
少し間を空けて頷いた。
「分かった。佐藤君は2年前の事件を、渋谷君と柿沢君は今回の事件を洗ってくれ」
「「「はい」」」
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その後、浩介と洋平は被害者が最後に食事をした多摩市のファミレスに急行をした。
平日の昼前と言うこともあってか、混み合っていて中々物事を訊けるような状態ではない。
そこで一度、事件現場となった世田谷区の路上に行ってみた。
どうやら専門業者によって既に洗浄が行われたらしく、血や消化された物の跡は残っていなかったが、近くにあるガードレールや植物には細かい血痕が残っている。
どれだけの惨劇だったかは想像に難くない。
現場を隈無く観察してみたが、これと言って怪しい物は見つからなかった。恐らくは鑑識係が全て調べ上げたためだろう。
「特に何もありませんねぇ……」
「うん……」
逆に余りにも無さすぎて違和感を覚えるくらいだ。
ただその違和感の原因を探ってもそれを見つけ出すことは出来ない。
なので仕方無くいつものセダンで多摩市のファミレスへと向かう。
途中、浩介が独りで呟き、洋平がそれに返した。
「壱宮さん、彼女持ちだったんだ……」
「そんなに羨ましいの? 別に君にもまだチャンスあるじゃん」
「そうですけど滅茶苦茶良いなぁと思って。
こないだの椎名さんの家に行った時も、亡くなった旦那さんの食器だったり靴だったりがそのままになっていて、まるでいつでも帰って来るのを待っているみたいだったんですよ……。
それが何か羨ましくて……!」
こう言う時に浩介の言葉は緊張を緩和してくれる。
だが、
「壱宮さん、もし犯人見つけたらどうするつもりでしょう?」
その問いかけによって洋平は自分の中の線を引き締めたような気がした。
笑顔こそ崩さないが、何処か空気が変わったように思える。
「どうだろうねぇ。……でも、もし妻や娘が殺されたら、僕だったらどうするかな……。
勿論、警察官って言う立場もあるからあれだけど、もしかしたら、
洋平の言葉によって、二人の頭の中では最悪な場合が浮かんでしまっている。
あんなにも陽気な彼に限ってあり得ないとは思ったが、この状況下では何がどうなるのか判らないと言うのが現場である。
なので各々が多様な考えを持ち、そんな彼等を乗せながら車は走って行く。
そうしてファミレスに着いた時にはランチタイムを過ぎており、簡単に店長と話をすることが出来た。
店長はマネージメント等で忙しかったために、被害者の上杉美琴がどんな様子だったのかは見ていなかったが、特段怪しい様子は無かったらしい。
防犯カメラの映像から彼女が何をしていたのかを確認した。一人でテーブル席に座り、ふんだんに油がかけられたペペロンチーノにバニラアイスクリームを食べ、席を後にしてレジにいた女性店員から包装された飴玉を貰って口に含み、会計をして退店した。
これと言って不自然な様子は無い。余りにも自然な昼食。それが返って不自然だ。
しかしどう頑張っても結論が出せない。なので二人はただモニターの前で頭を抱えるばかりだった。
────────────
一方由姫は少し前、あきる野市ではなく、霞ヶ関にある警察庁に足を運んでいた。
何でも、颯太が通っていた高校は教員の数が極端に少なく、部活の顧問に当てられるだけの人数がいなかったことから、外部の人間を顧問として雇う所謂チューター制度が導入されていたのだ。その顧問が、今は警察庁にいるらしい。
ロビーで待ちながら、由姫は岩田に送ってもらった颯太に関する情報をPフォンで閲覧していた。
壱宮颯太、現在18歳。東京都あきる野市出身。
13歳の時、日本SFノベル大賞を史上最年少で受賞し小説家としてデビュー。売れるまでに何十年と言われる文学の世界で、恐らくは最短で頂点に上り詰めた天才だ。
しかし2年前、突如として連載中だった小説の休載を発表。理由は大学受験に励むためとのことだったが、恐らくは舞元りみの事件があったからではないかと思う。
そして今年の4月に連載を再開。完結をし、いよいよ書籍化と言う所である。
「意外と面白い人生なんだ……」
誰にも聞こえないくらいの声で話していると、
「あの、佐藤さんですか?」
突然声をかけられた。
立ち上がって右手にいる相手の姿を確認してみると、そこにいたのは小柄な女性だった。赤みがかった髪の毛はほんの少しだけ長く、着用しているスーツに似合っている。
少し年上らしい彼女は腰を低くして名刺を手渡してくれた。
「初めまして。警察庁生活安全局の
「七海……。あの、もしかして、新宿にある焼肉屋の……」
「行かれたことがありましたか⁉︎ その節は主人がお世話になりました」
深々とお辞儀をしてくれた彼女は、どうやら自分の歓迎会で連れて行ってくれた焼肉店の従業員の妻だったらしい。
後に聞いたことだが、二人は高校からの付き合いで、卒業して大学に進学するのと同時に入籍したそうだ。
由姫の前に座ったあまねは
「壱宮君や舞元さんのことに関しては良く覚えていますよ。何せあの学校の新聞部、その二人と後、城島君の三人しかいなかったですから」
「どんな感じの子でした?」
「二人共元気な子でしたね。大人しい城島君が二人のストッパーになって、とりあえずバランスを保っているって言う感じでした」
微笑みながら語るあまね。それだけ楽しい思い出だったのだろう。
けれども崩れるのは一瞬だったと言う。
前兆が起こったのは、国家公務員試験のためにあまねが顧問を辞めた後だった。
「辞めて2ヶ月くらい経った頃ですかね。舞元さんからいきなり電話が来て、泣きそうな声で『私、もう駄目かもしれない』って。『もしかして壱宮君とのこと?』って訊いてみたら、何とも言えない感じで……。しかもそれから数日後に舞元さんが亡くなったって聞いたから、何かもう……」
言いながら頭が下がっていく。
後悔か。何だろうか。色々と入り混じった物を乗せた声の調子で、話は続いていく。
「正直、未だに壱宮君を疑ってしまっている自分がいます。勿論彼は無実ですし、あんなに大好きだった舞元さんを殺すだなんて思いません。けど……あの電話が、凄く気になってしまうんですよね……」
そのまま暫く頭を上げることは無かった。
まるで懺悔をしているかのような姿勢で、由姫はいたたまれない気持ちになってしまう。
そしてあまねからもう一人の部員であった満のいる場所を教えてもらい、由姫は警察庁を後にした。
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次に向かったのは、大学の食堂だった。ここで満と待ち合わせをしているのである。
階段近くの席に座った。
午前中の授業が終わり始めたためか、白い壁面に蛍光灯の光が反射をして輝く室内に、ぞろぞろと学生達が入っては食券を買って注文をしている。
もしかしたら颯太も同じようにいつもしているのだろうか。何だか彼の生活を追体験しているような感覚になった。
すると突然後頭部の辺りが少し痛んだ。
右手で押さえて痛みに悶えてみると、
「あの、佐藤由姫さんですか?」
声をかけられた。
言葉の主はアニメのキャラクターが大きく印刷された白いTシャツを着た長身の男だった。
「初めまして。城島満と言います」
由姫と満が直接顔を合わせるのは初めてだったが、一応互いのことは知っている。
一度颯太と満のビデオ通話に由姫が乱入してしまったことで認知をし、その後守屋響が起こした立て篭もり事件にて満が情報を集めてくれた。
「噂は
「えぇまぁ。かなり……。まだ
心の底から思っていることを言うと、満は微笑んだ。
やっぱりそうですか、と友人の近況に何処か安心したようだ。
閑話休題、早速満が当時のことを話してくれた。
「壱宮も舞元は良いカップルでしたね。特段喧嘩をしていた様子は無かったですし」
「そうですか」
「地元には壱宮のことを犯人だって言う奴がまだいますけど、俺はそうは思わないんです。舞元が死んだ後、アイツはまるで抜け殻のようになって、何も書けなくなって……。その様子を間近で見ていた人間にしてみれば、本当に腹立たしいんですよ……」
テーブルの上に置いた両手に徐々に力が込められていく。
目線は由姫から離れ、食堂のカウンターで仲睦まじく注文を待つカップルの方を向いている。
もう見られない光景を、名も知らぬ者に写して眺める。余りにも切ない光景で目を背けたくなった由姫は、別の質問を投げかけた。
「事件が起こる数日前、壱宮君と舞元さんに何かトラブルのような物ってありませんでしたか?」
「……思い当たる物が、一つあります」
由姫は思わず前のめりになった。
「全日本新聞部コンテストってご存知ですか? 毎年5月末に予選会があって、勝ち残った学校が8月末の決勝に進むことが出来るんです。
当時俺達は決勝で提出するネタとして、地元の市議会議員だった
初めは宝氏がやっていると思って調べていましたが、結論から言えば宝氏は横領していなくて、実際は秘書の宮野と言う男が横領をしていました」
「それは、宮野が罪を被ったとかそう言うことではなく?」
「いえ。今回の物は良くあるパターンではなかったんです。ただ……結果は落選、と言うより、失格でした」
「? どうしてです? 地元の市議会議員の秘書が本当に横領をしていただなんて、大スクープだとは思いますけど」
暫く言葉を詰まらせる満。
しかし意を決して口を開いた。
「その記事を書く際、宝氏が横領したと記事が書けるよう──」
「舞元が、証拠資料を捏造したんです」
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その後、由姫はキジムナー号を走らせた。
行き先は颯太の出身地であるあきる野市。
同じ東京とは思えないくらいに自然豊かな土地を走る車両は余りにも異色で、近隣住民から不審な目で見られたのだが、そんなことをまるで気にせずに数少ない駐車場に停車させると、そこから数分歩いて目的地に辿り着いた。
赤色の屋根に『悟空記』の文字があるオーソドックスな見た目の店舗の引き戸が開けられ、家族連れが笑顔で退店して行く。
隙間から見た限りだと、どうやら彼等が最後の客らしい。今は午後3時だ。ランチタイムを過ぎれば大体そのくらいの入りだろう。
恐る恐る中に入る由姫。
「いらっしゃい! 1名様?」
店主の貴文が笑顔で声をかける。
「いや、私は客じゃなくて──」
「ま、良いじゃん。食べていってよ。何にする? 炒飯? ラーメン?」
「……じゃあ、ラーメンで」
「はいよ! ラーメン1丁!」
「はい」
注文を受けると明里が調理を始めた。
予め用意していた麺を茹で始め、その間に器に特製のタレと鶏ガラが効いたスープを入れる。
どうやらこの店の麺は固さが売りらしく、すぐに熱湯の入った鍋から取り出して器に入れ、チャーシューや葱、メンマにワカメに蒲鉾と具材をトッピング。
そして最後に4リットルのペットボトルから白い液体を少量かけ、ラーメンが完成した。
「ラーメン出来ましたー」
貴文はワゴンに器や割り箸を乗せてゆっくりと厨房の方から、半ば強制的に座らせられた由姫の許へと歩く。
そして「はいラーメンお待ち!」と由姫の前に商品を渡して、彼女の前に座った。貸し切りのような状況だからこそ出来ることである。
「美味しそうでしょ。元々はね私が作っていたんだけど、半年前に事故で左腕をやってしまってね、全部厨房にいる小宮がやってくれているんだよ。
1年半くらい病気の治療で休んでいたんだけど、半年前くらいから復帰してくれて、そしたら凄く美味しい油とかサービスの飴とか考えてくれて、おかげで今までよりも売り上げが良くなったんだよ!」
「いや、両親が死んで居場所も無かった私を拾ってくれたわけですから。恩返ししたかったんですよ」
仲睦まじい様子の二人。
まるで本当の親子のようである。
昼食も摂らずに都内を車で走り回ったためか、腹が大きな音を立てて空腹への警鐘を鳴らそうとしている。
しかしそれを抑えて眼前の物には一切手を付けず、由姫は話し始めた。
「あの……。美味しそうな物を作っていただいてあれなんですけど……」
「?」
「実は、今日来たのはご飯を食べるためじゃないんです」
そう言って鞄から警察手帳を取り出して見せる。
「私、警視庁の佐藤と申します。2年前に起きた舞元りみさんの殺人事件の件でお話を伺いたく参りました」
「そう、ですか……」
貴文の顔から笑顔が消えた。
そして由姫に質問する。
「警察は、壱宮君のことをどう思っているんですか?」
「正直、まだ捜査をし始めた所なので何とも言えませんが、少なくとも彼が犯人である可能性は低いかと……」
溜息を吐く貴文。
「2年前にも同じことを言われましたよ。物証も何も無くて壱宮君を逮捕することは出来ないと。
最初は信じられませんでしたが、亡くなる数日前の娘の様子を思い出すと本当のような気がして……。
それで何度も壱宮君に直接会って話そうとしましたけど、会おうとしてくれなかったし、会っても殆ど口を聞いてくれなかった。それで何となく思ったんですよ。彼がりみを殺したんだと。
だから学校から帰る彼を襲ったんですが、上手く行かずに逮捕されましたよ。……何だかおかしいですよね。手段こそ間違っていたかもしれませんが、人を殺したかもしれない彼が法で裁かれないのに……」
眉間に徐々に皺が寄って行く。
この2年の間抱えていた怒りや憎しみが、彼の言葉や表情、そして全身から溢れ出ている。
「だからね、私は警察を信用していません。あんな人殺しを野放しにしているような組織に協力するつもりはありません」
「警察だからじゃない……」
「はい?」
「彼が、私にとってたった一人しかいない大事な相棒だから、私は捜査をするんです。
まだ一緒にいる日は短いですけど、少なくとも人を傷つけることなんて出来ないし、ましてや人を殺すことなんて出来ない。
……そんな彼を、そこらへんにいる人殺しと、一緒にしないでいただきたいっ!」
突如として激昂した由姫に驚く貴文。
それまでオドオドとしていた彼女と打って変わり、鋭い眼光で目の前の相手を見つめている。
「昔貴方が壱宮君を裁くために手段を選ばなかったように、彼の冤罪を晴らすために私は手段を選びません。
……でも、もし仮に壱宮君が本当に娘さんを殺害したのであれば、その時はしっかりと法に則った罰を受けさせます……!」
真っ直ぐとした彼女の目線に圧倒をされたのか、貴文は少し間を置くと、
「……ちょっとお待ちください」
そう言って店の奥へと入った。
暫く待っていると何かを持って貴文が現れ、手に持っている物を渡した。
「娘が亡くなる前日まで書いていた日記です。事件が起こって半年以上経ってから見つけたので、警察の方にはお渡し出来ませんでした」
それは金色の装飾が洒落ている可愛らしいピンク色のノートである。
薄い物ではあるが、書き込まれたことによって厚さが増して閉じられないのではないかと思えてしまう程だ。
「ここに、殆ど全てのことが書かれてあります」
ゴクリと唾を飲み込む由姫。
開けば後には戻れない気が何故かして、思わず躊躇をしてしまう。
だがそもそも、この場所に来た時点で既に手遅れのようなものだ。
後戻りなんて望んでも出来るわけがない。
ならば自分のやることはただ一つだけだ。
日記を手に持ち、まるで読書でもするかのような感覚でページを開く。
そしてボールペンで書かれてある細かい綺麗な文字に目を通し、舞元りみが見た景色を脳裏に浮かべ始めた。
【裏話】
こんな所で発表するのも変な話ですが、ACTサーガ作品で一番スタイルが良いのは由姫です。
筋肉質+ナイスバディ+高身長と言う、正に理想的な感じです。
にも関わらず手を出さない颯太は一体何なんだ⁉︎
後、今回の話に登場したあまねは大学を卒業して警察庁に入庁しました。
いつも焼肉店の営業で忙しい日菜太とは、土日の何処かしらのタイミングでデートを満喫しています。
【参考】
あの日、君は何をした
(ISBN978-4-09-406791-0, 小学館, まさきとしか 著, 2020年)
檸檬
(ISBN978-4-10-109601-8, 新潮社, 梶井基次郎 著, 1967年)
ミス・シャーロック/Miss Sherlock:最初の事件. Hulu, 2018-04-17
2026年(令和8年)カレンダー(祝日・六曜・月齢)|便利コム
(https://www.benri.com/calendar/2026.html)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/69/9/69_9_2229/_pdf
胃拡張について解説|新宿で消化器内科ならヒロオカクリニック
(https://www.h-cl.org/column/gastric-distension-why/)
フォレンジック調査|PCやスマホから不正・犯罪の痕跡をつかむデジタルデータフォレンジック(DDF)
(https://digitaldata-forensics.com/embezzlement/?gclid=Cj0KCQjwxqayBhDFARIsAANWRnQJ6NFEaMa3Op4ORBmG6v7HxBea_vN8EkTUwzIcEx3KhVgP3SqRc1waAij6EALw_wcB)
地方によって全く異なる中華料理・中国料理!/ホームメイト
(https://www.cookdoor.jp/chinese-food/dictionary/21201_china_001/)
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(https://www.youtube.com/watch?v=XV4ocdKuDpc)
解剖の種類。正常解剖/司法解剖/行政解剖/病理解剖の目的と特徴|はじめてのお葬式ガイド
(https://www.e-sogi.com/guide/14501/)
成人の特発性胃破裂から腹部コンパートメント症候群の発症は疑われた1例
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjgs/47/2/47_2013.0018/_article/-char/ja)
警察庁 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e8%ad%a6%e5%af%9f%e5%ba%81)
手帳の種類は13タイプ!それぞれの特徴やどんな人におすすめかを徹底解説 - ヒントマガジン|【ハンズネットストア】
(https://hands.net/hintmagazine/stationery/2308-diary-type.html)
颯太と由姫にはくっついて欲しいですか? それとも相棒のままが良いですか?
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くっつけ! 抱け! 結婚して幸せになれ!
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お前らは今の距離感が良いんだよっ!