仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第28話です。
前半は結構読み辛いですが、ご了承ください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 感電

【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック


28 - あの日、君は何をした(S)

7月4日(土)

 今日も部活だった。っていつも部活のことしか書いていないけど、毎日の中で一番楽しいのは部活だからしかたないよね。

 決勝で使うネタのストックはいっぱいあったから、今日はその中から一つを選ばなきゃいけなかった。鮎の密漁、生姜祭りの起源と習わし、宝道夫さんの怪しいうわさ。

 どれにしようか迷っていたら、「やるならスケールが大きい方がいい」ってことで、宝道夫の件を調べることになった。

 颯太も城島くんもかなり乗り気だった。私も追いつけるようにがんばらないと。

 

 

 

7月18日(土)

 今日も部活だった。

 この2週間で調べた情報を改めて整理してみるとこんな感じ。

・昔から女遊びのうわさがあった。

・同時に横領のうわさもあった。

 ただ、私たちみたいな学生が証拠を集めるのは簡単じゃない。色々と弁護士を通じて手続きをしなくちゃいけないから、結構時間とお金がかかる。

 なので明日直接聞きに行くことになった。政治家の人と話すのは初めてだから、すごく緊張する。けど颯太と城島くんがいるから多分大丈夫。

 とりあえず今日は明日に備えて早く寝る。

 

 

 

7月19日(日)

 今日はかなり長くなる。だからノートをかなり消費しちゃうかもしれない。

 今日は宝道夫さんの事務所に行って、皆で話を聞いてきた。山の近くにある二階建ての建物は、昔学校の資料集で見たキューバのお屋敷に似ていたけど、海外の建物みたいに浮いている感じじゃなく、この町の雰囲気に合っていて凄くお洒落だった。

 

 二階で初めて会った時の感想としては、そんなに悪い感じの人じゃなかった。二周り近くも歳が離れた私達にも親切に対応してくれたからだ。逆に、秘書の宮野さんは少しだけ無愛想な感じがした。ただ宮野さんは宮野さんで良い人だと思った。

 早速横領のことを城島くんが「横領のうわさが出ていますけど本当ですか?」と聞いた。

 すると宝さんは笑みを浮かべながら「そんな話あるわけ無いじゃないですか」と言った。そんな噂は冗談か何かに決まっていますよ、と一蹴された。

 続けて颯太や私も質問を投げかけた。

「資金を女遊びとかに使っているとか何とか言われていますけど」

「女遊びをしていたのは昔の話ですよ。自分で言うのもアレですが、今は真面目に頑張っています。宮野にもその辺はきっちり監視してもらっていますしね」

 宮野さんが一礼をしたところでまた笑う。

 その笑顔がまるで偽物みたいだったけれど、真偽を追求するための材料を私達は持ち合わせていなかった。

 

 だからこの日は30分くらい話を聞いて、そこから私の家で夕食を食べることになった。

「アイツ絶対何か隠しているよな!」「間違いないな」と愚痴を溢しながらお父さんや小宮さんが作った料理を頬張る颯太と城島くん。

 この二人はすごい。才能から記事のネタを仕入れる能力から何から何まで私よりも上だ。二人の間でしか伝わらないようなことは山ほどあるにちがいない。

 足を引っ張らないように私も頑張らないと。

 

 

 

7月20日(月)

 今日は一日部活だった。

 集まったのは今後の方針を決めるためだ。

 証拠も何もないのだけれど、なぜか宝さんが何かを隠しているという確信があったから、ここで止まるわけにはいかなかった。

「けど問題はどうやって証拠を集めるかだよな……」

「確かに、横領の証拠なんてどう頑張っても無理だもんな……」

 午前中はその話題で持ちきりになって、結局はそもそもの話題を最初に挙がっていた鮎の密猟に変えることが、午後の数時間で決まった。

 止めるわけにはいかなかったのに、あっけなく止まってしまった。

 それがすごく悔しかった。

 

 もしも私が二人に何か貢献出来たら。そう出来るだけの才能とかがあったら。

 色々なことが頭を駆け巡った一日だった。

 

 

 

7月24日(金)

 今日と明日は部活が休みになった。いつも使っている教室が、保護者会で使うことになってしまったからだ。

 なので授業が夕方近くに終わって、その後は颯太と一緒にうちの店で少し軽く夕飯を食べた。

 颯太はパソコンで原稿を書いていた。それと同時に私と会話をしながら料理を食べる。マルチタスクの代表例みたいな感じだった。

「しかしまあ、まさかボツになっちゃうだなんてな」

「本当だよね。どうすればいいんだろ? こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど、鮎の密猟ってだいぶ弱いよね」

「だよな」

 しばらく黙ったままだった。耐えられなかったので、私が次の会話を切り出した。

「ごめんね。二人の力になれなくて」

「いや、大丈夫。いてくれるだけで良いよ」

 笑顔でそう言ってくれた。嬉しかったけど、何だか自分が惨めな気がしてきた。

 別に颯太にそんなつもりはないんだろうけど、だとしても……。

 これ以上書くと泣いちゃいそうだから、今日はここまでにしておく。

 

 

 

7月25日(土)

 今日は学校の後、各々が取材に行くために解散した。

 颯太と城島くんは鮎の密猟に関する取材をしに行った。鮎釣りの解禁は6月なので、そもそも話題自体はピークを過ぎてしまっていたけど、それでも密猟者はピークを1週間過ぎた今でも多いから、決して無駄じゃない。

 かく言う私は「漁師さんに話を聞いてくる」と言って出たけど、それは真っ赤な嘘だ。本当は宝さんの方に行った。事務所の近くの電柱にずっといて張り込んでみたけど、特に何もおかしなところは無かったし、そもそも横領を調べるのに張り込みをするだなんてやり方がおかしいということには、夕方頃になってから気がついた。

 つくづく思う。私には本当に取材だとかのセンスが無い。やろうと思ったら後先考えずに突っ走って、それでみんなに迷惑をかけてしまう。本当に情けないったらありゃしない。

 

 落ち込んだ状態で帰ろうとすると「こないだいらっしゃった新聞部の方ですか?」と誰かが声をかけてきた。振り返ると、秘書の宮野さんだった。

 先日会った通りの無愛想な顔だったけど、けどどこか温かみみたいなものがあった。

「宝先生の横領を調べているんですよね?」

「どうしてそれを?」

 すると宮野さんは大きな封筒を渡してきた。すごく重たかった。何かがパンパンに入っているみたいだった。

「よかったら使ってください。何かの足しになると思いますよ」

 それだけ言うと「何かあったら連絡してください」と名刺を渡して、宮野さんは帰っていった。何が入っているのか確認することはすごく怖かったので、そのままにして今日はこのまま寝てしまおうと思う。

 

 

 

7月26日(日)

 今日は部活を休んで自分の部屋にずっとこもっていた。

 朝ごはんを食べて少ししてから、昨日宮野さんからもらった封筒の中身を見てみた。

 そこに入っていたのは大量の書類だった。ところどころ黒塗りになっているけど、グラフの中には何かの金額だったり色々なカテゴリーが書かれている。

 まさかとは思った。これは宝さんが使っていたお金の流れが全部書かれているものなんじゃないかと。

 試しにネットで宝さんの活動を調べながら照らし合わせた。移動に使う交通費だったり、他の議員との会食の費用だったり、地元のお祭りに出資をしたお金だったり。どの数字にも違和感は無くて、仮に計算が合わなかったとしても誤差は合計で5万円弱、ただの申告漏れみたいな感じのやつだった。

 これじゃあ横領の証拠にはならない。何のスクープにもならない。二人の力になろうと思ったのに、また何も貢献できないまま終わるかもしれない。

 

 焦った私は宮野さんに電話をした。「もっと他に無いんですか? これが全部なんですか?」って。

 宮野さんは、これが全部です、と言った。電話しながら目の前が真っ暗になって、見ている部屋の壁の色も分からないように感じた。

 すると電話越しに私が落ち込んでいるのが分かったのか、こんなことを言ってきた。

「だったら、数字を少し変えればいいじゃないですか」

「それは、改ざんってことですか?」

「悪い言い方をすればそうなりますね」

 真っ暗に感じたとかじゃなくて、何も感じられないようになっちゃった。それが許されないということを分かっているからだし、そんなことを提案してくる宮野さんが大人として信じられなかった。

「やっちゃダメじゃないですか……。犯罪になるかもしれないですよ」

 そう言ったら、宮野さんは力説してきた。もしここで何かを出さなければ、宝先生の不正やら裏の顔は明かにならない。もし彼が冤罪だと訴えてそれが事実だと分かっても、一度悪い噂がついた議員はやってはいけない。少なくともこの町で働くことはできないかもしれない。だからこれは必要なことなんだ。必要悪のようなものなんだ、と。

「それに、あの二人のお役に立ちたいんですよね?」

 頭の中に颯太と城島くんの顔が浮かんだ。あの二人がいつも活躍している姿を思い浮かべたら、見えていなかった壁の色がまた見えるようになった。

 

 だったらやるしかない。

 電話を切った私はタブレットを立ち上げて、表を作り始めた。もらった資料と瓜二つなものをまずは作って、次に数字を少し減らした。これで横領に何か加担をしているんじゃないかと言っても何の疑いも持たれないはずだ。

 宮野さんに「完成したら送ってください」と言われていたので、彼のメールアドレスに書類のデータを送ったので、今日の仕事は一応終わりだ。

 すごく楽しかった。今日はもう、明日の向けてぐっすり寝る。

 

 

 

7月27日(月)

 やった!

 今日の部活で見せたら、二人が目を丸くして驚いてくれた。

「これだったら絶対に大丈夫だ」って、テーマが鮎から政治資金横領にまた戻ることになった。

 テーマの最終確認だけして早めに部活が終わったので、また颯太と一緒に夜ごはんを食べた。城島くんは「行かなきゃいけない場所がある」と言って帰った。誰かと話したり何だりする用事らしい。聞いても何も答えてくれないしいつものことなので、それ以上何も聞かなかった。

「お前、あのネタすごかったな! どうやって仕入れたんだよ?」

「色々調べた」って言ってはぐらかした。けど嬉しかった。今までは(颯太にそんな気は無かったとしても)格下の人間と頑張って話しているって感じがあったけど、初めて同じ人間として認められたような感じがした。

 それが顔に出ていたのか、颯太に「何かあったの?」と聞かれた。ただ微笑んで返事をするだけにした。

 本当に幸せ。大好きな人に褒めてもらえて、こうやって笑い合えるのは本当に嬉しい。

 こんな日がずっと続けば良いのにな。

 

 

 

8月4日(火)

 作った記事の最終確認が終わった。

 一応早期に作り終わった鮎のやつと一緒に提出することになって、今日は記事のソースの確認をするだけだった。(ちなみに私の表は、適当な名前のジャーナリストの名前をでっちあげて誤魔化した)

 大会では記事の中身が漏れるのを防ぐために、ざっくりとした概要だけを文書データとして送る。『某有名議員の裏側』とだけ書いて、ページ数や文字数と一緒に送った。

 これで仕事はもう終わりだ。後は発表に向けて色々と台本だったりを用意するだけ。特に忙しいことは無いのだけれど、何か不安が心の中に残った。

 城島くんに「どうしたの?」ってすごく心配されて「大丈夫だよ」と答えたけど、なぜか大丈夫だと心の底から思えなかった。書いている今もそんな感じがする。不安な時は寝るのが一番だと思うから、もうここでやめにしよう。

 どうかあのことがバレませんように。

 

 

 

8月10日(月)

 どうしよう。本当にどうしよう。死にたい。

 今日部活に行こうと思ったら、いきなり颯太に文化祭とかで使うものを入れている倉庫に連れて行かれた。

 何をするのか分からなかった。だからドキドキしていると、颯太はこんなことを言ってきた。

「お前、本当に何やっているんだよ……」

 まさかとは思った。けど念の為に聞いてみた。

「何の話?」

「あの横領の証拠。どこで手に入れた?」

 バレていた。追求から逃げるために何とかはぐらかして誤魔化したけど、そういうのは基本的に颯太に通用しない。だから「それを聞いてどうするの?」と逆に質問してみた。私が笑顔を見せても一切動じないで、颯太はスマホを出して画面を見せてきた。

 それを見て私は絶句した。なぜならそれは宮野さんが逮捕されたというニュースだったのだから。しかも、横領でだ。

「どういうこと」と知らず知らずのうちにつぶやいていると、颯太は話してくれた。宮野さんが政治資金を横領していたことが分かったので警察に逮捕をされ、宝さんの事務所が今地検に捜索をされていると。

 でも宝さんがやったのをなすりつけられたんでしょ? と聞いてみると、颯太は首を横に振った。そんな形跡は一切無かった。宮野さんから宝さんに送金をした形跡も無かったし、宝さんがそれ用に使ういわゆる裏通帳のようなものも無かった。宝さんの噂は完全なデマだったんだ。

 

「そもそもこの件が明るみになったのは、宮野が偽の書類を国税局やら何やらに見せたからだ。ただこの書類は別の誰かが作ったものだって言っている。それが誰なのかは黙秘しているらしいけどな。……お前だろ? 作ったの」

 何も言い返せなかった。黙っている私に対し、颯太はスマホを地面に叩きつけて叫んだ。

「何でこんなことしたんだ!」

 そこから先の記憶はもう無い。というか、思い出すだけで疲れる。

 もう嫌だ。しばらく書きたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日記はここで終わっていた。最後の4日間、一切手を付けていなかったと言うことである。そんなことに時間を割けられないくらいには、一気に心労がやって来たのだろう。

 

 日記を読み終わった由姫は貴文に日記を返し、店を後にした。

 途中、食べなかったラーメンを明里が包んでくれて、いつも客に渡していると言う包装された飴と共に手渡してくれた。それを持ってキジムナー号に乗り込み、暫く休む。

 

 貴文の気持ちを考えると、何処となく居た堪れない気持ちになった。

 娘が突然亡くなった挙句に、第一発見者である彼女の恋人が容疑者になった。しかも動機らしき物が日記の中に書かれている。最悪なことが立て続けに起こっては、疑ってしまうのも仕方が無い。

 それに明里に関してもだ。家族のいない彼女は悟空記でずっと働いていた。しかし病気で1年以上も療養を課せられて、その上りみが亡くなった。更には治療費のために作った借金を返すために色々な場所でアルバイトをしなくてはならなくなった。

 

 両方共、大切な家族を失い、そして今は来てくれる客に料理を提供することを拠り所にして生活をしている。

 それを悪く言うことは出来る筈もないのだが、きっと何か別の動機で始めたであろうことから逸脱してしまっている今の状況と言うのは、筆舌し難い物であった。

 

 今、助手席には明里が包んでくれたラーメンと飴が置かれている。本来であれば座っている筈の誰かの代わりになってくれるそれを、どうしても食べる気にはなれずに放置してしまった。きっとオフィスに帰って食べる頃には(ぬる)くなっているだろうが、仕方の無いことだと思った。

 

 ──壱宮君、今何やっているんだろうな。

 

 助手席に誰もいないことを意識していると、先程城北大学で会った満が言っていたことを思い出した。

 りみが行った証拠の改竄の一部始終を伝えた後、こんなことをぼやいていた。

 

「今の壱宮は、何を信じて動いているんでしょうね?」

「……はい?」

「いや、何かって具体的に言うことは出来ないんですけど、俺にも信じる物があって、それに従って行動していると言うか……。

 けど、壱宮は舞元を失って原稿が書けなくなって、まるで抜け殻みたいになって……。何を拠り所にして生きているんでしょうね?」

 

 何も答えられない自分がいた。

 いつも笑顔を振り撒いている彼の軸が何なのかを考えたことも無かった。

 

 その疑問が晴れず、今も頭の中に張り付いている。

 おまけにりみが残した日記を見てからと言うもの、鮮明になっているような気がした。

 

 解答が思い付かず、溜息を吐いて天を仰いだその時、無線から通知が届いた。

 

『警視庁より各局。あきる野市にて──』

 

 

 

────────────

 

 

 

 一方、浩介と洋平はある程度の聞き込みを終えて車の中に戻った。

 特にこれと言った収穫も無く、ただただ被害者の足取りを追うだけに終わった。

 

「無駄足でしたね」

「そうだね。どうしようかね?」

「どうしましょう」

 

 口ではそう言っているのだが、何も手に入らなかったわけでは決してない。

 事件を解決するかもしれない一手を持っているのだが、別に顔やら何やらで出しても何の意味も無いのでそうはしない。

 

「佐藤さん、大丈夫ですかね?」

「何が?」

「いやだって、壱宮さんいない状況でユーザーが来たら──」

「そんなに弱くはないでしょ。何かあったら拳銃で一発だよ」

 

 軽いジョークを飛ばす。

 ある程度の余裕があるように見えるが、そう自分が思いたいだけのために飛ばしているのだ。

 

 妙な焦燥感が身体を駆け巡ったその時、彼等の無線にも通知が入った。

 

『警視庁より各局。あきる野市にて親子連れが突然倒れた模様』

「公安502、八王子から向かいます、どうぞ」

『警視庁了解』

 

 洋平が応答をし、浩介が車を走らせ始めた。

 もし由姫が向かっているのであれば、浩介が不安に思っていたことが現実になってしまうのではないだろうか。

 無意識のうちに、浩介は少し長くアクセルを踏んでいた。

 

 

 

────────────

 

 

 

 現場は悟空記から車で5分程の場所にあるショッピングモールだった。

 パトライトを着けながら大きな駐車場の中に入ると、車が停まっている中、真ん中の辺りに人混みが出来ていて、それが非常に奇妙であった。

 

 端の方にキジムナー号を駐車した由姫は、急いで人混みの中に入って行く。

 中心に辿り着いて見えたのは、横たわる二人の大人と、一人の子供だった。彼等を源にして血の溜まりが徐々に広がり、刺激臭が鼻腔を貫き始める。

 

「……え?」

 

 由姫には倒れている三人の服装に見覚えがあった。

 間違いない。ただ単にすれ違っただけではあるが、彼等が自分より少し前に悟空記で食事をしていた者達であることはすぐに分かった。

 

「嘘……でしょ……」

 

 何が起こっているのか分からない状態で、数秒間動きを止めてしまった。

 思考も同時に止まる。

 

 すると次の瞬間、

 

 バーン!

 

 突如として聞こえてきたけたたましい音によって、思考が身体に戻ってきた。

 見ると、後ろの方で停車されている白いセダンが何故か炎上をしていた。白い車体からオレンジ色の炎が上がり、徐々に黒い焦げが侵食して行っている。

 

 更にそれだけではなく、次々と車が爆発をしていく。

 宛ら海外のアクション映画のような、現実ではあり得ないであろう光景だ。

 

 それに野次馬達がパニックになるのも無理は無かった。

 悲鳴を出しながら一刻も早く駐車場から離れようと建物の中に避難をし、そこから一歩も動こうとしない。

 

 数箇所から炎が出る駐車場に残されたのは、由姫だけとなった。

 本当であれば自分も今すぐに逃げたかったのだが、職務上そんなことが許されるわけがない。

 なので代わりに拳銃を引き抜き、標的が何処にいるのかを確認する。

 

 四方八方に銃口を向けていたその時、

 

「どうだ? この景色は?」

 

 後ろから特徴的な男性の声がした。

 まさかとは思い、銃口をそちらの方に向けてみると、まだ発火していない業者のトラックの荷台の上で怪人が胡座を掻いていた。

 

「ユーザー……!」

「なんだ。知っていたのか。だったら色々と面倒だな」

 

 立ち上がったがために、怪人の全体像が確認出来るようになった。

 

 流れるような輪郭をしている華奢な身体は男の物にも女の物にも見え、鱗のような表皮は茜色と濃紺が入り混じった体色をしていて、東南アジアの書物に出てきそうな見た目をしている。

 肩から伸びている無数の細い管は背中や両脚に伸びて付いている他、両手の爪は4センチ強に鋭く伸びている

 そして頭部はエリマキトカゲのようなのだが、険しい顔立ちや伸びた2本の角、尖った歯によってそれが龍か何かをモチーフにしていることはすぐに判った。

 

「だったら、とっととお前も消えてもらうか」

 

 怪人──ドラゴンユーザーはそう言うと、右手を肩の高さまで挙げて指と指とを重ね合わせてパチンと音を鳴らした。

 当然それだけで何かが起こるわけもなく、ただ炎から流れるパチパチとした音が聞こえるだけである。

 

 しかしドラゴンユーザーは何故か驚愕していた。

 

「まさか……()()()()()()()()?」

「はい?」

「……まぁ良い。そう出来なかったとしても、力尽くでどうにかすれば良いだけだからなぁっ!」

 

 躍起にでもなったのだろうか。

 何かを起こそうとすることを止めて足を前に進め始める。

 

 由姫が銃を引き抜こうとした時には、もう既に遅い。

 その鋭い鉤爪を由姫に向けながら、ドラゴンユーザーはトラックから飛び降りた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、攻撃が届くことは無かった。

 何故なら彼は、目の前には同じく異形の姿をした者の右手によって吹き飛ばされたのだから。

 

 由姫は思わず彼の名前を呟く。

 

「壱宮君……!」

 

 キリンストレートフォームに変身をしたリモデルは、一切由姫の方を向こうとしない。

 視線の先にあるのはただ一つ。起き上がった二色の怪人だけだ。

 

「久しぶりだな。ずっと会いたかったよ」

「あ?」

「まぁ、どうせ殺した奴の周りにいる人間のことなんていちいち覚えていないだろうけどさ」

 

 リモデルの言葉にドラゴンユーザーは何かを思い出したようで、小さく声を漏らしながら首を縦に数回振る。

 

「お前か。なんだ、ユーザーになったのかよ。何しに来たんだ?」

「決まっているだろ。お前を倒しに来たんだよ」

「ほぉ。ただ俺を今倒した所で、殺せないぞ」

「そんなことは百も承知だよ。ただ──」

 

 左足を前に出して少々腰を低くする。

 大きな複眼は標的をじっと睨んでいて常人であれば怯んでしまうのだろうが、ドラゴンユーザーは余裕綽々な様子で、寧ろ彼のことを嘲り笑っているようだ。

 

「一度お前を殴らなきゃ、俺の気が済まない……!」

 

 ドラゴンユーザーが鼻を鳴らした瞬間、リモデルの両足が浮かび上がり始めた。

 それは即ち、所々で炎が上がる駐車場が、本来の用途を逸脱した方法で使用されることを示していた。




【裏話・余談】
今か次回のタイミングで『NAMInoYUKUSAKI』の歌詞をご覧いただけると良いかもしれません。
颯太のキャラクターはそこから作っていったので。

歌詞(日本語訳)↓
https://note.com/aoikawa/n/nf0e7fbc763f6



【参考】
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬
(ISBN978-4-16-791582-7, 文藝春秋, 若林正恭 著, 2020年)
2026年(令和8年)カレンダー(祝日・六曜・月齢)|便利コム
https://www.benri.com/calendar/2026.html
フォレンジック調査|PCやスマホから不正・犯罪の痕跡をつかむデジタルデータフォレンジック(DDF)
https://digitaldata-forensics.com/embezzlement/?gclid=Cj0KCQjwxqayBhDFARIsAANWRnQJ6NFEaMa3Op4ORBmG6v7HxBea_vN8EkTUwzIcEx3KhVgP3SqRc1waAij6EALw_wcB
あきる野市 わが街いいトコ‼︎|東京都|地域情報サイト「CityDo!」
https://www.citydo.com/prf/tokyo/akiruno/
竜 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%ab%9c
ドラゴンオルフェノク 龍人態|仮面ライダー図鑑|東映
https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/550
竜王 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%ab%9c%e7%8e%8b
エリマキトカゲ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%82%a8%e3%83%aa%e3%83%9e%e3%82%ad%e3%83%88%e3%82%ab%e3%82%b2

颯太と由姫にはくっついて欲しいですか? それとも相棒のままが良いですか?

  • くっつけ! 抱け! 結婚して幸せになれ!
  • お前らは今の距離感が良いんだよっ!
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