シーズン2の終了まで今回を含めて残り8回となりました。早い……!
因みに今回の話は、以前執筆をしました『HEROEZ MISSION』(https://syosetu.org/novel/334569/)をお読みいただけると、より理解が深まるやもしれません。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージOP】
THE RiCECOOKERS - 波のゆくさき for SPEC【庚】
【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
少し前の話である。
あきる野市の奥にある山の近く、やや狭い市道に停まった黒いクーペの助手席に颯太はいた。
運転席にいる万太郎とは向かい合うこと無く、正面で生い茂る木々の群れに陽が差し込んで輝くを見ながら話していた。
「調べれば調べる程、良く出て来るものだな。奴にやられたと言う遺体は」
「だな。これだけやっている奴だ。この後もかなりの頻度で出るだろうな」
この時はまさかまた遺体が出るだなんて想像もしていなかっただろう。
けれども確信が二人の中にあったため、後に驚くようなことは無かった。
颯太は正面を向くのを止め、座席の中で小さく畳まれている脚に付いた両膝を見始める。
そこが微かに震えているような気がしたのだが、本人にそうか否かを判別することは出来なかった。
すると万太郎が彼の視界の中に何かを入れた。
目線が思わずともそこに集中をしてしまう。
それは2つ横並びに繋がって出来た銀色のガジェットだった。
左側の部分からは前脚と頭部が、右側の部分からは後ろ脚と尾が出ているため、左を向く大きな馬のように見える。
表面には縄文土器のような模様が描かれていて、中央には大きく『EX』『TROJAN HORSE』と黒く印字されている。
「何これ?」
「我々が新型ガジェットを基に作った物だ。これを使えば、復讐の一つや二つ出来るかもしれないな。ただ……」
少し言葉が詰まったような気がした。
「ただ?」
「使うには君の強い情動を読み取る必要がある。けれどもそれは今持っている憎しみではなくて──」
「じゃあいいや」
下を向いたまま、ガジェットを右手で万太郎に手渡す颯太。
表情は影によって見えないのだが、大体の想像は出来た。
「今の俺には使えないし、必要ないからさ」
「……無いと勝てないかもしれないぞ」
「そんなのやってみないと分からないでしょ」
いつも通りの明るい声だったのだが、まるで聞いていられない。
それを誰かが汲んでか、親子が被害に遭ったと万太郎に連絡があったのは、それからすぐのことだった。
「念の為持って行け。持っているに越したことは無い」
強引に颯太のズボンのポケットにガジェットを捩じ込んだ万太郎は、アクセルを踏んで狭い道を車に進ませた。
────────────
その後に起こっているのがこの戦いである。
少しばかり物理的に足を浮かせて移動をするリモデルは、ドラゴンユーザーに激しく拳を浴びせている。
軽い身体から出て来るパンチは対照的に重いのだが、一向に効いている様子は無い。
更に浮かんだ状態で右足で蹴りをお見舞いしてやろうと思ったのだが、左手で掴んで攻撃を中止させる。
そして宙ぶらりんになったリモデルの胸部を右の掌で押した。
結果としてリモデルは吹き飛ばされ、押したことや爪が少し刺さったことによるダメージによって、左手で胸を押さえながらしゃがみ込む形となってしまう。
これは不味いと思ったのか、由姫はテーザー銃を取り出す。
だが、
「手を出すなっ! アンタは関係無いっ!」
「でも──」
「五月蝿ぇ!」
目線が向いているのは標的の方だけだ。
聞いたことの無い声で圧倒されてしまった由姫は、思わずゆっくりと銃を下げてしまった。
「その女の手助け無しで私を倒せるのかぁ?」
「倒す……! 倒して、お前を見つけて……殺す!」
ニヤニヤと仮面の下で笑いながら問うドラゴンユーザーに対する殺意は、拍車がかかっていくばかりである。
怒りが頂点にすぐそばまで達したリモデルは起き上がり、全速力で宿敵へと向かって行った。
地面に足を着けること無く、浮かんだ状態で近付いて行く彼の姿は、狙っている標的と遜色無い邪悪な空気を帯びていた。
すると、ドラゴンユーザーは大きく溜息を吐いた。
「だったら、お前が私に勝てない理由を見せてやるよ」
そう言って誰かが残した買い物の入った大きなレジ袋の中から、1.5リットルのコーラのペットボトルを取り出し、キャップを開けて再び閉め、迫り来るリモデルに向かってそれを投げる。
リモデルに激突をする寸前で指を鳴らすと、ペットボトルは突如として破裂。いきなりのことに動きが鈍ってしまう。
「ッ⁉︎」
その隙にドラゴンユーザーは背中の管を全て外し、リモデルの方へと伸ばす。
全身に絡みついたそれは身体を強制的に宙空へと持っていき、そして急に離した。
下にはドラゴンユーザーが待ち構えていて、落下して来たリモデルに蹴りなりパンチなり鋭い爪なりを喰らわせ、浮かんだ状態を強制的に保たせる。
後に左足で蹴りを入れ、遠くに吹き飛ばす。
そして身体からライドボットを何処かに飛ばすと、右手を高く挙げて指を鳴らす。
次の瞬間、何とか立ち上がろうとするリモデルの周りにある車が爆発を起こし、彼は炎によって見えなくなってしまった。
更に爆風は凄まじく、由姫も少し遠くの方に飛ばされ、車のボンネットに激突して床に落とされる。
「グァァァッ!」
「壱宮君っ!」
それでも由姫は痛みに耐えながら身体を起こし、相棒の安否を確認する。
しかし炎は中々消えない。
不安が徐々に募っていく。
暫くして炎が止んだ。
殆ど原型を留めていない車に囲まれたリモデルは、右半身の殆どと左腕が焼けて消えてしまっていた。最早戦闘不能であることは、目に見えて判ることである。
「だから言っただろ? 私を倒すことは出来ないってな」
「ッ……!」
「じゃ、私は帰るから。また明日もこう言う風に出来たら良いな。じゃあ」
そう言い残し、ドラゴンユーザーは全身を黒い粒子に変えてその場から立ち去って行った。
「おい! 待てっ!」
リモデルの怒声には一切耳を貸さず、標的は消えてしまった。
本当であれば床の一つでも叩きたかったのだろうが、如何せん出来る部位が殆ど無い。
なので彼も同じように肉体をバラバラにし、撤退をした。
「壱宮君……」
残された由姫はゆっくりと立ち上がって辺りを見渡す。
駐車場の真ん中にある車は殆どが破損。爆炎が広がってそれ以外の車の表面や地面に書かれた標識までもが焦げている。
本来の使用用途に戻った矢先、まるで機能しないようになってしまった、哀れな駐車場だ。
何も考えられない。
頭を空っぽにさせられた状態を保ちながら、由姫はただその場から動くことは出来なかった。
────────────
消防隊によって火が沈静化をした所で、避難をしていた客達への事情聴取が始まった。
到着した浩介と洋平も応援に駆り出されたが、由姫は颯太の行方を追って欲しいと頼まれたために、立ち去ることが許された。
とは言われたものの、颯太は何処にもいない。
戦闘終了から10分近く経ったために近くから遠ざかっていることは想定内だった。
しかしそうではなく、突如として起こった爆発の現場を一目見に来た野次馬共を目の当たりにしたことでやる気が失せてしまったことが、捜索を止めてキジムナー号の運転席に戻った要因となった。
──一体何処に行ったんだろう……。
考えても考えても何も場所が思い付かない。
なのでシートベルトを巻いた彼女が出来ることは、基地へと帰るくらいしか無いのである。
無線機を使って今後の予定を伝達する。
「公安501、あきる野市の──」
その時、運転席側のドアが2回ノックをされた。
何事かと思いながら一旦通話を切って窓を開ける。
しかし、そこには誰もいない。辺りを見渡しても何処にも音を鳴らした者の姿は無い。野次馬や警察官は誰も遠くの方にいるがために、本当に誰なのか分からないのだ。
もしかしたら疲れている故の幻聴なのかもしれない、と自己完結をして窓を閉めるためにボタンに手を掛けた瞬間だった。
「あの、すみません」
今度は声が聞こえた。
再度外を見ると、黒いコートを着た長身の男がキジムナー号の側面を見ていた。
男はゆっくりと右手を伸ばし、描かれた物を人差し指で差す。
「この、『特製キジムナーコーヒー』を1つお願いします」
またか、と由姫は思った。
この車の見た目のために、ただの移動販売車と間違えられることはザラにある。
良い加減どうにか変えてもらえないか、と岩田に頼み込んではみたのだが、予算の都合と言う切り札を出されたがために無駄に終わった。
なので今も紛らわしい車に乗る羽目になっているのである。
いつも声を掛けてくる、SNSに所謂「
けれども投げかける常套句は一つと決まっている。
「すみません。これ、警察車両なんですよ」
「ああ。……まぁ、そうだろうね。だってユーザーと戦う仮面ライダー達が乗る車だからね」
「どうしてそれを……。っ⁉︎」
男が由姫の方を向いたために、顔が全て明らかとなった。
彼の顔を正面から見た由姫は目を見開いて驚愕した。
そして薄らと笑みを浮かべる男の本当の名前を呟いた──。
「野宮……祐……!」
「あれ? 僕の本名もう知っているんだ? 凄いね」
納谷──野宮祐は感嘆をするのだが、表情一つ変えないために本心なのかが判別出来ない。
「どうして、ここに……?」
「色々教えてあげようかと思って。あのユーザーのこと。と言っても、全部ラシャから聞いたことなんだけどね」
「それ、私達が信用しても良いやつなんですか?」
「さぁ? 僕はラシャ以外の人間と絶対に話さないからね。知ったこっちゃないよ」
信憑性の度合いは不明だが、リモデルが惨敗を期し事件の糸口を何も掴めていない現状では、納谷が提供してくれる情報に頼る他に道は無い。
その考えを汲み取ったのか、納谷は半ば勝手に話し始めた。
「いきなりだけどさ、気にならなかった? これまでの事件の殆どが、あきる野市から少ししか離れていない場所で起きていることに」
そう言われて由姫はPフォンを取り出し、過去の事件が一覧としてまとめられている表を見てみる。
最初と先程の事件はここ、あきる野市。次に立川市や青梅市。その他も殆ど全てがその周辺だ。確かに近いは近い。
しかしただ一件、上杉美琴が死亡をしたのは世田谷区。あきる野市からどれだけ早くても車では45分、車では2時間近くかかる。
何故彼女だけここまで離れているのか、良く考えてみれば不思議だ。
「あの、上杉美琴って言う被害者は、かなり離れた世田谷区で亡くなっていますけど……」
「そうだね。けどそれは当然だよね。
小首を傾げる由姫のために、納谷はその点について細かく解説を始める。
その姿は宛ら、壇上で台詞を発し視線の的となる役者である。
「そもそも初めは旧式のユーザーズドライバーに新型ガジェットの組み合わせでやろうとしたんだよ。ただ互換性が全然無かったみたいでさ、それで新しく改良したドライバーを作ったんだよ。
けどそれも、どうやら人間が使うにはかなり危険な代物らしくってさ、ドラゴンユーザーも家から殆ど出られないようになっちゃったんだよね。
試しに別世界にいた改造人間だっけ? が着けてみてようやくなんとかなったレベルだから」
由姫が知ったことではないのだが、嘗て優司が戦って敵に、納谷達がいる『ショッカー』と同じ名前の組織の残党がいた。
別世界からの使者であった彼等は、ユーザーズドライバーと新型のガジェットを駆使し、優司を追い詰めたのである。
「で、新しく新型のドライバーを作ってみたら案外上手く行ったから、君の相棒なんかが使っているわけだよ」
連続で話したためか、少しだけ大きく呼吸をする納谷。
閑話休題。
「話を戻すと、そんなわけで実に1年半振りに犯行が再開したってことだよ。現にかなりブランクがあるでしょ?」
再度表を見てみると、舞元りみが殺害されてから確かに1年以上の月日が経っている。
殺害方法や犯人に関することだけに焦点を当ててしまったため、まるで気が付かなかった。不覚である。
「後は犯行方法とか判ればきっと犯人炙り出せるでしょ?」
「え? そこまで教えてくれないんですか?」
「ここから先を調べるのが君達の仕事でしょう?」
何の反論も出来なかった。
なので去って行く納谷の背中を、謝辞も述べること無く見送ることだけした。
正面を向いてハンドルに手をかける。
しかしアクセルを踏むことを中々せず、頭を少しばかり下げた状態を保つ。
暫くその状態を続かせた由姫の中で、彼女しか知り得ない物が生まれたらしく、再度前を向いて一番右側のレバーを踏んだ。
────────────
由姫が公安第五課の基地にようやく戻って来られたのは陽が暮れてからだった。
浩介と洋平も含めた三人全員が疲労を隠せず、ソファなりテーブルなりに身体を預けて倒れる。そんな彼等を労う言葉をかけた後に訊く。
「壱宮君はどうした?」
「分かりません。僕らが着いた頃にはもういなくなってましたよ……」と浩介。
「防犯カメラにも何処にも映っていないですからねぇ……。お手上げです」洋平も呟く。
「そうか……」
行き先も分からない。電話にも出ない。そもそも電源を切るなりしているのか、位置情報を取得することも出来ない。
何処にいるのかまるで分からない彼のことを全員が心配していることは、目に見えて明らかであった。
「しかし、あのユーザーはどうやって犯行をしたんでしょう?」
「確かに、胃だけじゃなくて車も爆破するってねぇ」
「そもそもどうやって仕組んだ? 何も細工をせずに人体を破壊するなんて言うのは不可能だ」
ソファで身体を起こした浩介が訊いた。
カウンターテーブルにいた洋平と、モニター前に立っていた岩田がそれに乗っかる。
テーブルに突っ伏していた由姫も自分なりに頭を働かせていた。
納谷から貰ったヒントを頼りに推理すると、犯人は一人に絞られる。しかし動機も殺害方法も不明だ。一気に家宅捜索でもしてしまえばドライバーでも見つかるのだろうが、その手続きにもある程度の証拠が必要である。
事が上手く行きそうなのにも関わらず、後一歩の所で痞えている状況と言うのがあまりにも歯痒い。
なので上体を起こして背伸びをし、少しばかりの声と共に息を吐き出すと、鞄の隣に置いていたレジ袋に手を伸ばした。
「あれ? それどうしたんですか?」
同じように行き詰まっていたのだろう、話題を変えるために浩介が話しかける。
「今日のお昼です。聞き込みとかで食べる時間無くて……」
「舞元りみの実家の物か?」と岩田に訊かれて「はい」とだけ答え、包装のために使われているラップを外していく。
徐々に美味しそうな香りが漂い始め、全員がそれに釘付けとなった。
その際、由姫が何かを思い出したらしく、誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「そう言えば、さっき亡くなった親子もこのお店で食事をしていたんですよね……」
「確か、それと一緒に飴玉も食べていませんでしたっけ?」
「え?」
「遺体のポケットから包み紙が出て来たんですよ」
浩介と洋平の言葉で、由姫は暫く固まった。
そのまま動くこと無いまま数秒が経つ。彼女の様子に流石に不安になってきた。
そして何かの結論に辿り着いたようで、頭の中で起こった衝撃が顔に出てしまっている。
──やっぱり、犯人はあの人しか考えられない……!
ふと目の前に置かれたラーメンと飴玉を見る。
美味そうな香りも、可愛らしい包装も、全ては疲れた身体を癒すための物であったが、今となっては緊張で身体を強張らせるための装置に過ぎないような気がする。
ただずっと由姫が手前の物を眺めていた時、洋平が由姫に話しかけた。
「実は、こっちも判ったことがありまして──」
────────────
あきる野市の北西の方では、より自然が豊な物になっていく。
微かに昇る朝の太陽から光が放たれ、緑色の葉の中から日光が漏れる。黒い空の色がほんの少しだけ変わったような気がした。
人の手が加わっているのは小川の上に架けられた橋だけの筈だったが、橋から少し離れた場所に黒色のクーペが停まっている。
この様相には余りにも似つかわしい物だ。
それが何処かへと去って行ったことで、橋の欄干に身体を預けている颯太だけが残された。
せせらぎに耳を癒されながら軽く身を乗り出し、スマートフォンで電子書籍のアプリを開いている。
途中、眉間に皺を寄せた後に浅い溜息を吐いた。次に何処かに電話をかけようとでも思ったのだが、そもそもこんな時間に出るわけがないか、と諦めて暗い中の水の表面を見つめる。
やることはこれくらいしか無いのだ。
車の走行音が聞こえた。
この時間にしては珍しい物だと思ったが、自分には関係の無いことだと其方の方は向かない。
ドアが開き、中から人が出て来た。
そしてゆっくりと舗装も成っていない道を歩き、颯太の左隣で彼と同じ姿勢をとった。
それは、由姫だった。
「よくここが判ったよね」
「私の鞄に発信器付けたでしょ? そこから逆に場所を特定したから」
「流石だね」
互いに目を合わせようとはしない。
川の静かな流れだけが視界に入る。
「何処まで調べたの? 事件のこと」
「殆ど。それで全部分かった。何で中華が苦手なのかも、何で雨とかシャワーとかが嫌なのかも、何であんなにあのユーザーのことを憎んでいるのかも、全部」
颯太の顔から笑顔が消えた。
横顔も何も見ていないが、ある程度は一緒に住んでいる仲だ。彼から流れる空気と会話の間から大体は分かる。
「事件が起きた8月15日、季節外れの豪雨が起こってあきる野市は大変だったでしょ。そりゃあ覚えているよ」
「……ああ。そう。あの日は凄い雨だったよ。ただの晴れの日とかだったら良かったのに、滅茶苦茶記憶に残っちゃっている」
颯太の脳裏に灰色の曇天から雨が土砂降りになっている様が浮かび上がった。
あの日、悟空記の赤い壁を燦々としなかった雨は、店前でただ佇む颯太の傘に当たり、地面に落ちて溜まっていった。
雨に出来たことはそれだけ。颯太に出来たことは、何だっただろうか。
「それで、舞元さんに最後に会って何話したの?」
俯き始めた颯太から言葉は出なかった。
今は必死に言葉を搾り出しているのだろうと、気ままに川の流れでも眺めている。
口が、開いた。
「……俺は──」
「何も話さなかった」
思わず由姫は颯太の方を見てしまった。
まだあまり姿を見せてくれない太陽が申し訳ない程度に出す光が、彼の目から流れる一筋の流れに反射してキラキラとうざったらしく輝く。
「店の前には行った。……けど、入ろうとドアに手をかけた先が駄目だった。帰ろうとして家の前まで来た所でアイツが声をかけてきた。で、振り返ったらその瞬間に……」
また口が閉じられた。
少しして何とか顔を上げて前を向く。けれども目線の先には暗闇が広がるだけで何も見えない。
「未だに後悔しているよ。最後にりみに厳しい言葉だけかけてもう会えなくなった。責めるだけ責めて何のフォローもせずにそのまま死んだ。
……もしかしたら、たまたまタイミング良くユーザーが殺しただけで、そのままだったら自分で死んでいたかもしれない。
どっちにしろ、俺もアイツを殺した一人だよ」
今度は由姫が言葉に詰まってしまった。
颯太から顔を逸らしてようやく吐き出せた。
「……もし、もしさ。目の前にもう一度あのユーザーが現れたら、どうする?」
「……どうするんだろうね? 今話してみて思ったけど、もしかしたら俺の復讐はただの腹いせで意味無いのかもしれないし。けど殺したことに変わりは無くて許せないし。
……それはその時によるんじゃない?」
ようやく笑顔が戻ったが、強張っていてお世辞にも美しい物とは見えない。
まばらに出ている笑い声も雑音のようで聞くに堪えられない。
虚勢を張りながら前を向く颯太の左手は、右手と共に欄干に置かれている。
それに、由姫は自身の右手を重ねた。
急に変わった甲の温度に驚き、歪な笑顔を止めた。
「絶対に手は汚させないから。だって、貴方がいなくなったら困るし……」
「それは、俺が相棒だから?」
理由も無しに言葉が出て来なくなった。
はい、その通り、としか答えは無い筈なのに、別の思いが溢れている。
重ねた手と頬をほんの少し赤くしながら由姫は辿々しく答えた。
「……うん。それに、ウチでまともなご飯作れるの壱宮君くらいでしょ?」
「まぁ、そうだね」
互いに顔を見ることは無い。
けれども見る必要なんて無いのやもしれない。
ただ前だけを見てふと笑い合う。
それが二人の間だけに生まれる物の象徴だった。
「じゃあ、行こうか」
「ああ」
「けど絶対一線超えないでね」
「え? そうしないようにしてくれるんじゃないの?」
「言ったけど、もう大人なんだからそのくらい自分でどうにかしてよ」
その時、陽がようやく姿を見せて、眩い光が川を綺麗に光らせた。
【裏話・余談】
実は次回作の要素を纏めた物をX(旧Twitter)に投稿致しました。
執筆開始は受験がある関係上、来年度からとなりますので、気長にお待ちください。
https://x.com/KotoShimura06/status/1808493292843344350
【参考】
トロイアの木馬 - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%88%e3%83%ad%e3%82%a4%e3%82%a2%e3%81%ae%e6%9c%a8%e9%a6%ac)