仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第30話です。
いよいよ決着をつけます!
そしてシーズン2はラストに近付きます!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 感電

【イメージST】
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック


30 - 化けの皮の下(S)

 朝の静かな住宅街の中をキジムナー号が徐行する。

 新宿の方にいた頃は見た目やら何やらで何かと面倒ではあったのだが、それよりも人口が少ない閑静なこの町ではそう言うことは無い。

 まだ道に人がいる気配が無い今の時間であれば尚更だ。

 

 昨日と同じ駐車場に車を停めると、ドライバーを着けることを推奨された。

 念の為にとドライバーを装着し、助手席にある身体の目を閉じて、新しい身体を後部の方で作り出した。

 

 そして並んである場所へと足を運ぶ。

 一歩ずつ確実に進む彼等が辿り着いた先は、赤い屋根が目立つ古き良き風貌の店──悟空記だった。

 

「店主にはもう既に説明してありますので」と言って由姫が店のドアを開けて入る。

 仕込みを行っているであろうこの時間に行くことなど迷惑極まりない行為だと思ったのだが、扉に貼られた紙に『本日臨時休業です』と書かれているのを見て、大丈夫なのだろうと胸を撫で下ろした。

 

 3分強経った頃だろうか。

 引き戸がガラガラと引かれて由姫が誰かを連れて戻って来た。

 彼女の後ろに付いて来た者は連れられたことに戸惑い、そして外で立っていた颯太の姿を見て驚愕した。

 

「え? 何で……?」

「久しぶりですね。まさかこんな感じで会うとは思ってもいませんでしたよ」

「今日は、貴方にお話があって来ました──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小宮さん」

 

 やはり早朝の仕込みの最中だったのだろう。手には白い液体が大量に入った4リットルのペットボトルが握られている。

 怪訝な顔をしながら明里は由姫に訊いた。

 

「何ですか?」

 

 代わりに颯太が答えた。

 

「この2年間で起こった、腹部が破裂して人が亡くなっていく事件。あれを起こしたのはお前だよな?」

 

 彼の言葉に戸惑いを隠せない明里。

「な、何の話ですか⁉︎」と言う彼女に、由姫が颯太の隣に移動をして説明し始めた。

 

「貴方が休職をしていた期間は1年半。確か病気ですよね?」

「そう、ですけど……」

「それ嘘でしょう? 本当は舞元りみさんを殺害した後、ドライバーを使った副反応で動けなくなったんですよね?

 現に、貴方が休養していた時期と、犯行が起こらなかった期間が一致しているんですよ」

 

 そこに颯太が続く。

 じっと明里のことを睨んだままだ。

 

「それに、被害者は全員殺される数時間前に食事をしていた。その食事をした場所って言うのが、ここを含めたお前がバイトをしている所ばかりで、全員がお前が作った料理を食っているんだよ。

 確か、治療費を回収するために色んな店でバイトしているんだよな?」

 

 これは浩介と洋平からの情報だった。

 上杉美琴が死亡する前、最後に食事をしたファミレスで彼女に食事を提供したのは、そこでアルバイトとして働いている明里だった。

 試しに調べてみた所、他の被害者に食事を提供したのも明里だったのだった。

 更に言えば、昨日亡くなった親子が食事をしたのはこの悟空記である。店主の貴文も容疑者の一人ではあるのだが、以上の点を踏まえるとその可能性は無いに等しいだろう。

 

「言いがかりです! 第一、私がどうやってそんな芸当出来るんですか⁉︎」

「出来ますよ。()()()()()()()使()()()

 

 反論した明里は由姫の指摘によって突然押し黙ってしまう。

 チャンスのばかりに説明を続ける。

 

「調べてもらったら、この飴玉はライドボットを固めた物でした。

 貴方の能力は恐らく『ありとあらゆる液体を爆発させる能力』。飴玉を飲み込ませることで体内にライドボットを入れて、胃液を爆発させていたんですよね?」

 

 ドラゴン、と言うより龍はアジア圏で古来より、水を司る神様のような存在として認識されていた。

 特に日本ではそれが顕著に表れており、様々な伝説が残されている。

 

 話を戻すと、飴玉を念の為に調べてもらった結果、彼女の言った通りの結果が出て来たのだ。

 確かに悟空記に来た客全員に手渡しているし、上杉美琴もレジで受け取ったことが確認されている。

 

「……けど、だとしても! 全員が飴玉を食べるとは限らないじゃないですか!」

「ああ、そうだ。だからその油が必要だったんだよ」

 

 今度は颯太が続ける。

 

「佐藤さんが持って帰って来たラーメンにかけられたその油を調べてみたら、被害者の喉に付着していた強アルカリ性の液体と同じ物だった。

 もし強アルカリ性の液体が喉を(つた)っても痛みを感じないからすぐには気が付かない。けど確実に喉は爛れているから、ただ単に喉が乾いているだけだと錯覚してのど飴代わりに飴玉を飲み込む。

 おまけに、この液体を使えば爆発をより強大な物にすることが出来る。まさに一石二鳥ってわけだ」

 

 由姫が鑑定を依頼したのは飴玉だけではなかった。

 まさかと思い念の為調べてもらったのが功を奏した。

 

「他に何か、言いたいことはあるか?」

 

 これ以上言い逃れ出来るようなことは無いだろう。

 

「お前が殺したんだろ? 他の全員を……そしてりみを……!」

「……そうだと言ったらどうなるのよ?」

 

 先程までとは打って変わった様子である。

 その姿を、厨房に立っている大人しいいつもの姿と重ねることは出来ない。

 16人もの人間を殺害した、冷酷な殺人鬼に他ならなかった。

 

 ニッコリと笑いながら湯水のように言葉が流れて来る。

 

「しょうがないじゃない! 滅茶苦茶面白かったんだから!

 ロボットを固めて飲ませる。でもどうやって飲ませるかも考えなきゃいけない。その過程があまりにも楽しかった……っ!

 何度も()めようとしたわよ。けどどんな風に苦しんでいるのか、どんな風にして死んでいくのかを想像するだけで胸がときめいて、絶対に止められなかった……!」

 

 抜け出そうと思っても抜け出せない。

 それは颯太と同じようだが全くの別物である、と言うことくらい由姫は承知している。

 

 颯太の拳に力が入り、小さく丸まっていく。

 熱弁をしている明里はそんなことなど露知らず、酸素の欠けた肺に空気を多量に入れて、少し俯く。

 そんな彼女に由姫が声をかけた。

 

「貴方の悪事もここまでです。しっかりと罪を償ってもらいます」

 

 懐から手錠を出してゆっくりと近付く由姫。

 ところが、

 

「そう簡単に、終わらせてたまるかっ!」

 

 と、ペットボトルを地面に置いた明里は、猛スピードで店の扉を引いて中に入った。

 慌てて二人も追いかけるのだが、彼等が店に入るよりも先に外に設置されていたグリーンボックスが開き、ライドボットが飛び出す。

 振り向くとそこには別の身体に意識を移植した明里が、左手にペットボトルを持ち、ドライバーを着けた状態で立っていた。

 

「もうここまで来て止まれるわけがないの。だから、もっとやってやる……!」

 

 明里の意思に呼応したのか、龍の形状をしたガジェットが遠くの方から飛んで来た。

 茜色のそれには濃紺の鱗めいた模様が描かれていて『L10』『DRAGON』と印字されている。

 

 右手に持ったガジェットの頭部と尾を仕舞い、ドライバーのスロットに装填する。

 

『L: 10(ONE-ZERO)

 

 ほんの少し口角を上げて右手でドライバーを押し込む。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 白い割烹着を着た全身が黒く変色をし、ガジェットと同じ色をした怪人になる。

 

『DRAGON』

 

 ドラゴンユーザーが再び姿を見せた。

 

「行くよ……佐藤さん……!」

「うん……!」

 

 颯太もドライバーを出現させ、やって来たガジェットと付属してあるガジェットの両方を装填した。

 

『L: 03(ZERO-THREE)

『R: 01(ZERO-ONE)

 

 軽快な音楽が流れる中で、颯太は両腕を右にやって、ゆっくりと左に回す。

 そして逆の「L」の字を作り、両腕を前に伸ばしてドライバーを押し込んだ。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 颯太が瞬時に仮面ライダーリモデル キリンストレートフォームに変身を遂げると同時に、由姫も専用のテーザー銃を引き抜く。

 これで双方共に戦う準備は万端と言うわけだ。

 

 先手を打ったのはリモデルだった。

 身体を浮かび上がらせながら全速力で敵の方に駆け出す。

 

 右手でパンチを仕掛けるが軽々と避けられてしまう。

 逆にドラゴンユーザーも右足で回し蹴りを入れるのだが、左腕で防御される。

 その勢いでパンチをお見舞いすると、リモデルのキックと衝突をして、互いに後退る形となった。

 

 再度攻撃を仕掛けようとした時、ドラゴンユーザーの肩に痺れが走った。

 前を向くと、由姫が銃口を向けている。

 

 気にせず前に進もうとするのだが、彼女が次々と電流を放つために、徐々に上手く動けなくなってしまう。

 そこにリモデルがドラゴンユーザーの腹部に右の拳をぶつけたため、更なるダメージを負ってしまう。

 

「成程……。お前独りだと何も出来ないけど、二人だとどうにかなる、ってわけか」

「まぁ、そう言うこと」

「けど、これはどうかな?」

 

 するとドラゴンユーザーは右手に持っていたペットボトルの蓋を開ける。

 まさかと思い由姫が引き金を引こうとしたのと同時に、中身をほんの少しだけ前方に放った。

 

 次の瞬間、宙空で激しい爆発が発生をした。

 

「「うわぁっ⁉︎」」

 

 それに驚いたせいで銃の方向が定まらず、リモデルに誤射をしてしまう。

 

「おい! 何すんだよ!」

「ごめんわざとじゃない!」

 

 二人共何とか攻撃を仕掛けようとするのだが、連続して起こる爆発によって近付くことが出来ない。

 

 こう言う時にこそ役立つのが、由姫のテーザー銃である。

 炎はプラズマと言う特殊な状態になっていて、内部では電子が飛び交っている。そのため通電性を持っているので、一応の攻撃は可能だ。と言うより、これしか方法が無い。

 

 しかしこの状況では爆発に動揺して気を取られてしまう。

 由姫がどれだけ精神を統一したとしても、恐らく無謀だろう。

 

「この状態じゃぁ、流石に攻撃するのは無理でしょう?」

「ヤベェ……! 近付けねぇ……!」

「どうします? このままじゃ本当に不味いですよ」

 

 以降の攻撃は逆に危険だと一旦停止するリモデルと由姫。

 そんな二人を嘲笑うかのように、ドラゴンユーザーは爆発を起こしながら徐々に距離を詰めてくる。

 接近が慎重なのは恐らく、自分自身が巻き込まれないようにするためだろう。

 

 後退りながらリモデルは暫し考え、由姫に作戦を伝えた。

 

「……俺がアイツのボトルを奪う。そしたら動きを完全に封じてくれ」

「そんなこと行けるの……?」

「やるしかないだろ?」

「……そうだね」

 

 決意は固まった。

 そのためにリモデルはガジェットを全て取り出した所で、水面の波紋を模した水色の模様の上から『L05』『MERMAID』と印字された、マリンブルーのガジェットが現れた。

 それともう一つ、別の銀色のガジェットを挿れる。

 

『L: 05(ZERO-FIVE)

『R: 05(ZERO-FIVE)

 

 ドライバーを両手で押す。

 

『変身シークエンスを開始します』

 

 一瞬のうちに新たな姿へと変身を遂げた。

 漫画の吹き出しのようなパーツが付いた両腕両脚に両耳が目立つその胴体は、ガジェットと同じマリンブルーの色をしていて、波紋のような水色の模様が美しい。

 口元は水色のベールで包まれていて、頭部からは女性のロングヘアのようにマリンブルーの繊維が伸びている。

 

『MERMAID with ESPER』

 

 これが、マーメイドエスパーフォームである。

 

「姿が変わったからって、一体何になるって言うんだっ!」

 

 先よりも更に油の量を増やして爆発を起こすドラゴンユーザー。

 彼女の想像以上の威力だったためか、起こした当の本人ですらも驚いて一瞬目を瞑ってしまう。

 

 爆発が晴れた先の様子を見てみる。

 これではもう流石にくたばったかと思ったのだが、何故か前には由姫しかいない。

 

「⁉︎」

 

 もしや焼け溶けたのだろうか、と予想をしていたら、

 

「おい、ここだよ」

 

 突然足元から声がした。

 俯くとそこには、マリンブルーの色をした小さな塊があった。

 

 ──まさか……!

 

 塊から脚が生えてドライバーを蹴り飛ばされたことで、予想が的中したと判明した。

 

「グッ……!」

 

 倒れて転がったドラゴンユーザーを見て安心したのか、リモデルは元の姿に戻る。

 そして彼女が立ち上がるよりも先に、リモデルはドライバーを押し、宙空で再び塊になった。

 

『MERMAID × ESPER FINISH』

 

 すると突如として、離さず右手に持っていたペットボトルが急速に吸い寄せられ、塊の表面に引っ付いた。

 それだけではなくドラゴンユーザーも彼の方へと引き寄せられていく。本人が嫌がろうが関係無い。

 

 しかし引っ付こうとしたその時、突如としてリモデルから強烈な衝撃波のような物が出され、ドラゴンユーザーは吹き飛ばされてしまった。

 

「ガァァッ!」

「おっしゃー! 計算通り!」

 

 頭で思い浮かんだプランの通りに進んだため、リモデルは思わずガッツポーズをし、開けられていた蓋を閉めた。

 

 反撃をしようと動き始めたドラゴンユーザーに対し、今度は由姫が電流をお見舞いする。

 胸部や肩、下半身に攻撃をして一切の隙を与えず、後退しかさせない。

 

 キリの良い所で攻撃を止める。

 もう立ち上がるのもやっとの状態で、爆発を起こす気力なんてありもしなかった。

 

「これで決める……!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 リモデルはもう一度、キリンストレートフォームに変身すると、ドライバーを押し込んで身体を浮かせ、徐々に徐々にスピードを上げて敵へと迫って行く。

 標的は一切抵抗しようとしない。と言うより、抵抗する程の力が無い。

 

 そして身体を輝かせながら宙空を猛スピードで走り、直前で右足を前に出した状態で突進した。

 

『KIRIN × REMODEL FINISH』

「ライダーキック!」

 

 瞬く間にドラゴンユーザーの身体を貫き、少し離れた場所にゆっくりと優雅に着地をした。

 かなりの深手を負ったためか、暫く動けなかったのだが、徐々に二色の身体がボロボロと崩れ、そしていなくなった。

 

 その場に残されたのはリモデルと由姫だけになった。

 後は起こった爆発の跡が、地面や近隣の家の壁に焦げとなって現れているのみである。

 

 変身を解除した所で由姫が話しかけてきた。

 

「やったね、壱宮君」

 

 しかし颯太は何も答えない。

 振り向いて足を進め、そのまま悟空記の中に入った。

 

 薄く照明が点けられているだけの部屋で、明里が丁度目を覚ました所だった。

 倒れた際に机やら椅子やらにぶつかったのだろう。机の位置が少しずれ、椅子は倒れ、本人は脇腹や肘に感じる痛みに悶えている。

 

 その前に颯太は立った。

 影によって見下ろす颯太の顔は見えず、目の前の明里と、後ろ姿を見ている由姫は若干の恐怖を覚えた。

 

「何、する気……?」

「どうするの……? 私を殺すの?」

 

 問いかけには応じない。

 

「殺したいでしょ? 殺してみなよ! それで私が味わったのと同じ快感を味わうといいわよ! 殺したい人を殺せる味わいをっ!」

「……りみも、殺したい奴の一人だったのか?」

「そうよ……。ずっと施設で育った私にはね、あの子が幸せでいることが羨ましくて仕方が無かったの! どうしても不幸のどん底に落としてみたかった。それがたまたま実現した、それだけの話よ」

 

 拳に力が次々と入っていく。

 まさかと思い、由姫はいつでも止められるように待機する。

 

「さぁ! 私を殺して、貴方もスッキリしてみなさいよ!」

 

 これで颯太の怒りがピークに達したらしい。

 颯太の拳が思い切り振り上がる。

 

()めて壱宮君っ!」

 

 そして拳は身体ごと真っ逆さまに落ちて行き、鈍い音が店内に響き渡った──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし叩かれたのは明里ではなかった。

 代わりに彼女の横の床に大きな穴が開き、ヒビが全方向に渡っている。

 

 まさかのことに驚く明里に、颯太は彼女の耳元で囁いた。

 

「ふざけるなよ……。俺が、お前なんかと同じレベルに成り下がるわけねぇだろ」

 

 身体を上げ、再び彼女を見下ろす形になる。

 ギロリと睨みながら言葉を続けた。

 

「俺はお前を一回倒せただけで充分だ。ムカついたから痛みつけて殺して万歳なんて絶対しねぇってことが、今ようやく分かったよ。

 自分が陥ったループは自分で抜け出す。それが俺とお前の違いだ」

 

 由姫にはまるで、自分に言い聞かせているように聞こえた。

 これ以上進まないため。ループから抜け出せるようにするため。全てこれから成り下がらないための自己暗示に過ぎないと思えてしまう。

 

 颯太がその場からどき、明里に背を向けた状態で近くの椅子に座る。

 続いて由姫が颯太の元いた場所に来てしゃがみ、明里の憔悴した顔を見ながら手錠を取り出す。

 

「小宮明里さん。銃刀法違反の現行犯、及び殺人の容疑で逮捕します」

 

 明里の両手が前に持っていかれ、そこに手錠がかけられる。

 これで完全に彼女の負けが確定した。

 

 すると疲れ果てた彼女の顔に何故か笑顔が戻り、笑い声を出し始めた。

 この期に及んで何が面白いのか分からず困惑する二人。

 くるりと顔を横にして颯太の方を向き、彼の背中に語りかけた。

 

「まぁ、どうせ死刑になるには時間があるだろうから……。楽しみにしていますよ。新作の、『季節は沈黙する』ってやつでしたっけ?」

 

 その時、何故か颯太が振り返った。

 目を大きく見開き、困惑を大胆に顔に出している。

 

 一体どうしてそんな風に驚いているのだろう。

 新作の題名は今日発売の雑誌で取り上げられている筈だ。こんな顔をする意味なんて無い。

 

 驚愕する颯太。困惑する由姫。

 そんな二人のことを眺め、明里はまた口角を上げた。

 

 昇っていく太陽が光を出し、出来た影が全員を包んで彼等の周りを暗くした。

 

 

 

────────────

 

 

 

「はい。なので早急に修正をお願いします。じゃあ」

 

 もしかしたら今颯太が電話でしていた会話は、パトカーや近隣住民が作った喧騒によって殆どかき消されていたやもしれない。

 近所で人気の有名店から、厨房で働いているお姉さんが容疑者として連行されていく様は、野次馬達にとって格好の餌になるのだから仕方無いと割り切っているので、別に気にしてはいないのだが。

 

 一先ずの復讐は終わった。それも相手のレベルまで成り下がること無く、だ。

 けれど自分一人ではそうならなかった。今何処かに電話をしている相棒がいたからこその結果である。

 

 丁度電話が終わったらしいので、彼女に礼の一つでも言おうと近寄る。

 すると現場に来ていた浩介と洋平が話しかけてきた。

 

「ちょっと良いですか?」と浩介。

「何?」

「いや、実は……」

 

 洋平が颯太の前へと招いたのは、割烹着ではなく私服代わりのジャージに身を包んだ貴文だった。

 彼が颯太を襲撃して以来の再会であったために、颯太は何を話せば良いのか分からず戸惑ってしまう。

 

「えっと、あの……」

「壱宮君。私は今まで、君のことを娘を殺した残忍な人間だと思っていた。それで勝手に憎み、遂には酷いことをしてしまった。本当に、すまなかった」

 

 頭を下げる貴文。

 謝罪されるだなんて一切考えていなかったため「頭を上げてください」と言って、半ば強制的に顔を上げさせる。

 

「俺もりみさんに酷いことを言ってしまいました。下手すれば、小宮明里より先に死に追いやっていたかもしれない……。だから、今まで受けたことは、当然の報いです」

 

 それは本心からの言葉だった。

 彼女を追い詰めたのだから、犯人扱いをされようと、誰に何と言われようと当たり前だと思っていた。

 

 何とか笑顔を取り繕って、罪悪感を抱かせないように努める。

 それを感じ取ったのだろうか。貴文が颯太に優しく言葉をかける。

 

「……もし、もしそうだったとしても、貴方が罪の意識を背負うつもりは無いんですよ」

「ですが……」

「それに、りみはそう思っていないかもしれませんよ」

「……え?」

 

 貴文が続ける。

 

「亡くなる前日、たまたまこんな質問をしたんですよ。『壱宮君のことどう思っているんだ』って。そしたらあの子、なんて答えたと思います?」

 

 全く予想がつかず黙ってしまう。

 

「『本当は大好きだけど、もし私のことを忘れて幸せになれるなら、絶対にそうした方が良い』、と言っていました」

 

 あまりにも想定外の答えで、颯太は頭の中が真っ白になった。

 ずっと彼女のことばかり考えた2年間だった。彼女のために動いてきたのだ。もしそうしなければ、きっと草葉の陰で自分のことを恨むのだろうから。

 けれどもどうやらそれは杞憂なのかもしれない。そう分かって肩から力が徐々に抜けていくように感じた。

 

「復讐はきっと終わったでしょう。どうか、娘のことは忘れて、幸せになってください」

 

 その時、颯太の両目からいくつもの雫が溢れ始めた。

 身体から抜けていく力と共に流れ初め、膝から崩れ落ちる。長い期間に溜まっていた物が全て嗚咽として排出されていくのだ。

 

 その様子を遠くで見ていた由姫がそっと彼に駆け寄り、しゃがんで颯太を後ろから優しく抱きしめる。

 背中を優しく叩きながら、ただ今の幸せを味わい尽くした。

 けど颯太は、それを幸せだと思いたくなかった。

 

 

 

 

 

 暫く経った、帰り際のことである。

 貴文がキジムナー号の所まで颯太と由姫を見送りに来てくれた。娘の事件を解決してくれた、せめてものお礼だと言う。

 

 すると乗り込む前、颯太が話しかけた。

 

「ところで、最近城島のやつが来てませんでした?」

「城島君? いや、大学入ってからこっちに来てはいないですけど」

「そうですか……。有り難うございました。また来ます」

 

 深々と一礼をした颯太が助手席に乗り込んだので、由姫は発車をする。

 同じく頭を下げる貴文に見送られながら、車は住宅街を走って行く。

 

 道中に会話をすることは殆ど無かったが、高速道路に乗ったタイミングで由姫が口火を切った。

 

「中華は克服出来そう?」

「何とか」

「シャワーは?」

 

 返事が無い。

 窓の外から景色を眺める彼の姿は、ただの(しかばね)にも見える。

 

 そんな彼の様子を見てか、由姫は表情一つ変えずに提案をしてきた。

 

「じゃあ壱宮君。一緒にシャワー浴びる?」

「うん。……は?」

 

 

 

────────────

 

 

 

 正直な話、ただの軽い冗談だと思っていた。

 因縁がようやく晴れた所に不謹慎だと思ったのだが、どうやらそうではなかった。

 

 今、壱宮は腰にバスタオルを巻いた状態でバスチェアに座っている。

 前には筋トレの時に着る黒いショートパンツと、白いTシャツに身を包んだ由姫がいて、シャンプーを付けた手で颯太の頭をゴシゴシ洗っている。

 

 シャワーはまだ怖いし、況してや女性と一緒に浴びるだなんて冗談じゃない。

 けれども何故か由姫と一緒だったら何とか大丈夫な気がした。

 それは決して性的な感情ではなく、純粋な信頼に似ているようだ。

 

「痒い所とか無い?」

「無い。……て言うかさ、佐藤さん的にはオッケーなの? 男と一緒にシャワー入るの」

「……大丈夫」

「何で間が生まれるんだよ」

 

 問答を遮るかのように頭に小さな滝が浴びせられた。

 また発狂でもしてしまうのではないかと心配したのだが、自分の手を由姫が握ってくれていることに気が付いてホッとした。

 

 1分程経って泡が全て流された。

 約2年振りのシャワーは、割とあっさりと終わった。

 

 ここで会話が詰まってしまった。

 別に特段話すようなことも無いのだが、それでも少し戸惑ってしまう。

 なので今度は颯太から話しかけた。

 

「さっきの電話、誰から?」

 

 言葉を詰まらせた。

 何故だろうと疑問を抱いていると、ゆっくりと話してくれた。

 

「実は昨日、納谷、つまり野宮祐が接触して来たの」

「⁉︎ それで?」

「その時は何も無かったんですが、さっき何故か電話がかかってきて……」

「内容は?」

「壱宮君の新作の、『季節は沈黙する』だっけ? あれを楽しみにしているって言っていた」

 

 そんな、まさか……。

 颯太は聞こえない程度の声で呟いた。

 しかし変わった様子に気が付いたようで、由姫が「どうしたの?」と訊くと「何でもない」と返す。

 

「まぁ、とりあえずこの後はゆっくり湯船に浸かっといて」

「有り難う」

 

 そう言って由姫が風呂場の扉を開けて外に出る。

 

「……?」

 

 その際、颯太は由姫の背中をたまたま見てしまった。

 大きな胸よりも、大事な部分よりも見られるのを嫌がる場所である背中だ。

 

 シャワーに当たっていたためか、白いTシャツは透けてしまい、中に着ていた黒いビキニが見えた。曰く、高校生の頃に買った代物らしい。

 

 しかしビキニの紐とは別に、背中に黒い何かがあるのを、颯太は決して見逃さなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 同時刻。

 ラシャと納谷はいつもの部屋にいて、テーブルを挟んで向かい合うように座っていた。

 

「あの仮面ライダーの仲間の女の子。割と良い人だったね。敵の僕にも礼儀正しかったし」

「会ったのか」

「うん。だって流石にずっとこの部屋の中にいるのも窮屈だし、もうドラゴンが倒されたんだからガジェットの回収も行わないとだから」

 

 俯きながら納谷の話を聞くラシャ。

 同年代の人間にも関わらず、まるで親子のようだ。

 

 すると、

 

「失礼します!」

 

 突然スーツを着た中年の男性が入って来た。

 いつも会議に出ている幹部の男であるため、人付き合いが殆ど無い納谷でも誰だか判る。

 

 男が耳元で何かを囁くと、ラシャは男の顔をまじまじと仮面越しに見た。

 何かに驚愕しているのがまじまじと伝わってくる。

 

「どうしたの?」

 

 何とか興奮を覚まして、ラシャがゆっくりと説明を始めた。

 

「実は、私の娘、つまり、()()()()()()()()()()()使()を探していた男が、遂に見つけたらしい。その男が採取した、疑わしい人物の髪の毛が、私のDNAと一致した」

 

 納谷は驚きと言うよりも、喜びの方を顔に表していた。

 嫌な笑顔が隠せない状態で訊く。

 

「それで、誰だったの?」

「……お前が昨日会った──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「警視庁公安部公安第五課、指定特殊犯罪対策特務室の、佐藤由姫巡査だ」




【参考】
竜 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%e7%ab%9c
【プラズマ】炎の中を電気が通る | 自由研究におすすめ!家庭でできる科学実験シリーズ「試してフシギ」|NGKサイエンスサイト | 日本ガイシ株式会社
https://site.ngk.co.jp/lab/no262/

『派』の章に優司を登場させても良いですか?

  • 是非ともやってくれ!
  • 序破急の「急」の所でやれ!
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