今回から夢野飛羽真様の『仮面ライダーディクリード』(https://syosetu.org/novel/332283/)とのコラボ回を、2回に渡って配信します。
因みにタイトルは、ボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』から取りました。凄く良い作品なので、是非お読みください。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
過去1のレベルで参考文献を使ったので、本当に、マジで!
【イメージOP】
THE RiCECOOKERS - 波のゆくさき for SPEC【癸】
【イメージST】
牛尾憲輔 - Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition - chainsaw edge fragments -
得田真裕 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
梶本優司が壱宮颯太の存在を知ったのは、中学生の頃である。
ずっと病に伏していた彼にとっての暇つぶしは、面会の際に両親が時折持ってきてくれる本と文芸誌のみだった。
本は良い。病室や、出られても病院の敷地内か自宅にしかいられない自分を、何処へでも連れて行ってくれる。唯一にして、至高の娯楽だった。
ある時、何気無く文芸誌を眺めている時のこと。
読了が近くなったところに、見開きの特集が掲載されていた。
『第11回 日本SFノベル大賞 結果発表』
そういえば、もうそんな時期か。
さしてSFへの造詣は深くなかったが、何となく賞のことは知っていた。
一体どんな作品が受賞しているのか、目線を流してみる。
『大賞 「アーティフィシャル・ユートピア」 壱宮颯太(東京都・13歳)』
自分の目の疑い、再度確認する。
確かに『13歳』と書かれている。
──僕と同い年の人が、大賞を受賞した……⁉︎
「青天の霹靂」という言葉の意味を、齢13にして初めて実感したのだった。
中学生が文学賞を受賞した。それだけでもセンセーショナルな出来事なのだが、文学に造詣が深い人間を唸らせたのは、彼がSF小説で受賞したことだった。
SF小説でデビューをする。そのことについて思い出すのは、数年後に小説家の小川哲がとあるテレビ番組で語った自身の経験である。
小川は東京大学大学院在学中、進路を考えた際に消去法で小説家を目指すこととした。一般企業に勤めることが嫌で大学教授か小説家で悩んだ末に、ほぼサラリーマンのような仕事しかしていない現在の大学教授の業務内容を踏まえての結論だった。
その際、どのようにすれば最短でデビュー出来るのかを考えた際に辿り着いたのは、早川書房が主催していた『ハヤカワSFコンテスト』だった。
ハヤカワSFコンテストは20年近く開催されておらず、その間に育った新人のSF作家は片手で数える程しかいない。小川にとっては、新人が参入しやすいブルー・オーシャンだったのだ。
事実、当時の応募総数は約400作。最終選考に残るのは5作なので、残る確率は実に80分の1。他の文学賞よりも確実に取りやすかった。
新しい遊泳客が殆どいない海の中に、一人誰かが飛び込んで来た。
しかもそれは、まだ中学生である。
綿矢りさと金原ひとみが最年少で芥川賞を受賞した時のような衝撃が、優司を初めとする本の虫を湧かせた。
すぐに両親に頼み、彼の作品が掲載されている文芸誌を取り寄せた。
入賞した4作品だけで構成されている特別号なのだが、SFともなると長編が多くなるため、通常のものと違わない暑さをしている。
大賞に輝いた『アーティフィシャル・ユートピア』は、最初に掲載されていた、20000文字とどの作品よりも短いものだ。
しかし、長さに反比例するかのように、完成度は他を圧倒する程の素晴らしいものだった。
自分と同じ年齢、同じ都道府県に住む人間が書いているものとは、到底信じられなかったし、信じたくもなかった。
あまりにも素晴らしい文学というのは、何かの再来を匂わせる気がしている。
例えば、平野啓一郎が『日蝕』で芥川賞を受賞した際、その凄まじく美しい文章と、彼が京都大学法学部在学中であったことからも「三島由紀夫の再来」と評された。(平野は京都大学法学部出身だが、三島は東京大学法学部出身である。)
事実、平野は学生時代、三島文学に傾倒していたため、この評価はある程度正しいものと言える。
だがその一例とは、全く違うもののように感じた。
颯太の文体は、どの作家の系譜も継いでいないように思えたのだ。
『UNIVERSE25』と呼ばれる、ジョン・B・カルフーンが行った動物実験に似たものを、ネズミではなくAIにするという斬新な設定。
その中で繰り広げられるAIや人間の心情を淡々と描く姿勢は、詠坂雄二や円城塔に通ずる。
しかし、ただ無機質なわけではない。文月悠光の詩や最果タヒの小説に共通する、10代故の脆さが邪魔をしない程度にそこにはあり、独特の味を漂わせていた。
読了後、居ても立ってもいられなくなった。
短くも濃密な作品から与えられた感動の恩を、何処かで返さなければならないと思った。
すぐに便箋を用意し、長いファンレターを書いて文芸誌の編集部に送った。
すると予想だにしていなかったことだが、颯太本人から返事が届いた。同い年の人からこのように反響があるのは嬉しい、と感謝の言葉が述べられていた。
これをきっかけに、二人の文通が始まった。
颯太が作品を発表すると、優司が感想を送る、奇妙な関係が始まったのだ。
当時は颯太の写真が公開されていなかったため、優司は彼の姿を想像するしかなく、また颯太も一読者の優司がどのような人間であるのか考えを巡らせていた。
何処かで出会えれば良い。
その機会は、5年後に訪れた。
大学の入学式。何百人の生徒と共に日本武道館に集められた優司は、パイプ椅子に座って固まっていた。
最近になって他人に慣れてきたものの、これだけの人数に囲まれる経験は皆無である。
多種多様な人間がこれだけいるのかと、大きな玉ねぎの下で世界の大きさを知った。
そのこともあってか、入り口の『東京大学 入学式』と書かれた看板の前で写真を撮った際、両親は笑みを浮かべていたが、優司だけは強張った表情でいて、見返した際に若干の後悔を覚えたが、全ては後の祭りである。
試しに辺りを見渡してみる。
ふと人の隙間から僅かに見える男が目に入った。
ほぼ全員が黒髪の中、恐らく少し前に染めたであろう金色の髪が艶を帯びていて、耳元のピアスが眩しい。
一切の明確な根拠は無い。
しかし彼が自分にとって不可欠な人間であるような気がしてならなかった。
式後は自由解散のため、思い切って話しかけた。
その男が自身に衝撃を与えた人間であり、また相手からしてみても良き文通相手の正体であることは、話をしてすぐに分かった。
これが、 二人の出会いだった。
────────────
「有り難うな。今日来てくれて」
「どうせ暇だったからね。バイトも授業も無いし」
サイン会が終わって、二人は近くの蕎麦屋で遅い昼食を摂っていた。
灰色の蕎麦は四角い器の中で低い塔を聳え立たせ、隣では懐紙の上で天ぷらの盛り合わせが淡く黄色く輝いている。
和の風情を盆に乗ったものだけで存分に堪能出来るのだが、若い二人はそれに気を取られること無く食べ進め、店員が余った汁に蕎麦湯を入れたものを飲んで、早く〆に取り掛かっていた。
「僕はバイトと勉強だけしていれば良いけどさ、君は違うじゃん。研究とかあるだろうし。いつ執筆しているの?」
「いつって、寝る前ちょっとやるだけだけど。後は授業の合間とか」
「よく書けるよね……」
「今同居人がいたり色々あって大変だけど、何とかなっているわ」
話を聞きながら蕎麦湯を飲んでいた優司は「凄いな……」と感嘆して、先程サインしてもらった本に目をさっと通す。
「けど、今回は正直、驚いたというか」
「何が?」
猫舌の颯太はまだ熱い蕎麦湯をゆっくり飲むことに集中しながら、優司と会話する。
「今回の文章、今までと違う感じがしたから、どうしたのかな、って……」
「そうか? 別に変えてはないけど」
「じゃあ、気のせいか……」
「多分そうだろ」
そう言う颯太の手は止まっている。
静かに器を机上に置くと、視線がやや下に向かう。
その間、口角は上がったままだが、笑顔にしてはあまりにも歪なものに感じた。
「例えば分からないけど、色恋沙汰とか……」
「ないない。俺彼女いるんだからさ」
「だよね……」
「彼女といえばさ」
半ば強引に話題を変える。
「お前、どっかの大企業のご令嬢からめっちゃアプローチされているんだろ?」
宙空を見て考えている。
誰のことなのかと頭を巡らせ、何とか答えに辿り着いたらしい。
「……あぁ、お父さんがHINOSHITAの社長か何かだっけ?」
「それだよそれ。お前さぁ、何でそんなモテんの?」
「モテるって……。別にモテてないでしょ、こんな陰キャ。逆に陽キャみたいな君の方がモテるでしょ」
「いやいやいやいや! ふざけんなよ! 俺なんて金髪にしてピアスしてもモテねぇよ!」
「知らないよ。多分だけど、その服装だから怖がられるんじゃない?」
「あ、そうか……。何か良いよなぁ。だって文学部、ファッション学の授業とかあるんだろ? 受講して俺に教えてくれよ」
「
二人が他愛も無い会話を繰り広げている瞬間だった。
颯太が店外に微かにオレンジ色を見た次に、何かが大きく破裂するような鋭く大きな音が、二人の鼓膜を激しく打ちつけた。
日常が一時休止する前触れだった。
一目散に店を飛び出したのは優司だった。
颯太も続くが、念のためにと、戸惑う店主に対して1万円札をレジカウンターに置いてからついて行く。
並ぶ二人の横を、悲鳴をあげながら人々が通り過ぎていく。
先に見ていたものとは全く異なっている景色が広がっている。
並び立つ住宅はそのままに、車2台分弱の幅の道路の端に生える雑草には仄かに火がついている。
金属片が彼方此方に散乱している。ノズルと思われる部品や、灰色の表面に書かれた『火』『禁』の赤い文字から、恐らくはガスを入れていた大きな缶が爆発を起こしたことによる音で、オレンジ色はその際の炎だったのだろうと推測出来た。
そして何よりも気になるのは、目の前の集団だ。
緑色の体色に、同じ色の左手の大きな鋏と黒いマントが目立つ、睨みを効かした歪な顔の者。
豹のような柄の体に、口元から赤色の触手を長く垂らしている、人間のようにはまるで見えない者。
その後ろでは、骨を模したと思われる白い模様が入った黒い衣装に身を包んだ人々が、大きな刃物を持って早くも臨戦態勢に入っている。
「何だ、あれ……」
颯太が思わず呟く。
すると優司の口から言葉が漏れた。
「ショッカー……」
「……お前、何でその名前を──」
「何? 貴様ら、俺達のことを知っているのか。ならば話は早い」
颯太が優司の発言を追求しようとするが、緑色の怪人──ガニコウモルの言葉に遮られてしまう。
続くのは、触手を持つ怪人──イソギンジャガーだ。
「我々ショッカーはある世界を10年に渡って支配していた。だが、その野望はディクリードによって阻止され、別の世界に逃げることを禁じ得なかった……! 屈辱的な出来事だっ!」
──
──コイツら、何言ってんだ?
二人の反応はまるで対照的だった。
多少の関わり合いを持っている優司。話の一切についていけない颯太。
この違いを怪人達は無視し、演説めいた発言を続ける。
「……だから、手始めにこの世界を制圧し、偉大なるショッカー再生の、第一歩とするのだぁっ!」
ガニコウモルの宣言に、戦闘員と称される後ろの集団が、右腕を斜め上に真っ直ぐと挙げて、叫び声を響かせながら呼応する。
その構図が、歴史総合の授業で一度だけ見た、とある国のプロパガンダ映像と重なって、歴史を知る者だけの特権とも言える嫌悪感を覚える。
一刻も対処しなければならないことだけは、二人が共通して持っていた考えだった。
しかし、きっかけが無かった。
得体の知れない集団に恐怖を感じ、この場から逃げ去った。ここを後にする理由としてはそれで充分なのだが、如何せん絶好の機会に恵まれない。
知人が隣にいるという歯痒さを感じるという、そう多くない体験が何故か今やって来たのだ。
最初に動き出したのは優司だった。
考えを巡らせていた颯太がふと隣を見ると、姿が消えていた。視線を横から後ろに移動させると、「速い」「遅い」のどちらも似合わない速度で走っている。
彼の真の目的を知らない颯太は、優司がただ化け物に対する恐怖で逃げ出したのだと解釈し、回ってきたチャンスを無駄にしないよう、すぐさま先の蕎麦屋に駆け込んだ。
席に置いていたリュックサックを開け、書類やパソコンの入っている中から一際異質な金属製の物質を取り出す。
見慣れたそれを持って店の奥に向かうと、人ひとり入るのが精一杯の狭さであるトイレに入ってすぐにドアを閉め、便座に座って腹部に手の中のものを押し付けた。
一方の優司は道をいくつか曲がり、ビルとビルに挟まれた駐車場に到着した。
テニスコート2面分の中に、数台の車とバイクが染料で描かれた枠に収まっている。
壁際に設置されたバイクスペースの一番奥に、自身のバイクを停めていたのが幸いだった。
おまけに元々の人通りは少なく、あったとしてもそもそも、コインパーキングの中に一々眼をむける人はそういない。
これなら存分に倒れることが出来る。
急いでシートバッグを開けると、中に寂しく放置されていたものを取り出して、腹部に巻き付ける。
ピッタリと腹に合ったそれに付いたレバーを左手で押し込むと、優司は静かに目を閉じて、バイクのシートに身を預ける。
バイクに体を預けている様子は、側から見れば滑稽で複雑怪奇だ。しかしそもそも気付く人の数が不足しているこの場において、彼はただの風景と化した。
『『只今より、意識を転送します』』
────────────
亡国(そもそも自らの国であったのは10年程ではあるが)の自分達を知っている二人が突然去ったことに対し、ショッカーの面々は最初こそ驚いた。
未見の様相をした生物を見たことへの純粋な恐怖か。しかし、嘗て支配していた国の中で、自分達の姿を見た者はあのような目をしていなかった。
死や生き地獄を想像して目の奥から黒さが抜け、本能のままに一目散に逃げて行く。これがある種の常套だった。
だが今の二人の逃走というのは、決して恐怖が急かした故の結果ではないように思える。まるで弱小ながらも抵抗を見せた嘗てのレジスタンスに似ていた。
とはいえ、邪魔者がいなくなったことだけは確かだ。
侵攻に支障をきたす因子は消えて損は無い。
再び足を進めようと、まずはガニコウモルとイソギンジャガーが先陣を切った。
すると同時に、道の奥から黒いもやのようなものが見えた。
初めはただの見間違いかと思った。だが徐々に迫って行き、眼前で人の形を成していく光景で現実であることを認識した。
等身大のそれに色が付けられると、その姿は先の青年──颯太と瓜二つとなった。
「な、何だ⁉︎」
「一体何をした⁉︎」
二人が突然のことに驚愕する。
「そんなことはどうだって良いだろ。ただ、お前らが知らなきゃならないのは、俺がお前らの敵だってことだけだ!」
腹部を変形させてドライバーを出現させた瞬間、後ろからガジェットが走って来て、颯太の右手の中に収まる。
今手元にあるガジェットは2つだけ。相手の戦力が未知数なので油断は出来ないが、左手に持ったもう一つのガジェットである程度の汎用性は保てる。
2つのガジェットをドライバーに装填する。
『L:
『R:
音楽が流れる中、両腕を左へ伸ばし、ゆっくりと挙げて半周させると、右側で交差させる。
ポーズを決めて叫び、両腕を次は前に伸ばした後、ドライバーの表面を押し込んだ。
「変身!」
『変身シークエンスを開始します』
体が黒くなり、形状も先のものとは全く異なるものへと変貌を遂げる。
整ったところで彩られ、完成を迎えようとしていた。
『KIRIN with REMODEL』
だが姿のお披露目は、
突然のことにショッカー側も当然驚愕したのだが、真横にいるリモデルは「うぁっ⁉︎」と声を上げながらよろけ、それまでの過程全てを台無しにする程にキマっていない。
瞬時に立ち上がると、纏っている錆色の鎧や浅葱色のドライバーが
今のリモデルに面影を感じる姿だが、旧世代の遺産、という印象を否が応でも持ってしまう。
『HOPPER』
「何⁉︎ 仮面ライダー⁉︎」
「しかも2人だと⁉︎」
ガニコウモルとイソギンジャガーが言葉を発して驚き、戦闘員達も武器を強く握る。
憎き仮面ライダー。支配していた世界から追いやった、耳にするだけで悪寒が走る称号。
別の世界にも存在すると噂では聞いていたが、まさかこの世界がまさにそうだったという事実は、彼等の体液の温度を上げ、全身を怒りと憎しみを主要とする発電機に変える。
しかし悲しいかな、二人はそんなことなど知らなければ、恐らくそもそもの興味も持たないだろう。
当惑するリモデルと、前時代の戦士──ブートレグが互いに顔を合わせる。
どうやらブートレグ自身、隣にいる色とりどりの者が気になって仕方が無いようで、恐る恐る訊いてしまう。
「……あの、どちら様ですか……?」
「……いや、それはこっちの台詞だよ。誰だよお前」
「えぇっと、その……」
辿々しいやり取りをする二人。
場を動かしたのは、ガニコウモルとイソギンジャガー。ショッカー側だった。
自分達の計画を邪魔され、憎き仮面ライダーが現れたことに、憤りを顕にしていた。
「ええいやかましい! 二人共ここで始末してくれる!」
「行けぇっ!」
戦闘員達が独特の敬礼をすると、一目散に二人の戦士へと走って来た。
気が付いた二人は彼等の様子を見るが、統率は取れているものの、崩れた走り方や武器の持ち方から軟弱さが剥き出しになっており、若干の安心を覚えた。
最初に動いたのはブートレグだった。
正面を向くと両足で地面を思い切り蹴り、瞬く間に戦闘員達の眼前に迫る。
拳を使ってまずは一人、顔面に強烈な一撃をお見舞いすると、横からナイフを持って来た者に右足で蹴りを喰らわせる。
その際、背を向けたところに襲撃を試みる個体がいた。しかし気配を感じたブートレグは、もう一度跳び上がるとその個体の後ろへと着地。振り向いた瞬間に胸部にパンチをした。
相手に当たって前に出た状態の腕を戻そうとした際、刹那、固まったような感覚を覚えた。
よく気怠いことや動作が遅いことを「鉛のよう」と表現するが、その鉛はもしかしたら固まっていない液状なのかもしれないと考える程であった。
しかしすぐに「引っ込め」と無意識に脳が念じれば、腕は命令に忠実となった。
今の感覚は何だったのだろうか。
考察の余地は、次々と襲い掛かる戦闘員達によって失われた。
「何が何なんだよ……」
頭を掻いて未だに惑いを見せるリモデル。
「まぁ、でもやるか」
突っ立っているわけにもいかないと、体を僅かに浮かして宙空を歩き始める。
戦闘員が数人向かって来て、手の中のナイフを振るう。
地面に足がついている時とは違い、自由で滑らかな移動が可能となっている。そのため、攻撃を瞬時に避けることが出来、宙に浮かんでいる敵に動揺する相手共の体に拳や蹴りを素早く入れた。
その時、妙な感覚を覚えた。
今まで戦ってきたユーザーに攻撃を喰らわせた際に生まれるものとは違う、手にへばりつくような嫌なもの。
機械で出来た体と戦う時には一切味わえない、生者を傷付ける際の感触に、リモデルは若干の動揺を覚えた。
戦闘員達が想定していた通り、ある程度軟弱だったこともあって、二人は早く蹴散らすことが出来た。
意識を失ったのか、既に息絶えているのか区別出来ない状態で戦闘員が辺りに転がっている。
経験則から言えばこの後彼等は、自分達が場を離れる時と同じように、黒い粒子の大軍となって消えていく筈であって、少なくともリモデルはそれを待っていた。
だが彼の予想は、小さく爆発を起こして体が消滅するという答えによって、見事に裏切られた。
ブートレグは経験があるとはいえ、それは1度だけであり間隔も開いているため、音が出て風が吹いた瞬間に体を少しだけ震わせる。
リモデルにとって、倒された敵が爆発したのは初めての経験だった。声を出して仰け反ってしまい、暫くその体勢を保ってからゆっくりと姿勢を正す。
何はともあれ、重要なのは敵が残り2人になったことだ。
敵に視線を向けた瞬間、ガニコウモルとイソギンジャガーが、気合を入れるために雄叫びを上げた後、迫って来た。
状況が上手く飲み込めないリモデルの方に来たのは、ガニコウモルだ。
両腕に付いたマントに似た部位を広げて低空飛行し、左手の鋏を首に当てようと試みている。
右に避け流して、向かって来る敵の腹に右の拳を入れたリモデル。
だが緑色の腹は甲冑の類を思わせる硬さを誇っており、辛うじて飛行を止めさせ着陸させることに成功こそしたが、開いた右手の甲から使い物にならなくなったライドボットが砂のように落ちていく。
着地し振り向いたガニコウモルは、リモデルに向けて左腕を振るう。
先端に付いた鋏が体に触れる度、徐々に徐々に削り取られては、黒い粒が床に落ちていく。
後退することで何とか被害を最小限に抑えているが、相手の怒涛の攻撃に反撃する隙すら与えられない。もし無闇に手足を出せば、鋏で切られる可能性があり、運良く躱せても硬い体には一切のダメージが与えられない。
更にガニコウモルは牙の生えた歪な口を開けると、そこから白い粉を噴射した。
すぐに体を浮かしたことで体にかかった量は抑えられた。
だが問題はかかった後だった。
爆発が起こったのだ。胸や両肩の辺りから小さく醜い花火が上がり、下降して消えていく。
ダメージが一気に蓄積したためか、後方へ飛ばされ体勢を崩したリモデル。仮初めの肉体は動かないが、一方で頭だけは動いている。
先のガス爆発は、恐らくあの白い粉が要因だ。
粉は可燃性。噴射された後に何かを火種として粉塵爆発を起こした際、近くにあったガスボンベに引火をした。だから『火気厳禁』と書かれた部品の残骸が路上に残っていたのだ。
そして今回は自分にかかった瞬間、体を形成しているライドボットが出す電気に反応。静電気で火災や爆発が起こるのと同じ原理で、胸と肩が吹き飛んだのだ。
そう考える余地だけは残っている。
ただ体を動かすことだけが出来ないのだ。
さて、イソギンジャガーが襞と触手に覆われた口から噴射した透明な液体を、ブートレグは自慢の跳躍力を使って、上に跳ぶことで回避した。
目標を失った液体は地面に落ち、ほんの少しだけ湿らせたかと思うと、その場所のコンクリートが煙を上げ、音を立てながらゆっくりと溶けていく。
小さく開いた穴は、直撃した際の被害を想像させるのに相応のものだった。
降り立つ際、落下の勢いを使って右手で胸部を殴りつけようと試みる。
するとイソギンジャガーの姿が消えた。決して錯覚の類ではなく、実際に敵を視界から消失したのだ。
行き場を失った拳が虚しく振るわれる。
振り向くとそこにイソギンジャガーがいた。
一体どんな手を使ったのか。瞬間移動の類か。それともまた別の何かなのか。
猛スピードで戦う敵と戦うのならば、頭より体を動かした方が良い。
思考を巡らせることを一時中止し、攻撃に集中することに作戦を変えた。
最初の一歩を踏み出すために足を挙げようとした。
だが、動かない。恐怖を覚えたために
ならば何故なのか──。
変更した作戦通りに行かなくなってしまっているブートレグ。
彼の身に起こった出来事が何なのかはまるで分からないが、イソギンジャガーにとって好機であることは確かだった。
「必殺! 触手締め!」
口元から伸びる触手を延長させると、微動だにしないブートレグの体に巻き付ける。
きつく包み込んでいることと、そもそも肉体が脳の指令を無視していることで、彼は一切の身動きが出来なくなっている。
締め上げる力は更に強くなっていて、体と触手の間からライドボットが落ちていく。
その様子を見ていたリモデルは、若干の危機感を覚えた。
自分達の体はライドボットで出来ている。その上、ブートレグシステムによって、敗北を喫したとしても命を落とすことは無い。
だが今ここで二人共退けば、ショッカーは侵攻を再開する。そうなれば民間人への被害は計り知れない。
倒さずとも、少なくとも彼等を撤退する必要がある。
立ち上がってドライバーからガジェットを抜き取り、別のガジェットを装填し、ドライバーの表面を押し込む。
『変身シークエンスを開始します』
リモデルの体が再び黒ずみ、形状を変えて色を取り戻す。
刺々しい印象を与えるパーツがあちこちに貼り付けられた、新しい組み合わせだ。
『KIRIN with ESPER』
キリンエスパーフォームに変身したリモデル。
一時は一連の流れに驚愕したガニコウモルだったが、
「姿が変わったからって、どうだって言うんだぁっ!」
再び白い粉を口から吹き出す。
リモデルは両手を前に掲げ、意識をやって来る粉塵に意識を集中させる。
すると粉は宙空で静止。一切の運動をしなくなった。
電気で動いている自分に当たれば、必ず爆発を起こす。
ならば、そもそも体に近寄らせなければ良い。
だが止めたのは粉末だけではなかった。
「な、何だ⁉︎」
ガニコウモルが異変に気が付いた。
自身の体を一切制御出来ない。攻撃や後退、その他全ての動作が禁じられている。
全身を強い力で押さえられるような感触が走る中では、一挙手一投足許されない。
まずは右手を挙げて後ろに持っていく。
ガニコウモルはそれに連動する形で、強制的に体を持ち上げられて前方へ持っていかれ、勢いそのままに落下を始める。
落下地点はイソギンジャガーとブートレグの間。触手が伸びてピンと張っている。
そこに左手の鋭利な刃が当たればどうなるか。何本かの太い触手が纏まった束が一刀両断され、イソギンジャガーは痛みで悶える。この時にようやく、触手からの解放や体の不具合が治ったことも起因して、ブートレグが固まった状態から動き始め、突然の活動開始に思わず前へよろけてしまう。
更に左手を同じように後ろへ動かすと、今度は宙空で出番を待っていた粉塵が動き始める。
ガニコウモルとイソギンジャガーにかかったそれは、瞬時に爆発。二人は火花が上がる中で叫び声を出して倒れてしまう。
リモデルはブートレグの隣に並び、二人で再度臨戦態勢に入る。
下手をすればこれくらいのダメージは、彼等にとっては傷ひとつつかない程度のものかもしれない。未知のものと対峙する際には、決して油断してはならない。誰から習ったわけではない、戦士としての不文律だ。
立ち上がったショッカーの怪人達。
だが、
「一旦退くとするぞ」
「そうしよう」
そう言ってまた、瞬時に姿を消した。
目にも止まらぬ速さでその場を後にすると、狭い路地に残されたのはブートレグとリモデルだけとなった。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。
徐々に音が高くなっていくことから、もう少しでここに到着することが推定される。
一応の役目は終わった。
気を緩めた二人はそれぞれ、ドライバーからガジェットを取り出す。
そうして何度目かの変身を遂げ、戦士はただの人の姿へ戻る。
だがここで二人は忘れていた。
──未知のものと対峙する際には、決して油断してはならない。
共通の敵がいたとはいえ、まだ相手の正体は不明。
つまり未知の存在とは、今も対峙しているのだ。
その中で変身と解くというのは、明らかに迂闊だ。
一切気が付かない二人は、偶然にも目線があった。
隣の者の顔は、先の戦士とは違う、見知った人間と同じ顔をしていた。
声も姿も、一切の加工をしていない現在の姿こそ、正真正銘の正体。
ならば、これは──。
「「え?」」
いつの間にか、パトカーの音は止んでいた。
だが、環境音の変化は一切無視され、二人の体は過ぎていく時間と逆行するように止まっていた。
【裏話・余談】
今回、今まで以上に色々なものを漁って書きました。
下に表記しておきましたので、是非ともチェックしてみてください。どれも良い作品です。
【参考】
東大ファッション論集中講義
(ISBN978-4-480-68493-6, 筑摩書房, 平芳裕子 著, 2024年)
「あの本、読みました?」『「本と東大」東大生が一番読んでいる本&東大卒作家・小川哲』
(BSテレ東, 2024年6月13日放送)
「ボクらの時代」『加藤シゲアキ×今村翔吾×小川哲』
(フジテレビ, 2025年3月30日放送)
ガニコウモル - アニヲタWiki (仮) - atwiki(アットウィキ)
(https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/18342.html)
イソギンジャガー - アニヲタWiki (仮) - atwiki(アットウィキ)
(https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/17900.html)
Behavioral sink - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/Behavioral_sink)
#92【密着】平野啓一郎を徹底解剖!学生時代の読書事情から分人誕生秘話まで、芥川賞作家の脳内を暴く!【本ツイ!】 - YouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=hy6eeqcCGKM&t=1581s)
次回作の舞台、次のうちのどれが良いですか?
-
実在する京都ののどかな田舎町
-
架空の海上都市
-
その他