仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第36話です。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
米津玄師 - 感電

【イメージST】
牛尾憲輔 - Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition - chainsaw edge fragments -
得田真祐 - TBS系 金曜ドラマ「MIU404」オリジナル・サウンドトラック
岩崎琢 - シン・仮面ライダー 音楽集


36 - 泡沫な日常(S)

 戦いを終えた優司と颯太は今、西武新宿付近にある商業ビルの中、高層にあるカフェのテラス席に向かい合って着いていた。

 西に位置する座席に、ビルの隙間を潜ってやって来た陽がやって来て、視界に入る全てにオレンジ色を差しては沈んでいく。暖かな光は許容量を優に超えていて、異常な色味の風景と日光の眩しさによって脳が混乱を来している。

 しかし、双方共に相手から視線を外して沈黙と停止を貫く二人にとって、それは一切問題ではなかった。

 

 戦闘の後、元の体に意識を戻して改めて集合すると、そこに丁度由姫達がやって来た。

 先のことに驚愕して中々口が開けなかった二人だが、最初に颯太が一連の流れを説明する。別世界から同名異人の『ショッカー』が現れたこと。戦闘をする際に見たことの無いユーザー──もう一人の仮面ライダーが出現したこと。そして、その正体が今となりにいる優司であること──。

 放たれる事実全てに一同はついて行けなくなりそうな気がしたが、何とか喰らい付く。

 そして「今後については室長と相談します」とだけ言われ、短い現場検証の後解散となった。

 

 このまま帰る方が、乱れた心を安定させるのには効果的だろう。

 だが、一度持ち帰ってから後日また会うことの方が、精神的に苦しいのではないか。それは二人共同じだったようで、別に片方がもう片方を誘ったわけでもなく、自然とこのカフェに辿り着いた。

 

 自分のことを互いに語り合った。

 優司が高校生の時、上米町にてドライバーを受け取り、同じくユーザーとなった者を次々と手にかけ、物事の根本であったショッカーのトップを倒し、そして自身の罪を背負いながら幸せを掴んだこと。

 颯太が大切な者を失った後、復讐に燃える鬼としてドライバーを使い、突き止めた犯人を縄に付けさせ、そして裏で糸を引いていたゲルダム団から大事な相棒を守れたこと。

 

 話し終わって何も言うことが無くなったことと、相手の話が想像以上に重かったことが相まって、最早口からどんな言葉を発すれば良いのかが分からなくなってしまった。

 

「まさか、身の回りに仮面ライダーがいるだなんてね……」

 

 口火を切ったのは優司だった。

 

「同感だよ。仮面ライダーがもう一人いるだなんて全然考えていなかったし、しかもお前かよ……」

 

 友人やクラスメイト、想いを寄せる人がユーザーだったことは双方共経験していた。

 だが自分と同じ「仮面ライダー」という、それらを取り締まる相反する存在が他にもいるとは、一切考えてもみなかった。

 

 頭の中で起こった混乱は徐々に和らぎ正気に戻った二人は、自らの視界がオレンジに輝いていることにようやく気が付いた。

 もう間も無く陽は沈む。斜陽はビルの後ろに隠れ、光をビル風に乗せて優しく届けることしか出来ていない。

 

「壱宮はさ、何で今も仮面ライダーやっているの?」

 

 ()()

 その言葉が、恋人を殺された恨みを晴らすためだけに、戦士としての道を選んだことに起因する表現だということは、考えずともすぐに分かった。

 ただ、答えを用意していなかった。目的を果たした今でも、どうしてドライバーを持ち続け、先程も怪人達に立ち向かったのか。

 殆ど衝動に任せていた行動を振り返り、考察をすること十数秒。そして口を開いた。

 

「次に傷付く人が出ないようにするため、とかじゃね?」

 

 知らんけど、と付け加える。

 へぇ、と口下手な優司は相槌を打つことしか出来ない。こういう時、いつも自分の地のコミュニケーション能力が嫌になってくる。

 机上のコーヒーを一口飲んで、今度は颯太が問いかける。

 

「逆に、梶本は何で今も仮面ライダーやっているの?」

 

 聞き返されることはある程度予想していたが、いざ来るとなると答えに窮してしまう。

 無言で考えを巡らせて口を開く。

 

「戦わないと、これまで倒してきた人達に申し訳ない、とか……?」

 

 あぁ、と適当な相槌しか出なかった。

 それは彼が経験した戦いの詳細を聞けば分かること。肉体こそ代理だが、確かな殺し合いを経験したのだ。

 何と続けるのが一番良いのか、颯太には答えが導き出せなかった。

 

 そんな様子に気を遣ってか否か、優司が微笑を浮かべながら言う。

 

「ていうか、この質問難しくない?」

 

 釣られて颯太も笑いながら続く。

 

「お前が始めたんだろ」

「訊く分には楽なんだけど、言語化するの滅茶苦茶ムズいね」

「だって今までこんなこと語ったことないだろ」

「無い」

 

 破顔する二人。過去の告白と問答による緊張の後に訪れた緩和が、その差によって大きな声が出てしまう。

 暫く笑い合って、また優司が颯太に質問を投げる。

 

「あのさ」

「ん?」

「二人で組まない? 多分、そうしたら誰にも負けない気がするんだけど」

 

 えぇ、とわざとらしく考えるふりをする。

 

「もう組んでいるからなぁ……。まぁでも良いか」

 

 颯太はサッと右手を差し出す。

 付けられた指輪が太陽の光を優しく反射して、淡く輝く。呼応するかのように他のアクセサリーも反照をして、颯太自身を輝かせているようだ。

 ただ、颯太を輝かせるだけではない。本来であれば輝く彼のそばにいる優司は、作られる黒い影によって暗く隠されてしまう。人の出す光は、他者を隠して自身を映させるために出現する。

 だが今、幾つもの装飾品が反射する光は、持ち主を輝かせるためだけにあるのではなく、対岸にいる人間を同じところまで来るよう差し出されたものだ。

 

「俺達はもう一人で戦うんじゃない。いつも二人だ。二人でショッカーと戦おう」

 

 だが優司はじっと手を睨んだまま動かない。

 

「別に良いんだけど、握手はちょっと……」

「何で⁉︎ しろよ!」

「いや、こういう暑苦しいのは趣味じゃないから」

 

 

 

────────────

 

 

 

 優司と颯太に、ショッカーが現れたとの連絡があったのは、二人が同盟を組んでから数時間しか経っていない朝のことだった。

 脳が昨日の戦闘からあまり休めていない状態ではあるが、今まともな攻撃が出来るのは自分達しかいないと、体を奮い立たせる。

 

 公安第五課の基地に泊まっていた颯太は、先に現場へと向かっているらしい。

 彼から電話を受けた優司は、適当にズボンとTシャツを纏って家を飛び出す。柄を一切確認していないため、後々に自分自身に絶望することとなろうが、今はどうでも良いことだ。

 

 住んでいるマンションの裏にある駐車場に、ユーザーズストライカーが停めてある。

 そこへと駆け足で向かっている道中、その入り口でスーツ姿の男が直立しているのを目にした。

 

 滝口である。

 銀色のジュラルミンケースを持っている姿を見ると、魔の悪さに若干腹が立ってくる。

 

「何ですか?」

 

 立ち止まって訊く。

 その声に苛立ちが含まれていることは、自他共に明らかだった。

 

「君のユーザーズドライバーの不調に関して、こちらで回収して調べさせてもらう」

「じゃ、じゃあ、僕はどうやって──」

「代わりに、これを用意した」

 

 

 

────────────

 

 

 

 現場は都内の解体現場だった。

 骨組みだけとなったビルから、作業着を纏った者達が悲鳴を上げながら逃げている。

 その奥、ビルの中ではガニコウモルとイソギンジャガー率いる、別世界のショッカーが暴れている。どうやら潜伏先として利用していた所に、本来いるべき者達が出勤して来たらしい。

 

 全員が大きな仕切りの外に出たところで、公安第五課のセダンとキジムナー号、そして颯太が到着する。

 颯太が自分の体をキジムナー号の後ろに預け、ドライバーを巻いた別の体で内部へと向かって行く。

 

「変身!」

『変身シークエンスを開始します』

 

 リモデルとなった颯太は、戦闘員達に殴りかかる。

 拳を振り上げて殆ど一撃で相手を仕留め、攻撃には体を浮かせることで対処をし、顔面を両足で軽やかに蹴り飛ばしていく。

 

 順調に戦闘員達の数を減らしていく。ここまでは上手くいくのだ。

 だが問題はこの後だ。機械ではない本命二人に自分一人の攻撃が通用するとは到底思えない。早く助っ人に来てもらいたいのだが、如何せん昨日のようにフリーズしてしまう可能性が控えている。

 敵が減っていく安心と、この後待ち受けることへの不安で、攻撃の際のテンションがおかしくなってしまっている。

 

 相方が心身共に戦っているとも梅雨知らず、優司も自分のマシンを停めて合流する。

 仕切りの間から覗き見ると、丁度タイミングが良さそうだ。

 

 降りてシートバッグを開けると、更にその中からジュラルミンケースを出してシートに置いて開く。

 その中に入っていたものを優司は初めて見たが、何処となく既視感を覚えた。

 

 何故ならそれは、颯太が使っているユーザーズドライバーと全く同じような形状だったからだ。

 だが銀色の部分は金色になっていて、更にスロットは開いておらず、補うかのように右側全体に風車のような柄が刻まれている。

 付属されている細長い紙に書かれた『USERZ DRIVER 2G』というのが、その名称らしい。

 

 すぐに手に取って、廃ビルの中へ丁度突入しようとしていた由姫に声をかける。

 銃口を下に向けた状態で胸の前にテーザー銃を構え、前方を鋭い眼光で見つめていたが、優司によって集中が妨げられてしまう。

 

「すみません。僕の体、お願いします」

「え、それ、どういう──」

 

 由姫が聞き返すのを待たずに、優司はドライバーを腹部にかざした。

 

『只今より、意識を転送します』

 

 前に倒れた優司の体を由姫が両腕で抱える。

 数秒後、黒い粒子の大軍が由姫の横に固まって、今腕の中にいる男と瓜二つの姿を現した。

 

 コンクリート製の道に硬いものが跳ねるような音が、遠くの方から聞こえてきた。

 自分の耳にその音が確かに届いた時が今だと優司が右手を開くと、その中に先の硬い音とは打って変わって、静かに緑色の機械が止まった。

 それは優司がいつも使用している、ホッパーガジェットと形状が酷似していた。だが色は焦茶色ではなくエメラルドグリーンで、金色の線がいくつか入っている。表面には白く『11』『NEW HOPPER』と印字されている。

 

 手の中の飛蝗をただの六角形にすると、咄嗟にスロットへと装填する。

 

11(TEN PLUS ONE)

 

 それまで使っていたホッパーガジェットの待機音に、ユーザーズドライバー2が元々出している音が混ざって、新たな音楽を奏でる中で、優司は右腕を左肩の方へ送った。

 ゆっくりと反対側に回していって左手と交代させる。

 そしてこれまで以上に力強く言葉を発した。

 

「変身!」

 

 迷わず両腕を前方に出して素早く戻し、ドライバーの表面を押し込む。

 

『変身シークエンスを開始します』

 

 優司と瞬時に入れ替わるように現れたその姿は、今戦っているリモデルの姿を思わせるものだったが、所々相違点がある。

 ベースとなっているのはホッパーフォームだ。その上から邪魔にならない程度に金色の線が入ったエメラルドグリーンの鎧が全身に付けられ、元の形態はアンダースーツのような扱いとなる。

 口元にはクラッシャーが付けられ、頭部では新たに2本の太い角が真っ直ぐと伸びている。

 

 嘗ての姿。その上の新たな鎧。

 培ってきたもの全てを使って、与えられたものを使いこなそうとする。

 まるで今の優司を表しているかのようだ。

 

『NEW HOPPER』

 

 ニューホッパーフォームとでも呼ぶべきだろうか。

 名の通り新たな力を手に入れた優司──ブートレグの目線の先では、リモデルが戦闘員の数を半分までに減らしていた。最初に戦ってきた時は戸惑いを隠せずにいたが、徐々に慣れてきたのかほぼ一撃で倒すことに成功している。

 

 そろそろ合流しなければ。

 試しに両脚に軽く力を入れて、緩めた瞬間に体を前に飛ばす。

 

 刹那、数十メートル離れたリモデルの横にブートレグはいた。

 突如として現れた彼の姿に戦闘員達は勿論、味方であるリモデルさえも固まりながら思わず声を漏らしてしまう。召喚されたかのように味方が陣地に現れれば誰でも驚くし、況してや敵側もだ。

 

 しかしそれ以上に驚愕したのは、当の本人だった。確かに従来のホッパーフォームでも、このように驚異的な跳躍力を誇っていた。足に軽く力を入れれば面白いくらいに遠くへと跳んで行ける。1秒にも満たない飛行体験。「体が宙に浮いたような」という比喩を体感する瞬間は、この上無い喜びだった。

 だが今回の跳躍が彼にもたらしたのは痛快でも快感でもなく、ある種の恐怖だった。両脚にかけた負荷は一切変えていないにもかかわらず、跳んだ感触が全く違っていた。ある目的地を設定して向かう際、空気抵抗を受けて景色が変わっていくことが分かるからこそ、確かな実感を覚えて楽しくなっていたのだ。だが自分が目的地が分かっていたとしても、空気抵抗を一切受けることは無い。景色が段階を踏まずに唐突に変わることは、ここまで人間の認識と一本の線のように繋がった記憶の確実性を疑わせるのかと当惑してしまった。

 

 一先ず攻撃を仕掛けなければと、ほんの少しばかり離れていた前方の戦闘員の方まで跳んで蹴りを喰らわせる。

 あり得ない速度で繰り出される技によって、戦闘員は100メートル強先の壁まで吹き飛ばされた。

 しかし反動も強く、ブートレグは後ろの吊り天井に背中と頭を打ち付けられる。痛みを感じたためではなく、性能のあまりの良さによるための不都合に驚いて小さく喘ぎ、そのまま地上へと落下する。

 

 このまま自滅するわけにはいかない。刹那に現れた本能的な想いが体を動かした。

 無様に正面から落下するのではなく前傾姿勢で着地をすると、再び足に力を入れて飛び出して行った。

 目的地に実感の無いまま辿り着くことに未だ当惑しながらも、徐々に慣れてきてもいた。自分の存在を感知していない敵に対して数発の攻撃を繰り出すと、次の敵の元へと向かって行って拳と蹴りをお見舞いする。これを数回か繰り返してリモデルの横に戻って来た。

 

 先程の驚いた状態から一切変わらない様子のリモデルが示すことは、それだけの時間しか経っていないということなのか、それとも彼が硬直しているだけだということか。判別はできない。

 だが所々で爆発する戦闘員達が、新しい力の性能の高さを示していることだけは確かだった。

 

「何だよその姿⁉︎ え⁉︎」

 

 うるさい、とだけ言って前を向く。

 視線の先にはショッカーの残党二人がいて、恐らくこの場の誰よりも驚きながら、リモデルと同じような反応をしている。

 リモデルも同じ方を向くと「まぁ良いか」と呟き、何事も無かったかのように別のガジェットを装填して、ドライバーの表面を押す。こういう時に切り替えが早いのが彼の長所であると再認識する。

 

『変身シークエンスを開始します』

 

 銀色の姿──トロイホースフォームへと変身した。

 じっと前方を見据え、先頭のために再度徐々に気持ちを昂らせていく。両手を前方で組んで回したり、胸を張って深呼吸しているのがその証拠だ。

 

「今は、とりあえずアイツ倒すか」

「そうだね。それが一番良い」

「……やるぞ、梶本!」

「うん。行くよ、壱宮!」

 

「小賢しい! ここで潰してやる!」

「お前ら全員ここで死ねぇっ!」

 

 イソギンジャガーが口元の触手全てを長く伸ばし、ブートレグを縛り上げようと試みる。

 だがそれよりも早く走り出したために免れ、腰を低くした状態で右手を腹部に喰らわせる。

 呻いたイソギンジャガーは触手から力を抜いてしまう。それを好機と、何度も何度も攻撃を体のあちこちにお見舞いする。一切の反撃を許さず、ただただ痛みを与えて戦意を喪失させていく。

 触手はダラリと落ちて接地し、最早攻撃する術は存在しなくなった。そもそも仮に他に手があったとしても、このスピードにはついていけない。あまりにも戦う相手の相性が悪かったことを、この数秒間の間で思い知らされた。

 そして右足で軽く蹴り飛ばした。倒れたイソギンジャガーが地面を滑って行って、停止したところでなんとか立ち上がっている。

 

 昨日の成功体験に基づいてか、ガニコウモルは前方へ飛行しながら口から粉塵を放ち、起こした炎でリモデルを包む。

 しかしリモデルの体は頑丈且つ防火性に優れているらしく、先のように苦しむ様子は無くその場に直立している。飛行をしながら不味いと感じたためか、すぐに鋏を前に出して相手を切り裂くことに戦法を変えた。

 すると鋏の刃の片方が右手に掴まれた。何とかそこから逃れようと試みるのだが、あまりにも強い力がかかっているため、抜け出せず宙空で止まったままだ。

 左手を振り翳して、拳を鋏の根本に打った。比類無き硬度を誇った攻撃の威力は凄まじく、鋏全体に(ひび)を入れてガラクタ同然に成り下がらせる。

 そして右足で硬い腹部を蹴ってガニコウモルを後退させる。左手と同じ歪な模様が入った腹を押さえて苦しむ姿は、この世界を征服すると息巻いていた者とは似ても似つかなかった。

 

「そんな強いのがあるなら、何で最初から出さなかったの? イチコロだったでしょ」

「そこまで頭回らなかったんだよ。どんなの繰り出してくるのか分からなかったし」

「……意外。単純に強いのをバンバン出すタイプだと思っていたから」

「あ? 馬鹿にしているのか?」

「……ごめん。何でもない」

「……まぁ、良いや。ここで決めるぞ!」

「オッケー……!」

 

 ブートレグとリモデルが余裕綽々に余談を繰り広げていると、満身創痍の状態でガニコウモルとイソギンジャガーが立ち上がった。

 何かの恨み節を叫んでいるようだが、ドライバーの表面を押して止めを刺そうとしている二人にとっては何の関係もない。言葉を遺すことを許す寛容さはあるが、その内容を聞く義理は何処にもないのだから。

 

 一斉に跳躍した二人。

 リモデルの体に付いている箱が開かれると、無数の分身達が飛び出して来た。

 宿主よりも先に右足を出した状態で前方へと進み、ガニコウモルの壊れかけた体に小さな穴をいくつも開けていく。生身の生物の中に入って行くのは初めてだったが、硬い殻に罅が入っていたので上手くいった。

 一撃一撃の威力が大層なものでもないとはいえ、蓄積されていけばその負担は大きい。倒れそうになっているところに、今度はリモデル本人が右足を先頭にやって来た。

 

 一方のブートレグはというと、高く跳躍した後、まずは右足で一度イソギンジャガーの胸部を蹴った。胸を打つ攻撃の威力は決して小さくなかったのだが、彼の目的はまた別のところにあった。

 胸部を蹴った勢いで100メートル強離れた廃ビルの入り口付近へと跳んで着地する。そして再度脚に力を込めて跳躍し、右足で同じ箇所に右足をお見舞いするのだ。

 2回だけではない。何度も何度も、敵と入り口の往復を只管に繰り返して相手を疲弊させる。苦しむ隙も与えず、信じられない程に短い間隔でだ。

 そしてブートレグは、今日一番に力んで両足を踏み出し、右足を先端としたミサイルのような破壊兵器となった。

 

『NEW HOPPER FINISH』

『TROJAN HORSE FINISH』

「「ライダーキック!」」

 

 性質の異なる攻撃が、二体の怪人にぽっかりと穴を開けた。

 貫通した戦士は砂煙を上げながら着地し、ゆっくりと体を起こす。決して振り返ることは無い。

 戦いに勝利した時、仮面の下でどんな顔をすれば良いのか未だに分からない。喜べば良いのか、悲しめば良いのか、はたまた何も顔に浮かべない方が良いのか。ただ一つ、どんな顔をして振り返ったとしても、相手に対する侮辱だと捉えられる可能性があることには辿り着いていた。

 だから、相手の視界に自分の顔を入れず、背中だけを見せることが最適なのだろう。しかし本当にそれが正解か、確認する勇気はどちらも持っていなかった。

 

「「偉大なる、ショッカー、万歳!」」

 

 最後の最後まで組織への忠誠を見せていた怪人達の断末魔が聞こえ、次に鼓膜を叩く激しい音と強い風が襲ってきた。

 彼等は別世界を制圧しようと企んだ脅威ではなく、ある組織にとって駒同然の一介の兵士として散った。例え敵の信条や動向がどうであれ、その事実が胸を締め付ける。

 もしもこの世界に来ていなければ、別の世界に来ていれば、彼等は生きられただろうか。そうなればきっと別の世界が犠牲になっていただろう。否、もしかしたらその世界の仮面ライダー、(もとい)自分達と同じような戦士に倒されてもいただろうか。

 

 ──考えるだけ無駄だ。

 可能性というものは無限大だ。考えれば考えるだけパターンが増えていき、結果蟻地獄のような仮定の渦に巻き込まれて出られなくなってしまう。

 だから、戦いの後は思考を停止した方が良い。罪悪感に苛まれることも無く、明日からをのうのうと生きていられる。

 これまでの蓄積が、二人の共通認識を作り上げていた。

 

「疲れたな」

「昨日今日と頭使ったからね」

「どうする? この後、俺はいつもの面子でご飯食べに行こうと思っているんだけど。お前も来るか?」

「……良ければ、是非」

 

 その時、順風が吹いて小さく砂煙が舞った。

 そしてそれは二人の足元を汚し、静かに収まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間話、終。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月になった。暦の上では秋にあたるのだろうが、残暑とは思えない暑さを誇っていた。最近の季節は「夏」と「夏以外」しかないのではないか。この一年が始まってからの気温の上下を考えて、小雨の中傘を差して街行く人々は一斉に考えていた。

 

 暑さと中途半端な雨が誰も彼もを苛つかせている中、公安第五課の面々が心拍を上げていた理由はもう一つあった。

 来客があるのだ。それもこの部署が発足して以来、初めてのことだという。

 考えてみればこんな奇天烈な業務内容の部署に誰も来るわけがない。そうであったがために五人だけの時間を過ごせていたと考えれば、随分有り難いことだったとも思う。

 

 浩介がキッチンで緑茶や茶菓子を用意する。由姫はモップを使って床を掃く。洋平は緊張を紛らわせるためにパソコンをいじり、手伝ってください、とたまに灸を据えられる。

 岩田は既に来客を出迎えに行ったらしく、もう少しで到着するようだ。

 

 何もそこまで緊張する必要性は無いのだが、この部署が直接の対応をとることなど初めてなので、心臓が脳へ過剰に血液を送って却って頭が冴えた状態だ。

 

 すると遂にドアが開いた。その音で全員が飛び上がりそうになるが、平静を保つふりをして来客の姿を見る。

 客は由姫と同年代の女性だった。黒色のロングヘアが艶を帯びて美しく、着ているピンク色のワンピースやブランド物のバッグは彼女の高貴な雰囲気にとても良く似合っている。古い表現だろうが、所謂「上流階級」の人間だとすぐに分かった。

 しかし決して庶民を見下す様子は微塵にも無さそうな、柔らかな雰囲気を醸し出している。そのコントラストは今までどれだけの男を惚れさせたのだろうと、潜在的に想像してしまった。

 

「こちらが、相談者の樋下(ひのした)愛花(まなか)さんだ」と岩田が紹介を終える寸前で、いきなり来客──愛花はソファに座る由姫の両手を包み込むように握った。

 緊張もあってか、突然の行動に声を出して過剰に反応してしまう。

 

「助けてください! 私の家に、死んだ人がうじゃうじゃ出るんです!」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 究:BOOTLEG×REMODEL、始




【裏話・余談】
シーズン1と優司のキャラが変わり過ぎだと思われている方もいらっしゃるでしょう。私もそう思っています。
シンプルに彼をどう書くかを忘れてしまったためです。これから徐々に取り戻していきます。

さて、いよいよ今作も最終章に突入します。
一体どんな展開が待ち受けているのか、乞うご期待ください。



【参考】
仮面ライダー the second一文字隼人
(ISBN978-4-253-17220-2, 秋田書店, 石ノ森章太郎 著, 2013年)
ガニコウモル - アニヲタWiki (仮) - atwiki(アットウィキ)
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/18342.html
イソギンジャガー - アニヲタWiki (仮) - atwiki(アットウィキ)
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/17900.html
仮面ライダー(新1号)|仮面ライダー図鑑|東映
https://www.kamen-rider-official.com/zukan/forms/587
仮面ライダー第2+1号|仮面ライダー図鑑|東映
https://www.kamen-rider-official.com/zukan/kamen_rider_members/343
女性がカッコよく銃を構える方法を考える
https://www.hyperdouraku.com/colum/forwoman/index.html

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