仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第38話です。
何とか終わらせようと奮闘しているので、もしかしたら毎回変な感じで切っていくかもしれないですが、どうかご容赦ください……。
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージED】
People 1 - 常夜燈

【イメージST】
岩崎琢 - シン・仮面ライダー 音楽集


38 - 午後10時、この屋敷では(S)

「何やっているんですか佐藤さん!」

 

 浩介が向かい合って自分の肩を持っていることに由姫は気が付いた。

 立ち上がった浩介が座る由姫を押さえつける形になっていて、何故彼がそんなようにしているのか、頭の中で声が鳴ってから今に至るまでを繋げる記憶が抜け落ちてしまっているため、皆目見当がつかない。

 

「どうしたんですか?」と由姫が訊くと、「覚えていないんですか?」と浩介は彼女の言葉に懐疑的な様子を見せた。

「銃を抜いて発砲しようとしたんですよ、愛花さんに」

 

 洋平の言っていることの意味が一切分からず、「はい?」と訊き返してしまう。だが洋平は構わず続ける。

 いきなり銃を抜いて発砲準備をしていたんですよ。幸い、渋谷君が取り押さえて事無きを得ましたけど、もしそのまま引き金を引いていたら、愛花さんは危なかったですよ。

 

 警察官は誤射や暴発を防ぐため、引き金に指をかけることは御法度になっており、そもそも拳銃を抜いたことのある警察官は全体の1割にも満たない。

 そのため、仮にもユーザーと戦う際にテーザー銃を使う由姫であっても、洋平の言うことを全く飲み込めない。民間人に自分が発砲をしようとしただなんて、絶対にあり得ない。

 だが右手に握られているテーザー銃と奥で怯える愛花を見て、証言の中でしか生きていない現実が実感として由姫に襲いかかった。

 

「本当に覚えていないんですか?」

 

 目の前で愛花が震えていた。

 守ってくれる筈の人が静かに敵意を向け、そして自分は死の淵まで一瞬のうちに追いやられようとされた。目は開かれ、大きな呼吸は乱れている。瞬時にやって来た「死」の気配をかき消すように、「生」を味わおうと懸命になっている。

 

 その姿を見た由姫は謝ることもできなくなって、肺の中の空気を全て吐き出した。

 

 

 

────────────

 

 

 

「貴方、佐藤さんに何したんですか」

()()何もしていない。……ただ、少し実験を行っただけだ」

「実験?」

「詳しいことは言えないが、我々の目的のためには必要不可欠なものだ」

 

 無線を介して屋敷の中で繰り広げられた喧騒のことを知っていたブートレグとリモデルは、ただ報告される状況に唖然だけだ。

 由姫が民間人に向けて発砲の用意をするなどあり得ない。彼女だけではなく、被疑者でも何でもない者に銃を抜くことは、警察官としてあるまじき非常識な行為で、そもそもそんな報告をされること自体が考えられないことだ。

 だからこそ冷静に何が起因したのかを考えてなくてはならないのだが、身内が起こしたことこそ頭を有効に活用することができない。

 

 二人の様子を見てゾンビユーザーは何処かほくそ笑んでいるように見える。

 彼の言う「実験」が成功したからだろうか、しかしその真意はまだ誰にも分からず、足を踏み入れてはならない禁足地のようにも思える。

 

「では、私はこれで」

 

「おい!」というリモデルの静止も聞かず、ゾンビユーザーは塵となって退散した。

 黒い夜が彼を溶かして取り込み、景色の一部分として消費されるようにする。

 

 本当は追うことができればと思った。

 由姫に何があったのか。「実験」とは何なのか。一体何処を目指して進んでいるのか。それら全てを訊くことができればと思った。

 だが二人はその勇気を持つことができなかった。白い布の中に隠された中身を覗いて抉ろうとすれば、今の空よりも深くて暗い、全くの闇の中へ潜り込んでそのまま帰れなくなってしまいそうな気がした。

 

 その時、まだマシな方の闇の中から風が吹いて二人の体を溶かした。

 

 

 

────────────

 

 

 

 キジムナーの絵が描かれた可愛らしいバンが、不釣り合いな屋敷を出る。

 後ろから1台、それよりかは格調高いセダンが追走する。それでもまだ一切似合っているように見えない程、この屋敷は豪勢なものだったと、キジムナー号を運転する優司は考えた。

 

 助手席の颯太はスマートフォンを手に持って、優司にも聞こえるようスピーカーモードで会話を続けている。相手は万太郎だ。昨晩の襲撃と由姫の異常な行動について報告をしていた。いつも冷静で理路整然と脳内にある優勢順位を整理しながら実行に移す彼女が、ただただ脊髄反射のように自分が守るべき相手に銃口を向けることは考えられない。これもきっと、ラシャの言った「実験」の影響なのだろう、と。

 

 颯太が報告した後に万太郎が話し始めたのは、昨日の午後10時、由姫が暴走したのと同時に何が起きたのかについてだ。

 同じように突如として目の前の者を襲う事例が多発したのだという。ある者は恋人を殴り、ある者は手元にあった文房具で家族に襲い掛かり、またある者は見ず知らずの相手に危害を加えた。

 被害者は90人強。死者が一人も出ていなかったのが不幸中の幸いだったとはいえ、全国で同時多発的に暴行事件が起こることなど前代未聞であるため、各警察は慌てるどころか絶句しているらしい。

 

 更に奇妙なことに、被疑者への聞き込みを行なった結果、共通して「何も覚えていない」という証言しか得られなかった。意識が何かのタイミングで一気に途切れ、気が付いたら誰かが倒れていたという。

 嘘に違いないだろうと踏んでいたのだが、全員が全員同じ答えを出したため、現場はやはり混乱を極めていて、刑法第39条が適応される範囲なのか否かという話まで持ち上がっているらしい。

 

 この報告もあって、やはり公安第五課が考えた愛花を避難させるプランは間違いではないだろうと、より確実なものになってしまった。

 

「後もう少しで隔離場所に到着します。絶対にバレないらしいんで、暫くそこにいてもらいます」

『承知した。佐藤由姫の暴走に関しては、こちら側で調査する』

「了解」

 

 通話を切った颯太が、温度どう? 暑い? と体を後ろへ傾けながら訊くと、2台のユーザーズストライカーに席を圧迫されて窮屈そうにしている愛花は、大丈夫です、と口角を上げながら答える。

 由姫は万が一のことを考え、浩介と洋平の乗るセダンの後部座席に座らせているが、それでも愛花から恐怖は消えない。次は優司と颯太が自分に危害を加えるのではないか。不信感は拭われるどころか増幅して、彼女の心の中で深く根を生やして息づいている。

 こんな愛花の姿は見たくなかったと、優司は絶対に後ろを向かなかった。いつもあざとくて鬱陶しい彼女が恋しくなっている。

 

 その隣で相方はスマートフォンを見つめながら能天気に会話を始めた。

 

「何でこんな充電喰うんだろうなぁ……」

「え? さっき充電したばっかでしょ。樋下さんのお父さんからお借りしたやつで」

「そりゃあそうなんだけどさ。だって今朝100(パー)で今53(パー)だぜ。いくら何でもあり得ねぇって」

「アプリとかデータでやられているんじゃない? 執筆とかで使っているんでしょ?」

「いや、マジで何も入れてない。……そろそろ買い換え時か」

 

 すると、

 

「あの」

 

 愛花が口を開いた。

 今まで周りにあるもの全てを警戒して閉口していた彼女が変化を見せたことに、颯太は思わず振り返ってしまう。

 

「実は、お二人にお話ししたいことがあって……」

「何?」

「……私が、どうして狙われているのかについて、です。……実は、私──」

 

 愛花の話を遮ったのは、キジムナー号にかけられた急ブレーキだった。その場の全員が縦横に揺さぶられる。

 前に傾いた体が反動で強制的に元に戻る。背中にやって来た痛みの次には、視界に見慣れた異様な集団が入った。白いローブの人物やピンク色の髪をした青年、その周りに黒い集団が何人も立っている。

 

 彼等が何者なのかすぐに判別ができた優司と颯太は、近くからドライバーを取ってすかさず腹部にかざす。

 意識を飛ばして仮の体を作り出し、愛花を守るように車体の前に立ち塞がった。

 

「何でここが分かった?」颯太が訊く。

「僕達には、君達が何処にいるかくらいお見通しなんだよ」納谷の笑顔には影が伸びている。本当に笑顔なのか分別がつかない。

 

 悠長に会話をしている暇は無い。

 優司と颯太はすぐにドライバーを腹部に出現させ、ガジェットを取り出して戦闘の態勢に入る。

 だが「まぁ待て」と、それを止めたのは、ラシャだった。

 

「我々は別に彼女を攻撃するために来たわけではない。再度警告しに来ただけだ。何も喋るな、とな」

「警告って、そんなまどろっこしいことせず、とっとと手ぇ下せば良いんじゃねぇのか?」

 

 颯太は自分の言ったことに後悔したが、出てきたものは挑発の類ではなく本心だった。

 どうして早急な対応をしない? 愛花に次の一手を出して欲しくないのならば、先手を打つのが最適解だろう。そんなことは誰だって分かる。

 ならば何故そうしない?

 

「まぁ、何でも良いでしょ。僕達は別に彼女を殺したいわけじゃないんだよ。ただ単に無駄なことを言うなってだけ。ずっと死ぬまで黙ってくれたらそれで良いんだから」

 

 納谷が無邪気に答える。

 この男は愛花がずっと変わらず、今のように恐怖に震えているままであることを望んでいる。

 得体の知れない、底が何処なのか分からない彼に二人は畏怖の念を覚えた。

 

「とは言っても、結局は彼が言い出したことなんだけどね。僕はいつ殺しても良いんだけど、待てって言うからさ。ねぇ?」

「……そういうわけだ。では、我々はここで」

 

 そして集団はすぐに体を分散させて、彼方へと消えていった。

 やけに中途半端な登場だったと思う。優司と颯太にとってはかなり消化不良だ。

 脅威が去ったという事実は、本来自分達を安心させる筈なのだが、嫌な予感だけが胸に残って離れなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

 結局、この場の全員は公安第五課の拠点まで戻って来た。

 もし予定通りに隔離したとしても、先のように再びゲルダム団の者達に現れられてはたまったものではない。

 それに、ただでさえ狙われていることに恐怖を覚えている愛花に、次の隔離先の選定はその後の移動などでこれ以上ストレスをかけるわけにはいかない。

 一番手っ取り早くて安心できる手を考えた結果、慣れたこの場に滞在することになった。

 

 室内では全員が対応に追われていた。

 ここにいつまでもいても、またすぐに襲撃させるかもしれない。そのため新たな避難先を探さなくてはならない。だが襲撃を逃れるためには、そもそもどうして彼らが場所を特定できたのかを突き止める必要がある。

 考えられる可能性を全員が一つずつ潰しているところで、あの、とこれまでソファで黙っていた愛花が口を開いた。

 優司と颯太が彼女の前に来て、耳を傾ける。

 

「お話します。私がどうして、狙われているのか……」

 

 そこから愛花は今までに無い程、饒舌に言葉を紡いでいった。

 溜め込んでいたものが自分という瓶の中から、水のようにサラサラと流れていく。

 

「以前、私達の家でボディーガードを務めてくれた方々が、一斉にお亡くなりになったことがありました。事件性は無く、事故やご病気とのことでした。こんな悪い偶然が起こるのかと悲しかったですが、何とか時間が経つことで忘れることができました。

 ……ですが、半年前、見てしまったんです」

「何を、見たんですか?」

 

 優司の問いかけに、愛花は再び口を閉じる。

 全てを吐き出すことにまだ抵抗があって、それが弁になって言葉を引っ掛けて出ないようにしている。

 だが止まってはいられない。半ば強制的に口から引っ掛かっていたものを吐き出した。その分、胸の奥が痛み、言葉の先端でえずいている。

 

「半年前、たまたま父の部屋の前を通りかかった時です。深夜なのに誰かと話しているようでした。勿論、父は仕事柄深夜にも電話がかかってくるので、そうだとは思っていたんですが、はっきりと聞こえたので誰かいるのではないかと思ったんです。

 不思議に思って、ドアの隙間からその様子を眺めていたんです。父と、白い服の方と、ジャケットを着た男性がお話していました」

 

 優司と颯太はそれが誰を指すのか、すぐに察しがついた。

 間違いなく、ラシャと納谷だ。

 

「父とその方々は、こう話されていたんです」

 

 ──何とか四人は始末できたよ。見られちゃったから、仕方無いよね。

 ──これで、ゲルダムの計画がスムーズに進むことになりますね。

 ──後は、君の出番だ。予定通り、H-WATCHの販売を促進させろ。

 

 そこで覗かれていることに気付かれ、愛花はすぐに自室に戻ったらしい。

 死んだ筈のボディーガード達の亡霊が現れたのは、それからすぐのことだった。

 

「今でも意味が分からないんです……。父は、あの人達を殺したんでしょうか……」

 

 全ての声が震えていた。

 意味不明な内容の会話と過去の出来事、そして自分に起こった不可解な現象が不完全に繋がり、愛花の不安を増幅させる。

 

 だが優司と颯太は決して表情を崩さない。

 これまで分かってきたことと殆どが綺麗に結びついて、最悪なストーリーが頭の中で形成されている。

 愛花の問いかけに無闇に問いかけることは、それを彼女に伝えることに他ならない。

 

「父は……確かに無愛想で、厳しい人でした。それでも、絶対に人を殺めるような人じゃないです。きっと父は、何か理由があって、あの方々に利用されているんだと思います。

 ……お願いします。父を、助けてください……!」

 

 頭をゆっくりと下げた愛花。

 慣れていないためか、こういう時どうしたら良いのか分からず、沈黙が暫し続く。

 沈んで床との設置面が増えていくようなこの場の空気をどうにかしようと、颯太が変わらぬ様子を見せる。

 

「んじゃぁ、試しに訊きにいってみるか」

「……そうだね」

「……えぇっと、どうする? 樋下さんも来る?」

「え……?」

「直接お父さんの口から聞きたくない? 一体何が起こったのか。……勿論、樋下さんにとって良い結果ばかりじゃないとは思うけど」

 

 颯太の提案はかなりリスキーなものだった。

 父のことで胸が押し潰されそうになっている人間は、本人の元に連れて行く。

 もし不安の中で浮かんだ考えが的中した場合、愛花がどれだけのショックを受けるのか、全く計り知れない。

 だから答えは一つしかないと思っていた。答えが見えるからこそ、あえて訊いたのだ。

 

「……行っても、良いですか?」

 

 だが予想は裏切られた。

 

「本当に、大丈夫ですか? 無理はしないでください」優司が訊く。

「正直、どんな結果になるのか怖いです。……けど、父に不安を抱いていたまま過ごすことの方がもっと怖いんです。お願いします」

 

 顔を上げた愛花の顔にはいくつかの筋が通っていた。縦に入ったそれはすぐに乾いて同化していく。

 行こう、と颯太は優司と愛花を連れて部屋から出ようとする。

 最初に颯太が出て、その次に愛花が出た。そして最後に優司が出ようとした時だった。

 

 ──何で、H-WATCHの販売を促進する必要があるんだ?

 

 ラシャは孝蔵にH-WATCHの販売を促していた。

 HINOSHITAの数ある商品の中で、どうしてそれをピンポイントに指定する必要があるのか。

 もしかしたら、何か自分の見落としていることがあるのではないか。

 

 それを確かめる術は無いのか。

 何となく辺りを見渡すと、あった。

 頭の中に突如として浮かんだ疑問を解消することができる、物体と人材が。

 

「柿沢さん」

「はい?」

「ちょっと、調べて欲しいことがあるんですけど──」




【裏話・余談】
実は先日、新作のプロローグを公開致しました。

https://syosetu.org/novel/349077/

今作が終わった後に本格的に始動していくので、お気に入り登録を宜しくお願い致します!



【参考】
仮面ライダー the second一文字隼人
(ISBN978-4-253-17220-2, 秋田書店, 石ノ森章太郎 著, 2013年)

次回作の舞台、次のうちのどれが良いですか?

  • 実在する京都ののどかな田舎町
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