仮面ライダーブートレグ   作:志村琴音

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第39話です。
もうすぐ終わりだぁっ!
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。



【イメージOP】
THE RiCECOOKERS - NAMInoYUKUSAKI〜天〜

【イメージST】
岩崎琢 - シン・仮面ライダー 音楽集


39 - 1971(F)

 樋下家の屋敷は広大で、一日では到底全てを周り切れない。

 敷地面積と反比例するように、今敷地内にいる人数は極端に少ない。門番が1人と、家事雑用を担当する使用人が数人程度だ。

 それでも一般家庭に比べれば多い方だろうが、普段この屋敷にいる人数と比べれば、その相違は計り知れないものである。

 

 この広さで人がいなければ面倒なことは増えるが、今日に限っては好都合だった。

 誰の目も無い中で、優司達は家の中を隈なく捜索していた。

 孝蔵の部屋は愛花の担当になっているので、優司と颯太は先日使用した応接間を中心に物色していく。

 ビンテージの家具や日用品には特に異常は無く、ただ単に年季が入っているだけだ。

 

 何の手がかりも無いことに、颯太は若干の苛立ちを覚え始める。

 きっと何かある筈だ。あるであろうものが無い。

 その事実が焦燥感を駆り立て、頭をより回らせるのだが、これ以上は却って空回りしてしまいそうな気がするので、どうにか理性をストッパーにしている。

 

 すると共に捜索を行なっていた優司が話しかけてきた。

 

「ずっと気になっていたんだけど、新型のガジェットって本当に軍事利用を目的として作られたものなの?」

「それは俺も思っていた。お前が使っていたやつに比べて、明らかに戦争のために作られたもんじゃない」

 

 優司が使っていた旧型のガジェットは、ショッカーが軍事兵器として導入する際の試作品というのが本質である。

 異様な跳躍力や飛行能力、音波による催眠や強酸性の液体。どれも紛争を行なっている国にとっては、これ以上無い代物であるため、高値で取引できることが確実だ。軍事ビジネスを有利に進めるための切り札とも言える。

 

 それに対し、颯太が使っている新型のガジェットは、情報処理の速度やその性能は確実に上がっているが、軍事利用のために作成されたものかと考えると些か疑問が残る。

 神経毒を持った蔦の作成や純粋な怪力、肉体を液状にすることは大いに役立つだろう。だが接地せず移動することや他のガジェットを回収する能力は戦場でどう活躍するのか想像ができない。

 他にも液体を爆発させる能力や死者を甦らせる能力も、確かに敵を混乱させるという意味では分かるが、それでも回りくどいような気が否めない。

 

「お前は何でだと思う?」颯太が訊く。

 

「最初はただの失敗作の類だと思っていた。けど、だとしたら流通なんてさせなくても良い筈」

「その通りだな」

「壱宮君は、どう考えている?」

(おおむ)ねお前の意見に賛成。ただもう一つ疑問に思っているのは、奴らはここに来ていきなりガジェットを回収し始めた。集めたいのなら、尚更流出させて俺みたいなのの手元に行くことを防ぐようにするだろ? なのに流通させたのは何でだ?」

 

 優司は答えに窮する。

 かと言って颯太も解答を用意していたわけではないので、夏を乗り切るために起動する大きなエアコンの音だけが、部屋の中を反響している。

 

「ま、いずれにしても、アイツらの計画を止めるだけなんだけどな」

 

 刹那、微かに高い声が聞こえた。高い女性の悲鳴だ。

 二人がいる部屋からほんの少ししか聞こえず、また声の主は女性。この条件に当てはまることを考えた時、嫌な予感を覚えてすぐさま2階へと足を早める。

 

 そしてドアを強く開けると、そこでは孝蔵が愛花の首を強く締めていた。孝蔵の目は大きく開き、まるで正気を保っているようには見えない。

 壁に押し付けられた愛花が必死に孝蔵の両手を引き剥がそうとするが、成人男性の力は彼女の手に負えないのものだ。状況は何一つ好転しない。

 

 急いで颯太は孝蔵を蹴り飛ばし、二人の間に立ってこれ以上近付けないようにする。

 優司が愛花のところへ駆け寄って「大丈夫ですか?」と訊くと、慌てて空気を吸い込みながら頷くばかりだ。

 

「お父様の部屋の中を探していたら、見つかって、それで……」

 

 息絶え絶えになりながら事情を説明してくれる愛花。

 蹴りを入れられてから、敵意を剥き出しにしながらも攻撃を仕掛けてこない孝蔵を、颯太は椅子に座らせ、念の為に持ってきた手錠で後ろでに拘束。更に両足首も椅子の脚とくくりつけて完全に動けない状態にする。

 それでもまだ三人を睨みつける孝蔵に、以前のような威厳も何も感じられない。

 

 すると優司の携帯電話が鳴った。

 出てみると着信元は洋平で、淡々と優司に情報を伝えていく。

 少しして通達が終わるのと同時に「念の為外しておくか」と、颯太が孝蔵がかけたH-WATCHを外そうと手を伸ばす。

 すかさず「待って」と颯太を静止させる優司。

 

「それ、外さないで」

「は? 何で?」

「外すと記憶が無くなって、何も聞き出せないかもしれない」

 

 優司の言葉の真意を完全に理解しているかは分からない。

 だが彼の剣幕からその真剣さを感じた颯太は、言う通りにして孝蔵から離れる。

 

「お父様、どうしてこんなことをなさったのですか?」

「全ては、ゲルダム団のためだ……! 我々の目的を遂行する者は、誰だって処分する……!」

 

 愛花が恐る恐る、しかししっかりと孝蔵の方を見て訊く。

 だが目の前にいる父は、ある一つの思惑のために動く歯車だ。それが獣のような歪な理性を持っているので、まるで同じ人間としての親近感を覚えられない。

 

「H-WATCHをこれだけ大々的に宣伝して、多くの人達に行き渡らせようとしたのは、ゲルダム団の思惑に沿ったこと、ですよね?」

 

 優司の質問には、前方を睨んだまま一切答えない。

 そのため肯定という解釈で、都合良く受け止めることにした。

 

「どんな目的なのかは、大体分かりますけど、念の為訊きます。一体何が目的なんですか?」

「お父様、答えてください!」

 

 愛花の言葉も虚しく、孝蔵は依然としてただの異様な歯車のままだ。

 

 三人を横目に、颯太は色々と室内を物色する。

 この部屋でも籠もって仕事に集中するためか、あるのは殆どが仕事で使われるであろうファイルや本、プリントの山だ。

 あのまま愛花が物色しても、何も出てこなかったに違いない。考えてみれば、秘密裏に行う仕事の証拠を自宅に残しておくわけがない。

 ならばこの部屋での収穫は、狂った父の姿だけだろうか。

 

 すると颯太は、孝蔵が使っているデスクの上にコードが無造作に置かれているのを見つけた。

 それは以前、孝蔵が貸してくれた充電用のコードである。有り難いことだったので、公安第五課の面々全員で自身の電子機器を充電するのに使った。

 一見すれば何の偏屈も無いコードで、特段気にすることは無い。

 

 だが颯太には妙に引っ掛かって離れてくれない。

 そういえばこれで充電してから、やけにバッテリーの減りが速くなった。

 そして自分達がいる場所も割り出されるようになった。

 

 だとしたら、これは──。

 

「なぁ、このコードは誰から貰ったものだ?」

「それは……」

「もういい加減言った方が良いんじゃないか? どっちみち、アンタ消されるかもしれないし」

 

 颯太の発言に、孝蔵は思わず振り返ってしまう。

 愛花も驚きのあまり絶句して、何かの反応を示そうと思った体が硬直してしまう。

 

「だってそうだろ。生かしておいたら何話されるか分からない、下手すれば自分達を潰される可能性だってゼロじゃない。そんな奴をそのまま野放しにしておくわけないだろ」

 

 孝蔵は硬直したままだ。

 

「それともあれか? 変な信仰心でまだ黙秘するか? 俺はそれでも良いぞ」

 

 歯車から鋭い歯が消えた。

 先程までの剥き出しの敵意は影を潜め、代わりに静かな言葉が出される。

 

「……ラシャ様から、直接頂いたものです」

「そのこと他の誰かは知っているの?」

「多分、ラシャ様と私しか知りません」

「そうか。分かった」

 

 外して良いよ、と優司が言ったので、颯太は孝蔵の腕にあるH-WATCHに手をかけた。

 慎重に帯を解いて体から離すと、孝蔵の頭が突然垂れた。

 

 心配そうに愛花が駆け寄ったところで、意識を取り戻した。

 先程のように闘争心を曝け出した姿とは一変、牙が全て落ちて歯車ではなくなったただの人間がそこには座っていた。

 

「私は、一体何を……?」

 

 どうやら元通りに戻ったらしい。

 不安が解消されて安堵した愛花が、笑顔で孝蔵に抱きつく。

 椅子に縛られていることや、娘が涙を浮かべながら抱きついていること、更に目の前には見知らぬ2人の男がいることに戸惑いを隠せていないようだが、優司と颯太は気にせず二人だけで会話を進める。

 

「どういうことだ、これ?」

「ようやく分かったんだよ。どうして佐藤さんが暴走したのか」

 

 少し考えた後、答えに辿り着いたようで、優司の方を向いて大きく息を吸った。

 そして優司は三人に背を向けて歩き出し、それに颯太が着いていく。

 

「何処行くんだよ?」

 

 だが優司は一切答えない。

 部屋の中にはずっと父親に抱きついている愛花と、戸惑いながらも彼女の背に腕を回す孝蔵だけが残される。

 扉が閉まる音だけが微かに響いて、何処かへ向かう二人の背中に触れた。

 

 

 

────────────

 

 

 

 大きな川が緩やかに流れる横にある土手に、優司と颯太は並んで立っていた。

 アスファルトで舗装された通路は車1台分しかなく、元々人や自転車が通ることしか想定されていない。

 そのため呼び出された万太郎は、遠くから徒歩でこの場にやって来た。

 

 周りには誰もいないため、三人は遠くの方にある建物の群に囲まれる形となる。

 盗聴などを恐れる彼らにとっては万全の体制だ。

 

「どうした? こんなところまで呼び出して」

「……ちょっと、訊きたいことがあって」と颯太が呟いた。

 

 以降話を切り出せず口籠もる颯太に代わって、優司が口火を切った。

 

「以前、野宮コーポレーションが異世界のショッカーに渡したガジェット。僕が回収して滝口さんにお渡ししたと思うんですけど、その後どうしました?」

「それに関しては、我々が保管している。何も問題は無い」

「おかしいよな」

 

 ようやく颯太が会話に入ってきた。

 

「だとしたら何でゲルダム団の許に3つ全部あったんだ? 奪われたのか? だとしたら何で俺や梶本に言わなかった?」

 

 万太郎は何も答えない。

 その方が好都合なので、颯太は話を続ける。

 

「言えなかったんだよな? 何せバレて色々勘繰られるのが不味いと思ったから」

「何が言いたい?」

「僕達は、貴方がゲルダム団の一員なんじゃないかと思っています」

 

「そんな馬鹿な」と微笑によって否定しようとする。

 

「そして、貴方がラシャなんじゃないかとも」

 

 だが、その笑みは全て無効になった。

 黙って二人の方を見つめる。合った目線は、これまでになく弱いように感じた。

 

「何となく怪しいと思い始めたのは、俺が城島と話した時だよ」

 

 まるで真相に辿り着いたのは自分の手柄であるように、颯太は語る。

 だがここに手柄などというものは無い。

 

「アイツは俺の新作の仮タイトルを知っていた。んでもって、納谷も同じように知っていた。じゃあ城島が納谷に教えたって思うよな? 違ぇんだよ、そんなことできるわけないんだよ。だって納谷はラシャからしか外界のことは聞かないし、城島はこのことを誰かに言った覚えは無い。おまけに出版社の人にもゲルダム団の関係者はいなかった。だったら誰が教えた?」

 

 言葉を紡ぐために息を吸う間も、颯太は目を離さない。

 

「思い出したんだよ。何かの拍子に、アンタにも言ってたわって」

 

 ──言い忘れていたんだけどさ、今度『季節は沈黙する』って言う小説出すんだけどさ──。

 

 それは椎名碧になりすましたゲルダム団の一員を倒した後、やって来た万太郎に颯太がかけた言葉だ。

 あの時はその一員が亡くなったことと、小宮明里による殺人が再開したことの衝撃によって、雑談の始まりであるこのフレーズはすっかり忘れてしまったが、何とか記憶の奥底から手繰り寄せて戻した。

 

「だからさ、論理としてはガバガバだけど、消去法で考えていくとこういう感じになるんだよ」

「確かにそうだな。……だが、それだけで判断されるというのは心外だな」

「えぇ。けど、僕達はもう疑いを拭えないところまで来ているんですよ。壱宮君達のスマホに位置情報を追跡するためのウイルスを仕込んだのは貴方ですよね?」

「何を言っているんだ?」

 

 優司の指摘をかわそうとする万太郎だが、以前のような余裕はまるで見えない。

 平静を装っているが、隠したつもりの動揺は筒抜けだ。

 

「第一、樋下孝蔵にハッキング用のケーブルを渡したのはラシャの筈だ。私なわけがない」

「今、何て仰いました?」

 

 優司の指摘に、万太郎は反論を止める。

 彼の発言の意図が分からなかったが、説明よりも先に察したためか、二人から視線を逸らして合わせようとせず、ただ自分の不覚を恥じた。

 

「僕達はハッキングをされたとは言いましたけど、それがケーブルなんて一言も言っていないですよ。というか、ハッキングにも色々種類があるのに、どうしてケーブルなんてマニアックな所に行き着いたんですか?」

 

 万太郎は未だに相手の方を見ない。

 

「そもそも、ラシャが樋下孝蔵にケーブルを渡していたことを知っているのは、樋下愛花さんと僕達だけです。それ以外で知っているとすれば、当事者の人だけですよね」

「なぁ、そろそろいい加減話したらどうだ?」

 

 万太郎の視線が落下するのと、口から空気が出ていくのは同時だった。

 目を地面に向けて、暫くその状態を保ち、そして再び顔を上げて二人と向き合った。

 喉から出たものが空気を震わせて届くまでの時間は、二人にとって無限に思えた。だが、その瞬間はすぐに来た。

 

「そうだ。俺がラシャだ」

 

 三人の間を静かに風が吹き抜けた。吹き抜けて、すぐに去って行く。

 けれどもまた別の風が追随してくるので、優司と颯太の背中は絶えず生暖かい風にぶつかる。

 

「どうして、今まで黙っていたんですか?」優司が訊く。

「言ってしまえば潜入捜査の一貫だったからな。何処から情報が漏れるかどうかは分からないために、君達にも何も伝えられなかった。すまない」

 

 頭を下げてすぐ上げた万太郎に、今度は颯太が質問をぶつける。

 

「本物のラシャはどうした? まさか、()()()()とかそういうことか?」

「彼は数年前、我々の許に助けを求めてきた。本来のゲルダム団の方向性が、納谷によって変えられそうになっている、下手をすれば殺されるかもしれない、と。なので私がユーザーズシステムを使って彼になりすました。本物にそっくりなりすますことはできないが、被覆を全身に纏った状態であれば問題無かったからな。今、本物は姿も名前を変えて、別人として生活している」

 

 風が止んだ。

 この場にいる誰のことも温めず、今度は何処か肌寒さを覚える。

 

 目の前にいる万太郎の目線は、これまで自分達が見てきたものとはまるで違う。空似の人間のそれを見ているような気がしてならない。

 秘密を抱えていたからか。自分達に隠れて行動していたからか。どれを当てはめても全くしっくりこなくて、ただただ違和感を覚えながら対峙するしかなかった。

 

「納谷は何を企んでいるんだ? ラシャがそこまでするっていうのは、生半可なものじゃねぇだろ」

 

 だが、万太郎が口を開いて答えるよりも速く、事は動いた。

 

「それについては僕が説明しようかな」

 

 耳に障る声が聞こえた。

 優司と颯太が慌てて振り返ると、夏が過ぎようとしているにもかかわらずコートやワイシャツに身を包み、薄らと口角を上げる納谷が立っていた。

 この流れに乗っているためか、彼の笑顔はいつも以上に不気味で、異様に寒気がしてくる。

 

「まさかずっと騙されていただなんてねぇ。考えてもいなかったよ。何となく怪しいなぁとは思っていたけどね、ありえないと思う節があったから。まぁでも良いや。どうせ全ては上手くいくだろうし」

 

 三人はじっと納谷を睨んだままだ。

 彼の一挙手一投足を見逃さないように努めている。見逃せば、肝心なことを取りこぼして、次には自分の命が無くなってしまうかもしれないという緊張が空気を張っていた。

 

 そんな姿を滑稽に思ったのか、納谷はより笑みを浮かべる。

 

「聞きたい? 僕が何を考えているのか」




【裏話・余談】
しつこいようですが、新作のお気に入り登録もよろしくお願いします!

https://syosetu.org/novel/349077/



【参考】
仮面ライダー the second一文字隼人
(ISBN978-4-253-17220-2, 秋田書店, 石ノ森章太郎 著, 2013年)

次回作の舞台、次のうちのどれが良いですか?

  • 実在する京都ののどかな田舎町
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  • その他
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