感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージED】
King Gnu - 破裂
【イメージST】
牛尾憲輔 - Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition - chainsaw edge fragments -
もう辺りが暗くなってきた。ヘッドライトを点けたらその光が前方を明るく照らしてくれる。
ユーザーズストライカーをマンションの近くに停めた優司は、すぐにマンションの中へと駆け込んで行く。
絵麻があんな緊迫した様子であったために一体どうなっているのかと思っていたが、一切の騒ぎが無いために余計不安になってきた。
自動ドアが開けっ放しになっていたため、そのまま入ってみる。
横にスピーカーの置かれた非常階段を徐々に登って行くのだが、何の変哲も無いただの閑静なマンションだ。それがあまりにも不思議で、周りを見渡す目が止まらない。
「絵麻さーん……?」
そして最上階の4階に辿り着いた時、彼は異様な光景を目撃した。
10人近い住人達が一つのドアの前に集まっていて、じっと何かを待っているのだ。
彼等の後ろに立ってみると、住人達が優司の方を見つめる。
その目はまるで獲物を見つめた獣のようで、本能的な恐怖を覚える。
刹那、住人達が雄叫びを上げながら襲い掛かって来た。
拳をぶつけたり、蹴りを喰らわせたり、何故か持っている包丁で刺したりするのであるが、そもそも小さな機械の集合体によって形成されている今の優司にそんな攻撃が効く筈も無く、疲弊の色を見せ始めていく。
すると、住人達は突如として倒れ込んでしまった。
別に優司が何をしたわけでもなければ、彼等が自分でやったわけでもない。
何が起こったのかは分からないが、一先ずドアにノックをして呼び掛けてみる。
「絵麻! 開けて! 絵麻!」
ゆっくりとドアが開く。
恐る恐る顔を覗かせてきたのは、絵麻であった。
「! 優司……!」
「何があったの……?」
「分からない。いきなり住民の人達が倒れて、私達に襲いかかって来てそれで──」
その時、いきなり廊下の灯りが消えた。
先程の倒れた住人達といい、不可思議な出来事によって身の危険を感じた優司は、絵麻を守るためにドアを一旦閉める。
そして廊下を見ると、優司から少し離れたところに一人の老人が立っていた。
老人はじっと優司の方を見据えて、その腹部にはユーザーズドライバーが装着されている。
「貴方は……ユーザー……」
「如何にも。バットユーザー。それが私のもう一つの名前だが、いつもはこのマンションの管理人をしている」
ニッコリと微笑む管理人。その笑みは優司が自分と同じだからだろうか。
「この人達は一体……」
「1年程前に癌を患ってね、人生が終わるかもしれないという恐怖でノイローゼになってしまった。そんな時、私はカウンセリングと音楽療法によって何とか快方に向かっていった。身をもって知ったんだよ。音楽の素晴らしさにね」
廊下の窓から差し込んで来る僅かな光でしか彼の顔は見えないのだが、笑いを抑えることは無い。
「そこで私は音の力を試すことにしてみた。廊下に置いたスピーカーから特殊な音波を発して洗脳し、私の思い通りにする。その効果は私を倒すまで切れない。実に面白い実験だったよ。現にあの三人を襲い、今は私の指示で気を失ってくれるのだから」
これで納得がいった。
どうして全員が一斉に襲い掛かったり、倒れたりしたのか。
どうして非常階段にスピーカーが置かれていたのか。
「私は
「それって、野宮コーポレーションの野宮社長ですか……?」
「ああ。君を始末するように言われている」
管理人の下にパタパタと羽音を鳴らしながら、紺青色のガジェットがやって来た。
『03』『BAT』と書かれたヘキサゴンガジェットには頭部と大きな両翼が付いていて、蝙蝠のようである。
「では、始めよう」
ガジェットの頭部と両翼を内側に仕舞い込んで、ユーザーズドライバーのスロットに装填する。
『
ホーンセクションが目立つジャズ風の待機音声が流れる。
その中で管理人はレバーの上に左の掌を乗せ、静かに呟くとゆっくりと下げた。
「変身!」
『変身シークエンスを開始します』
管理人の身体が黒く変色すると形が段々と変わっていって、新しい色が付けられた。
その姿はまるで巨大な蝙蝠の化け物だ。暗闇が良く似合う紺青の身体の両端には、強固な骨組みが組み込まれた両翼が付けられ、頭部はというと、鋭い牙や尖った耳が付いている。
『BAT』
彼が変身をしたバットユーザーは最早人間の体成しておらず、これがライドボットによって身体を形成することの最大の利点なのだと、優司は痛感をした。
対抗をするために優司も、やって来たホッパーガジェットを変形させてドライバーへと装填をする。
『
けれどもバットユーザーは両足で優司を掴むと、窓を破って外に出、両翼によって空高く飛翔をする。一切の身動きが出来ない優司はされるがままだ。
かなり高い場所までやって来た。普通の人間であれば落ちれば即死をするような高さで、現状死ぬことは無いこの身体だったとしても恐怖を感じる。
「同じ力を使う者同士、歳の離れた友人にでもなれると思ったんだが、残念だ」
「……僕は貴方とは違う……!」
「違う? 同じじゃないか。強大な力を手にし、それを使って誰かに危害を加えている。何が違うと言うんだね」
何も言い返せない。
目の前の化け物は人を意のままに操り、自身は人を殺した。
差は無い。寧ろ自分の方が罪深い。
「さらばだ、ホッパーユーザー。いや、ブートレグ」
手の中から優司がふと放たれた。
真っ直ぐと道路の方へと落下をしていって、そのスピードは徐々に速くなっていくのだ。
──違う……。
優司の頭の中で、つい先程言われた自分の名前達が浮かび上がっていた。
それはただ組織が作った名前だ。ただ人を貶め、蔑むだけの名前だ。
けれども自分は違う。
同じようなシステムで作られた、全く違うものなのだ。
ホッパーユーザーでも、ブートレグでもない。僕は僕だ。
せめて名前だけでも否定をしなければと唐突に思った。
だから優司は叫んだ。
自分の大切な人がつけてくれた、新しい名前を。
「僕の名前は──」
「仮面ライダーだ……! 変身!」
『変身シークエンスを開始します』
レバーを押し込んだ瞬間、優司が地面に頭から着地。
ライドボットの集合体で出来上がっている身体はボロボロに崩壊してしまう。
天高くより眺めていたバットユーザーはニヤリと笑った。
これで邪魔者はいなくなった。後は部屋の中にいる小娘達を我が物にすれば、実験は完璧となる。
だがその考えは一度白紙に戻さなければならないようである。
突如、バットユーザーの両足に何かが伸し掛かってくる感覚が来た。
確認をしてみると、何と落とした筈の優司──ブートレグが両足にしがみ付いているではないか。
彼は崩れた身体をこの姿に再形成し、飛蝗の力を利用した圧倒的な跳躍力を利用してここに辿り着いたのである。
「何!?」
激しい旋回を行うことによってブートレグを振り落とすことに成功したのだが、彼はしっかりとマンションの屋上に着地をする。
バットユーザーが攻撃を仕掛ける。
翼を使って空を移動し、隙あらば両足に付いた鉤爪で引っ掻こうと試みる。
ブートレグはそれらを軽々と避け逆に、迫って来たバットユーザーの右の翼に右足で回し蹴りを喰らわせた。
「ハァッ!」
「ッ……!」
右翼を破壊されたバットユーザーが屋上に落ちる。
以前のように上手く飛ぶことが出来なくなった彼に、最早勝ち目は無いと思った。
「これで終わりだ……!」
だが、
「そうはさせないよ」
バットユーザーは左翼を器用に使い、ユーザーズドライバーのレバーを押す。
『BAT FINISH』
獣の耳が紫色に光始める。暗い屋外で怪しげに光るそれは、ブラックライトのようで綺麗であった。
見惚れようとしてしまった瞬間、そこから同じく紫色の波が出始めた。実体を持たない波がゆっくりと近付いて、ブートレグを通り過ぎた瞬間、
「!? グァァァァァッ……!」
いきなりブートレグが悶え苦しみ始めた。両耳を手で押さえ、膝から崩れ落ちてしまう。
「さっきのスピーカーから出していた特殊な音波を応用したものだ。両耳から出すこれは機械の動きを鈍らせることが可能。私と同じように機械で出来た君にはひとたまりもないだろう?」
益々波の周期は速くなって、更には威力も高くなってきた。
身体が怠くなっていって、徐々に意識が朦朧としてくる。このまま死ぬのかとさえ思ってしまう程だ。
「これで終わりだ」
けれどもそう簡単に終わることは無かった。
「ッ!?」
突然何かが破裂するような音が聞こえたのと同時に、右の脇腹が少しだけ欠けたバットユーザーが左の方へと倒れた。
音波が止まって身体の怠さが治ったので右側を見てみると、そこには花蓮が平然と立っていた。
「花蓮さん!」
「優司君。これを使って」
花蓮が右手で何かを投げた。
投げた物は変形をして地面に降り立つとゆっくり地面を歩いて、ブートレグの方へとジャンプをして来た。
両手で受け止めたものは、スパイダーユーザーが使っていた紅色のヘキサゴンガジェットだった。
「これは……」
「ブートレグシステムには2つ機能があるって言ったでしょ? 一つ目はやられても死なないこと。そしてもう一つは、
ヘキサゴンガジェットは通常、一人につき1つしか使うことを許されない。けど所有権を奪って自分の力にすることが出来る。試しにそれを使ってみて」
厄介な相手であるため、もう使える物であれば何でも使おうと思ったブートレグは、ドライバーの上部にある透明なボタンを押した。するとドライバーの前部が捲れ、中身が露出する。
そこからホッパーガジェットを取り出すと元の状態に戻し、ただの六角形に変形させたスパイダーガジェットをスロットに装填した。
『
ギターをメインにしたロックンロールがドライバーから流れる。
その間に彼はレバーを下に押した。
『変身シークエンスを開始します』
ブートレグの身体が再び黒色になると一瞬で形が変わり、色が付け加えられた。
黒いアンダースーツの上から真紅の鎧が着けられ、背中から黒いマントが伸びている。頭部の特徴的な赤い垂れ目は変わらないが、2本の赤い角の形は大きく、鬼のようだ。
そしてドライバーの中央にあるものが、飛蝗の絵から蜘蛛の絵に変わっている。
『SPIDER』
これが紅色のガジェットを使って変身をした戦士。仮面ライダーブートレグ スパイダーフォームだ。
「姿が変わった程度で、一体何だと言うんだっ!」
バットユーザーが不完全な両翼を使って少しばかり浮かび上がり、両耳から再び音波を流し始めた。
するとブートレグは左手から白い糸を出すと、それを隣の建物の屋上へと伸ばし、引っ張られる形で移動をする。こうして音波攻撃を回避したわけだ。
其方へ追い掛けようと飛翔をするバットユーザーを嘲笑うかのように、ブートレグは両手から糸を放出すると、左手の方はバットユーザーに、右手の方は元いたマンションの屋上にくくり付け、標的を引っ張りながら着地する。けれどもバットユーザーは着地に失敗をして、倒れ込んでしまった。
こうなれば一気にけりを付けようと、バットユーザーは音波を放出した。
今回は更に強力なものにし、確実に敵を葬ろうとする。
だがブートレグは両手から糸を出すと、標的の両耳を覆うようにした。白い糸で全てを覆われた両耳は使い物にならず、音波が流れ出す隙間など微塵にも無い。
「しまった! ……ここは撤退するとしよう……!」
バットユーザーがまだ癒えていない両翼を使って、後方へと逃げ始めた。もう勝ち目は無いと睨んでのことである。
するとブートレグは黒いマントを4本の黒い腕に変形させると、そこから自分の後ろ側に次々と糸を出して編んでいく。
そうして出来上がったのは、大きな網だ。糸で出来ていることから、非常に柔らかそうである。
ドライバーのレバーを下げてまた両手から糸を放出。バットユーザーに括り付けると、自身は後ろにジャンプをして網に背中を預ける。
その反動を使って前方へと身を投げ出した瞬間、括り付けられた獲物は逆にブートレグの方へと強制的に引っ張られてしまう。
そして彼は右手を出した状態で進み、頭の中で思いついた名前を即興で口に出してみるのだった。
『SPIDER FINISH』
「ライダーキック!」
バットユーザーの身体をキックが貫く。
貫いて通り過ぎる瞬間、彼の身体からヘキサゴンガジェットを回収すると、4本の腕から出した糸を屋上にある網に引っ掛け、そこに戻って着地をする。
「ギァァァァァッ!」
『Rest in peace. 次の人生に、ご期待ください』
怪物はただの黒い粒子となって、サラサラと地面に落ちていく。
右手の中に収まる「03」「BAT」と書かれた紫紺のヘキサゴンガジェットを見つめながら、ブートレグはまだいた花蓮に話しかける。
「他人の力を使う。……けどそれは完全に同じものじゃなくて、少しだけオリジナリティがある」
「そう。だから名前を『ブートレグ』と名付けた」
「……何と言うか……滑稽ですね」
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。もう空想のような光景から現実に戻る時が来たようである。
なのでブートレグは変身を解除すると、誰もいなくなった宙空に向けて、目を瞑りながらゆっくりと会釈をした。
────────────
野宮
画面の中には10個の六角形が配置されていて、そのうちの2つに赤い罰点が重なっている。
「これで、残りは8体。……いや、
「彼」というのは、言わずもがな優司のことだ。
同じ力を手にしながら、歯向かって来る敵のことなどカウントするわけがない。
しかも相手は倒しても本体の身体をどうにかしなければ死ぬことは無い。それが非常に厄介だ。
「けど殺しちゃったら、それはそれで困る、ですよね?」
暗い部屋の中では良く見えないが、彼の目の前には一体の怪人が立っている。
何とも妖艶なフォルムをした
「……そうだ。とにかく今は泳がせる。君には、彼等の観察を頼む」
「そうは言っても、私が彼と一緒になれる時間は限られていますよ」
「それでもだ」
「……分かりました」
そう言って怪人は、部屋の中から姿を消した。
────────────
その後、マンションの住人の洗脳は全て解けた。
今は万太郎の返り討ちにあって怪我をした者達を救急車が運び、警察が事情聴取をしているところである。
聴取が終わり、ヒロミと別れた絵麻は、花蓮の隣に並んで優司と向かい合っていた。
彼の拳はギュッと握られていて、また無理をしてしまったのかと絵麻は思った。
「もう、後悔は無い?」
花蓮が訊く。
「……はい。正直、まだ迷いとか葛藤はあります。……けど、僕は自分のために誰かを傷付ける人が許せない。誰か傷付く前に守る。そのためにショッカーと戦います」
少しだけ目が泳いでいたのだが、言葉の最後にはしっかりと前方を見るようになっていたため、花蓮は一先ず安堵する。
すると今度は絵麻が花蓮の方を向いた。じっと姉のことを睨むため、花蓮は緊張してしまう。
「正直言って、お姉ちゃんが優司にしたことを許すつもりは無いよ。……でも、こうするしか無かったっていうことは充分解ったし、直接戦うことの出来ない私に何も言うことは出来ないから」
次に絵麻は優司の方を向く。
「絶対無理はしないで。……アンタがいなくなったら、嫌だから」
「……優しいんだね、絵麻は」
微笑みながら言う優司に、絵麻は顔を赤らめてしまった。
「べ、別に! 心配しているとかじゃなくて、ただ死んだらお姉ちゃんのせいになっちゃうでしょ! だからよ……!」
必死な絵麻の様子を見た花蓮もふと微笑み、そして三人は家へと歩き始めた。
「そういえば花蓮さん。あの時どうやってバットユーザーに攻撃を?」
「ん? ああ。ちょちょっと、ね」
何故だかこれ以上の解答を得るのは怖いと思ってしまったため、口を噤むことにする。
代わりに今度は花蓮が絵麻に話しかけた。
「絵麻ちゃんのそのブローチ、素敵ね」
「これ? 何か、いきなり滝口さんに渡されたのよ」
「滝口さんが?」
「流石私の娘。モテるわね〜」
「やめてよお姉ちゃん」
笑い合いながら足を進める三人であったが、ふと絵麻が遠くの方を見ながら停止をした。
そこではスーツ姿の滝口が何処かに電話をかけている。
「……ああ。このプローチはかなり役に立った。まさか本当にあの音波を妨害出来るとはな。……詳細なら追って連絡する。今は待て」
ここで電話を切った。
──どういうこと……?
頭の中で整理が出来ない絵麻。
どうにか納得させようとしたところで、花蓮に呼びかけられてしまったため、絵麻は再び足を進めた。
因みに今作には2号ライダーは登場しません。ブートレグ一人で物語を回します。
【参考】
仮面ライダー the first本郷猛
(秋田文庫, 石ノ森章太郎 著, 2013年)
コウモリ - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%82%b3%e3%82%a6%e3%83%a2%e3%83%aa)
蝙蝠男|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/741)
バット|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/1396)
ヒロインのうち、どっちがお好きですか?
-
翡翠花蓮
-
翡翠絵麻