蜘蛛、蝙蝠と来て、今回は……?
感想や読了報告等くださると筆者の励みになります故、何卒宜しくお願いいたします。
【イメージOP】
WONK - Passione
【イメージST】
牛尾憲輔 - Chainsaw Man Original Soundtrack Complete Edition - chainsaw edge fragments -
「やめろ……」
午後11時。スーツを着た一人の男が高層ビルの屋上を覚束無い足取りでふらふらと歩いていた。
こんな時間に屋上に人がいるとは誰も予想出来ない。なので灯りなど灯っておらず、他のビルから出される光を使って、男は一歩ずつ進んでいるのだ。
更に彼の後ろを10人近い女が歩いている。
まるで男を追い詰めるかのようだ。
男の左手にはスマートフォンが握られている。
画面の中で大量の白い文字列が下から上へと流れていき、可愛らしい女の声が聞こえてくる。
『あ。ゆうちゃんさん、いつもスパチャ有り難うございます〜!』
「「「献上しろ」」」
「やめろ……」
嬉しそうな女の声と後ろの群からの無機質な声が響く度、男は一歩一歩足を進めて行く。
途中、手元からスマートフォンは落ちてしまったのだが、そんなことは一切お構い無しだ。
『いや〜いつも皆さんに助けてもらっています。有り難う』
「「「献上しろ」」」
「やめてくれぇぇぇぇぇっ!」
その断末魔を最後に、男はビルの屋上を駆けて行って、遂に勢い良く飛び降りてしまった。
男がいた痕跡は女の笑い声が聞こえるスマートフォンだけであり、下の方で聞こえてくる悲鳴とは非常に相性が悪かった。
────────────
もう1年半以上前の出来事である。
まだ東京の病院に入院をしていた優司のところに、深田博がやって来た。
ネクタイをしていないスーツ姿の博は病院の食堂で優司と向かい合い、左隣には優司の主治医である広瀬杏奈が座っていた。白衣を身に纏う彼女の可愛らしさの中には、何処か妖艶な雰囲気が漂っている。
「国内留学生の件、無事に通った」
「本当ですか……!」
「ああ」
「良かったわね、優司君」
博の報告に驚きながらも嬉しそうな様子の優司に、彼以上の喜びを見せる杏奈。
「一応、3月に中学を卒業したら、此方に来てもらう形になる。何かあれば、市役所に電話してくれれば僕が出られる。その点は任せてくれ」
そうは言われたのだが、優司の顔が徐々に暗くなっていく。
博と杏奈は少し不安になってきた。
「どうしたの?」
「……大丈夫なんですかね? ……だって、この病院から殆ど出ていなくて、人とのコミュニケーションが上手く出来るかどうか分からないですし……。このままだと、花蓮さんや絵麻としか話せなくて、二人に迷惑をかけるんじゃ……」
そういえば優司はこの数年間、殆ど病院を出ていない。
学校も病院内で済ませていたため地域の人とは交流が無いし、同じく病院の中で学んだ同年代の者達は大半がこの世を去ってしまった。
言わばある種の孤独だ。そんな状態で新しい土地を足で踏んでみれば、彼女等に迷惑をかけてしまうこと間違いない。
すると、
「どうなるか僕には分からないけど、今は別に何もする必要は無い。ただ外での日々を謳歌すればそれで良いと思っている。そうしていれば、いつか誰かが寄って来てくれる」
何故か博の言葉には説得力があった。
優司が顔を挙げて博の方を見ると、彼の口角はほんの少しだけ上がってはいるのだが、目は真っ直ぐと優司の方を向いていて、その中に吸い込まれそうな感覚を覚える。
そのため、何処からともなくやって来た安心感に寄って、優司はゆっくりと微笑むことが出来るようになった。
彼等の様子を見た杏奈は一先ず安堵し、話しかける。
「それに、私もいるから大丈夫よ。優司君だけじゃなくて、深田さんのも治さなきゃいけないんだから」
「え、ちょっと勘弁してくださいよぉ〜」
首を捻りながら困った顔をする博。
そんな彼を見て優司と杏奈は笑いあうのだ。
──優司。
「?」
何処からか声が聞こえてきた。
けど目の前の二人が名前を呼んだわけでもないし、一体何だと優司は戸惑う。
──優司。
「優司君」
花蓮の呼びかけによって気が付いた時、優司はCafe Amigoのカウンターテーブルの前に座っていた。どうやら夢を見ていたらしいが、起きてすぐの頭でそれを理解することは難しい。
午後8時には店を閉めてしまうこの店にはもう客はおらず、今はこの家に住んでいる四人しかいないのだ。
「疲れてたのか? ずっと寝ていたけど」
「ちょっと……。多分、疲れが溜まって……」
例え自らの肉体を使っていなかったとしても、脳は疲れを感じてしまう。
数週間前のバットユーザーとの戦いの疲れは取れたのだが、つい一昨日はゴリラユーザーとの戦いがあった。中々に骨の折れる相手であったため、ここまで疲弊をしてしまっている。
「じゃあ私が食べさせてあげようか?」
優司の右隣に座る花蓮は、自身の前にあるドリアの一部をスプーンで掬うと、肩を組んで身体を密着させる。
その時、優司は右腕に伝わる感触に変な声が出そうになった。いつも薄い服を着ていることから見て判る通り、花蓮の胸元には良く熟された果実が2つある。思っていた程柔らかくはなくただ当たっているという風にしか言いようの無いのだが、それでも思春期の優司には刺激が大きい。
「はい、あーん」
湯気の出るドリアが乗っかったスプーンを優司の口元に運ぼうとするのだが、
「何してるのお姉ちゃん」
と、絵麻によって阻止させられる。
邪魔された花蓮は嫌な顔をして絵麻を見つめるのだ。
「自分で食べられるから。でしょ、優司」
「う、うん……。すみません、花蓮さん……」
「ちぇーっ。折角優司君とイチャイチャ出来ると思ったのに……」
「そんなことさせるわけないでしょ」
睨みを効かせる絵麻。
残念そうな表情を見せる花蓮。
そんな二人に板挟みになって戸惑う優司。
アオハルの産物と言えばそれまでなのだが、中々にカオスな光景を見つめる武史はただ笑顔なだけだ。まぁ、それがただの日常であるがために、慣れているだけに過ぎないのだが。
すると、
「吉花さん、今って何時ですか?」
「え? えぇっと……
「!? 不味い……!」
優司が花蓮を振り解いて厨房の中に入って行くと、更に奥にある階段を登って行った。
あの焦りように花蓮と絵麻は呆気に取られてしまい、花蓮は優司を追いかけることにした。
「ねぇおじさん。何であんなに焦ってたの?」
質問を投げかけた絵麻は、水の入ったコップに口をつける。
「ん? いや、あれだろ。あの、Vtuberってやつ」
「!?」
咽せてしまった。
「え!? ぶ、Vtuber!?」
Vtuberとは、動画投稿サイト『WanTube』にて活動をする動画配信者の一種だ。身体の動きに連動をする二次元のアバターを使うことによって、顔を出さずとも配信が出来る。おまけに、まるでアニメのキャラに人格が生まれてリアルタイムで話してくれているような感覚を味わえることから、近年その人気は急速に高まっている。
しかしまさか優司も好きだとは思っていなかった。
いつも三島由紀夫や宮沢賢治、中原中也といった文豪達が紡いできた、永遠に語り継がれる文字の群だけを信仰していると思っていた彼が、何年続いていつに滅びるか分からないものに興味を示すだなんて。
──まだ知らないことだらけなんだな……。
絵麻は勝手に自分に落胆してしまう。
する必要の無いことをした彼女は、再度コップに口をつけて中身を飲み干した。
自室に入りデスクの前に座った優司は、自身のスマートフォンを操作して、机上に立たせる。
画面の中では大量の文字が下から上へと急速に流れ、その横では鮮やかな赤いジャージを纏う紫色のポニーテールの女性のアバターが、上半身だけを顕にしていた。
『はーい、皆さんこんばんはー。銀河一の最強女剣士、
マリアと名乗ったVtuberは可愛らしい声で挨拶をする。
それに優司は「ゆうちゃん」というアカウントを使って、「こんばんは。いつも楽しく観ています!」とメッセージを書いた500円分のスーパーチャットを送るのだ。
『あ、ゆうちゃんさん、いつもスパチャ有り難うございまーす!』
お礼を言われるとこちらまで嬉しくなってしまう。
学生にとってすれば500円という金額は決して安くはないのだが、それでも送った甲斐があったと思えるのならそれで良いと思う。
木野塚マリアは3年前から活動をしているVtuberだ。実際に本人が剣舞で業績を上げていたため、設定もそのようになっている。
徐々に業績を上げていき、そして5ヶ月程前からスーパーチャット等での収益額が世界で五本の指に入る程となったことで、最近ニュースにもなった。
そういえば2ヶ月程前にヘルニアを発症し手術をしたばかりで、術後初の配信が今日である。
何かの足しになれば。
そう思った優司は配信の概要欄を開いてスクロールをし、「メンバーシップ登録はこちら!」の文字の下にあるURLに手を伸ばした──。
「へぇ〜。こういう
「!?」
後ろから聞こえてきた声に、優司は手を止めて振り返ってしまう。
そこにはニヤニヤしている花蓮が立っていた。
「な、何でここに!?」
「だって、こんなスタイルの良い美女を置いて会いたいのはどんな人か気になるじゃない」
「だからって……勝手に部屋に入ること無いじゃないですか……」
何というか、母親っぽいことだ。
すると花蓮はスマートフォンの画面に更に顔を近づける。
そして彼の右手を掴み、右耳に囁いた。
「メンバーシップには入らない方が良いよ。もし入ったら……私がその娘のコスプレするから」
えげつない脅しだ。
そんなことをしてみろ。強制的に推すことをやめさせられるような蛮行は、未成年を汚すこと他ならない。
怯える優司に投げキッスをした花蓮は、笑顔で部屋を去って行く。
本来、こういう時の僅かな抵抗として、隠れて登録をするという手がある。だがそんな手が花蓮に通用するわけないと思った優司は、そっとスマートフォンを置いてただ配信を視聴するだけにした。
────────────
翌日の昼。
優司と絵麻は外にあるベンチに座って昼食をとっていた。武史の作ってくれた弁当に舌鼓を打つ二人であったが、ふと絵麻が話しかけてきた。
「ところで、名前忘れたけど、あの人と趣味合いそうだったじゃん」
「うん……。けどやっぱり、自分から話しかけるとなると緊張しちゃって……」
今から数時間前の話である。
休み時間の際に、優司を含めた男子生徒5名程で趣味を言い合うゲームらしきものをしていた。
ある生徒はサッカー、ある生徒はゲーム、またある生徒は魚釣りであった。その中で恐る恐る優司がVtuberが好きだと言ってみると、割と受け入れられただけではなく、眼鏡をかけたアフロの男子生徒も同じだと言ってくれたのだ。
彼はなんと2ヶ月程前から木野塚マリアのメンバーシップに加入しているらしく、今は金欠でスーパーチャットこそ出来ていないが、ずっと推しているらしいのだ。
優司にとって新たな人脈を確保するための絶好の機会であったのだが、自分から話しかけることは出来ず、今は絵麻と二人で寂しく弁当を食しているわけである。
「……まぁ、私に話しかけてくれるのは、嬉しいけど……」
「ん?」
その時、ふと優司がスクールバッグの中から水筒を取り出そうと振り返ったところで、校舎にごく僅かな異変があることに気がついた。
「? どうしたの?」
優司がゆっくりと指差す方を絵麻も見てみる。
そこは屋上であった。緑色の高いフェンスの向こう側にアフロの男が立っていて、覚束無い足取りで歩いている。
彼が先程優司と趣味が合いそうであった男子生徒でだと判った次の瞬間、フェンスに両手両足を引っ掛けて登ろうとし始めた。
──まさか……飛び降り自殺……!?
「絵麻、身体お願い」
「え、あ、うん……!」
優司はバッグの中で探す対象を水筒からユーザーズドライバーに変え、取り出したそれを腰に巻くとレバーを押す。
こういう時のために持って来ていて正解だった。
『只今より、意識を転送します』
ゆっくりと目が閉じられ、絵麻の方に倒れる。
彼の抜け殻を受け止めた際に絵麻は、校門の手前で一人の女が校舎を眺めているのを見た。絵麻の視線を感じたのか、女はすぐに何処かに行ってしまう。
けれども問題はそれではないと、再び屋上の方へと目線を合わせた。
さて、屋上のフェンスを攀じ登っている男子生徒が頂上まで辿り着いてしまった。
後はここから身を投げるだけである。
だが腰を思いっきり引っ張られ、床に落ちてしまった。
やったのは言わずもがな、優司である。どうやら学校の敷地内にグリーンボックスがあったらしく、そこからライドボットを屋上に放出して、移動時間を短縮したのだ。
そして今は転がった状態で男子生徒が動けないように押さえつけている。
「何しているんですか……! 早まらないでください……!」
「止めないでくれ! あいつが、あいつらが来る……!」
「? あいつら……?」
すると、
「「「献上しろ」」」
「ひぃっ!」
何人かの女の声が聞こえたのと同時に、男子生徒が両耳を押さえて何も聞かないようにする。
優司が腰を押さえたまま後ろを向くと、そこには10人程の女が立っていた。レディーススーツにTシャツ、SM嬢が着そうなボンテージ等、服装こそまばらなのであるが、彼女等の中にはある種の統一性があって気色が悪い。
只事ではないと優司が警戒をした瞬間──
「早く私に貢いでくれない?」
無機質なものとは打って変わって、気品と狂気に溢れた声が聞こえてきて、女達の前に何かが降り立った。
それは狐色の怪人だった。
全身に纏う白いラインの入った狐色の装甲はまるでフェンシングのユニフォーム。しかし羽織っている赤色のジャージや、腹部に巻かれて残りが左脚の方へと垂れているジャージのズボンの影響から、フェンシング選手が出す上品さは半減してしまっている。
黒い尖った複眼やクラッシャー、2本の角に後頭部からポニーテールのように伸びる紫色の長い毛が付属した、細かい模様の入っている狐色の仮面は、蜂を彷彿とさせるのだ。
「貴方は……ユーザー……!」
「そう。ワスプユーザーっていうの。結構デザイン格好良いでしょ? お気に入りなの」
腰に巻かれたドライバーで瞬時に見切った優司に、ワスプユーザーは丁寧に自己紹介をしてくれる。
何処か声のトーンに聞き馴染みを覚えながら、一先ず男子生徒を逃すことにした。
「……逃げてください……!」
「え、いや、でも──」
「いいから早く……。急いで……!」
指示通りにしないと不味いと感じた男子生徒は、一目散に目の前にある扉を開いて逃げ出す。
これで後は自分とワスプユーザー、そして謎の女性陣だけになった。
「この人達は何なんですか?」
「私が洗脳した女の子達。さっきみたいに取り立てをやってもらってるの」
「取り立て?」
「そ。ま、そんなことどうだって良いじゃない。折角の良いカモを逃したアンタを、許さないから……!」
するとワスプユーザーは手の中で何かを形成していく。
放出されたライドボットは形を成していって、そして遂に一本のサーベルになった。
どうやら此方に牙を剥く気らしい。
「そっちがその気なら、僕も……!」
遠くの方からホッパーガジェットがやって来たので、優司はそれを右手で掴んで両脚と頭部を仕舞い込み、ドライバーのスロットに装填する。
『
「変身!」
『変身シークエンスを開始します』
焦茶色の戦士──仮面ライダーブートレグ ホッパーフォームに変身を遂げた優司。
そんな彼にワスプユーザーは容赦無くサーベルを刺そうと試みる。
けれどもブートレグはジャンプをすることで軽々と避け、後方から右足で回し蹴りを喰らわせる。
「ッ!」
更にサーベルを持つ彼女の右手を左足で蹴り、サーベルを吹き飛ばす。
隙の生まれた相手に、今度は何発もパンチを繰り出して後退させた。
「やるわねぇ……っ。……けど、私はこんなもんじゃないわよ……!」
するとワスプユーザーはジャージを一度バラバラに崩壊させると、新しい形に作り直す。
完成したのは巨大な羽根だ。鮮やかに光るそれは、昆虫のものに似ている。
羽根を展開した彼女は飛び立つと、瞬時に落としたサーベルを拾い、ブートレグに斬りつける。
「グッ……!」
猛スピードで華やかに宙を舞うワスプユーザーは、何度も何度もブートレグに近づいては斬撃をお見舞いするのだ。
スピードにはある程度長けているこの形態であったとしても、ブートレグはあまりのスピードに手も足も出ない。
そして止めだと言わんばかりに、ワスプユーザーはドライバーのレバーを押し込み、狐色のエネルギーが溜まっていく刃を当てて、横文字に裂いた。
「ッアアッ……!」
痛みは感じない。
けれどもその衝撃は確かに分かるため、後方に飛ばされてしまい、変身を解除されてしまった。
身体を形成する機械達が故障してしまっているからか、上手く身体が動かない。
「貴方を倒すこと。それが私の使命らしいんだけど、もう
そうは言うものの、ただ単に飽きただけではないのだろうか。
そう突っ込まれてもおかしくない態度をしたワスプユーザーは、後ろ向いて去ろうとする。
「配信……。まさか、貴方の正体って……!」
あの話し方。
あの剣の腕前。
その全てに心当たりがあった。
やっと気がついたのか、とワスプユーザーは振り返り、サーベルを上に向けて左手を腰に当てるという、古典的なポーズをとった。
そして
「銀河一の最強女剣士、木野塚マリアでーす!」
最近Vtuberにハマったので、この回は絶対にやりたかったんですよね。
【参考】
ハチ - Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%e3%83%8f%e3%83%81)
蜂女|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/746)
ハチオーグ(変身後)|仮面ライダー図鑑|東映
(https://www.kamen-rider-official.com/zukan/phantoms/1690)
忍者スズメバチ|手裏剣戦隊ニンニンジャー|テレビ朝日
(https://www.tv-asahi.co.jp/ninnin/contents/Youkai/0031/)
第32回オリンピック競技大会(2020/東京)オフィシャルスポーツウェア - JOC
(https://www.joc.or.jp/sp/games/olympic/tokyo/sportswear/)
椎間板ヘルニアの手術について|岩井整形外科病院
(https://www.iwai.com/iwai-seikei/shujutsu/herunia.php)
今作、前作の『仮面ライダーアクト』と何かしら関連性がある描写とかしだすのはアリですかね?(やるかどうかは分かりません)
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無理の無い範囲だったらアリ!
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それは流石にちょっと……。