Muv-Luv 蒼穹よりの救世主   作:Red_stone

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第1話 蒼穹よりの救世主

 

 

 人類がBETAと戦争を始めたのは1967年のことだった。そこから人類とBETAの戦争の歴史が始まり――そして、簡単に人類は存亡の危機に立たされた。

 瞬く間にユーラシア大陸は更地にされ、更に侵攻が進み1998年には日本で熾烈な防衛戦が発生し敗北を喫した。首都は京都から東京に移され、日本人口の30%が犠牲となった。

 

 そして、現在……翌年1999年に本州奪還作戦である明星作戦が始まった。これはBETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反抗作戦。

 ――人類の未来を占う決戦である。

 ここで”またも”敗北するようであれば、勝利の未来など欠片も浮かばない。勝てる”かもしれない”と夢想するためには勝たねばならない。それほどまでに人類は追い詰められていた。

 

 ゆえに国連軍、大東亜連合協力の元日本帝国軍が行う総力戦を実行する。将兵は命をかけて、BETAから人類の土地を取り戻すために戦うのだ。

 

 

 人類の敵……BETAは奪った土地に穴を開けてその上に地上構造物=モニュメントを築く。そして、そこを拠点に土地を”殺して”行く。草木一本生えない荒野に変えてしまうのだ。

 そのモニュメントを目印に全軍がそこを目指している。BETAにとっての拠点、そこを破壊すれば勝てると信じて。

 だが、現状は厳しい。至るところで戦闘が発生しているが、人類側は押し切れない。どころか、敵のあまりの物量によって各個撃破のような形になってしまっている。戦艦からの砲撃支援だって間に合っていない。

 ――これでは、じり貧だ。

 

「くそっ! やつら、どんだけいやがる……!?」

「無駄口を利くな! 集中しろ!」

 

「だけど、奴ら倒しても倒しても……!」

「だから集中しろと言っている! 集中を切らせば……!」

 

 エレメントを組んだ二名が口汚く愚痴をこぼしながらも敵を処理していく。部隊の中でもエースを自認するこの二人組は無数の戦車級を片手間に処理しながら、要塞級の相手をしている。

 それは120㎜砲でなければ相手ができない化け物だ。硬く、大きく――その10本の脚による打撃は容易に戦術機を貫く。

 初心者では、あっけなく死んでしまうだろう。……いや、実際に目の前で死んだのだ。元々は8名で組んでいたが、1人がコイツに殺されてバディを失ったもう一人もあっけなく殺された。

 2機が欠けた6機でこの窮地を打破、いや……攻め上がることまでしなければ人類側の勝利は厳しい状況だ。

 

「……ひ!?」

 

 そして、今――もう一人が危機に瀕した。無限に涌くかのごとき戦車級に、脚に取りつかれてしまった。

 それは小さな雑魚とは言えど、侮ってはならない。そいつはその数の多さから、最も多くの衛士を殺したBETAである。

 

「うわ! わああああ――ッ!」

 

 そいつは半狂乱で叫んで……

 

「おい、テメエ! 止まれ! 動いたらぶっ殺す!」

「ひゃいっ!」

 

 銃のトリガーを引いて、あらぬところを撃つ……その前に怒鳴られて動きを止め、足にとりついた戦車級は弾丸で撃たれて吹っ飛んだ。

 ……機体に浅くない傷を残しながら。2度、3度と使える手ではない。それでも、今は生き残った。

 

「こっちは要塞級の処理完了だ。初心者のお守り、ごくろうさん」

「チッ! だが、支援砲撃はどうなってやがる。米軍はわざわざ日本までサボりに来たのか!? BETAの密度が高すぎて、どの部隊も全然モニュメントまで近づけてねえじゃねえか!」

 

「だが、一歩ずつ進むしかない。更に前進しなければ、この作戦に意味は……なに?」

「おい、どうした。もしかして上からの指示か?」

 

「――ふざけるな! 退いてどうなるというのだ!? 我々は祖国を取り戻すためなら、玉砕することも厭わない! ……なに? 違う? ……米軍の新型爆弾?」

「お……おい。どうした……?」

 

 このトップ二人が部隊を率いている。だが、どうやらリーダーの方で雲行きが怪しい。軍人にもかかわらず、ここまで反抗心をむき出しにするとは相当な。

 

「……分かった。部隊を撤退させる」

「ば……馬鹿か! ここで退けば明星作戦は……!」

 

「どうやら米軍は日本政府の意向すら無視して新型爆弾ですべてを焼き尽くす気らしい。正直私も気に食わんが……ともかく、撤退する」

「おい、それで納得できるのかよ!」

 

「私たちは軍人だ! 上の意向に従え! ……残っても無駄死にだぞ」

「……っち。了解」

 

「全員、撤退だ! 逃げる間に墜落だの光線級に撃ち落とされだのしてみろ! 私が地獄まで追いかけて行ってもう一度殺してやる!」

「「「了解!」」」

 

 そして、彼らを含む至る所で撤退が始まる。ただし、少なくない犠牲を払いながら。

 当たり前だ、このリーダーは結構な脅しをかけたが。古今東西、被害が一番出るのは撤退の時だと決まっている。

 

「――あ。あれが爆弾……」

 

 後ろを振りむけば、上空に照射されたレーザーが曲がる異様な光景が広がっていた。見たことのない現象だった。

 中心にあるものが新型の爆弾なのかと思う。とても気味が悪い、まるで空間そのものに異常が発生しているかのような景色。そして、胸糞の悪くなるような黒色の領域が脈動――広がって。

 

「え? 止まった?」

 

 その脈動が中途で止まる。本来であれば、その領域が広がって全てを焼き尽くすことは想像に難くない。

 米軍に、自分たちを巻き込まないような優しさがないことは断言できる。

 ――ゆえに、それが止まったのは疑いようもなく異常事態だ。

 

「……なんだ?」

 

 つられて、全員が足を止めた。

 

 --その先で何かが出てくる。禍々しい紫色の爪先が、その黒色の空間を切り裂く。強引に空間を押し広げて、”それ”が姿を表すのだ。

 

「……紫、そして白の――巨大な戦術機?」

 

 そこから出てきたのは2体のロボット。自分が乗っている機体とは似ても似つかない機体だ。

 紫、それは虚無がそのまま姿を表したかのような禍々しい悪魔の姿。背負っているものは翼なのだろうか? あらゆるものを引き裂くかのような刺々しい翼。荒々しい暴力の波動は、なるほど畏怖なしには見れない。

 白、それはイデア。かくあるべきと寿ぐような神々しい天使の姿。背中には塔のような羽根を背負っている。身体の各部の結晶体は、まるで生きていることを祝福するような神聖さが宿っている。その崇高な気配は、なるほど畏怖なしには見れない。

 

「なにあれ……? どうやって浮いてるの?」

 

 それはジェットエンジンなど使っていない。ただ、不気味に空中に浮いている……理解不能な現象だ。物理法則がおかしくなってしまったのかと戦慄する。

 あんなもの、どれだけ馬鹿げた技術があれば成り立つのか。人類とも、BETAともまるで次元の異なる領域に――それらはある。

 

「……通信?」

 

 そして、その機体から全開放チャンネルで通信が入った。

 

〈こちら、竜宮島ぶた……〉

〈僕の名は皆城総士! お前らを僕が――救ってやる!〉

 

〈ちょっと、総士! 何言ってるの!?〉

〈ふん! やることなんか最初から決まってるだろ。美羽だってやる気じゃないか〉

 

「……は?」

 

 響いてきたのは場違いに幼い声だった。日本帝国軍でも、まだこの年齢の子は徴兵されていないはずだ。

 高校生、もしくはもっと幼い……

 

〈もう! 分かったよ。私はあっちをやる、だから総士は〉

〈OK、僕はこっちをやる〉

 

 そして、その機体は消えた。いや、常識外の動きによりそう見えただけだ。戦術機は戦闘機からの系譜だ。ゆえに、一瞬でトップスピードには至らないのだが。

 あれは、静止から高速で飛び立った。

 

「……は、速すぎる。なんだ、あの機体は」

「というか、日本語なんだな……」

 

 何に唖然とすればいいのか分からない。だが――目の前で状況は大きく動いていく。

 

 紫色の機体は頭上に数十の球体を生み出した。ああ、見ているだけで分かる。……あれは凄まじく危険なものだ。

 ”それ”はレーザーのようなものを生み出して薙ぎ払った。地面を簡単に削り取って進路のBETAを焼き尽くすそれは、もはや全てを殺し尽くす悪魔の顎だ。

 

「ば、馬鹿な……重光線級を遥かに超える威力のレーザーを……あんなに、いくつも……」

「あっち。見て……まるで、救いの光……」

 

 白色の機体とて負けていない。槍を掲げたと思いきや、そこから光が溢れて、レーザーのようにBETAを焼いて行く。

 機体自身よりも大きな神々しい光。天から降りる光の道筋は、まるで地を貪る邪悪に天罰を与える神罰だ。

 

「……CP。BETAの数は――」

「信じられない勢いでBETAの数が溶けて行きます。これなら……ハイヴだって」

 

 それは、もはやありえないほどの殲滅速度だった。

 BETAは漆黒と極光によって手も足も出ずに死んでいく。いや、光線級が反撃を試みているのだが、何かのシールドによって防がれている。

 なにも手段がない。奴らが蟻のように潰される姿は、胸がすく思いで――

 

「きゃあああっ!」

「なっ!? 馬鹿――」

 

 それを見ていた初心者は、戦車級に取りつかれた。いや、彼女だけではない。いつのまにか囲まれていた。

 殲滅はハイヴの近くで行われている。あの攻撃は威力が高すぎてこちらの近くでは行えない。そもそも、自分の身は自分で守るなどという常識を、あの常識外れの光景を前にして忘れていた。

 

「くそっ! 全員、個々に反撃しろ! BETAに援軍はない、しのげ!」

 

 反撃開始……だが、やはり初心者では厳しいもの。もはや特攻が前提である明星作戦、だが何の救いかBETAを駆逐する救いが現れた。

 ……それでもやはり、ちょっとしたミスで命が失われてしまうのかと。

 

「ひっ。うわ、わあああああ……!」

「待っていろ、すぐに助け……チィッ!」

 

 助けようとするのだが、自分のことに精一杯で助けることにまで手が回らない。先ほどのように簡単には行かない。

 

〈――これ以上人を殺させないって言ったでしょお!?〉

 

 先の男の子の声が響く。遥か上空でレーザーを放っていたその機体……絶対に間に合うはずのないそれが、一瞬で”そこに居た”。

 その紫色の機体は、いつの間にか持っていた剣のような槍で何体もの突撃級をバターのように切り裂いて行った。

 

「馬鹿な……なにが……!?」

〈そこを動くな!〉

 

 紫色の機体が禍々しい手を仲間に向けた。見れば見るほど、この巨大な戦術機は戦術機らしくない。

 戦術機など、パイロットごと簡単に握りつぶせてしまう様な禍々しく力強い手だ。

 

「いや、待て!」

 

 諸共に破壊する気なのかと、手を伸ばして。

 

〈消えろ、魂もない木偶人形め!〉

 

 空中で、何かをぐしゃりと握りつぶした。その瞬間、その初心者を襲っていた戦車級、のみならず周辺一体の全てのBETAが結晶化して砕け散る。

 

「……な、何が……!?」

 

 唖然とした。意味が分からなかった。呆然として、自分が助けられたということさえ気付けずに。

 

〈お前らとっとと撤退しろ! やつらは僕達で潰す!〉

 

 紫色の機体はそれだけを言い残して去ってしまった。

 

「なんだ、この……奇跡は……!」

「横浜ハイヴのBETA群を壊滅させた。戦車級まで摩訶不思議な力で倒して私たちを救った。私たちは……一体いくつの奇跡を目にするんだ……?」

「あ……モニュメントに」

 

 高速で移動する紫色の機体は方手を横に掲げた。そして、出現するもう一本の槍。……これで、槍の両手持ちであるのだがどこから出現させたのかは完全に不明である。

 

「な――どこから出したんだ!?」

「見て、白色の機体も来た……!」

 

 紫色の機体はその槍をモニュメントに突き刺す。さらに、白色の機体がその肩を掴む。

 

〈力を貸せ、美羽!〉

〈うん! 一緒にやろう!〉

 

 槍が開く。すさまじいまでのエネルギーが収束し――解き放たれた。それはハイヴの主坑道を蹂躙し尽くし、更には横穴に居たBETAまで結晶化させて破壊し尽くした。

 

 二機は――空になったハイヴへ降りていく。

 

 

 

 そして、仮の本部では香月博士が笑っていた。

 

「香月博士。あれは、あなたの仕込みですかな?」

「あっは。あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは! はははははは――いや、そんなわけないじゃない。BETAを蹂躙できるような戦力なんて、人類には無い。それはあなたもお分かりでしょう? 指令」

 

「ですが、あれらが味方であることを疑ってないようなので」

「そんなのは当然でしょ? あの威力――ここを狙えば一瞬で蒸発するわ。それをやってないってことは、人類の味方なのよ」

 

「……香月博士は彼らの正体についても推論をお持ちなのでは? それに、彼らは日本語を話していました」

「ま、そうね……この世界の人間ではないのでしょうね。それに、あの黒色がシュバルツシルト半径……空間をゼロ次元方向へ捩じ切っているのだとしたら、人類に対抗手段などないでしょうし」

 

「え……? シュバ……? そのゼロ次元と言うのは……?」

「ああ、そこは気にしなくていいわ。でも、そうね。アメリカや日本に任せるわけには行かないわね。こちらで主導権を握った方が良いでしょう。彼らが出てきたら通信で呼びかけましょうか。私から話すわ」

 

「お願いできますか」

「ええ。おそらく、状況を一番分かっているのは私だもの。……それに、救世主を名乗るのであれば――もっともっと、BETAを駆逐してもらわねば、ね♪」

 

 その笑みはまるで魔女のようだったと、後に指令は語った。

 

 





 最終回後の再ザルヴァートル化仕様の二人がマブラブ世界に来る一発ネタでした。世界観の方向としては同じでも、竜宮島には一人で世界を救えそうなのが何人もいますね。
 反響が多ければ続きを書くかも……

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