Muv-Luv 蒼穹よりの救世主   作:Red_stone

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第2話 対話

 

 

 人類の未来をかけた明星作戦、それは日本の全てを賭けた決戦である。しかし日本軍及び連合軍はBETAの痴呆的な数の前に敗れ去ろうとしていた。

 満を持して登場した決戦兵器、『G弾』。全てはそれを使うための策略だった。作戦はアメリカの協力を前提に建てられている。サボれば、時期の調整は容易だったということだ。

 これ以上の作戦遂行は不可能と判断されるタイミングで、そのG弾が投下された。

 

 --けれど、期待した爆発はなく。発生したのは不気味に脈動する紫色の球体……空間異常だった。破滅を予感させるそれを斬り裂いて現れたのは、『悪魔』と『神』。

 現れた凶悪なまでの外見の二機。だが、彼らは人に災禍をもたらす存在ではなかった。ありえざる力をもってBETAを撃滅していったのだ。摩訶不思議なその力で羽虫のごとくBETAを壊滅し、そしてハイヴをも瞬く間に破壊して見せた。

 

 地下に降りていた二機は、数十分の後にまた姿を表す。

 

「こんにちは。聞こえるかしら?」

 

 そして、通信が繋がれた。陽気な声は香月博士のものだ。

 人が行う訳の分からぬものに対しての行動は二つ。崇めるか、それとも恐怖するか。基地司令、パウル・ラダビノッドは恐怖し――香月夕子は信仰した。

 もっとも香月博士は頭が良い。他の者よりもずっと一線を引いて状況を俯瞰している。機嫌を損ねて基地ごと蒸発される可能性を念頭に置いたうえで、しかしこのくらい”馴れ馴れしい”方が良いと判断している。

 

 悪魔の機体から通信が返る。

 

「――あなたは、何者だ?」

「私の名前は香月夕呼、横浜基地の副司令よ」

 

「副指令? 指令は?」

「ラダビノッド指令は横に居るけれど、状況を把握していないわ。私が話した方がいいのよ。権限も持っているわ」

 

 何か後ろでごちゃごちゃと話す。いや、全権を委任したわけでは、とか聞こえてくるが。結局は香月博士に言いくるめられていた。

 

「そうか。あなたは……日本の人か?」

「あら、答えにくいことを聞くわね。確かに国籍は日本人、けれど所属は国連よ。とある研究を進めるためにね――だから、この状況にも臨機応変に対応できる。いえ、さすがにこの状況を予想なんて出来なかったけれど」

 

「まあ、そりゃそうだろうね」

「こっちも聞いていいかしらね? あなたも日本人?」

 

「日本人……かな。僕たちの日本は消滅したけれど」

 

 そこで、香月博士は別の世界からの来訪者であることを看破する。とはいえ、口に出すわけにはいかない。

 周囲の人間を信頼していない。それは、基地司令ですら同じこと。敵ではなくとも、完全に味方というわけでもない。

 ここで話を広げても自分にとっていいことは何もないと考えて、次の話題に移る。

 

「……そう。後で詳しい話を聞かせて欲しいわね。まずはあなた達の名前を教えてくれるかしら」

「僕は皆城総士だ」

「私は日野美羽だよ」

 

「なら、総士。それに美羽。私たちには、あなたたち二人を受け入れる用意がある。ついて来てくれるかしら?」

「ふん、どうだかな。僕はあんたたちを信用した訳じゃない」

「ええ、ダメだよ総士。香月博士は信頼できる人よ」

 

 子供らしく疑いを口に出す総士と、逆に子供らしい全幅の信頼を置いているかのような美羽の言葉。

 言葉だけだと何とも微笑ましく聞こえてきて、香月博士は少し笑ってしまった。まあ、他はBETAを殲滅した人間の言葉と言うことで、戦々恐々としているけれど。

 

「だが、国連だぞ。それは人類軍の前進となった組織だろう。あのヘスター・ギャロップがトップを務めていた組織だぞ。何をされるか分かったものじゃない」

「でもでも、人類軍にだって信用できる人は居るよ。それに、アレクサンドラさんは違うよ」

 

「……ま、そうだな。本人を見ないと、誤解ばかりが積もるもんな。みんな、それぞれに事情もあるし」

「そうだよ。とりあえず、あっちに行こう。お話してみよ?」

 

 そして、香月博士はその会話を止める訳にもいかずに冷や汗交じりで聞く。それは他の人間にとっては頭がおかしいのかと思う内容だろう。

 そもそもヘスターとは誰だ? 国連にそのような人物は居ないのだから。もちろん、香月博士にはそれが”世界が違うから”だと分かっているけれど。

 

「……では、迎えを派遣するから付いて来てくれるかしら? 悪いわね、あなたたちにとっては亀の歩みでしょうけど」

「構わない。それよりも、生存者の救援を要請する」

 

「――生存者? BETAが横浜を制圧したのは何か月も前のことよ、生き残った人間なんて居るはずがないのだけど」

「データを送る。確認してくれ」

 

 送られたデータを基地にてスクリーンに映す下士官。だが、それは吐きたくなるほどおぞましい光景だった。

 ……無数の人の脳が液体の中に浮かんでいる。

 

 BETAに囚われ、身体を切り刻まれ――そして、脳だけとなって虚しく浮かんでいる。そこにはもう、人として尊厳は残されていない。

 あまりにも悲惨なその光景。それこそ、殺してやった方が幸せなのかもしれないほどに。

 

「一人だけ、心が残っている。彼女のことを、宜しく頼む。僕たちでは、どうしようもなかった」

「了解したわ。私たちにも手段はないけれど、悪いようにはしないと約束する」

 

 痛まし気な表情に悪魔のような笑みを隠して、香月博士は重々しく頷いた。

 

 

 そして、二人は基地に連れてこられた。機体から降りるが。

 

「どうなってんだ? なんだ、あの操縦室」

「開閉式じゃなくて、わざわざコクピットを取り外す機構が付いてるのか? 何のために?」

 

 機体の大きさは最大サイズの戦術機と同じくらいだ。つまり、ハンガーに収納することはできる。

 だが、それが理解の限界だった。

 

 設計思考、技術、全てにおいて全く違う機体を前に、多種の機体の面倒を見ていたメカニック達ですら固まるしかない。

 完全に意味が分からない。あれは本当に歯車と燃料で動く機械なのかと疑問に思う。……まあ、ザルヴァートルはもはや機械なんて呼べないから疑念は正解なのだけど。

 

 膝を付いた機体から、内臓されたクレーンでコックピットを吊るして、しかしそこも機体の腰ほどの位置にある。パイロットは危なげなくそこから飛び降りた。

 ここのハンガーとは完全に適合していない。何か、別の基地に居るはずだった機体だったことは分かるが。じゃあ、誰があんなのを設計する?

 

「素材も……なんだコリャ? 見たこともない。本当に鉄かよ――」

 

 一人のメカニックが冗談交じりにスパナでその機体の表面を叩こうとする。そんなもので傷つくわけがないと思っているからこその、ちょっとしたお試しだが。

 

「やめろ! 僕の器に触れるな!」

 

 降りてきた総士が叫ぶ。まだ高校生くらいの子供……ではあるが、確かにBETAを殲滅した英雄だ。

 そいつも総士のことを軽く扱うつもりではなかったが。

 

「うおっ! いやいや、悪かったよ。機嫌を損ねるつもりじゃなかったんだ。許してくれ……なっ!?」

 

 両手を上げて、降参と揺らして見せた拍子にスパナが機体と接触する。その瞬間、触れた箇所からスパナに結晶が生えた。

 緑色の結晶が、どんどんその領域を広げていく。

 

「ひっ! な、なんだ――ッ!?」

 

 思わず、そのスパナを捨てる。そうすると、結晶が砕けてスパナの3分の1ほどが消えてしまった。

 まるで消滅したかのような断面を晒して、スパナは微動だにせずにそこにある。

 

「へ? ……え?」

「ニヒトには触れないでくれ。こいつは僕の器だが、それと同時に島を滅ぼしかけた悪魔なんだ」

 

 総士が睨みつけると、そのメカニックは恐縮して何度も頭を下げる。

 

「あっ! ごめんなさい、総士が酷いことを言って。でも、本当に危険だから気を付けてくださいね」

 

 美羽も降りてきて、取りなした。

 

「へ、へえ……」

 

 メカニック達は、触ってしまうような位置に居るわけでもないのにその機体から3歩ほど離れた。

 

「迎えに上がりました、神宮寺まりも軍曹であります。……何事?」

 

 そしてやってきたまりもは、メカニック達が機体から身を隠しているのに驚いて目をぱちくりとさせた。

 パイロットが降りた機体を怖がるなど、意味が分からない。

 

「分かった、案内してくれ神宮寺軍曹。それと、僕たちの器には誰も触らせないように。さっきも危うくあの人が同化されるところだった」

「……はい? 同化?」

 

「うん。あれは危険なものだから、誰にも触らせないようにしておかないといけないの。お願いね、まりもさん」

「はあ。触らせたくないと言うなら、徹底させておきますが」

 

 二人から口々に言われ、とにかく機体に触るなと言うことだろうと理解したまりもは香月博士に連絡を取り、そちらから正式な指示を出してもらう。

 まあ、スパナの上半分が消滅していたのを見ていたメカニック達は、言われなくても絶対にそれに触れないけど。

 

「――では、ご案内します」

 

 後ろの混乱を横目に歩いて行く。まりもは軍人らしくキビキビと、そして総士は手を頭の後ろで組んで、美羽は女の子らしくトコトコと歩いていく。

 三者三様で、個性がよく出ていた。

 

「神宮寺軍曹、今回の作戦の成功率はどれくらいと目算していた?」

「……成功率、ですか? それは、一介の軍人には知らされません。軍人としては、必ず作戦を成功させるとの気概で挑んでいますが」

 

「なんだ、あんたらには知らされないのか。……いや、そこらへんも教えてくれる真壁指令が凄いのかね……」

「真壁指令? ええと、その……これは聞いていい事か分からないんですけど」

 

「別に聞いて悪いってことはないだろう。パペットでもあるまいし」

「……総士」

 

 不用意に口に出した総士を美羽が咎める。それは、島の中でも気軽に口に出していいものではない。あの、ヘスター・ギャロップのおぞましい所業は。

 

「あ、いや。悪い。ええと、何だっけ?」

「あなた達は……その……軍人なのですか?」

 

 まるで子供、とまりもは眉を寄せる。軍人なら歩き方ひとつで分かる。とてもではないが、この二人が正規の軍事教練を受けているとは思えなかった。

 不意を突かなくても、簡単に取り押さえられそうだ。そんなことは、しないけど。

 

「軍人……ええと、どうなのかな。総士?」

「そりゃ、軍人だろ。尉官だのは持ってないけど、君も僕もアルヴィスの軍人だろうさ。ちゃんと真壁指令に任命されてファフナーに乗ってるんだから」

 

「――今回は、勝手に出てきちゃったけど」

「うぐっ! いや、まあ……それでも軍人には変わりない……はずだ……!」

 

「……そうですか。あなた達の年齢で」

 

 まりもはヤバイことを質問したのに気付いていたが、それでも嘆かざるを得ない。それに、この二人は背格好にしては幼く見えるのだ。

 普通に見ても高校生くらいの子供なのだけど、もっと幼いような。好感の持てる純真さ、ではあるものの。

 

「ああ、ファフナーの最年少搭乗記録は僕で、次点が美羽だな」

「……別に乗りたくて乗った訳じゃないけど。総士は戦うの、いつも楽しそうだよね」

 

「未来は自分の手で切り開くものだろ?」

「総士らしいね」

 

 まりもは、よしこの会話は記憶から消しておこうと思う。……香月博士から指定された場所に着いた。

 

「この先はお二人だけでどうぞ」

 

 パスコードを打ち込み、扉を開く。その先に、総士と美羽はためらいなく進んでいく。そこは、元は殺風景な部屋だったと思わしき部屋だ。

 PCと無骨なデスクを数点。と、客用に椅子を何点か。だが、無数に散らばる資料と、うずたかく積まれた書類のせいで部屋が何倍にも狭く見える。まさに足の踏み場もない、と言った言葉が似合う部屋だった。

 

「初めまして、ね。通信で顔は会わせたけれど。……香月夕子よ」

「初めまして! 私は日野美羽だよ」

「もう名前は言ったから知ってるだろ」

 

 直接顔を会わせた三人。……これから、世界を救うことになる三人だ。

 

「――そこに座って頂戴」

「うん! 面白いね、今度は私が操みたい!」

「ま、基地に全中継なんてしてる訳がないけどな」

 

「は? 全中継……って」

「うちの真壁指令がそういう人なんだ。まあ、軍事基地を島に偽装している都合上部外者が居ないというのもあるだろうが」

 

「ふうん? 異世界って進んでるのねえ。あなたたちの世界では異世界って言うのは常識だったりするの?」

「常識だな。異世界からの侵略者、ダークネビュラ帝国を知らない人なんて居ない」

「……あのね、総士。それは漫画だよ? 落ち着いて聞いてね。機動侍ゴウバインは、別に知ってる人そんなに多くないよ」

 

「……馬鹿な! だって、美三香さんが常識と言っていたし、他の人達だって知っていた」

「いや、その人が熱烈なファンだし。教えてもらったから美羽も知ってるけど……」

 

「あはは! 羨ましい事ね、あなたたちの世界では漫画が生き残ってるのね」

「そうでもない。世界で漫画家はただ一人になってしまったから」

 

「ああ、あなたたちも大変なのね。こっちに来て大丈夫だった?」

「僕たちが世界を救ったから問題ない。きっと、これから漫画家だって増えるさ。……それで、この世界に漫画家は?」

 

「居ないわね。だから異世界とか言われても、私以外は混乱するしかないと思うわ」

「そうか。ま、安心しろ……この世界も僕たちが救ってやるさ」

 

 あけすけなこの言葉に、香月博士はほっとする。無論、保険を怠っているわけではない。隣の部屋に隠れた霞が心を読んでいる。

 騙されている可能性は常に頭に置いておく。それは、政治の世界で生きるようになって身に着けた武器だ。

 

「そう、ありがとう。あなたたちは、私たちを助けにこちらの世界に来てくれたのね」

「精々感謝するといいさ」

 

「ええ、そうさせてもらえるとありがたいわね」

「……美羽? 君にしては嫌におとなしいな。……まさか!」

 

「……え、なに?」

「話を聞いてなかったのか? いや、君は……このバカ! それは止めろって何度も言ってるだろ!?」

 

 ふんふんと機嫌良さげな美羽の肩を総士が掴む。……睨みつける。

 

「きゃっ。な、なに? 怒らないでよ、総士。……あれっ?」

「だから、そんなことをしたから……!」

 

「あっ! 霞おねえちゃん!」

「言わんこっちゃない! 大丈夫か、その人!?」

 

 二人が焦った表情で明後日の方向を見る。それは……香月博士が霞を隠しておいた場所であった。

 

「……ッ!」

 

 頭の中で推論が付いた瞬間に青ざめた。心を読んでいたのを気付かれた? いや、今霞のことをお姉ちゃんと呼んだか? 明らかに霞の方が幼いと思うが。

 

 混乱の最中でドサリ、と耳に隠していた通信機から人が倒れた音が聞こえてくる。霞が倒れてしまったのだ。

 とはいえ、読心に気付かれて反撃したのでは、この反応はおかしい。

 

「済まない、美羽が迷惑をかけた」

「あなた達……もしかして、ESP発現体?」

 

 なんとなく、ピンと来た。読心で、読み合っているのだとしたら。

 

「あんたの言葉ではそうだろう。僕らは、それをエスペラントと呼んでいる」

「エスペ……ラント」

 

「――そう、人類の生み出した人工言語。互いに理解し、争いをなくすために作られた『対話』を意味する言葉だ」

 

 

 





 第2話を作成しました。
 3話目は作れるでしょうが、それ以降をどうしましょうかね? 普通に考えればあ号標的ぶっ潰してハッピーエンドですけど。私があまりショートは作らないんでその展開にはしたくないんですよね……

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