C:Etu 1
スリープモードから通常起動へ移行し、アイシャッターを開く。
チチ、とアイカメラがピントを合わせる微かな音を聞きながら身体を起こす……と同時に感じるコアのざわつきを気にしないようにしながら、無意識に胸部を押さえていた腕を下ろしてメタルマンはひとつ大きく排気を吐き出した。
ある日から突然感じるようになったそれは、ふとした拍子にその存在を知らしめてくる。
それが不快ではない……むしろ、今までどこかで感じていた物足りなさが無くなったような、そうあることが正常なような……そう認識していることに戸惑いが隠せない。
どこかにエラーでも起きているのだろうか。セルフチェックでは問題は見つからなかった。これは本格的にフルメンテの必要があるかもしれない。
今日の予定を思い返しながら、彼は自室を後にした。
「ふむ、これは……」
作業台の上、機体に繋がれた配線の先にあるモニターを見ながら、Dr.ワイリーは自身の顎を擦る。
メンテナンスルームでばったりかち合ってから、あれよあれよと根掘り葉掘り聞き出された上でドクターの手ずからコアのスキャニングが行われていることにメタルマンは内心で頭を抱えていた。これはあまりにも現状を言語化できていなかったことへ対する羞恥心と、ドクターの手を煩わせてしまったことへの自己嫌悪によるものである。
「コアのスキャンデータを見る限り、数値上の不具合は検出されておらん。少なくともお前さん側の異常ではないな」
「では、これはいったい何なのでしょうか」
「そうじゃな……言うなれば“呼び声”、かの」
「“呼び声”……?」
昔の話になるがな、とこちらへ向き直るドクター。
……それは、自身が
“メタルマン”には当初、その対となる支援型ロボットが作られるはずだったという。
いや、途中までは同時進行で作られていたのだ。
だがそれは、天災により日の目を見ることなく失われた。
「当時のワシは、崩れていく研究所からお前のコアを持ち出すことしかできなんだ。もう一体はその時に失われた……と、思っていたんじゃがな。お前さんが感じている“それ”は、そやつのコアから発せられている信号じゃ。構想上、お前たちのコアは互いを感知しやすく作られておる」
「ちょ、っと待ってください。それでは、まるで、そいつがまだ……」
「わはは!まあ、理由はわからんがまだ生きておる可能性が出てきたな。……さて、そういうわけじゃ。メタルマン、お前にかつての研究所の調査任務を言い渡す。……その“声”の主を探してこい」
「……了解しました」
ひと通りのチェックを終えてメンテナンスルームを出たメタルマンは、その足でメインコントロールルームへと向かう。
ドアの先、中央モニターの前に陣取る蒼と緑が振り返った。
「バブルがここにいるのは珍しいな、何かあったか?」
「まあ、野暮用でね。ちょっと欲しいデータがあったから取りに来ただけだよ」
特に異常はナシ、とヒラヒラと振られる手には一枚のディスク。もう用件は終わっているようだ。
遠慮なくもう一機の方……フラッシュマンへ視線を向ければあからさまに嫌そうな顔をされる。何故だ。
「またアホみたいな量の作業を投げてくんじゃねぇかと警戒してんだよ察しろ」
「あぁ……その件に関しては済まないとは思っている。たまたま同時期にお前向きの仕事が重なった結果なんだ」
どうだかな、と視線を逸らされるが、一応は聞く体勢に入っているようなので気にせず続けることにした。
「博士から任務を仰せつかった。メンバーの選出を頼みたい」
「内容と数は」
「倒壊し廃棄された研究所の調査。それほどの規模はなく戦闘の可能性も低いことから私を含めて2、3機で十分だろう」
「いつ出る」
「可能ならば今日中。できるだけ早い方が望ましい」
それを聞きながらフラッシュマンは手元のコンソールを操作する。
渡された座標データといくつかのウインドウが開いた画面、そこに表示されたリストを流し見ながら少し考えるような素振りを見せて、メタルマンへ向き直った。
「……準備含めて1時間だな。第二格納庫の飛空艇で待ってろ」
「わかった。任せる」
「ねぇ、その研究所って水没してる?」
「……いや、地上だな。水とは無縁だろう」
「そっか、じゃあ僕はパスね」
それからきっかり1時間後、選出されたメンバーと共に飛空艇で飛び立ち、目的地へとたどり着いた彼らは半ば崩れ落ち、緑に覆われ始めている建物を前にしていた。
「倒壊してだいぶ経つとは聞いてたが、ここまでとはなぁ……こりゃ電子データ面は期待できねぇか?」
建物を見上げながらぼやくフラッシュマンに、だから言っただろうと内心で突っ込みながらメタルマンは足元にしゃがむ緑に声をかける。
「どうだ、スネークマン。内部に気になる点はあるか」
「んー……現状特には……最近崩れた形跡もありますけど、これは多分こないだこの辺で起きた地震のせいでしょうし……」
渡されたタブレット端末には、建物内部へと送り込んだサーチスネークからの情報から構築された内部マップが表示されていた。
「とりあえず検知できた動体反応はゼロ。何かしらが隠れてる可能性は限りなく低いッスね」
「そもそも何も残ってない可能性の方が高いんじゃねぇの?あってももう朽ち果ててるだろ」
「それを確認するのが今回の任務だ。行くぞ」
迷いなく踏み込んでいくメタルマンについて行く二機。
まるで目的地がわかっているかのように歩みを進めるその姿に、スネークマンはこっそりとフラッシュマンへ寄り耳打ちする。
「……先輩。なんか今日のメタルさん、ちょっと変じゃないですか?」
「そうだな……ここ最近は妙に気もそぞろって感じだったが、今日は特におかしい……気がする。大体こんな調査だけの任務にあいつが出てくるのもなんか不自然なんだよな……」
「そうですよねぇ。同じ調査系でも戦闘不可避な任務で出るタイプでしょ?」
「潜入とか破壊工作とかな」
ひそひそ、こそこそと背後で交わす二機に気付かれないよう排気を吐く。
というかそんなに分かりやすく顔に出ていたのだろうか。気をつけなければ……などと考えながらメタルマンは顔を上げた。
現在地は開発区画、作業室前。
かつて自分が作られていた場所。……そして、もう一機が作られ、失われた場所。
歪んで開かれたままの扉の先は、酷く荒れていた。
室内には崩れた天井の断片が積み上がり、壁に設置されていたモニターも棚も、各所に設置された機材類も歪み、押し潰され、年月を経て錆び朽ちている。
作業台と思しき台の上に残っているフレームの破片は、もしかしたら自分になるはずだったものだろうか。
瓦礫を避けながら部屋の奥にある扉……作りが今の作業室と同じならば、機体調整用の待機カプセルが置かれている部屋になるはずだ。そこを目指して、やはり歪んで開かないそれをブレードで一閃し蹴り開ける。背後でうわー!とか聞こえた気がするが、気にしている余裕は無い。
ここに来てからずっと、コアのざわつきは強くなる一方で。
早く早くと急かされるように、誘われるままに足を進める。
こじ開けた扉の先も、やはり崩落は酷く部屋に置かれていた強化ガラス製のカプセルもほとんどが瓦礫に潰され割れている。
それらを越え、押しのけながら部屋の最奥に配置されていた最後のカプセルに、“それ”はあった。
瓦礫によりカプセルの下半分ごと下半身は押し潰され、かろうじて残っている強化ガラス越しにもその機体のほとんどが錆び朽ちている。
だが、まだかろうじて形を残している胴体部の奥、割れたフレームの隙間から、ちかり、と光が覗いたのを見た。
駆け寄り、邪魔なガラスを切り開いてそこに触れる。
ひとつ、大きくコアが跳ねた。
──あぁ、やっと
「──
劣化しひび割れた人工皮膚の、自分とよく似た顔が、笑った、気がした。
──各機構、動作確認……システム、オールグリーン。
──初期起動エネルギー供給、完了。
──チェック完了、起動します。
ヴン、と機体が唸る。
微かな駆動音が全身を走り、やがて収まった。
ゆっくりとアイシャッターが開き、カメラアイの瞳孔がピントを合わせようと拡縮を繰り返す。
身体を起こし、周囲を見回すように視線を動かして、ぴたりと自身の横に立つ人間に視線を止める。
数度、小さく口を開閉させ動きを確認し、それは改めて口を開いた。
「……ナンバーズ支援機、機体名〈エチュード〉。起動しました。指示を求めます」
オリ主なのに最後にしか出てないってマジ???
すべては雰囲気で読んでください。
ちなみに任務メンツは推しです(小声)