ぶつ切りの小ネタメモばっかりのやつ。
「っは、はあっ……ひゅ、かひゅっ……」
ウイルスバスティングのシミュレーターから出て、息を荒らげながら膝をつく。
右腕に換装された〈スコープガン〉をしまう余裕もなく、オレは震える手で銃身を抑えた。
……別に、何らかの大きな負傷を受けたわけではない。ただ精神的な負荷が、オレの身体制御プログラムに影響を与えてきているだけだ。
「……大丈夫か」
降ってきた声は、オレの“オリジナル”のもの。
それに応えようとしても、音声プログラムを得たはずのオレの喉は、ひゅー、ひゅー、と空気の抜けるような音を鳴らすだけで。それでもなんとか頷くことで返答する。
……そうは見えないということか。“オリジナル”はオレの隣に膝を付き、背をさすってくる。
こちらを伺うような視線。それを見ることができず、オレの目は床パネルに固定されたままだ。
シミュレーターに入ったオレを迎えたのは、三体のメットールだった。
右腕を換装し……ちなみに、両腕にはめられていたリングは武装のロック機能があったらしい。ここまで戦う必要がなかったので今の今まで知らなかった。
久しぶりに構えた〈スコープガン〉の重みに眉をひそめて、相対するウイルス達に向ける。
……そこまでは、問題なかったはずだ。
スコープ越しに、ウイルスと目が合う。向けられる敵意。
それが、あの日、初めて得た“
怖い、殺される、死にたくない、嫌だ──!
思わず目を閉じる。照準のずれた弾はメットールの足元へ着弾した。
反撃と言わんばかりに放たれる〈ショックウェーブ〉を躱そうとして、足をもつれさせ地面へ転げる。すぐ横を衝撃波が通り過ぎて行った。
そこからは、もうほとんど覚えていない。
ただがむしゃらに撃って、撃って、撃って……気付かないうちにすべて倒していたのか、シミュレーターから吐き出されて、今に至る。
討伐タイムはランク外、命中率は最悪、有り得ない被弾数。
……戦闘用軍事ナビを元にしたコピーとしては、無様としか言いようのない結果だろう。
きっと呆れさせてしまった。こんなものが存在しているなんて、許されるのだろうか。
オレは、オレは……?
ぐるぐると考えがまとまらない。
ただ、背をさする手がひどく
……ポリ、パキン……
次の任務までの待機中、サーチマンの聴覚センサーが不審な物音を検出する。
その出処はすぐに見つかった。物陰にしゃがみこんだ一体のネットナビ……自分自身を写したホロウナビから、それはかすかに聞こえてきていた。
「……ホロウ、何をしている」
声をかければびくりと肩を跳ねさせる。
ゆっくりと振り向くその顔は、隠し事が見つかった子供のようなそれ。
……その口元にくわえられた歪な黒い塊を見つけて、サーチマンの思考は一瞬停止した。
「……ば……バグのカケラをスナック感覚でつまむんじゃない!!!」
「……んむ、(モグ…」
「そのまま食うな!!!吐け!!!ライカ様、ライカ様!!!ホロウが!!!」
この後めちゃくちゃ検査されたしめちゃくちゃバグが検出された。
「……ホロウナビの習性というか、欠陥、のようなものだね」
「欠陥」
「元々対象のデータを取り込むように作られているせいで、そういったものを取り込まないと身体を維持できないんだ。バグのカケラも一種のデータ塊ではあるし、そのために食べていたんじゃないかな」
「対処法は?」
「定期的に取り込んでもいいデータを与えることだけど……多分また食べそうだし、大人しく〈バグストッパー〉をかませておく方がいいんじゃないかな……」
インターネット内の散策をしている時。
電脳内でデータ処理の手伝いをしている時。
他のナビたちとの交流を図っている時。
与えられたPET内で待機している時。
……ふと、なにかの気配を感じることがある。
そちらを見ても何もいない。ただ影があるだけで、そこには何も無い。
ただ、オレを“見ている”なにかの気配が、ずっと染み付いている。
気付けば、何も無い黒い空間に立っていた。
暗い、昏い闇の底が、ずるりと動く。
足元から這い上がる手、手、手。
見覚えのある手が、オレの脚を、胴を、腕を掴み引きずり込む。
お前は、オレは、君は、ワタシ、僕、アナタ、自分──
どろりと自己が混ざり合う。それが恐ろしくて、オレは無意識にヘッドギアのエンブレムを押さえた。
黒い手が、オレの手の甲へ触れる。じわり、とそこに染み入る闇は、酷く*******───
ひゅ、と息が詰まる。
見開いた視界の先は、オレに与えられたPET内の一角。
のろのろと腕を上げ、両手の甲を見る。
そこに刻まれたエンブレムは、変わらず空白を示す白のまま。
……嫌な夢を見た。オレが、オレで無くなるような……“在るべきかたちへ戻る”ような、夢。
存在のゆらぎがこんな夢を見せたのだろう。きっとそうだ。明日にでも、何かしらのデータを貰えないか頼みに行こう。それか、またバグのカケラを拾いに行くか……
このまま二度寝はできそうにない。人間たちの活動時間が始まるまではまだかかりそうだ。
──気配は、まだそこにある。