※いじめの描写を含みます。苦手な方はご注意ください。
突き飛ばされて、思わず尻もちをついた。
それと同時にかしゃん、と落ちたPETが床を叩く音に、はっと視線がそちらへ向く。
画面を下に向けたそれを見たかれらが、また笑う。
「えー、何?まだこんなの持ってんの?」
「ウイルスまみれで新しいナビも入れれないゴミなんだから、捨てちゃえばいいのに」
笑いながら、かれらのひとりが足を上げた。
「仕方ないから俺らが処分してやるよ」
「っ、だめ……!」
咄嗟に飛び出して、拾い上げたPETを守るように抱え込む。
背中にかかった衝撃に顔を歪めた。
『(紬!)』
……スピーカー音声を切っていて良かった。“彼”が見つかったら、もっと大変なことになっていたかもしれない。
かれらに見えないようPETへと笑顔を向けて、画面の電源を切る。
これで、しばらくは隠し通せるはず。
身体を襲う衝撃に耐えながら、わたしはただ、それが終わるのを待った。
ぱきん、と天井から微かに聞こえる、何か──蛍光灯がかける音を聞きながら、わたしはゆっくりと顔を上げる。
割れた蛍光灯と、窓ガラスの破片に囲まれながら、何が起きたんだったか、と思い返す。
確か、かれらが“かわいがり”に飽きて、鋏を持ち出した辺りだったような。
乱雑に掴まれて、しゃき、しゃき、とわざとらしく音を立てながら髪を切られた。
そんな時、突然天井の蛍光灯が破裂したのだ。
パン、パン、と爆ぜてガラス片を撒き散らすそれに悲鳴が上がると同時に、窓ガラスからも大きくヒビが入った音が響く。
急に起きた異常事態に混乱したのか、かれらは慌てて逃げ出して、そうしてわたし一人がここに残された。
その場から離れて、PETへと視線を下ろす。
画面の中の“彼”は、不機嫌そうな顔を隠すことなくこちらを睨んでいた。
「……クラッシュマン、大丈夫?」
『っ……大丈夫、じゃない!なんで何もしないんだよ!オレに言ってくれればあんな連中……!』
「それは……だめ、だよ。あなたまで、標的にされちゃう」
『そんなの関係ない!次は絶対にオレを呼べ!いいな!?』
「……ありがとう、クラッシュマン」
曖昧に笑って、PETを仕舞い、窓の外を見る。
もうすぐ日が暮れてしまう。こんな時間まで残っていたら、教員や警備の人たちに迷惑がかかってしまうかもしれない。
わたしは鞄を手に、昇降口まで急いだ。
++++++
──あるエリアにおける現実及びネットワーク空間で、原因不明の器物破損事件が多発している。
そんな通報を受け捜査を開始したネット警察は、被害はそのほとんどがとある中学校に関係していることを突き止めた。
そしてその内部調査のため、ネットセイバーである光熱斗と伊集院炎山を派遣する──
「……で、器物破損の被害にあった人たちはだいたいこの学校の生徒や先生だったり、って話だっけ」
「それだけではなく、この校区の通学路や校内の一部でも事件は発生しているらしい。これがアステロイドによるものだとすれば、この学校内にいる可能性は高いだろう」
「だな。よし、ネットワークの方の調査は頼んだぜ、ロックマン!」
『うん、わかった!』
「ブルース、お前も任せたぞ」
『畏まりました』
こうして校内ネットワークへとナビを送り込んだ熱斗と炎山は、自分たちも校内へと向かった。
学校側にはネットセイバーの活動として事前に許可を取り、生徒たちには「進学前に学校見学に来た小学生」という説明で、自由に(多少の自重はあるが)歩き回って得たのは、とある女子生徒の話だった。
「最近になって使うナビが急に変わった子?多分いないと思うけれど……私も学校全体のオペレート実習を受け持ってるわけじゃないから、確実とは……ああ、でも、最近ナビがデリートされちゃった子はいるわよ」
「デリートされた?なんでまた……」
「聞いた限りでは、腕試しのためウラインターネットに接続したとか……でも、あの子がそんなことするとは思えないのよ」
この子なんだけど、と表示された画像に映るのは、いかにも大人しそうな少女の姿だった。
それと共に載っているのはデリートされたというナビと、授業でのオペレート実習の記録のようだ。
……そこでは、いくつかの防御支援チップをタイミング良く装填して相手の攻撃をいなし、その隙を突くように的確に攻撃チップを当てていく“上手い”オペレーションを行う少女。
そして戦闘が終わればすぐにリカバリーチップを装填し、無事であったことに安心したような笑顔を浮かべていた。
「……確かに、腕試しとか言って危ないとこに行くタイプじゃなさそう……」
「でしょう?それに、この子のオペレーション傾向から見てもそうね。良くいえば慎重、悪く言えば臆病。いつも自分のナビが傷つかないように立ち回るこの子が、わざわざ自分からあんな危険な場所に向かうとは思えないの……」
「……PETのログは?」
「もちろん確認したけど、PET本体がウイルスに感染したみたいで、データが破損していたらしいわ。だから、その時周囲にいた子たちの証言でそう結論付けたって話だけど……その時本人は、ひどくショックを受けていて話は聞けなかったみたい」
「そっか……まあ、そりゃそうだよな。自分のナビがデリートされちゃったわけだし……」
「………その生徒の名前を聞かせてもらっても?」
「ああ、そうね、名前を教えてなかったわ。その子は──」
++++++
手がかり、と言えるかはわからないそれを頼りに、学校を出たふたりはその少女の家を目指していた。
一度話を聞こうとしたところ今日は学校を休んでいる、と言われたためである。
その道中、唸りながら首を捻る熱斗に炎山が声をかける。
「ん~~~……?」
「どうした、熱斗。お前も何か気になるのか?」
「いや……“速見”って苗字、どっかで聞いたような……って、お前も?」
「そっちか……いや、気付いていないならいい」
「えぇ~、気になること言うなよ……っと、ここだな」
「ああ。聞いた住所とも一致している」
じゃあ早速、とインターフォンを押す熱斗。
……しかし、待てど暮らせど返答は帰ってこない。
「……留守かな?」
「学校を休んでおいて、外出なんてするのか?」
「うーん……じゃあもう一回 「君たち、ウチに何か用かい?」
もう一度押そうと手を伸ばしたその背に声がかけられる。
振り返った先に立っていたのは……
「あれ、君は……」
「だ、ダイスケさん!?……あ!そうか速見って……!」
かつておくデン谷でダム爆破予告事件を起こした、元ゴスペル所属のオペレーター、速見ダイスケだった。
++++++
件の少女、速見紬の兄である速見ダイスケとそのナビ、クイックマンとの再会を経て、事情を把握したダイスケの手引きにより招き入れられた家で、とあるサイトの情報を得る。
……それは、俗に言う“学校の裏サイト”であった。
あまり見ていて気持ちの良いものではないそれへの、最後の閲覧履歴。
その掲示板に書かれていた一文を見て、彼らは家を飛び出した。
「なっ……なんであんなとこに、アステロイドの犯行予告があるんだよぉ!」
「分からない、けどっ……紬はきっと、あれを見たんだ、だから……!」
「(……彼女があれを書いた、という可能性も無いわけでは無いが……)とにかく、急ぐぞ!」
++++++
そうして駆けつけた先に居たのは、真っ向から組み合う2体のアステロイドの姿だった。
暴走したように暴れ、攻撃を繰り返す一方の背後には、取り落としたPETを前に固まっているひとりの男子生徒。
そしてもう一方、両腕のドリルをキュラキュラと回しながら相手の攻撃を撃ち落とし、時にその装甲で受け止めるその背後には、複数の生徒たちが震え固まっていた。
ディメンショナルエリアを要請し、CFした熱斗と炎山がその間に割り入って注意を引く間に、ダイスケが生徒たちをその場から避難させる。
「……おい、お前らネットセイバーって奴だろ。ならもういいよな」
「は?あ!待て!」
引き離されたアステロイドのうちの一体……生徒たちを守るような行動をしていた方……が、ぽつりとそう呟いてどこかへ向かう。
未だに暴れる方と、突然逃げだした方。どちらを先に相手するべきかと迷う熱斗に、〈ロングソード〉を振り抜いた炎山が叫ぶ。
「お前はそっちを追え!こっちは俺とブルースで何とかする!」
「え、炎山……わかった!気をつけろよ!」
「そっちもな!」
背を向け駆け出した熱斗を、生徒を避難させ終えたダイスケが追う。
逃がした生徒たちの中に紬はいなかった、という。
「じゃあ、まだこの学校のどこかにいるってことじゃん!」
「ああ、だから……あった!プラグイン!クイックマン、トランスミッション!」
見上げた先にあったのは、学校敷地内に設置された防犯用の監視カメラ。
さすがに校舎のすべての場所には設置されていなくとも、あれだけ大きな体躯のアステロイドがどのカメラにも映らず走り回るのは不可能だろう。
『ええと……見つけた!ダイスケ、奴は本館裏の方に……あぁっ!』
「どうした、クイックマン!」
『そ、そいつが向かってる方に紬ちゃんが!このままだと鉢合わせになる!』
「なんだって!?」
「やばいじゃん!急ごう、ダイスケさん!」
++++++
少し湿っぽい校舎裏、建物の壁に背中を預けて、わたしは座り込んでいた。
手にしたPETの画面に浮かぶのは、黒く輝く紅玉と、それを囲うように広がる紋様。
──お願い、クラッシュマン。どうか、あの人たちを……
ガシャリ、と重く響いた音に顔を上げる。
いつの間に戻っていていたのか、目の前でクラッシュマンがこちらを見下ろしていた。
「クラッシュマン……かれらは?」
「……ネットセイバーが来たから任せてきた」
「そっか。……よかった」
そうこぼすと同時に、ピリ、と空気が変わる。
逆光になっていて表情は分かりにくいが、見なくてもわかる。きっとすごく怒っているのだろう。
それはそうだ。だってわたしは、彼の意に反することを命じたのだから。
ゆらり、と腕が振り上げられる。
実体化したそれを見るのははじめてだが、きっとすごく痛いんだろうな。でも、それだけの事をしたと思えば、それも当然の報いかもしれない。受け入れるつもりで、わたしは目を閉じる。
ごう、と質量のあるそれが空を切る音がして、そして──
……ぱらり、と、上から何かが降る感触。
思っていた痛みが無かったことに、ゆっくりと目を開ければ。
頭の上を通って、背後の壁に突き立てられた
そして、眼前に迫った、ひどく辛そうな表情を浮かべるクラッシュマンの顔。
「……なんで」
ポツリ、と言葉が零れる。
「なんでだよ!なんで、アンタは……!」
誰かが駆けてくる音がする。
でも、そんなことは関係ないと彼は吼えた。
「アイツらは、敵だろ!アンタのその傷も、髪も!アンタのナビを殺したのも!全部アイツらじゃないか!!!」
「なのに、なんで……!アンタが一言“そう”言えば、オレは!」
「アンタを傷つける奴も、それを見て見ぬフリする連中も……アンタの敵全部!ブッ壊してやれるのに!!!」
「なあ、言えよ!“敵を倒せ”って!“ブッ壊せ”って!全部……“全部なくなってしまえ”って!!!」
なあ、と、懇願するように、こつりとバイザー越しの額が触れる。
「………………“たすけて”って、言ってくれよ」
絞り出されるように吐き出されたそれは、きっと、
「……ごめんね、クラッシュマン」
そっと、手を伸ばす。
触れた装甲は固く、でもどこか暖かくて。
「それでも、わたしは……きっと、言えない」
「だって、それを言ってしまえば、わたしは、わたしの手であなたを汚すことになる。それは……いやだ」
「あの人たちのために、わたしがあなたを汚してしまえば……わたしのせいで、あなたが排されることになれば、きっとわたしは耐えられない」
「……わたしは、あなたがいるだけで、あなたがわたしの味方でいてくれるだけで、十分だから」
ゆっくりと背に腕を回す。
その身体は、決して抱き心地がいいとは言えないけれど、それでも、そうすることで、とても安心したのは確かだった。
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マジで思いついたとこだけ書いたので突然飛ぶしだいたい説明文か台詞並べただけになっちゃった。
この後ネット警察と何やかやしてアステロイドナビ化2例目になったり(少なくとも燃次+ナパーム回より後の時系列)いじめっ子たちは法的措置を受けたりクラッシュマンがなんか厄介お兄ちゃんクイックマンに宣戦布告されたりラジバンダリするんだろうな……というのはふわっと……いやクイックなんで???
あとなんか気が付いたら速見ダイスケの妹になってました。最初はクラッシュの隣に本家繋がり関係者(ナビ)置きたさあるな……と考えてたはず……
そこで色々(バブル……野良、論外。ヒート……時系列的に消えてる、無理……とか)考えた結果メタル(たま子さん)かクイック(ダイスケくん)の二択になり、たま子さんだと妹(でなくとも身内判定入ってる子)虐められてたら爆速で殴り込みに来るよな……となり穏便さを求めてダイスケくんに決まりました。
あとこう……こうなった理由とかを考えてたら……こう……成績優秀で(いじめっ子視点)生意気な相手に突けそうな部分(身内に犯罪者)が出来たらこうなるよね……みたいな……
あと僕イックマンも好きなんですよね。かわいい。もうちょっと出したかったけどシスコン(仮)になるのは聞いてない。
前半のクラッシュマンの心情とかもっと書いた方がよかったかなぁ……一応裏設定としては元のナビの残留思念(紬を守りたい思い)が強く残った結果徐々にモンペ化(?)していってる感じの……なんかそんなアレです(ふわふわ)